番外編短編・百合名のつぶやき
縞田百合名は、引きこもりだった。
大学受験に失敗し絶望した。来る日も来る日もゲームばっかりやっていた。特に乙女ゲームが好きだ。現実を忘れられる。
親は自分にはかなり失望していた。代々医者の家系で、百合名にも医学部に行く事が強要されたが、現実はこのザマ。
ずっと息苦しかった。勉強はそこそこできたが、医者になんてなりたく無い。
ずっとゲームをやっていたかった。現実逃避である事はわかっていたが、とにかく大学生にもなりたくないし、医者にもなりたく無い。
本当は受験に失敗してホッとしていた。ただ、親の冷たい視線や顔を見ているのが、しんどかった。自分は全く価値の無い人間に思えて仕方なかった。
そんな百合名の元に変なゲームが届いた。おそらく何かの懸賞で応募していたゲームなのだろうが、月村月子という知らない名前の女から送られてきた。
不審に思ったが、かなりハイテクなゲームらしい。仮想現実ゲーム世界にリアルに体感出来るゲームという。
「ふーん、暇だしやってみようかな」
こうして百合名は、このゲームをやってみた。
本当に仮想現実にリアルにいるようなゲームだった。「ユリヤ」というゲーム上のアバターを着たのだが、肉体をもってゲーム世界で遊んでいるようだった。
ゲーム舞台は修道院だった。修道院といっても、現実のそれとは違い、子牛の像を拝んだり、お局的な修道女もいた。うっかり仕事をミスすると、怒声がとんでくるようなゲーム世界だった。
何でゲーム世界でも怒鳴られなければならないの?
きっと自分はどこに行っても、人に嫌われる。価値の無い存在なんだと思い込んでいた。
そんな折、修道院にエリーニャという修道女が新しく入ってきた。
少しつり目の変わり者の変わった雰囲気の令嬢だった。この世界では、ゲームについて口出しするのはタブーだが、彼女はゲーム世界から抜け出したがっているようだ。
そしてエリーニャから神様の話しを聞いた。
「ユリア、神様はあなたの事を死ぬほど愛しているのよ」
心では嘘だと思っていたが、魂ではエリーニャの言葉に同意していた。気づくと彼女のペースに乗せられて「洗礼」を受けたが、全く後悔はなかった。ゲーム世界という事で、深く考えていなかった部分もあったのかもしれない。
エリーニャとの聖書勉強の時間は楽しかった。特に旧約聖書のイザヤ書43章4節の言葉が心に残った。
『わたしの目には、あなたは高価で尊い。 わたしはあなたを愛している』(イザヤ書43章4節)
こんな自分でも神様には愛されてる?
「そうですわ、ユリヤ。あなたの為に神様が死んで下さったんですわ」
エリーニャの口調はわざとらしかったが、なんだかとても心に残った。
いつの間ゲームが終わり、現実世界に戻ってきた。
引きこもりの現状は、そう簡単に変わりないだろう。
それでも百合名は、教会を探す事にした。意外と近所にあるっぽい。佐藤恵理也という牧師がいる教会が一番近い?
恵理也なんて珍しい名前だ。エリーニャとちょっと名前が似てるかも?
関係ないだろうが、ちょっと運命を感じた。明日この教会に電話をかけて問い合わせてみよう。
まずは、最初の第一歩だ。
きっと大丈夫。




