30話 玉石混合予選会場は茶化されます
『ほな、少しずつ貼ってくからみんなで茶化したろー!』
白井さんが目の前にいて、直接喋らずにチャットで会話するという不思議な体験をしている。
女子さん・ファナさんと一緒にリンク先のページを見ていくことになった。
【重要】
東高等高校お笑い王座決定戦『E-1』 予選・ネタ披露順発表!
総勢12組の東高生徒たちによる仁義なきお笑いの戦い!
生徒会による厳正なる抽選の結果、「ネタ披露順」が決定いたしました。
決勝戦へと足を運べるチームを決めるのは、生徒諸君の清き一票です!
(※投票方法は下記リンク参照)
そして、選ばれし上位5組が1月30日の決勝に挑む!!
予選に挑む猛者は、こいつらだ!
『普通だなあ』
『普通やねえ。抽選風景を動画にしたりさ、できなくてもそのあとお笑い同好会が配信したりとかせえへん?』
『そうだね。そうしたら自分たちのチームも知ってもらえるし……おもしろかったらそのまま一番人気になるかもだよね』
『へっ、動画でスベるのビビってんだよ! 尻込みしてんじゃねえのか?』
言いたい放題だがたしかに一理あると感じた。
『1チームの簡単な紹介とか……。色々できるかもしれませんね』
白井さんの表情を窺いつつ、俺はチャット文を打った。
『ファナもそう思います!』
『よっしゃ! ナイトメアのE-1攻略配信やろうぜ』
『た、例えばですからっ』
『配信なあ。うちはちょっと憧れてたり。次は参加順貼るで~』
「うちらでやっちゃいます? へへ。さすがに顔出しは恥ずかしいかっ」
白井さんは俺と喋りながら手元では違う会話をしている。
誤爆だけはしないように気をつけなくては。
1.ココナッツ(わらおー会):ピン
2.軟式ライナー(野球部):コンビ
3.黄昏の諸国(3年C組):トリオ
4.コキュートス(お笑い同好会):コンビ
5.笑劇部(演劇部):コンビ
6.ピン寄りのピン(お笑い同好会):ピン
7.六道輪廻(お笑い同好会):コンビ
8.帰宅部エース暗くなるより早く(帰宅部):トリオ
9.昨日の晩御飯オムライス( パソコン同好会):コンビ
10.SHOCK,be(軽音部):トリオ
11.大寺人見(お笑い同好会): コンビ
12.アーヴァンチュール(わらおー会):コンビ
トリオが3組。前に白井さんが言っていたマイクの話を思い出す。ステージはスタンドマイク1つしかないだろうから、人数が増えるほど不利になるというものだ。
その他に見るところとなると、お笑い同好会が4組出場することだろう。さすが主催だけあって3分の1はお笑い同好会。全員が参加しているのだろうか。
『1番手のオレが会場の空気ぶちこわしてやんよ』
『ここちゃんカッコイイ……!』
『11番の大寺人見ってコンビ、お笑い同好会の会長が大寺先輩って名前やからそれっぽいなぁ。前に貼ったポスターにも名前書いてた』
『へえ。そのあとにアーヴァンチュールか。燃えてくる展開じゃん!』
お笑い同好会会長のネタの後に出番か……。
『この11番の盛り上がり具合でうちらの明暗が決まるかもしれん。それにしても、他の組の名前見ても、へえ~しか出てこんのが残念』
うーん、確かに。これはきっと他の組も同じ感想だろうな。
お笑い同好会に限っては順番を見て盛り上がってそうだけど。
『おおこいつらが!? とかなる気配すらねえ。まあいいや、次は?』
『ほいっ』
【日時】 12月24日 13:00開演
【場所】 体育館
【審査・投票について】
E-1予選大会終了後、投票用フォームでの「投票」を行います。
※一人一票まで。
投票期間: 冬休み期間中(12月25日 ~1月7日)
結果発表: 1月8日始業式後、公式SNSにて発表!
決勝戦:1月30日 17:00
場所:体育館
主催:お笑い同好会
協力:軽音部、パソコン同好会
協賛:生徒会執行部
『ここの投票の部分がファナの中で不安だったので、問い合わせ専用のアカウント作って問い合わせたんです。運営からは、生徒会の皆さんとか、パソコン同好会の詳しい人がチェックするから心配ありませんって返答がありました。ありきたりな返事でしたが、不正のないようにすると言ってました』
『ファナち……ありがとう! 好き!』
『えっへへ。少しでも役に立ちたい! ファナ、裏方だからっ』
『んで、最後……』
【E-1 ルール要項】
持ち時間:1組5分以内です。
5分経過した時点で終了のブザーが鳴ります。
ブザーが鳴ったらいかなる場合でもネタを中断し直ちに退場してください。
――5分間の舞台。
俺はゆっくりと深呼吸して、ざわつく胸を落ち着かせていた。
「3分くらいで終わるネタがよさそうですね! やったりましょう! 梶くん!」
「……はい!」
チャットは続いていたが俺と白井さんは、明日の踊り場で話す内容の作戦会議に入る。発表されたネタ順のことと、出場することをアピールして、知ってもらいましょうという流れになった。
◇ ◇ ◇
テスト勉強を終えた23時過ぎ。
「ちょっとだけやるかな」
寝る前に少しだけ配信してみようと思いゲームを立ち上げる。
「……」
配信を始めて5分。もちろん誰も来ない。
何かの付属品だった安物のマイク。オンになっているのを確認すると、少しだけ自分の方に近づけてみた。
「こんばんは! ハルです……!」
反応なんて返ってこないのはわかっているのだが、その一言を発するだけでコントローラーが手汗でびしょびしょになる。
「…………」
何度かこんな挨拶をしたことはある。レスポンスのない挨拶をしたって意味ないし、無言の垂れ流し配信でいいと思ってた。
でも、今日は口が勝手に喋り出していた。
「最近、お笑いに触れる機会があって……、ちょっとその特訓も兼ねて実況っぽいことしてみようかなあ、なんて……。よろしくお願いします」
配信をやろうとしたのは、誰かに俺の好きなゲームを見てもらいたかったからだ。
恥ずかしいとか言っておきながらマイクを付けているのは、心のどこかで誰かと喋りたい願望があったから、だと思う。
結局誰も来なかったけど、キャラクターのセリフを音読したり、アクションに対して声を出して見たり、言葉を繋げることを意識しながら喋り続けた。
感情を表現することは苦手だ。
これはもう生まれ持ったものだと思う。
もし。
その性格を認めた上で、自分の言葉で誰かを笑わせることができたら。
お笑い芸人のように、他の配信者みたいに……。
想像してみると胸がどくんと熱くなる。
画面が暗転して、モニターに映る俺の表情に驚いた。
知らない内に口元が笑っていたのだ。
なんともブサイクな笑い方だったけど、楽しみにしている自分にも向き合えたと認めたら少しはまともな笑顔になった。




