第15話 アーメン
いつもより身体が大きい。視線が高い?
「う、うう」
目を開けると、恵理也は自宅のリビングのソファに座らされていた。
なぜか目の前にはプラスチックの破片が散らばっていた。あのゲーム機らしい。どうやらゲーム機が壊されているようだった。
「お父さん!」
環奈だ。
かなり焦った表情だったが、あのゲーム機を足で踏み砕いてるではないか?
一体どういう事だ?
「俺、一体何をやってたんだ?」
恵理也はあたりをキョロキョロと見回す。全くいつも通りのリビングで、どこにも修道院の要素はない。
それに身体の感覚も元に戻り、心底ホッとした。お腹も空いていたし、汗だくの身体が気持ち悪いが安堵していた。
あのエリーニャのアバター肉体は、確かにリアリティはあったが、空腹感や疲労感も感じない。都合の悪いものを排除したアバター肉体に、改めてゾッとしてきた。
環奈によると、恵理也はあのゲームに熱中し、一日中起きてこなかったらしい。痺れを切らした環奈は、このゲーム機を無理矢理破壊し、恵理也の目を覚させたという事だった。
「本当に心配したんだからね! お父さんがゲームに熱中して、帰ってこなかったらどうしようかと思ったよ! いよいよアタオカになったと思ったじゃん」
「悪かったよ、環奈」
環奈は泣いていた。自分はよっぽどゲーム世界にはまってしまっていたのだろう。それは反省すべき事だった。こんなに娘に心配されるとは、恥ずかしくもなってきた。
「でも何でゲームなんてやってたのよ」
「それはな、環奈の事を理解したかったんだよ。確かにゲームは素晴らしいな。現実を忘れられる。その気持ちはよくわかった」
そう言うと、環奈はさらに泣きそうに顔を歪めた。
「頭ごなしにゲームや漫画を否定して悪かったよ。漫画の修道院にガチのツッコミ入れて悪かったよ」
環奈は、ゴシゴシとティッシュペーパーで涙を拭いていた。何も反論出来ないようだった。
「もう、ゲームはほどほどにする。一生、ずーっとゲームやってたら馬鹿じゃん」
「おぉ、環奈。別に全部やめなくてもいいんだぞ。俺が言うのもなんだが、時間を決めて適度に楽しむのは問題ないよ」
環奈は、再び涙を流して頷いた。
「私、ずっと寂しかったのかも。ママがいない寂しさをゲームで埋めようとしてた。これって単なる現実逃避だよね。アタオカ状態のお父さん見て気づいたよ」
それを聞く恵理也の方が泣きたくなってくる。環奈がゲームや漫画にハマっていたのも、反抗期になっていたのも、自分の力不足を思い知らされた。もっと環奈と話す時間を増やすべきだったかもしれない。
「うん。でもさ、母さんはきっと天国にいるから。環奈も死んだ後は、神様のいる天国に生きたいだろう? ゲームの世界に天国はないよ」
少々手厳しい話かとも思ったが、意外と環奈は深く頷いていた。
「そうだね、別にゲームは天国ではないね。お父さん、色々反抗しちゃってごめんなさい」
こうして環奈は、ゲームも漫画もほどほどにするようになった。
「環奈ちゃん。お弁当できたわよ。ホホホ、美味しいはずですわ!」
恵理也はたまにお嬢様言葉を使い、環奈のウケを狙おうとした。ゲームはもうやりたくないが、お嬢様言葉はたまに使いたくなった。親父ギャグよりはウケると思った。
「お父さん、きもい!」
そんな恵理也に環奈はとても気持ち悪がっていた。
環奈の反抗期はまだまだ続きそうだった。
夢なんて無い冴えない現実だったが、こうして娘と一緒にいられる事は悪くない。恵理也はそう思うと、膝をつき祈った。
父なる神様、イエス様。どうかこの現実世界を守ってください。夢みたいなゲームの世界に逃げず、どうか霊的に目を覚まし、現実を生き抜く知恵や力をお貸しください。
アーメン。




