子守唄①
いつのまにか夜の散歩が日課になっていた。退屈な高校生活。多数の中の1人として、何事もない平凡な人生。そんな日常に対する焦燥感が僕を夜の冒険へと導いたのだった。
深夜の街は静かだ。静か故にあらゆる音が聞こえ、騒がしい。風、足音、エンジン音、遠くに走る電車の音、この街のすべてが聞こえるようだ。
遠くの空が薄明るい。あの明かりの下に繁華街が有り、今歩いているこの道は夜の街へと続いていると思うと何だか大人になった気がして、自分でも上手く表すことのできない焦りをかき消してくれた。
今日は誰かの歌声が聞こえる。
何処か遠くで歌っているのか、歌詞は聞き取れないがメロディが心地良い。
今日は、その歌声に向かって歩く事にした。大通りを逸れ、細い道へと入っていく。普段行くことのない方向だ。冒険心をくすぐられ、妙に気が大きくなっていた僕は物怖じすることなくどんどん進んでいった。
すると知らない住宅街に出た。どの家も明かりは無く、等間隔の街灯の淡い明かりだけが視界の全てだった。
暗闇の中をゆっくり歩いてゆくと、徐々に歌声が近くなり歌詞が聞き取れるようになってきた。どうやら子守唄の様で、女性が優しく囁くように歌っていた。
1軒の家の窓から光が漏れている。その家は垣根で家を囲んでいて、垣根を通過した光が道をまだら模様にしていた。
垣根の奥を背伸びをしながら覗くと、半開きの窓の中に女性の姿があった。
色白で綺麗な女性が、腕に抱えた赤ん坊に優しく微笑みかけおり、そして子守唄を歌い寝かしつけているようだった。赤ん坊は白い布に優しく包まれていて見えないが、どうやら眠っているようだ。
ミルクの匂いが鼻の奥から脳に染み込んで、多幸感を感じる。
僕はその光景に見とれてしまい、一体どれだけの時間が経ったのか分からなかった。
ふと気がつくと、いつの間にか窓は閉じられ、子守唄も聞こえなくなっていた。
我に返った僕は慌てて家に帰ることにした。
「これはのぞきじゃないか。」
自己嫌悪と女性に見られていたかもしれないと言う不安から、足が早くなる。
1時間かけて家に着くと、汗を流すこともせず布団に入りそのまま寝てしまった。
その日、あの女性の夢を見た。僕を見下ろしながら、優しく微笑んでいる。あの子守唄が聞こえる。




