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子守唄③

 今日も日付が変わる。僕は物音を立てずに二階から降りると、こっそりと家を抜け出した。向かう先は当然あの女性の家だ。

 最近は体の調子がすごくいい。あの女性に出会ってから二週間が経つが、あの時の不調は何だったのか今ではエネルギーが有り余るほどだ。

 あの子守唄が聞こえる。それに耳を傾けながら、いつもの道を進む。いつもの場所に着く。今日もあの窓からは明かりが漏れ、その中に彼女の姿がある。

 優しい歌声の美しい女性。その腕には赤ん坊が寝ている。僕はその光景を見ているだけで幸福感に包まれる。


 どれだけ時間が経ったのか、いつの間にか窓は締まり、ミルクの匂いとともに暗闇に取り残されると名残惜しくも家に帰るのだった。

 そして今日もいつもの夢を見る。彼女が僕の顔を覗き込み、微笑む。僕は小さくムチムチした手を伸ばし、彼女の顔に触れると彼女は愛おしそうな顔をしながら僕の頭を撫でた。

 「この幸せが一生続けばいいのに」

 そんな願いも虚しく、着信音によって現実へと引き戻されるのだった。


 制服に着替え、玄関を出るとユウジが待っていた。ここのところ毎日迎えに来るのだ。

 「もう元気だから迎えに来なくてもいいのに」と少し申し訳無さそうな顔をすると「何言ってんだよ、お前ん家には鏡がないのか?」と遠回しに指摘された。そんなに顔色が悪いのだろうか、ユウジの表情から不安が読み取れた。

 「大丈夫だよ、体調は良いし無理もしてない。早く学校に行こう」

 スマホを見ると時間ギリギリだった。ユウジを遅刻させるわけにはいかないと、早歩きで学校へ向かった。


「お前まだストーカーしてんのか?」「してないよ、あとストーカーじゃ無いし」僕の反論にユウジは呆れた顔をした。恐らく僕が毎晩出歩いている事に気付いているのだろう。だが深くは聞いて来なかった。本当は言いたいことがあるのだろう。僕の体調が悪くなったことと、毎晩女性に会いに行っていることは無関係では無いと思いながらも、僕の事を尊重してくれているのだ。

 道中くだらない話をしていた。同級生が何をしたとか、昨日見た動画がどうだったとか。今日の体育がマラソンである事を知り、二人で文句を言い合った。そのうち、ちらほらと同じ制服の学生達が見え始めどうやら遅刻は免れそうだと安堵した…

 

 グンッ!!と、いきなり腕を強く引っ張られ後ろを見ると、ユウジが焦った顔で「どこ行くんだよ!」と僕の腕を掴んでいた。なにが起きたのか理解出来ず、互いに顔を見合ったまま固まってしまった。

 周りを見ると僕は知らない場所にいた。「何ここ、何でこんなとこにいんの?」「え、お前記憶無いの?急に喋らなくなったと思ったら、いきなり変な道入って、明らかに変だったぞ。」ユウジの顔が強張っている。「それにここってお前が言ってた西町だろ、女の人がいたって言う。」

 確かに周りの景色に見覚えが無くもない。普段は真夜中に見ているせいでハッキリとは言えないが、女性に会いに行く道中のようだった。

 「なんで僕はこんな所に?無意識にあの女性に会いに行こうとしてたのか、一体何故?」そして最後の疑問を口に出す事は出来なかった。背筋が凍り、声が出なくなったのだ。そして僕の代わりにユウジが言ったのだった。

「その女、本当に人間なのか?」

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