24話 わらおー会の休日② 梶の突撃となりの女の子邸編
白井さんと女子さんは電車登校だが、俺はバスでファナさんも同じようだ。
駅から歩いて15分ほどの距離にファナさんの家はあるらしい。
歩いて行こうということになり、白井さんと女子さんが先導してくれる。
俺はこの猶予時間をフル活用し、追試に向けてファナさんの服装を想像しながらイメージトレーニングしていた。
ロータリーを降り整えられた街路樹を抜け、曲がるたびに静かで大きな家が目立つ住宅街に入っていく。
目につくのは大きな車や外車。三階建ての家もあった。どこにでもありそうな家がない。どれもが個性的で、高そうな家が立ち並んでいる。
「着いたよっ」
「マジ、ですか……」
表札には英語でアギ―と書かれている。
下にはいくつか名前があって一番下にファナと書いていた。
重厚な門に圧倒される。ゲームでよく見る洋館の門だ。
ただの柵じゃなくて、左右対称に意匠が施され、トゲトゲがついてるアレ。
その奥にそびえる屋敷。というか城。
魔法使いがいてもおかしくはない雰囲気だ。
「ファナち、ファナち! ファナっち!」
白井さんは慣れた手つきでインターホンを連打している。
『はーい! いらっしゃ~い! 今開けるね!』
ファナさんの声が聞こえると、門がガラガラと音を立てながら自動的に開いていく。
「ほらいこ! 梶くん!」
既に敷地内に入っていた白井さんに手招きされる。手入れされた庭。作業着を来た数人が剪定していたり落ち葉を集めたりしている。
邪魔にならないよう流れてくる枯れ葉を避けながら大きな扉の前へ。黒に近い茶色で、言い表せない模様が幾重にも彫られている物々しい扉に再び圧倒された。
ぎいいと重厚な音がなるかと思いきや、カチャっと意外と軽めなデジタル音で開く。隙間からファナさんの顔が飛び出した。
「こんにちはっ、ほのちゃん、ここちゃん。先輩もようこそです……!」
直後、ドスンと女子さんの肘が脇腹に直撃する。
こくりと白井さんは表情でサインを送ってきた。
最後に「挨拶しろ」と女子さんからの追加要求もあった。
……やるしか、ない。
くわっと目を見開いてファナさんを頭からつま先までなぞるように眺める。
その視線に気づいたファナさんは、両肩を上げ口を両手で隠した。
白井さんも女子さんもあえてなのだろう、何も喋らない。
「スリムなファナさんを包み込むような柔らかなワンピースがなんとも上品で! シルクなのでしょうか。光まで滑っているようでそのきめ細かさがうかがい知れます! 肩の形が透けて見える薄いカーディガンも、まさに! ファナさんの品格に花を添えているようです! 模様がある厚手のタイツもなんだか温かそうで、可憐なファナさんを力強く支えてもいる! こんにちは! 梶です!」
「……えっ、あ、ええっと……!」
「あははは!」
「ぎゃははは!」
無邪気な白井さんと、だらしない女子さんの笑い声が屋敷中に響く。
ファナさんは顔を真っ赤にして口をパクパクしていた。両手で頬を抑え、行き場を失った視線が宙を泳いでいたが、やがてフルフルと首を横に振った。
「あ、ありがとうございます……嬉しい、です。でもそんなに見つめられたら恥ずかしいです……先輩」
「あのファナさん! これはですね!」
「梶くん。自らネタバレするのはダメです」
なんて殺生な……。
◇ ◇ ◇
玄関の先は吹き抜けになっており、天井には豪華なシャンデリアが神々しいまでの光を放っている。床はどこまでも絨毯張りで、靴を脱いでいいのかこのままでいいのかもわからない。
ふわふわのスリッパを出してくれたので、白井さんたちを見倣ってその場で脱いで履き替える。
俺は生殺しのまま未だ真っ赤な顔のファナさんに案内され、カーブを描く階段を上り廊下を進む。洋館だ。宮廷だ。空気が日本じゃない。護衛役を兼ねたメイドがいても違和感がない。
きっと部屋にはお姫様みたいなベッドがあって、豪華な化粧台とか、洋物っぽい家具がある部屋に案内されるのだろう。
と思ったのだが、案内されたのは魔改造されたゲーミングルームだった。
スタイリッシュなデスクに鎮座する巨大なトリプルモニターが真っ先に目に飛び込んだ。壁一面に並ぶ棚にはとんでもない量のゲームソフトが綺麗に並べられている。
反対側にはLEDの照明を浴びたガラスケースがいくつもあり、中には色んなフィギュアが展示されていた。
「ほんじゃ、やるかあっ」
「なあこれ、食べていいのか?」
上着を脱いだ二人はまるで自分の部屋のようにくつろぎ始める。
女子さんは既に用意されていたクッションの上であぐらをかき、机の上に並べられているお菓子を聞きながら食べている。
その隣で白井さんはリュックの中から教科書やら問題集をバラバラと広げた。
「今、温かい飲み物淹れますね。いつものでいいかな?」
「うん! うちのお気に入り、ハチミツレモン!」
部屋の隅にはキッチンみたいなスペースまである。そこでファナさんはてきぱきとお茶の準備をしている。
「あ、先輩もどうぞ好きなところでくつろいでください!」
「はい……」
まるで展示場にいるみたいだ。甘い部屋の匂いが現実なのか女の子の部屋なのか曖昧になる。なんて、うらやま――素敵な部屋なんだろう!
◇ ◇ ◇
「これ、とんでもバグが発見されて販売中止になってバズったやつだ!」
「あっ、知ってるんですか!? ですです! 読み込んだら本体クラッシュするバグ、ファナ、確かめましたから!」
俺は勉強なんてそっちのけでファナさんと一緒に展示会場を楽しんでいた。
うつ伏せで飛行機みたいなポーズを取りながら、バランスボールの上に乗っている女子さんが視界に入る。
「老人騎士の全巻! これ、めっちゃ歌も曲もいいんですよね」
「はいっ! ファナも好きです! 嬉しいですっ! BGMかけますか!? 音響にもこだわってまして……お部屋が音楽に包まれるような感じになりますよ! ファナのお気に入りのプレイリスト……」
「うおぉ、トリプルモニターすごっ!」
スペックを聞く限り俺では想像もつかないほどのハイエンドなPCは全くの無音で、近未来的なフォルムから青い光が煌々と放たれている。
「……あのー、お二人の世界に入ってるとこ悪いんやけど!」
背後から冷気を帯びた白井さんの声が聞こえた。振り返ると、白井さんが教科書の角で机をトントンと叩いている。
こっちに来いという合図なのは本能的に察知した。
「ファナちのはしゃぐ姿見るのは嬉しいんやけどさ! ゲームのオフ会? いつまで続けるん?」
「あ……」
「べ、勉強会……しなくちゃですね、あはは……つい興奮しちゃって」
「ちゃう! うちも構ってほしいの!」
じたばた手足をばたつかせる白井さん。なんだか服装も相まって……。
「二人ともほっこりとした顔で見ないでくれる? うち駄々っ子みたいやん」
「ほのかは目立ちたがりで寂しがりだもんな、ちょっとでも寂しいとすぐ拗ねるし、クラスでもうるさくてしかたねえぜ。カジくんカジくんカジくん」
ぴんと両手両足を伸ばし女子さんがバランスを崩して絨毯の上に転がった。
「ちょ、こーちゃん!」
机コンコンの速度が速くなる。しししと笑いながら女子さんはテーブルまで転がりながら移動すると飲みかけのカップに口を付ける。
「うちらは期末テスト終わってからが本番なんやで! 勉強もせなあかんけど、お笑いレベル上げるための特訓だってせなあかんの! もう大会までのカウントダウンは始まってんねんで。来週にネタ順発表だって出るし」
ファナさんも座り、近くあったクッションを抱きしめる。
俺も離れた端っこの方で座り、迷子になっていた自分を呼び戻す。
「先ずは目の前のことに集中!」
「勉強開始!」の合図で一同は静かになりパラパラとページをめくる音だけが聞こえる。
……。
…………。
「謎かけでもする?」
「ほらみろ。ほのかは5分も黙れないんだ。きっと寝てるときも喋ってるぜ」




