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お笑いとラブコメは混ざりますか?~ゲラなヒロインとスベる俺が青春を沸かす話~  作者: たーたん
第一章 東高等学校はじまり編

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27話 即興しゃべくりパンチライン

 敬礼しながら見送っている清水の痛い視線を受けながら、俺と白井さんは2階に降りる途中、踊り場の隅で足を止めた。


「ふふふ~」


 白井さんはいつも機嫌がいいのだが、含み笑いをしながら俺の顔を見上げた。


「部活動禁止週間ですし、ほんの少しだけ、E-1に向けて打ち合わせしましょう!」

「……はい」


 素直に頷く。

 集中集中!!


「それにしても、うちが可愛いからわらおー会とかコンビ、OKしたんですねー、梶くん。お笑い同好会の人たちと同じような目線で見てたってことですか……?」

「あっ、いや! そんなわけ――」


 一瞬で集中力が途切れる。

 そんなわけない、なんて取り繕うな適当な返事をしてどうなるのだろうか。

 可愛らしいって本当に思っていることだし、不覚にも聞かれてしまったというのに否定するのも返って気分を悪くさせてしまうかもしれない。

 今はもちろんそれだけじゃないのだが。


「すいません、正直なところありました……」


 素直に認め俺は頭を下げた。

 白井さんがお笑い同好会をやめた理由の一つとして、男子だけの空間に女子が一人参加したことで特別扱いされて居づらかった、とも言っていた。

 やっぱり気分が悪くなるよな。こんなこと言われたら。


「そうそう。梶くんの得意なタイプでしたからね、うち!」

「あ、あれはっ」


 生徒会の雨宮さんが来たとき、俺が大爆発したあの時を思い出して顔が熱くなる。

 女子さんに振られて色々と恥ずかしいことを言ってしまったのだ。

 白井さんに対しては声が可愛い、笑顔が素敵だとか。

 しっかり俺の黒歴史として刻まれ、覚えている。


 白井さんはどんな顔をしているのだろうか。

 真っすぐ自分の靴を見ているので見ることはできない。


「もしかして……うちに一目ぼれしちゃいました?」

「ああいいっ!?」


 急に耳元で白井さんの囁き声が聞こえた。

 ぞわぞわっと足から頭に向かって波のように全身に鳥肌が立つ。

 つむじを突き抜けて鳥肌の波は天井まで届くような勢いだ。

 冗談ではなく、この俺のキモすぎる声がその証拠だ。


「あははっ! 梶くんの反応おもしろい! 梶くんのがよっぽど可愛いですよ~」


 白井さんは目じりを指でなぞりながら、ちらりと白い八重歯を見せながら笑っている。俺が可愛い? ど、どういうことだろう。


「冗談ですよ梶くん! うち、やだなとか思ってませんから! むしろ嬉しいって気持ちの方が勝っちゃってますし」

「……えっ?」


 「そ・れ・に」と、立てた人差し指を振り子のように揺らしながらにやっと唇を引き延ばしていたずらっぽく笑う。


「清水先輩には負けられませんもんね、梶くん?」

「は、はい……。もう恥ずかしいので勘弁してください……」

「えへへ! ごめんなさいっ!」


 お互い負けないと、グータッチして清水と戦い合うことを誓ったのだ。

 それももれなく白井さんには見られている。

 穴が合ったら今すぐ入って、蓋をしてそのまま春まで待ちたい気分だ。


「梶くんが熱くなってくれて、うちも、もっと燃えてきました! ということで、今週わらおー会はないですが、明日からも放課後の少しだけ、こうやってE-1に向けてネタ考えたり相談したり進めていきませんか!」


 白井さんの申し出はありがたかった。

 俺もそうしたいと思っていた。


「僕からもお願いします……」

「やた! じゃあ人前に慣れていくために即興漫才やりましょう!」

「……ん、え? 即興って?」

「いきますよ!」

「えっ!?」


 有無を言わさず白井さんは右手をスッとあげると、笑みで緩んだ表情が一変してキリっとした真顔になる。

 穏やかな空気が一転し、踊り場の隅だけ切り取られたような別の空気に入れ替わる。


「どーもー! アーヴァンチュールです!」


 踊り場の隅を背中にして、白井さんは拍手しながら通り過ぎていく生徒たちに向かって挨拶しだした。


「えっと、ちょ、白井さんっ!?」

「なんでしょう梶くん?」


 色んな雑音で騒がしい放課後は、白井さんの挨拶に視線だけは投げるも立ち止まらずにスルーしていく。

 白井さんはそんなことには目もくれず「いきなりアーヴァンチュール言うてもわかりませんよね」と話を続けていく。

 始まってしまった何かに俺は声が裏返り、へっぴり腰な姿勢で白井さんの横に立っていた。


「うちは一年の白井と言いまして、この腰曲がってる男子が二年の梶くん言います。二人でアーヴァンチュールっていうコンビでお笑いやらせてもらってます。うちら、アレに出るんです。んーっと、なんやったっけ、飲むヨーグルトの名前のような、アレですよ」


 白井さんは横目でうんうんと頷きながら俺に答えろと目で催促してくる。

 その目は爛々と俺の姿を映していて、まるで大好きなおもちゃを前にして喜んでいる子供のように純真な曇りのない色だった。


「免疫力がつくやつ、ですかね……?」

「そう綺麗にフタがめくれんとイラっとするやつ……って、なんで揃って健康管理してますって言わなあかんねん。仲良しか! E-1です、E-1!」

「あ、そうでした……」

「ほら梶くん、皆さんご存じない顔してますよ。E-1とは何か、ビシッと言うたってください!」


 すっと一歩後ろに下がった白井さんは、親指を立てにっと歯を見せると、どうぞとその手を平にして前に差し出した。

 誰かが止まると階段の上り下りの邪魔になるので見られてはいるが通り過ぎていく生徒たち。しかし、遠巻きで通行の邪魔にならない位置にぽつぽつと見物し始める男子生徒たちが現れ始めた。

 こうなったら最後だ。「なんか変なのやってる」と、面白がる男子たちは手招きして周りの人を集め、二年と一年を繋ぐ階段はあっという間に人で溢れていった。


「え、ええと……」


 この突き刺さるような視線。大喜利の時に感じた期待の目。

 期待を超えないと反応しないぞ、と言わんばかりの冷酷に満ちたたくさんの顔たちは、俺の頭を真っ白にさせるには大して時間はかからなかった。


 しし、白井さん、どうしたら……?

 後ろを見るも白井さんは「だいじょうぶ」と口だけ動かして、笑顔のまま楽し気に体を動かしている。


 大丈夫と言われても!?

 体が良くなるやつ、体調管理、乳酸菌的な……!

 いや違うそうじゃない。


 説明しなきゃいけないのに、頭が勝手に別の方向へスベっていく。


 その思考をかき分けてごめんなさいわかりません!

 と叫ぼうと口が開いた。


「よく手を使わずに飲んで遊んでます!」


 大声という点では一致していたが、思っていたのと違ったのが出た。


「いや東高校お笑い王座決定戦のことぉぉ!」


 白井さんは一歩前に出ると同時に人差し指をぐんと上げ、俺と同じ声のトーンで叫んだ。

 ぴたりと空気が止まった。

 みんなの足もぴたりと止まったようだった。

 数秒間、俺の思考もぴたりと停止した。


 ……。


「あかん! これは大事故や! 逃げましょう梶くん!」


 白井さんは俺の袖を掴んで走り出す。


「どうもありがとうございました~!」

 

 脱兎のごとく白井さんの言葉は尻尾みたいに伸びて俺たちは落ちるように階段を降りていく。

 脱力しきった俺は白井さんにされるがまま昇降口まで白井さんの速度に合わせて走り続けた。


「はぁ、はぁ! あは、ははは……! めっちゃドキドキしたっ!」


 白井さんはこんな状況でも楽しそうに、時折スキップも混ぜながら廊下を突っ切っていく。つるっとバランスを崩し、袖を掴んでいた手が解ける。

 離れた手は俺の手をギュッと握り、再び走り出した。


 手のひらから熱が伝わる。

 白井さんの手は少し湿っていて、すごく熱かった。

 靴箱の前に到着すると手は離れ、すぐに白井さんは頭を抱えて悶絶した。


「はっ! うああ、梶くんごめんなさいいい。もしかしてうち、またやってもたかもおぉ……!?」


 そしてその場に倒れこみそうになるくらい真っ青な顔して、ずっしりと落ち込むのであった。

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