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原稿用紙 ~ ギルド受付嬢の新しい暮らし  作者: 橘
物語は始まる

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第31章 製作(3)

第31章 製作(3)


 三人の笑い声を遮るようにして、狭い台所のスペースからかすかな足音が響いてきた。美咲さんが突如として布のカーテンの隙間から姿を現したのだ。その両手には、いくつかの小さな器と、出汁の香ばしい匂いを漂わせる温かい味噌汁の碗を載せたトレイが大事そうに握られていた。

「まだ、終わってないの?」

 美咲さんは短く訊ねた。

 室内にいた全員が、弾かれたように一斉にそちらへと首を巡らせた。美咲さんは静かな、迷いのない歩調で歩み寄ると、炊きたての白米と味噌汁の碗を茜のすぐ目の前へと下ろした。

「食べなさい」

 オーナーのトーンは平坦で、拒絶を許さない響きがあった。

 茜は何度も瞬きを繰り返し、眼前の温かい湯気を見つめた。

「美咲さん……?」

「あんた、昼から何一つ口にしていないでしょう。私の目がそれを知らないとでも思ったかしら」

 美咲さんはそう言い残すと、自らも畳の上に自然な所作で腰を下ろした。それから、目をキラキラと輝かせながら碗を見つめていたしおりちゃんに鋭い一瞥をくれた。

「あんたもよ、しおり。そこに座って、自分の持ち込んだ残りを綺麗に平らげなさい」

「はい、ボス!」

 ショートヘアの少女は、待ってましたとばかりに箸を割り、嬉しそうに白米に突撃した。

 茜はそのしおりちゃんの現金な姿に小さく吹き出し、それから自らも静かに箸を動かして、温かい米粒をゆっくりと喉へと流し込み始めた。つい数分前まで、古いプリンターの駆動音とマージンの歪みに対する陰気な弱音だけで満たされていた四畳半の空間は、一瞬にして、湯気と他愛のない雑談の温もりによって塗り替えられていく。

 その車座の輪の中で、世界の高尚な市場性や出版産業の厳しいリアルを口にする者は誰もいなかった。彼女たちはただ一緒に食事を摂り、明日のカフェのシフトの手順を確かめ合い、昼間のフロアで起きたおかしなお客様の行動についてを愉快に笑い合っていた。しおりちゃんにいたっては、商店街の八百屋の裏事情という、本作りとは一ミリの論理的整合性もない世間話をこれでもかと垂れ流していた。

 茜はただ静かに座り、咀嚼を繰り返しながら、同僚たちの言葉の連なりに耳を傾けていた。そのいくつかの時間のあいだ、作業机の上に山積みになっていたあの不格好な失敗作の残骸は、彼女の脳内のデータベースから完全に消去されていた。そして、どうしてだろう。そのささやかな雑音の介入こそが、彼女の胸の奥の張り詰めていた空気を、何倍も軽やかに、そして深く呼吸させるための余白を与えてくれたのだった。


 夜の時間軸はさらにその深度を増し、最も冷ややかな頂点へと達しようとしていた。結衣ちゃんが最初に自らの上着のラインを几帳面に整え、夜分遅くの非礼を詫びて静かに家路へと就いた。しおりちゃんもその数分後、自分の持ち込んだ袋の中身が完全に空っぽのログになったことを確かめてから、満足そうにたたきへと後ずさっていった。

 美咲さんは、玄関のドアの前で最後にその広い背中を伸ばした。内鍵ノブを回す直前、彼女は茜のテーブルの上に散乱している無骨な刃物や定規の山に、静かな一瞥をくれた。

「無理はしないことね」

 美咲さんの声は低く、しかし確かな大人の優しさを湛えていた。

「ええ、美咲さん。ありがとうございます」

「また明日、続きをやりなさい」

「はい、明日また、続きを組み立てます」

 美咲さんの唇の端に、ごく薄い微笑が浮かんだ。

「よろしい」

 ガチャリとドアが閉まり、ラッチの収まる乾いた音がたたきに響き渡った。夜の廊下を遠ざかっていく三人の規則正しい足音は、建物の角を曲がり、完全な静寂の中へと消え去っていった。

 四畳半の部屋は、一瞬にして元の真夏の静けさへと引き戻された。茜は再び、自らの作業机へと歩み寄った。そこは相変わらず、カッターの切り屑やインクの匂いが漂う戦場のような混沌のままだった。自らの手のひらを使って片付けていかなければならない宿題の山は、未だに目の前にそびえ立っている。

 彼女は畳の上に胡坐をかき、夕方まで自分のカッターの手際が悪くて歪んでしまったあの白い原稿の束を再び手元へと引き寄せた。指先の運動神経を、今度は何倍もゆっくりと、そして慎重に動かし、一枚ずつのノンブルを確かめながら丁寧に整頓していく。夜の静寂の中で重ね合わされたその新しい紙の塊は、今度はほんの少しだけ、昨日よりも真っ直ぐで綺麗な直線のシルエットを描きつつあった。


 休暇の二日目のクロックは、昨日のすべての失敗のログを、最初から解剖し直すことから始まった。

 茜はもう、画面のデータを一度にすべてプリンターのドラムの中に放り込むような、アマチュア特有の焦燥の疾患には冒されていなかった。彼女はより臨機応変な戦術を選択した。まずは冒頭の数ページだけをテスト出力し、机の明かりの下でマージンのミリ単位の数値を厳しく観測し、手作業での折り畳みの弾力を確かめ、そのすべての手順が安全であると確定して初めて、次のまとまった部数への印字コマンドを実行する。

 完成した紙の質感は、昨日の不格好な残骸に比べれば、遙かに美しい規律を保っていた。しかし、第一章から第三十章までの、昨夜遅くに完了のログを刻み込んだあの原稿のすべてを一つの塊に積み重ねた瞬間――また全く新しい別のメカニズムの欠陥が、彼女のロジックの前に立ち塞がった。

 紙の束の総容積があまりにも厚くなりすぎたせいで、二つに折り畳んだ瞬間に、中ほどの手順のページが外側へと不格好に突き出してしまい、背表紙のラインがガタガタの段差を作って自壊してしまったのだ。茜は金属製の定規を手繰り寄せ、その膨らんだ背の厚みをミリ単位で計測し、部屋の棚に並んでいる本物の文庫本たちの寸法とそれを冷徹に比較してみた。彼女は手帳の余白に新しい計算の方程式をいくつか書き殴ると、再びブラウザの階層を開き、製本の専門的なシステムに関するデータを貪り読み始めた。

 一文字ずつの文字の連なりを、自らの脳内に浸透させていく。これまでの夜なら退屈な雑音として一瞥もくれなかったはずの、製本工学の注釈が、今は確かな意味を持って彼女の知性を開いてくれた。

「……そうか。この厚みの変数を処理するには、背表紙を固める前に、あらかじめ紙の根元に強い圧縮の圧力をかけておく手順が必要なのね」

 茜は納得のいくように小さく首を縦に振った。彼女はすぐに自らの指先の所作を修正し、その新しい手順書の教えに従って、より辛抱強く紙の束へと力を込め始めた。

 二日目の時間の周期が終了したとき、そこには未だに「本物の文庫本」と呼べるような完璧な立体は一つも完成してはいなかった。しかし、テーブルの上に整然と並べ替えられたその白い紙の塊は、今や素人の目で見ても、明らかに昨日より真っ直ぐで、平坦で、精密な美しさを湛えてそこに佇んでいた。


 三日目のクロックは、表紙の装丁データを物質化することだけにすべてのエネルギーが注ぎ込まれた。茜は手帳の中に眠っていた不器用なスケッチの画像を、厚手の色画用紙の上に本番のインクで出力した。定規をしっかりと固定し、カッターの刃を低い角度で滑らせて、完成した本文の塊の周りにそのカバーを巻き付けてみる。

 だが、結果のログはまたしても失敗だった。背表紙の幅の計算が数ミリメートルほど長すぎたせいで、画用紙の端っこがダブついてしまい、どう見ても締まりのない不格好な外見に成り下がってしまったのだ。茜は怒りの感情を稼働させることもなく、それを静かに取り外すと、計算機を動かして寸法の変数を修正し、再び最初の手順から出力をやり直した。

 二度目の実験の結果は、今度は全く真逆の極端なエラーを記録した。今度の寸法は短すぎて、本文の白い余白をすべて包み隠すことができず、 isi(本文)の端っこが無惨に露出してしまったのだ。茜は手の中に残されたその不細工なカバーの残骸をじっと見つめ、静まり返った空気の中で佇んでいた。

「……あんた、私をからかっているの?」

 茜は手の中の無機質な紙に向かって低く囁き、それから自らの手際の悪さと理解の足りなさに、クスクスと楽しそうな笑い声を零した。

 彼女は鉛筆を握り、手帳のチェックリストの真下に、新しい教訓の一行を真っ直ぐに刻みつけた。

 ――液晶画面のレイアウト上の寸法を、物質としての紙の世界にそのまま適用できると思い込んではならない。目の前にあるリアルな紙の弾力を、自らの手のひらで観測すること。

「よし。三日目の宿題も、これで綺麗にロックされたわね」

 四日目の時間が回る頃、四畳半の室内のレイアウトは、完全に以前とは違う劇的な質量を帯びていた。そこはもう、いつも几帳面に整えられていたミニマムな寝室の面影を何一つ残してはいなかった。

 白い裏紙の山が天板を埋め尽くし、カッターで切り落とされた色画用紙の端切れが畳の上のあらゆる場所へと散乱し、背表紙の糊付けに失敗したゴミの残骸が冷蔵庫の脇にうずたかく積み上がり、手帳のページは予算の方程式の複雑な書き殴りで pekat(濃厚)に汚れていた。

 しかし、その混沌の真ん中で、茜が最も不思議に感じていたのは、自分がその散らばった物質たちの「定位置」を、頭の神経の中で完璧に記憶しているという事実だった。彼女はもう、ハサミの刃がどこかの隙間に紛れ込んでしまったからといって、数分間の時間を浪費して部屋の中を探し回るような真似はしなかった。確認の終わった綺麗な原稿のページと、切り方を間違えたゴミの束を、自らの手のひらで混同してしまうような初歩的なバグを起こすこともなかった。

 書き手としての彼女の知性は、この過酷な工芸の手順を、いくつかの安全な階層へと正確に分類するシステムをすでに構築していたのだ。

 ・プリンターから出力された直後の、未処理のブロック。

 ・マージンの数値を一ページずつ目視で確認するための、保留のエリア。

 ・ノンブルの順番が完璧に揃い、面付けの終わった確定の塊。

 ・次の実験のために、何が間違っていたかを解剖するための失敗作の山。

 彼女の進んでいる自費出版という名のルートは、本屋の棚に並ぶ商業の単行本に比べれば、まだまだ遙かに遠い未開の荒野の途中だ。しかし、この瞬間、茜は自らの折りたたみテーブルの上に、誰の承認も得ることのない、絶対的な自分だけの「作業の規律」を完全にロックしていた。


 五日目の夕方、結衣ちゃんが再びアパートのドアを叩き、温かいスープの入ったポリ袋を差し入れてくれた。しかし今夜の彼女は、すぐに家路へと就くことはしなかった。彼女は畳の上に静かに胡坐をかくと、三十分もの間、何も言わずに茜の隣で原稿のノンブルを一枚ずつ確かめる、丁合いの手作業を黙々と手伝ってくれた。そして、すべての手順が完了したのを見届けると、いつものように静かな歩調でたたきへと後ずさり、夜の廊下の彼方へと消え去っていった。

 六日目の朝、今度はしおりちゃんが台風のような勢いで部屋へと突入してきた。ショートヘアの少女は、テーブルの上に並べ替えられたその白い紙の塊を一対の目でじっと凝視し、その美しく整えられた直線のシルエットに、驚いたような声を弾ませた。

「うわあ……!」

 しおりちゃんは、一人の純粋な読者としての感嘆の吐息をもらした。

 茜は液晶画面から視線を外し、小さく微笑んだ。

「どこか、しおりちゃんの目で見て、不格好に歪んでいるところでもある?」

「ううん、全然! この紙の並び方さ……こうして遠くから眺めてみたら、もう本屋さんに並んでる本物の文庫本みたいに強そうな形に見えるもん!」

「まだまだ、完成のログには遠いわよ、しおりちゃん」

 茜は苦笑しながら、その出来栄えを窘めた。

「でも、あと少しのステップを執行すれば終わりでしょ?」

「どうかしらね。まだページの内部のエラーというか、裁断の角度の狂いがいくつか残っているから、今夜の夜更けにカッターをもう一度当て直さなきゃいけないのよ」

 しおりちゃんは首を傾げ、至って無邪気な顔で言い放った。

「だったらさ、どこか間違ってるところが見つかったなら、あとは自分の手で、最初から綺麗になるまで作り直せばいいだけでしょ? それだけで解決じゃん」

 茜は畳の上で胡坐をかいたまま、思わず身動き一つできずに硬直した。彼女は同僚の真っ直ぐな顔を、長い沈黙の中でじっと見つめ続けた。

「……しおりちゃん。あんたの頭の中の方程式では、この個人の製本のすべての難問が、そんなにシンプルな一言で片付けられるような、手軽な宿題に見えているわけ?」

「うん。だって、間違えたら直す。それだけでしょ。他に何か複雑な言い訳なんていらないじゃん」

 しおりちゃんは tegap(力強く)言い切った。

 茜は言葉を失い、それから――堪えきれずに、鈴の鳴るような軽い笑い声を室内の静寂に響かせた。自らの肥大した焦燥のエゴが、その野生の合理性の前に、完全に一本取られて降伏した瞬間だった。

「あんたって人は……本当に、世界でただ一人の、おかしな人間ね、しおりちゃん」

 しおりちゃんは自分の評価を褒め言葉として受け取り、何の罪の意識もない満面の笑顔を咲かせたのだった。


 そしてついに、休暇の七日目のクロックが回る頃――茜の両手は、最後の糊付けの処理を終えた、一枚の美しい塊を天板の上へと着地させていた。その物質の形は、今やどこからどう見ても、本物の本屋の棚に並んでいる文庫本の単行本そのものの肉体を、生々しく湛えてそこに直立していた。

 彼女はその自らの汗と夜更けのエネルギーのすべてを注ぎ込んで物質化させた最初の一冊を、両手のひらでそっと挟み込み、上空へと高く掲げてみた。その物理的な重量の数値は、彼女の細い腕の筋肉にとって決して重いものではなかった。しかし、その内側に満ちている絶対的な感情の質量は、どうしようもないほどの濃厚な手応えとなって、彼女の胸の奥深くまでピタリと満たしていくのだった。

 茜は右手の親指をゆっくりと滑らせ、自らの本の内側にある、最初の第一ページをめくってみた。第二ページ。第三ページ。彼女の一対の瞳は、液晶画面の冷たい檻を離れ、インクの点となって紙の表面に定着した文字列を、ダイナミックに追い続けた。この数ヶ月の間、自分の脳細胞を苛み続け、ただ青白い光のレイアウトとしてしか存在していなかった、シーナとミナミの冒険の記録が、今、確かに彼女の指先の手触りを通じて、この現実世界の中に実体を持って直立しているのだ。

 どう贔屓目に見ても、その出来栄えが完璧な工芸品として無傷であるわけでは決してなかった。カバーの画用紙の端っこはまだ数ミリメートルほど傾いて歪んでいたし、背表紙を固める糊の塗りのシステムはまだ完璧にフィットしてはいなかったし、いくつかのチャプターのノンブルには、まだ自分の目で厳しい修正の赤ペンを入れ直さなければならない不格好なバグが残されている。

 だが、その不細工な肉体のすべてを含めて、この本は今、間違いなくこの世界に生まれ落ちて実在している。

 茜は左手を伸ばし、テーブルの脇に置いてあった、あの黒いインクの小さな手帳を手繰り寄せた。一週間前の朝、自らの意志の表明として書き殴った、あの四行のチェックリストのページが開く。印刷、丁合い、糊付け、装丁。

 彼女はボールペンを握り、最も確かな、重量感のある指先の所作を使って、最初の一行の文字の真横に、小さな、しかし美しいチェックの記号を真っ直ぐに刻みつけた。


 ・本文の印刷。 ✓


 茜はその黒いインクの軌跡を、静まり返った空気の中でしばらくの間じっと見つめ続けた。自らが選んだ未開の荒野のルートの、最初の一歩が、今、自らの手のひらによって完全に執行されたのだ。

 この先の方程式には、今夜のものよりも遙かに残酷で、首を絞められるような難しい宿題が、波のように押し寄せてくるであろうということを、彼女の知性は冷静に理解していた。製本の技術をさらに presisi(精密)に高めること。製作の費用をどう分配するかということ。そして、完成した本を世界の外側にいる本物の読者の目の前まで届けるための、あの不確実な流通のルートの謎。

だが、この穏やかな夏の夕暮れの空気の中で、彼女の精神は、全く新しい生命法則を自らの魂の中に格納していた。

――もし、明日の朝からの生活の周期において、自らの手のひらがまた不器用なエラーを起こしたなら、その時はまた、しおりちゃんのようにゼロの地点からやり直せばいいだけよ。

――もし、その泥臭い闘いの結果が、冷酷なシステムの前に散々な敗北を記録したのだとしたら……その時は、自分の二本の足でもう一度地面を踏みしめて、より頑なに、何度でも立ち上がって挑戦し続ければいいだけだ。

茜は小さな手帳をパタンと閉じ、静かな音を立てて天板の上へと戻した。彼女は再び両手を動かし、自らの流した汗の成果である、世界で最初の自費出版の文庫本を、胸の前で大事そうにギュッと抱きしめた。彼女の唇の端に、これ以上ないほどに柔らかく、満ち足りた本物の笑みが浮かび上がる。

「……あと少し。あと少しで、このお話は、本当に完成するわ」

暗闇に向かって低く呟いた彼女のセリフは、不思議なほどに透き通っていた。

サッシのガラス窓の向こう側では、東京の巨大な上空の色彩が、ゆっくりと深度を増しながら夕暮れの周期へと滑り込み、境界線の外側を柔らかな茜色の朝焼け(夕焼け)のグラデーションで美しく染め上げ始めていた。四畳半の、戦場のようなテーブルの上には、まだ片付けられていないカッターの刃や、熱を帯びた糊のボトルが散乱したまま、不格好な日常の景色を晒している。

しかし、この穏やかな時間の停滞の中で、茜の目は、その散らばった物質たちの混沌を、自分を脅かすおぞましい牢獄のようには決して見ていなかった。

すべてをやり遂げた一人の作家の目には、その机の上の汚れのすべてが、液晶画面の冷たい檻から解放されたシーナたちの魂が、この生々しい人間の住む現実世界へ向かって、自らの手で一歩を踏み出し、新しい命の息吹を宿して誕生しようとしている、その最も誠実で、最も尊厳に満ちた生命の誕生のプロセスそのものとして、美しく輝いて映っているのだった。物語は今、彼女の指先を離れて、新しい世界の空気を、確かに呼吸し始めていた。


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