2話 スベった俺が美少女に告白されるワケ
「あああ……爆死した」
俺は頭を抱えて校庭のベンチでうな垂れていた。
大会が終わると逃げるように飛び出してここまで走ってきた。
――秋晴れの文化祭。
11月もそろそろ終わりだけど、陽は眩しく浴びていると汗ばむ。
日向と日陰の落差がこんなにはっきりしているのは秋だけなんじゃないだろうか。
「はぁぁ――」
それにしてもテンパり過ぎた! 何やってんだ俺!
『ぼく三連発とか、あははは!』
この声だけは鮮明に頭に焼き付いている。あの笑顔も。
「あの子に救われたな……」
しんとする空気の中聞こえた笑い声。
豪快な笑い方だったけど、アニメみたいな声で透き通ってた。
彼女のおかげで、小さな笑いがぽつぽつと後から出てきて、司会者も「合わせて1ポイント!」と、似たようなツッコミをして笑ってくれた。
あれは天使だった。間違いない。
大きな口で笑う笑顔が印象的だった。
遠慮なく、本気で、素の自分を出しているかのような自然体の声。
なんというか、俺には真似できない表現だった。
「あいつ、マジで恨むぞ……!」
スマホを出して友人に「めちゃくちゃ恥ずかしかった!」メッセージを送る。
この埋め合わせは一回昼飯奢りから三回してもらわないと割に合わない。
三回も答えたんだし当然の権利だろう。
相手から爆笑のスタンプが返ってくる。足をバタバタさせてぐっと感情を抑える。
「あ~! 見つけた!」
どこかで張りのある高い声が聞こえる。ここは待ち合わせの場所だ。
今は人目に付きたくないし、役目も終わったしもう帰ってしまおうか。
俺は声がした方向から離れようと立ち上がる。
「お~~いっ」
でも一度クラスに顔出しておいたほうがいいかな?
まあ俺はそこまで目立つやつじゃないし、誰も気づきやしないだろう。
日陰に溶け込むように気配を消す。
家に帰ろうか教室に戻ろうか悩んでいると、こちらに小さな人影が走って近づいてきていた。うちの学生服を着ていて小柄な女の子だ。周囲を見るも俺しかいない。
え、つまり俺を呼んでる?
びくりと心臓が跳ねて身構える。
「かーじくん!」
ぴょんと跳ねて俺の目の前に着地のポーズを取る女子。焦げ茶色のボブカットがふわりと甘い空気を包むように揺れた。
少し釣り目だけど大きな丸い瞳と視線が重なると、女子はにかっと笑顔になる。
「あ……っ」
この笑顔ですぐに思い出す。
大喜利会場で笑ってくれた子だ。
「ええと、僕、ですか?」
「うん? 梶くん、ですよね?」
「はい梶ですけど……」
「じゃあ僕、で合ってます!」
今度は目を細めて口元を吊り上げる。俺への視線は外さない。
普段なら耐えかねてすぐに目を背けるのに、頭を固定されているみたいに目が離せない。
知らない女子に声を掛けられる。
それだけで頭の中がふやけてしまったみたいに考えがまとまらなくなる。
「うち白井って言います。白井ほのか! 大喜利の会場にいました!」
「そ、そうですか……」
知ってるなんて言ったら変な目で見られそう。
状況に混乱していても知らない風な装った返事をできた自分を褒めてあげたい。
白井さん……。少なくともうちのクラスではない。同じ2年の子だろうか?
それにしては背が小さいし1年の子かもしれない。
「めっちゃおもしろかったです!」
「そ、そうですか……」
「あの回答、天才だと思います! 終わった瞬間の忍者みたいに去っていく姿もほんまおかしくて! お話したいな思ってつい追いかけてきちゃいました!」
ほんま? 関西出身なのだろうか。関西弁なんて初めて生で聞いた。
「あっ、梶くんって呼んじゃってますけど。1年生とちがいますよね?」
「え? あ、2年です……」
「ごめんなさい! うち1年なんで、梶先輩ですね! えへへっ」
ぺこりと頭を下げる白井さん。
「いえっ、ぜんぜん大丈夫です、謝らなくても――」
「はいっ、ありがとうございます梶先輩」
言い終わる前に白井さんは顔を上げ笑顔のまま俺に一歩近づいた。
うっわ、先輩なんて初めて呼ばれた――じゃなくて、状況が理解できないというかこういうのに免疫がないというか……とりあえず近い!
「ああええと……、どういった……?」
かろうじて出た言葉はなんとも心もとない小さなものだった。
背の小さい白井さんはもう半歩だけ俺に近づく。
至近距離の上目遣いに撃ち抜かれ、俺は完全に沈黙した。
息がかかりそうで思わず呼吸を止める。カラカラなのにごくりと俺の喉がなった。
「梶先輩!」
「は、はいっ」
息を吸い込みながら返事する。
「一緒にお笑いやりませんか!」
……。
「……はいっ!?」
頭が追い付かず何を言っているかわからない状態だったが、彼女の朗らかな笑顔は、日陰にも関わらず差し込んだ陽の光のように眩しかった。




