第12話 野太い声で探します
「ハンナ! どこいるんだ! 出てこい!」
エリーニャの口調は、すっかりお嬢様言葉が消えていた。
声自体は可愛らしいエリーニャのものだったが、口調は佐藤恵理也(47)だった。
あれからハンナを探す為に修道院内を探し回ったが、全く影も形もない。他の修道女達は、 各自の部屋やキッチン、風呂などを探しているようだが、良い知らせは届いていない。
「くそ!」
決して公爵令嬢が発する言葉と思えないものが漏れていた。
エリーニャは一人、菓子工房に向かった。あの白骨遺体が見つかった土地も見て見たが、誰もいない。夜に白骨遺体など見たくはないが、一応確認した。
「くそ! どこだよ、ハンナ!」
エリーニャは野太い声を出し、大股で歩きながら菓子工房に入った。
工房内はふわりと甘い香りも漂うが、ハンナの姿はどこにもない。エリーニャの野太い声に気づいてくれれば良いとも思ったが、何の返事もない。
ただ、何か物音がする気もした。床の方から聞こえる。
エリーニャは床に這いつくばり、耳を床にくっつけた。
「だ、だれか!」
小さな声だったが、確かにエリーニャの耳に響いた。
もしかしたら地下があるのか?
その可能性は大いにあった。元いた世界の生贄儀式も地下で行われる事があるという記事を見た事がある。魔法陣を作ったり、呪文を唱え、悪魔を呼び生贄を捧げる流れだったと記憶がある。
どこから地下に入ればいいのかわからないが、おそらく隠し扉のようなものがあるはずだ。
エリーニャは、工房の材料倉庫や控え室に行き隠し扉を探した。
「どこだー!」
エリーニャは、吠えながら隠し扉を探す。一刻も早くハンナを助けなければ。
その一心で探し回ると、控え室の本棚がフェイクであると気づいた。中の本も箱状のカバーしか置いてなかったし、本棚を軽く蹴ると、くるりと反転し、扉が現れた。
「ハンナを助けなければ!」
扉を蹴るようにあけ、地下へ続く階段を走って降りる。
すると、そこにはエリーニャの予想通りの光景があった。
床には魔法陣がかかれ、その中央には縄に縛られハンナが倒れていた。
なぜか魔法陣のそばでは、アシュラやルナも倒れている。
この二人が生贄儀式を行なっていたのは、間違いないようだが、予想外の事があったようだ。
「待ってろよ、ハンナ!」
アシュラやルナは、どうでもいい。すぐにハンナを抱え起こし、縄を解こうとした時だった。
目の前の黒い影が現れた。
いや、影ではない。ツノを生やした悪魔だった。よくキリスト教の絵画で書かれているような悪魔の姿と大差ない。男なのか女のかもわからない。男性器があるのに、乳房も生えていた。表情は鬼のようで、額に666の刻印があった。悪魔の数字だ。これは確実に悪魔と言って良いだろう。
「おい! お前がルシファーか?」
エリーニャは、悪魔の名前を呼ぶ。すると、悪魔は、こくりとゆっくりと頷いた。
『よう、エリーニャ。いや、恵理也か? 俺と契約しないか?』
そう言った悪魔は、アシュラの身体の乗り移って話しはじめた。
身体はアシュラだが、明らかに声も表情も悪魔だった。その証拠にアシュラの額には、666の数字が浮かんでいた。
アシュラの身体をのっとった悪魔は、ニヤリと笑っていた。




