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お笑いとラブコメは混ざりますか?~ゲラなヒロインとスベる俺が青春を沸かす話~  作者: たーたん
序章 わらおー会編

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1話 大喜利でスベった俺はもれなく死に体(たい)

 ぴょんと跳ねる栗色の髪の少女は、笑った拍子に控えめな八重歯を覗かせた。

 少し釣り上がった大きな瞳には、キラリと光る十字の模様があった。

 夢と期待とポジティブをいっぱいに宿した二つ星で俺にこう言ったんだ。


 ――梶くんがいいんです!


 ネタバレするとこれから俺は盛大にスベるし、パニクる。

 そんな俺に声を掛けた、美少女の笑顔に俺は救われたんだ。


 見ていられないかもしれない。

 俺もあまり振り返りたくはない。

 ただ、地獄の底で俺がどう救われるのか、一緒に見届けてくれると嬉しい。



 ――――



「こんな文化祭はいやだ! どんな文化祭?」

 

 すし詰めの教室の中、司会者のマイクを通した声が響く。

 文化祭の出し物、大喜利大会。

 男子生徒でひしめき合う熱気の中、俺は回答者として椅子に座らされていた。


 おもしろ回答なんて浮かぶはずがない。


 あるとすればこれ。――代わりに大喜利大会に出場させられる文化祭。


 そう。俺は座りたくてここに座ってるんじゃない。

 出るはずだった友人が熱とか腹痛で倒れ、その「代打」としてここにいる。

 当然断った。何度も無理だと言った。

 でも、「挙手制だし、座ってるだけでいいから」と押し通されてしまった。

 断りきれなかった自分の弱さが、今、俺の首を絞めている。

 その結果、息が詰まり頭が真っ白になって、こんな文化祭こそいやなんだと心の中で叫んでる。


「うわははは! 大寺さん1ポイント!」


 ちなみに大寺さんとは俺のことじゃない。

 主催のお笑い同好会が率先して答え、場を盛り上げている。

 その空気が後押しになってるのか、一般参加枠の二人も回答し始める。

 拍手が起きたり、教室の中が熱くなってきているように感じた。

 特に学校や先生を小ばかにした回答は大きな笑いが起こる。


 俺は考えるフリをしながら黙ったままでいる。

 聞いていてあまりおもしろくないなって思う回答でも盛り上がっている。

 この流れなら、俺が何か答えても、笑ってくれるんじゃないかと錯覚してしまう空気だった。


(いやいや、待て待て。何でやる気になってんだよ。笑ってくれなかったらどうするよ。こんな人前で恥ずかしすぎるだろ……スベったらネタにされて笑われるぞ……)


 頭の中に浮かんだネタも飲み込む。

 雰囲気に吞まれてはだめだ。俺はいるだけ。空気でいい。

 そうして黙り続けているうちに、いつの間にか何問も過ぎていた。


「写真で一言ルーレットー! 参加者全員、ランダムな写真で一言、おもしろいことを言ってください!」


 やっぱりローカルな話題や下ネタは反応がいい。あと勢い。それにつられて笑いを誘っているような気もする。


「はい! 続いては――梶くん!」


 突如、教室中の視線を浴びた。

 ぶわっと全身から血の気が引き名前を呼ばれたことに気づく。


「えっ? ……あの」


 ちょっと待って。なんで名前呼ばれてるんだ?

 挙手制のはずで指名されないって話だったのに。

 

 数秒黙ってるだけなのに全身から汗が噴き出してくる。

 顔が真っ赤になっているのも自分でわかるくらい顔も熱い。


「写真で一言! ここまで回答がない梶くん! どうでしょう!」


 司会者はフリップを持っていて、そこにはひょっとこの仮面をつけた赤色の法被を着た男が一人、人ごみの中で踊っている写真があった。


 う、なんだこのシュールな写真は……。

 その光景はなんだか昨日の自分みたいだと思えてしまう。


 ――そうだ。このまま黙っておこう。

 回答に困ってたら空気を読んでくれて次に移ってくれるだろう。

 視線から逃げるように顔を下げ遮断する。


 いいやでも、このまま黙ってる時間も辛い。いっそ思いつかないとかわからないとか言った方が、司会者の人にとって次に進行しやすいかもしれない。


 そう思って俺は顔を上げて司会者に顔を向けた。


「10連で神引きした昨日の僕っ」


 え、ちょ、俺いまなんて言った?

 わからないじゃなくて、思いついたこと言ってしまった!

 当然のようにしんとする教室内。


 やばいやばい! この空気えぐい!


「あ、違いました! 推しが破局したときの僕!」


 待って! 何言ってんの俺!

 回答を訂正しちゃってどうするんだ!?

 てか誰か何か反応して……!


 様子を窺うように司会者を見ると、何かを喋ろうと口元が動くのが見えた。

 まずい――笑う顔じゃない。

 俺は遮るように、咄嗟にまた思いついた言葉が出た。


「転生したら僕だけひょっとこでした!」


 正確には一秒もなかったのかもしれない。

 急激に冷めた雰囲気が肌に伝わった。

 俺の声だけが反響する。

 それだけ教室が静かだってことで、それだけ無反応だったってことだ。


「あ、ええと……っ」


 俺の顔だけが轟音を立てながら燃えているようだ。

 あああ、スベった! 逃げ出したい! 


「ぶっ……あっははは!」


 頭が真っ白になりかけたその瞬間、女の子の笑い声が聞こえた。


「ぼく三連発とか、あははは!」


 張り詰めた空気を一気に温め直したみたいだった。

 女の子の声に続くように、小さな笑いがどこかで漏れる。


 俺はその声の主の方を向く。

 最前列の席で、大きな口を開いて笑っている小柄な女の子。

 八重歯をちらりと覗かせながら、涙目になって腹を抱えて笑っている。


 縋りつくように俺の視線は点になって彼女を芯に捉える。


 肩まで伸びた、焦げ茶色の髪。

 口元が緩まるたびに風が流れ、穂波が揺れているようだ。

 彼女だけに焦点が合い、他に何も見えなくなる。

 息も止まった空間で、彼女の笑顔に言葉通り釘付けになった。


 それは、地獄に落ちてしまった俺に手を差し伸べてくれた天使のようだった。

 思わず詩人のような表現が出てしまうくらいに。

※本作は学園×お笑い×青春のお話です。

気楽に読んでいただけたら嬉しいです!

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青春 お笑い 学園 ライトノベル 漫才
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