第二十八話
「よし、じゃあ行くか。」
「おー。」
「がんばるっす!」
黒の塔、入り口。
町で荷物を軽くしたり重くしたりしてから北の森を抜けて、HPとMPが回復するのを待ったあと。
劇的に上がっていく、ってわけじゃないレベルだけど、そもそも上がりにくいものだからか、高くなくても敵に苦戦することはないみたい。
索敵持ってる人が二人もいるから無駄な戦闘はしないで来られてる、ってのもあると思うけど、北の森を抜けるのは簡単だった。
エリアボスがいないのもあるけどな、ってナオは言ってたっけ。
「一応、攻略は六階まで進んでるらしい。マップデータは売りに出てたけど買ってねぇから、迷いながら行くぞ。」
「はーい。」
「すっごく高かったっすね、地図。」
「一応最前線だからな。自分たちでも作れるもんだし、買うのももったいねぇだろ。」
「迷子になるのも楽しいもんね。」
「あぁ。それと、もし敵に歯が立たないようなら帰る。」
「了解。」
回復アイテムもただじゃないし。
……まだ使ったことないけど。
もう一度緑と青のバーが全快してるのを確認して、俺達は真っ黒のタワーへ足を踏み入れた。
「どっかで見たことある気がする。」
「奇遇だな、俺もだ。」
「微妙に記憶とは違うっすけどね。」
微妙な顔で立ち止まっている俺たちの前には、ウサギの耳が生えた毛玉が、ぴょこんぴょこんと跳ねていた。
南の原っぱで見たやつ……。
少し離れたところには、スライムもずりずり這ってるし。
ただ、毛玉の色はちょっと灰色がかってる気がする。
……日光の当たらない塔の中だからかもしれないけど……。
それに大きさも少し大きい……ような、気も。
「とりあえず戦ってみるか。」
「はいっす。」
「クオン、オレ行っていいか?」
「うん。」
「ヤバそうなら助けてくれ。」
軽い感じでそう言って、ナオは毛玉に向けて数歩走った。
鉤爪が黄色く光る。
その切っ先が毛玉にかかる、寸前。
チカリとなにかが、光ったような……。
「ナオ、引いて!」
「!?」
鉤爪の光が明滅したかと思うと、ナオが飛びずさった。
ほんの少し前までナオがいたところに、牙を剥いた毛玉が噛みつく。
……反射的に声を出しておいてなんだけど、ソードスキルって途中でキャンセルできるんだ……。
でも、固まってる。
キャンセルした副作用、ってやつ、なのかな。
動けないナオのかわりに毛玉の前に立って、剣を振るう。
長剣を右手に持って左下から切り上げるスラッシュアップ。
では、敵のHPは削り切れなかった。
右手を振り切って無防備に空いた空間に飛び込んでくる毛玉。
……の、脳天をめがけて、左手で握った短剣を突き立てる。
スラッシュ感の全くない、短剣の方のスラッシュ。
短剣の方は長剣に比べて、発動の体勢が角度なんかの腕一本で調整できるようなのが多いから、こうしてソードスキルを打った後に続けて発動することも出来る。
……それに気付いたのは、タワーにたどり着く直前、敵の懐に滑り込んで爪を振るった小夜がそのままの動きで頭突きしてるのを見たからなんだけど。
ちょっとお願いして練習させてもらってよかった。
見るからに強そうだったもん、あのギラギラした牙。
原っぱにいた毛玉には牙なんて生えてなかったと思うけど、タワーにいると固いものを食べなきゃならないのかな。
「サンキュ、クオン。よく気付いたな。」
「なんか光ったから。」
「にしてもかっこいいっす! ソードスキルをつなげるの、もう完璧っすね!」
「時間もらったからね。でも、二つ分の硬直がまとめてくるのがヤだな。」
初めてナオがソードスキルを見せてくれた時ほんの少しだけど固まっていたように、ソードスキルを使うとその後体が硬直して動けなくなる。
今の俺たちは最初から使える一番レベルの低いものしか使えないから硬直時間も短くて済むけど、もっとレベルの高いソードスキルになると硬直時間も長い……らしい。
そして、ナオが調べてくれたことによると、二つソードスキルをつなげたら、二つ分の硬直時間が後で一緒にくる。
と言っても、気持ち程度少なくなってるそうだけど。
なお、これは意志の力ではどうにもならないらしい。
残念。
「まぁ一撃でやられることはないだろうから、一回受けてダメージどれくらい入るか見てもよかったんだけどな。」
「あ、邪魔しちゃった? ごめんね。」
「いや、助かったぜ? 攻撃受けるってわかっててうけるのと、いきなり攻撃されるのとはやっぱり心構えが違うからな。」
「そうだナオ師匠、ソードスキルはキャンセルできるっすか?」
「あ、それ俺も知りたい。」
「あぁ、キャンセルは一応できるけど、そのあと動けるのはすごく短い間だけで、一動作したら動けなくなる。」
「今のだと、飛んでさがるって動作ができたってこと?」
「そういうこと。ただし硬直時間は結構長くなるから、タイミング外して何の動作も出来なかったり、避けられても追撃されたりするとどうしようもなくなるけどな。」
「さっきのクオン兄さんみたいに、続けて戦ってくれる人がいないと余計ピンチってことっすね。」
「だな。」
「そもそも俺が引いてって言わなかったらそんなことにはなってないんだけどね。」
でも、見た目は似てるのに実は違うモンスターなんだ、紛らわしい。
そういえば確認しないで倒しちゃったけど、名前何だったんだろう。
ログによると……タワーうさモコ……?
うさモコが南の原っぱにいた毛玉の名前だったから、それのタワーにいるやつだよ、ってことなのかな。
同じ情報を確認したらしく、微妙な顔をしているナオと目が合って、頷く。
視界に映っていたスライムに、同時に駆け寄って、まずはナオが一撃。
ナオの方にとびかかろうとしたところを、横から俺が一撃。
消滅する記憶より一回り大きいスライムに見向きもしないで、ログに目をやる。
タワースライム。
うん、予想通りだ、けども。
「どこが違うのか確認しそびれたな。」
「大きさは変わってたけどね。」
「大体二発で倒せそうか?」
「そうだね……でも二発ともソードスキルじゃないと、もしかしたらちょっと厳しいかも。」
「じゃあオレとアマレットで組む。お前は一人でいいだろ? ソードスキルつなげられるし、ハクと小夜もいるし。」
「わかった。」
「よし、行くぞアマレット。」
「ハク、小夜。」
ばっと踵を返したナオに俺も背を向けて走り出す。
ハクが肩、小夜が頭の上に飛び上がって、ハクのしっぽがぺシぺシと俺の背を叩く。
索敵便利だよね、と、あれ。
「アマレットさん?」
響かない足音に振り返れば、アマレットさんが立ち尽くしていた。
引き返して目線を合わせる。
「大丈夫?」
「はっ」
「アマレットさん?」
「展開が早くておいてかれてました!」
「うん? ラグってやつ? かな?」
「そういうことじゃないっすけど、もう大丈夫です! 私はナオ師匠を追っかけたらいいんすよね。」
「うん、いいかな? というか、アマレットさんの意見、なにも聞かないで決めちゃったね、ごめんね。」
ナオを呼び戻そうとメニュー画面を開いたら、アマレットさんがわたわたと手を振った。
「ビックリしてただけなんで! さっきの以心伝心っぷりとか、さすが幼馴染だなぁって!」
「そんなに以心伝心してたかな。」
ちゃんと目を見て動いたし、言葉に出して作戦立てたけど。
「なんかトラブルか?」
「あ、お帰りナオ。」
「あっ師匠!」
「俺とナオだけで話決めちゃったから、呆然とさせちゃったみたい。」
「え、あ、ごめん。」
「そうじゃないんす! そこ責めてるんじゃないんす! 息がぴったりなのに見惚れてたんす!」
「そんな言われるほどのことはしてねぇと思うけどな……?」
ナオが首をかしげるけど、俺も同じ気持ちだから何とも言えない。
とにかくアマレットさんはナオと一緒に行動すること自体は嫌じゃないらしいから、二手に分かれて塔を攻略することにする。
俺たち、常々他のプレイヤーとタイミングが違うのか、いつも行く先であんまり人がいない。
人が密集してたらモンスター倒すのにも気を使ったりするしさ。
見つけ次第片っ端から倒していいって言うのは気が楽だよね……っと。
「あれ、階段かな……。」




