第二十七話
奥深くに、入り込みすぎたんだろうか。
四方八方からひっきりなしにコウモリが飛んでくる。
足元からは猫さんがあっちからこっちから。
猫はハクと小夜に任せて、俺はコウモリが射程圏内に入る傍から切って捨てていく。
色んな所からモンスターがやって来るんだから、バラバラになって戦うより一か所に固まってるほうがいいに決まってる。
……逃げ出せればいいんだけど、この数だと逃げられる確率は高くない。
どこか一方から襲ってきてるなら反対側に飛び出せば逃げられるかもしれないけど、この状況じゃ、どうにも。
それになんだか、ちょっと楽しくなってきたりして。
ハクも小夜も動きがだんだん良くなってきてるし、俺も二匹を気にしながらじゃなくても戦えるようになってきた。
なんとなくだけど、お互いの動きが見なくてもわかるようになってきた感じ。
召喚魔法の熟練度が上がってるのかな。
えへへ、以心伝心って感じで嬉しい。
まぁ、以心伝心できても敵はあとからあとから湧いてくるんだけど。
これどうなってるの?
俺はハクと小夜がいるからまだ対処できてるけど、一人だったら難しいんじゃないかなぁ。
この近くにモンスターの巣があるとか?
モンスターの巣ってあるんだろうか。
そんな風に生活してるのかな、普通の生き物みたいに。
だったらなんか、火を怖がったりとかしてくれないかな……って、そうだ。
「ハク、小夜、つかまって。」
声をかけるとすぐ、まずハクが俺の肩に飛び乗った。
続いてポンチョのフードが引っ張られる感覚。
人がほとんどいなくなったところで脱いでいたフードの中に、小夜が飛び込んだんだろう。
その状態で、急上昇。
足元でうごうごしてる黒いのにめがけて、目いっぱい、業火をイメージしながら。
「ファイア!」
「だから、お前は、加減を覚えろと、毎度毎度、言ってるだろうが。」
「ごめん……でも、魔法使ったのはまだ二回目……。」
「一回目で、メーアさんがいないと焼け野原にするところだったんじゃなかったか?」
「うっ」
「二回目は山火事か?」
「うぅっ」
「正確には山じゃなくて森だが。すまん、消しきれそうにない。」
「いやこちらこそ、ほんとうちのバカがすみません。」
「でも、燃え広がらないみたいっすよ、これ。」
「え、まじか。」
水をバシャバシャかけてくれていたメーアさんのおかげで、火はだいぶ小さくなった。
けど、アマレットさんに言われてみれば、たしかに、何もしてない時も消えるようには見えなかったけど、広がってはなかったかも……?
どうなってるんだろう、魔法の原理。
「威力は十分だが、コントロールは要練習だな。火魔法のスキルは持ってないんだったか?」
「はい……。」
「もったいないな。intもそれなりにしか振ってないんだろう?」
「そうですね……。」
「才能があるんだな。せっかくだから育てたらいいのに。」
「すみません……。」
「なんでそんなに委縮してるんだ?」
目を瞬かせて首をかしげるメーアさんに、他意がないことはわかってるんだ。
ただ、なんか、こう、その、なんていえばいいのかわからないんだけど。
「こいつ、褒められるの慣れてないんですよ。自分が努力してないことに関しては特に。」
「真面目なんだな。いい子だ。」
ぼすっと頭に何かが降って来る。
反射的に閉じてしまった目をゆっくりと開くと、にかっ! って音が似合うような顔で笑ってる。
わしゃわしゃと髪をかき混ぜる、大きな手。
撫でられてるんだと理解した途端、顔が一気に熱くなった。
隣でナオが吹きだしそうになってるのが見えるけど、そんなことに構ってる暇は、ない。
体がぎくしゃくして動かない。
熱いってことは赤くなってるってことだ、っていうのはわかるのに、それを隠すための腕が上がらない。
どうしよう、視界滲んできた。
「すんません……っ、その辺に、しといてやってください。ほんと、慣れてないんで。」
「笑い堪えられてないぞ。」
「クオン兄さん、泣きそうっすよ。」
「えっ、そんなに駄目だったか、すまない。」
ぱっと手がどけられた。
……べつに、泣きそうじゃ、ないけど。
駄目なわけでも、全然、ないんだけど。
正面でメーアさんがおろおろしてるのがわかるけど、上手く話せない。
口は動かないし声は出ないし、何をいって良いのかもわからないし。
にやにやと笑いながらだろうナオによしよしとか言われながら背中をなでられるのは全然平気なのに……。
ナオが代わりにあれやこれやと言ってくれてる間、顔の熱さは引くことがなかった。
「さて、無事火も消えたことだし、どうする? 戦闘続けるか?」
「あ、俺はそろそろログアウトが迫っている。申し訳ないが、今日はこのあたりで。」
「わかりました。町に戻りますか? 時間ないようなら、アバター消えるまで守っときますけど。」
「いや、そこまで切羽詰まってはいない。ありがとう。また会ったら一緒にプレイしよう。」
じゃあ、と背を向けるメーアさんに、三人で手を振る。
フレンド登録してるから、お互いがログインしてて通信できない状況じゃなければいつでも連絡が取れる。
アマレットさんみたいに何時に、って約束はしなかったけど、また一緒にゲームできたらいいな。
「じゃ、この後どうする?」
「ねぇ、ナオ。」
「うん?」
「俺のスキルはメーアさんには内緒なの?」
「え、なんで?」
ナオが目を見張った。
隣でアマレットさんも同じような顔になってる。
すごい、似てる。
兄妹みたい。
じゃなくて。
「町に戻った時に短剣買うのかなって思ってたんだけど、買わなかったから。」
「あぁ、単に寄り道に付き合わせるの悪いかなって思っただけだ。短剣買ってもスキル育ってないから、北ではどうせ使えないだろうしな。」
「なるほど。」
「クオン兄さん、短剣にするんすか?」
そっか、アマレットさんはあのときいなかったんだっけ。
ナオが要点をかいつまんで説明してくれると、アマレットさんはすごいっすって言いながらまた首をひねった。
「召喚魔法には、装備はいらないんすか?」
「あれ? ほんとだ。俺杖も本ももってないよ。」
「あぁ、うん。召喚魔法は別なんだそうだ。言い方は悪いかもしれねぇけど、普通の魔法は杖や本が攻撃媒体だけど、召喚魔法は召喚モンスターがそれにあたるから、だそうで。」
「え、でも、召喚モンスターに当たるものが、火とか水とかになるんじゃないの?」
「そこまで詳しいことは知らん。けどまぁ、なくて使えるものは使っちまおう。」
豪快だけど、言われてみたらそうか。
このまま長剣と短剣に加えて杖か本もってなったら大変だもんね……。
メーアさんに言われた、火魔法も鍛えてみたらいいのにって言うのも、ちょっと気になるけど。
でもまぁ、いろんなものに手を出しすぎて結果どれも中途半端になったら駄目だもんね。
ハクと小夜を召喚するMPがなくなっても嫌だし。
「にしても、クオン兄さんはもふもふと縁があるんすね! 幸せっすー!」
「ね、もふもふだよね。ハクはふかふかって感じだけど、小夜はちょっとしっとりしてる感じ。」
「わかるっす! どっちも気持ちいいっすー!」
小夜と契約したばかりの俺みたいに、ハクと小夜を両手に抱え込んで堪能してる。
気持ちいいよねぇ、幸せだよねぇ……!
うずもれてて顔は見れないけど、きっとにこにこしてるんだろうなって思うと、俺もなんだかにこにこしちゃう。
隣でナオが頬を緩めてるから、考えてることはおんなじなんだろうなぁ。
「短剣買ってくるか? 火魔法スキルに転向してもいいし、全然別なことしてもいいけど。」
「MP足りなくなったら嫌だから、火魔法は今は取らない。」
「短剣は?」
「気になってる。」
長さがもう少しあるといいんだけど。
でも両手に剣を持って戦えると便利かな。
さっきみたいに大量のモンスターに襲われたら、その方が戦いやすそうだし。
……なんであんなに出てきたんだろう。
「それも調べてみるか?」
「ううん、もし近くに巣とかがあるなら、わざわざ壊しに行くのも気が引けるから。」
「そうか。じゃあ、西に行くか……タワー登ってみるか?」
「とりあえず一回町に戻るっす! 素材も一回売りたいっすし、短剣も買わないとっす。」
「そうだな。」
「飛んで帰った方が速いかな。」
「そうするか。」
頷いて、ナオが翅を動かし始めた。
リリリリ、と高い音が響く。
アマレットさんの翅も同じ音だ。
俺のはそれより低い笛のような少し掠れた音だから、なんかいい感じに共鳴してキレイ。
二対一だから、もう少し強くしたらつり合いがとれるかな。
「お、クオン速いな。競争か?」
「負けないっす。」
「えっ」
にやりと口の端っこを釣り上げたナオが速度を上げた。
きゅっと唇を引き締めたアマレットさんが隣に並ぶ。
何でだ。
俺は音のバランスを良くしようと思っただけなのに。
それでも置いて行かれるのも……負けるのも嫌だから、速度上げるけど。
ハク、小夜、しっかりつかまっててね。
……agiにステータスのほとんどを振ってるスプライトに勝てるわけなんてなかった。




