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子守唄②

 目が覚めると、これが現実であると理解するのに時間がかかった。それほど昨日の夢がリアルだった。

 彼女の体温、顔にかかる吐息、時々長い黒髪がはらりと落ちてきて僕の顔にかかる感触。そして、優しい声で歌われる子守唄。

 それら全てが本当だったかのように感じる。とてつもない幸福感と虚脱感から、しばらく起き上がることができなかった。

 

「えっ!嘘だろ!?」

 ふと時計が目に入り、現在の時刻に思わず声が出た。

 衝撃で目が冷め、這うようにベッドから降りると急いで制服に着替えた。バターロールを口に詰め込み、冷たい水で頑固に顔を洗い、寝癖に水をつけ押さえつける。10秒ほどで歯を磨くと、カバンの中身を確認する間もなく家を飛び出した。

 頑張ればまだ間に合うだろうと、全力で走るが体がいつもより重い。息が切れ、足がフラつき、最後はその場で座り込んでしまった。

 歩道の端の建物の影に座り、虚空を見つめる。風の通り道になっているらしく、涼しい風が吹き抜けて頭をスッキリさせてくれる。


「どうせ間に合わないし、今日はゆっくり行こう」

 少し休んだおかげで元気になった僕は立ち上がると、すぐ横の自販機でジュースを買おうとした。

「あれ?ケータじゃん。お前も遅刻かよ」

 振り返ると友達のユウジが立っていた。そして、僕の顔を見るなり

「どうしたんだよその顔、ゾンビみてーだぞ」

と言って心配そうな表情をした。

 僕は深夜の出来事、そして夢の話をした。ユウジのリアクションが面白く、少し誇張したが。

 「だから寝不足で調子が悪いだけだよ、大した事じゃないよ」

 ユウジは少し安心した様な表情をしたあと、少し悪い顔をして

「しかしお前に覗きの趣味があったとはなぁ」

と茶化してきた。

 「ちがっ、そうじゃないって!」

と慌てて否定したがユウジはニヤニヤするだけだった。

 「しかし、見とれちまう程とはかなりの美人なんだな、俺も見てみてぇな」

 その言葉にハッとした。確かに顔を見たはずなのにその顔を思い出すことができなっかったのだ。声や匂いは鮮明に思い出せるのに、顔だけは白飛びしたように思い出せない。

 少し寒気がした。あれは本当にあった出来事なのか、それとも全部が夢だったのか。

 

ふとミルクの香りがした。

 「そうだ、まさにここだよ。この道を奥に入っていったんだ」

 「この先ってことは西町あたりかな。西町…なんか引っかかるんだけど何だっけ?」

 沈黙が続いたあとスマホの着信音が鳴り、遅刻していることを思い出した僕たちは慌てて学校へと向かった。

  


 

 

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