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お笑いとラブコメは混ざりますか?~ゲラなヒロインとスベる俺が青春を沸かす話~  作者: たーたん
第一章 東高等学校はじまり編

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22話 僕たちは大したことない

 そんなこんなの木曜日が終わり金曜日。

 俺のしでかし案件は「とりあえずなかったこと」として処理された。

 あの後、家に帰ってご飯を食べてお風呂に入ってシリアルをやっているけど、生徒会の女の子、雨宮さんの言葉が耳に残っていた。


 俺は人前で喋ったり大人数ではしゃいだりするのが苦手だ。

 昔からそうだ。

 小学校の学芸会や作文発表のたびに、頭が真っ白になって声が出なくなる。

 自分でも解読不能な単音ばかり出て言葉にならない。

 顔がひきつって、笑われて、さらに喋れなくなって。

 その蓄積がいつの間にか大きくなって、人前で笑ったり、怒ったり、自分を出す行為が恥ずかしくなった。

 


 ――こんな一年の遊びに二年の男子が何やってんだか。


 ――本人も年下の女子にちやほやされてまんざらでもなさそう。


 ――鼻の下伸ばしてしょーもな。


 鼻の下が伸びてたのは否めない。

 だって毎日が刺激的すぎるから。

 ちょっと気を抜いたら「眼福眼福!」なんてキモい発言をしてしまいそうで、必死に押さえてるくらいだ。


 一年の遊びにって言いがかりは納得はできない。

 ちやほやだってされてない……はずだけど、まんざらでもないのは正直わかる。


 でも、それだけじゃない。

 みんなと会話するのが楽しい。

 俺の言葉で笑ってくれるのが嬉しい。

 スベっても、空気ごと持ち上げてくれるあの感じが心地いい。


 白井さんと組んで、アーヴァンチュールとして人前で笑いを取れたら。

 そんな瞬間をあの三人と分かち合えたら。

 それだけで、乗り越えてみようかなって気になる。


 こんな考えができるなんて、昔の俺なら想像すらしなかった。

 もしかしたら俺、思ってるほど重症じゃないのかもしれない。


 だったら、少しくらい調子に乗ってもいいんじゃないか?

 前を向けるなら肯定していけばいい。

 今まで卑屈だった分、自意識過剰なくらいがちょうどいいのかもしれない。


 まだ何も書いていない真っ新なノートを取り出す。


「書いてみようかな」



◇ ◇ ◇



「っしゃ! っしゃ! っしゃ! グランプリ優勝! ふぁっふぁーー!!」


 わらおー会に入るとファナさんが狂喜乱舞していた。

 女子さんは不定期のアルバイトがあるらしく来ないようだ。


「ティア3デッキで優勝なんだけど!? 完全に環境メタったファナの読み勝ちなんだけどおぉ!?」


 グランプリとは毎月行われているシリアルのイベントで、条件を満たした勝利数を得られれば何人でも優勝できるもので勝ち取ったみたいだ。

 俺は予選で敗退だったけど。

 普段のランク戦では、手札の出し方を教えてくれるが、イベントでの大会はアドバイスは一切しないのがファナさんの流儀だった。


「あ、こんにちは。先輩……(にこ)」


 俺に気づくとほっこりとした笑顔で出迎えてくれる。


「昨日思ったんですけど、先輩はマリガンが弱気すぎます。理想の勝ち筋は決まっているデッキなのですから常に上振れを意識した立ち回りをしないとアグロの意味はないですよ。それとファナ言いましたよね? 負けが分かったら即リタイアすべきだって。相手に留めのカタルシスを与えてはだめです。そんなのイライラするだけです」


「は、はい……」


 職員室に呼び出されて怒られている生徒みたいだ。

 しゅんとしている俺を見て白井さんは笑っている。


「梶くん相当しごかれてますね!」

「はは……勉強になってます」

「ふふー、でも先輩は筋がいいです!」

「うちはさっぱりやからなぁ。さっきのも何言ってんのかわからんかったし。でも、ファナちがこんなに楽しそうに喋ってるの見てるだけで楽しいな!」

「……うぅ、ほのかちゃんったら」


 ファナさんは再びゲームの世界に戻る。

 俺は「あの」と白井さんに近づいて鞄から一冊のノートを取り出した。 

 これは昨日の決意の証でもある。

 なにかしら形に残そうと思い立って書くことにした。スマホでもよかったけど、思いついたのは手書きだった。


「これ作ってみました」

「ネタ帳やん! 梶くんっ……!」

「と言ってもまだ、少ししか書いてませんが……」


 アーヴァンチュールネタ帳①と銘打ったノートを白井さんに見せると、少し釣り目で大きな瞳をキラキラさせ、跳ねながら近づいてくる。


「見ていいですか?」

「はい、でも大したこと書いてないですよ! ぜんぜんネタにならないというか」

「そんなことないですよ。だって、うちらのために作ったんですよね! それだけで大したことですって!」


 仰々しく両手で受け取ると、胸に抱きしめながら席につく。だんだん照れくさくなって、痒くもないのに頭を掻き続ける。


「へへ、ありがとうございます。梶くん」

「いや、そんな……」


 ノートを机に置いて開かないまま、白井さんは上目遣いでちらりと俺を見ると、八重歯を見せながら口元を緩める。


「梶くん。ファナちとこーちゃんみたいに、うちのこんなノリにイヤな顔しないんですもん。うち、結構ウザキャラですよ? 変なこだわりあるし、ちょい絡む分にはいいけど深くは付き合えないっていうか」


 白井さんはそっとアーヴァンチュールの文字を指でなぞる。


「実は、いつやっぱりごめんなさいって断られるかドキドキしてたんです! うちこそ、ほんま、大したことないやつですから……」


 「だから」と区切り、白井さんはノートを持ち上げ顔と真正面に揃える。


「梶くんがやる気で、しかも……こんなものまで準備してきてくれて――めっちゃ嬉しい」


 白井さんがそんなことを思っていたなんて。

 ウザいとか、そんなこと俺は思わなかったけどな。

 こんなに素直で正直で、真っすぐな白井さんは魅力にあふれていると思う。

 

「だから、ありがとう、なんです」


 そう満面の笑みを浮かべ、白井さんの細くて小さな指は、俺のネタ帳の一ページ目を開く。そこには昨夜俺が思いついたネタが一つだけ。


 俺のお笑いへの第一歩となる。初ネタだ。



 【アーヴァンチュール。

  嗚呼、今BAN中。by梶】



「いや、ほんま大したことないなっ!」


 白井さんは、目じりに涙を浮かび上がらせながら、机を叩いて爆笑した。


「ほんまに……もう」

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