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お笑いとラブコメは混ざりますか?~ゲラなヒロインとスベる俺が青春を沸かす話~  作者: たーたん
第一章 東高等学校はじまり編

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26話 燃え盛る俺たちの炎は消えやすい

 土曜日のファナさん邸での勉強会はある意味で勉強になった。

 謎かけ、そして巧みなスルーという透かし。

 家に帰ってネタ帳に今日覚えたことを書いていく。

 

「それにしても可愛かった……」


 一人だからこそ言える呟き。

 思い浮かぶのはみんなの私服姿だった。

 ファナさんの家、女の子の部屋っていうのももちろん初めてのことだが、スケールが違いすぎて消化しきれていない。テーマパークに入った感じに似てる。

 だからか、現実離れした空間に佇む3人の私服姿がものすごく映えるのだ。



 日曜日は勉強して過ごす。

 午後、清水からE-1に俺がエントリーしたこと、それも白井さんとコンビを組んでいることについて激しい追及があって数時間かけて一通り説明した。

 清水は先輩とコンビを組んで出場するようだ。

 日曜の午後までが締め切りで、月曜日の放課後に生徒会による抽選が行われるらしい。同好会内でエントリーする組の一覧について共有されたようだ。


『公式SNSから発表ありましたね!』

『12組も出るのかよ!』

『ほんまや! 思ったより多いな!』

『そこから上位5組が決勝……ですね』

『もちろん、アーヴァンチュールもココナッツも決勝いくで!』

『当たり前だぜ!』


 運命のE-1は12月24日。終業式のあと体育館で行われる。

 その後、投票できる専用ページで上位5組が1月の決勝の舞台に立てる。


『梶くん、来週はわらおー会の活動はないですけど、放課後に30分とか、少しだけでも打ち合わせしませんか? もちろん、テスト勉強の邪魔にならない範囲で!』

『はい、僕はぜんぜん大丈夫です』

『勉強なんてしてる場合じゃねえ』

『それはちゃんとしときましょう……』

 

 いよいよ実感が湧いて来た。

 クラスでも目立たないモブキャラの俺がステージに立つ。

 たくさんの視線を浴びることになるだろう。

 そう考えるとお腹が緩くなってくる。


 でも、後に引くことはなるだけ考えないようにする。


 白井さんに、「やります」と言ったんだ。

 期待を裏切るわけにはいかないし、俺が別人として生まれ変わる最後のチャンスかもしれないんだ。

 大げさかもしれないけど、それくらい俺にとってはありえない状況なんだ。

 ここで引っ込んでしまったら俺は一生変われないと思う。


 白井さんに声をかけてもらえなかったらこんな考えも出来なかっただろう。

 不安と緊張と恥ずかしさが大部分を占めるが、俺の中で燻る興奮が少しずつ大きくなってきている気がした。



◇ ◇ ◇



 月曜日。

 12月に入ると、今までの暖かさが嘘のように冷たい風が吹く。

 ぜっかく黄色くお色直しした銀杏の木も、その出番も短くすぐに丸裸にされていきそうだ。


 修羅の顔をしている清水の視線と質問攻めを掻い潜り、放課後白井さんが迎えに来るというので教室前の廊下で待っていると、当然のように清水も隣に並んで立っている。


「梶。俺に感謝してもしきれない恩があることを忘れるなよ」

「恩……ね。とうか、なんで一緒に待つわけ?」

「そんなの近くでほのかちゃんと同じ空気吸いたいからに決まってるだろ」

「どんどん遠慮がなくなっていってるな」


 はあ、と清水は自分の体に溜まった淀んだ空気を吐き出した。

 すう、と長く息を吸い込んだので何かを言うぞという雰囲気が聞く前から伝わる。


「俺が大喜利大会を休んだからこそ、お笑い妖精のほのかちゃんに声かけられたんだぞ? こうなるなら死んでも出ればよかった。そしたら俺がほのかちゃんに声かけられたはずだろ。ああっ、でも俺には抜け禁止の縛りがある! なんて運命は残酷なんだ! ほのかちゃんに俺のことよろしく言っておいてくれよ!? もも、もしかしたらお友達になれるかもしれないし! え……それアリ! 梶、俺、ほのかちゃんとお近づきになりたし!」


 その通りなんだよな。声かけられたかどうかは知らんけど。

 俺らは女子という話題こそすることはあれど、接点なんてなかったし近くにいるのに触れられない高嶺の花のように見ていた。なるだけ悟られないようにひっそりと。


「ありがとな、清水」

「ああでも友達も禁止令に抵触する! じゃあ顔見知りなら――って、え?」


 聞き返されると余計言いにくくなるのだが、清水にはやっぱりちゃんと伝えておこうと思った。

 俺が自信を持って友達っていえるやつ、だからな。


「ありがとうって言ったんだよ。お前すぐ調子乗るから言いたくなかったけど。でも、やっぱり言う」

「お、おう……」

「具合悪くなったのは偶然で、たまたまで、いろんな奇跡が起こったからかもしれないけど、きっかけは清水がくれた。それは間違いない。そのお陰で俺、なんだか変われそうな気がするんだ」


 清水の勢いはなくなり、黙って俺の声に耳を傾けてくれていた。


「白状すると、可愛い女の子に声掛けられたから、有頂天になって二つ返事でOKしたよ。本気でやってる人たちから見れば、お前ごときがってレベルだと思う。でも今は、なんていうのかな、やってみたいって思うんだ。この気持ち、大事にしたい。だから――」


 ふわふわしていた感情が何なのか伝えることで俺の中でも形になりそうだった。


「ありがとう清水」


 一拍置いて、清水の顔を見ながら伝える。


「今、すごく楽しい」


 言うつもりはなかったのだが、喋り出すと止まらなかった。まとまりのない感情だったけど、今の気持ちをそのまま清水に伝えられたと思う。 


「ったく。爽やかな笑顔しやがって……」


 前髪を掻き上げ、そのまま後頭部を触りながら清水は片方の口角だけ上げた笑みで返した。


「――お前が楽しいならよかったよ」


 バン、と清水に背中を叩かれる。音は大きかったが痛みは全くない。


「清水……」

「だがE-1に出る以上、俺たちは敵だからな! お笑い同好会舐めんなよ、梶!」

「……ああ!」


 珍しく清水が自信に満ちた表情になる。

 清水の目つきは負ける気はないと言わんばかりの気迫に満ちていた。

 それに応えるように俺も力いっぱい頷き返す。


「ふん」


 鼻を鳴らした清水は拳を突き出す。

 俺は合わせるように、こつんと拳を突き合わせた。 


「――梶くん……青春してますね!」

「うわあ!」


 いつの間にか傍にいた白井さんの一言に、俺と清水は情けない声を上げながら、文字通り飛び跳ねた。


「しし、白井さん! 今のもしかして聞いてたり……?」

「うーんと、ありがとな清水、あたりからですかね?」


 うわああ!! ほとんど最初からじゃん!


「清水先輩! うちらも負けませんから! 対戦よろしくお願いしますっ!」

「わわ、わたくしめの名前を!? こここ、こちらこそどうぞお手柔らかにお願いいたします! なにとぞ!」


 地面に頭がつきそうな勢いで頭を下げる清水。

 楽しいぜと熱く語る俺も、負けねえと闘志を燃やす清水も、その炎は一瞬で鎮火されるのであった。

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