第13章 日曜日の引き算
その日、朝の静寂を切り裂く不躾なアラームの音は鳴らなかった。茜が両目を開いたときには、遮光性の薄いカーテンの隙間から滑り込んだ朝の光が、すでに四畳半のフローリングの上に正確な斜めの線を引いていた。
ドアの枠の上に少し傾いて掛けられたプラスチック製の掛け時計は、午前九時を回ったところを指している。
日曜日だった。スマートフォンのカレンダーに特別な印があるわけではないが、彼女にとっての今日は、完全に空白の領域だった。カフェに行って看板を裏返す必要もなければ、駅のホームで息を切らせながら通勤快速に滑り込む必要もない。佐藤さんから届く、あの一文だけの無機質な通知メールに怯える必要すら、今朝はなかった。都会の休日というのは、いつもこのようにして訪れる。緩やかで、静かで、まるで周囲のすべての営みに対して、一度その出力を落とすことを許してくれているかのようだった。
茜は起き上がることなく、万年床の布団の上にしばらく身体を横たえたままにしていた。宙を静かに舞う微小な塵の粒子が、一筋の光の中で踊っているのを、彼女の目は退屈そうに追いかけた。それから視線は、経年でわずかに黄色く変色し始めた天井の、かすかな亀裂の凹凸の上で停止した。
閉ざされた窓ガラスの遥か向こうから、大通りを走り去る車の鈍い轟音が時折漏れ聞こえてくる。それは朝の景色を構成する、いつもの一定の背景音ではあったが、この四畳半の部屋の平穏を逆撫でするには、あまりにも距離が離れすぎていた。アパートの室内は、最も底にある本来の静けさへと戻っていく。ただ、頭の上で回る扇風機の羽の単調な風切り音だけが響き、時折キッチンの隅にある小型冷蔵庫が、低くかすかな振動を立ててそれに調和していた。
「……」
茜は肺の底から長い息を吐き出し、喉の奥に残っていた微かな眠気を外へと追い出した。今日という日には、彼女の行動を外側から縛り付ける義務など、ただの一つも存在しなかった。
彼女はようやく身を起こすと、使い込まれた布の感触を確かめながら、掛け布団を丁寧に折りたたんだ。その一連の動作は、すでに彼女の腕の筋肉に直接刻み込まれたルーティンであり、脳からの小難しい命令を介さずとも自律的に機能していた。彼女は枕を部屋の隅へと押しやった。その関節の動きはいまだ緩慢で硬く、まるで自分の身体の節々が、新しい一日を迎え入れることにまだ完全には同意していないかのようだった。
しかし、裸足のまま冷たい床板を踏みしめ、窓際の折りたたみ机の方へと身体を反転させた、まさにその瞬間だった。茜の足首が、何かに縫い付けられたようにぴたりと凝固した。
黒いノートパソコンは、昨夜の薄暗がりのなかと全く同じ位置に、貝殻のように口を閉ざしたまま佇んでいた。充電用のコードは壁のコンセントへと真っ直ぐに伸びたままだ。その精密機械の脇には、一本の黒いボールペンが無造作に横たわっており、昨夜のうちに半分以上を残して放置された紅茶のカップが、完全に冷めきった状態で取り残されていた。
水分の蒸発した紅茶の残滓は、木製のコースターの上に、薄い茶色の円形のシミを残していた。それは、彼女が昨夜、シーナとミナミの行く末をどうにか前へと動かそうと、長い時間をかけて机の上で格闘していたことの、静かな生々しい痕跡だった。
茜はその場に直立したまま、折りたたみ机の天板を無言で見つめ続けた。
右手の指先が、その椅子の背もたれを掴もうとして、微かにピクリと動いた。
しかし、その手は中空で静止した。
「……あとでいいや」
窓ガラスに映る自分の薄い影に向かって、彼女は低く呟いた。
彼女は差し出した手を引っ込めると、布団からわずか二歩の距離しかない狭いキッチンエリアへと足を向けた。レバーをひねると、水道の澄んだ水流がチョロチョロと小気味よい音を立てて流れ出し、先ほどまで静まり返っていた部屋の空気を穏やかに撥ね退けた。
ステンレス製の小さなシンクの中は、すでに汚れた皿の山で埋め尽くされていた。数枚の平皿、インスタントラーメンのスープの油が白く固まったどんぶり、ガラスのグラス、昨夜の紅茶のカップ。全体の分量としてみれば、決して大層な数ではなかった。しかし、このアパートのキッチンがあまりにも狭すぎるがゆえに、それらの汚れた食器だけで、狭いキッチンは本来の数倍も乱雑に見えた。
茜は大きめのシャツの袖を、肘のあたりまで几帳面に捲り上げた。
表面の削り取られて薄くなりかけたスポンジに、数滴の洗剤を落として揉み込むと、洗いたての白い泡がじわりと溢れ出してきた。彼女の指先は、一定のリズムを保ちながら動き始めた。最初の一枚の水洗いが終わり、どんぶりが続き、グラスがすすがれ、そして最後の一点である紅茶のカップへと移行していく。
蛇口から流れ落ちる水流の下で、カップの内側の汚れをきれいに洗い流している間、茜の視線の焦点は、やはりあの折りたたみ机の上の、茶色い結露のシミへと戻っていた。
彼女は半分湿った白いダスターを手に取り、机の前へと歩み寄った。天板のシミの上から、布切れを押し当てて一度だけ強く擦ってみる。しかし、水分の引いた残滓は、木目の隙間にしっかりと絡みついたまま、簡単にはその輪郭を消そうとはしなかった。茜は指先にさらに少しだけ力を込め、その表面を、ゆっくりと円を描くようにしてもう一度強く擦り上げた。二度目の確実な摩擦の後、木目の表面はようやく元の、曇りのない均一な輝きを取り戻した。
茜は、ダスターが残したその表面を、数秒間じっと見つめ続けた。ただ、目の前からそのしつこいシミが完全に拭い去られたというその具体的な事実だけで、彼女の胸の奥の閉ざされていた領域が、ほんの少しだけ軽くなり、呼吸がしやすくなったかのような変化を覚えた。
茜はそれ以上、頭の中で余計な理屈をこねくり回すことをやめ、自分の肉体が動くままに、残された些細な家事を片付け始めた。調味料の棚の隅から不自然に突き出していた醤油の小瓶を、吊り戸棚の元の定位置へと収める。昨夜の作業の中でいつの間にか場所が入れ替わっていた塩と砂糖の容器を、再び綺麗に隣り合わせに整列させる。一週間分の買い出しの際に出た不格好なポリ袋の数々を、几帳面な手つきで小さな三角形へと折りたたみ、収納の引き出しの隅へと押し込んでいく。
そして最後に、ここ数日間の間、玄関のドアの脇にずっと斜めに立てかけられたまま放置されていた、ミネラルウォーターの空の段ボール箱の山へと手を伸ばした。彼女はカッターナイフの細い刃を滑らせ、その分厚い紙の束を、容赦のない確実な手つきで何枚もの平らな板へと切り刻んでいった。これ以上、部屋の限られた容積を無駄に消費させないために。
掃除をしたからといって、この狭い部屋が急に物理的に広くなるわけではない。壁の塗装が、魔法のように美しく塗り替えられたわけでもない。ただ、部屋の中にあるすべての物質が、あるべき正しい場所へと収まった。茜がその事実を本当の質量として自覚したのは、部屋の中央で竹箒の柄を両手で握りしめたまま、一本の杭のように直立した、その瞬間だった。茜が部屋の中央で竹箒を止めたとき、昨日まで見えなかったベランダのアルミサッシまで、まっすぐ視線が通った。そこには、灰色の段ボールの山も、ゴミ袋の不格好な膨らみも、もうどこにも存在していなかった。
彼女は右手を挙げ、こめかみのあたりを、指先で小さく引っ掻いた。
「……もっと早く、片付けておけばよかったね」
静まり返ったフロアに向かって、茜は低く呟いた。
箒の先端がゆっくりと動き始め、床板の隅々に溜まっていた微小な埃を掻き出していった。折りたたみ机の脚の裏、本棚のわずかな隙間、開閉を繰り返す冷蔵庫の底の暗闇。普段の生活の中では完全に盲目のまま放置されていた無数の細かな埃たちが、箒の毛先によって一つのくすんだ灰色の小さな塊へと集められていく。全体の分量としてみれば、決して大層な質量ではなかった。彼女はただ、自らの口元に、意味を持たない淡い笑みの形を浮かべただけで、再び箒の先を動かして、部屋の最も奥の隅を静かに掃き清めた。
サッ、サッ。
時折、箒の毛先が、木製の机の脚に触れて小さな摩擦音を立てた。その上に載った黒いノートパソコンは、一度も振動することなく、完全に凝固したまま沈黙を維持していた。画面の向こうで、茜の不鮮明な身体のシルエットだけが鏡のように映し出されては消えていく。
不思議な感覚だった。普段の休日であれば、彼女が朝目覚めて最初に行うことは、何よりも先にこのノートパソコンを開き、白い画面の上に新しいファンタジーの文字列を打ち込み始めることだったはずなのだ。
しかし、今日という日に限っては、彼女の肉体の筋肉は、全く逆の動線を選択していた。シーナたちの架空の世界に指先を触れさせる前に、まずは自分が今呼吸をしている、この目の前の現実に形を与えておくことを、彼女の身体は求めたのだ。執筆の義務を後回しにして、自らの部屋の掃除を最優先に終わらせてしまったというその選択に対して、彼女の胸の奥には、いかなる焦燥も、自分を責めるような嫌な引っかかりも、ただの一ミリメートルすら生じてはいなかった。




