第二十六話
召喚魔法スキルでモンスターを契約する方法。
ハクは報酬でもらえたけど、一般的なのはやっぱり、フィールドでモンスターを倒して契約すること。
モンスターを倒して強さを見せつける必要がある場合もあれば、同じ種類のモンスター……モンスターにとっては仲間を沢山倒してたら嫌われて契約できない場合もある。
一層にはエリアボスがいないから成功した人は勿論いないけど、そういう強いモンスター相手だと何度も倒して契約するのが主な戦略になるらしい。
強さを見せる、ってタイプのモンスターは、倒せば倒すほど契約できる確率が上がるんだとか。
でも、今俺が契約したいのは、猫。
小さくて素早くてかわいい、黒猫さんだ。
「ハク、上!」
序盤のモンスターに、餌やおもちゃがないと契約できないようなのはいないだろうってナオは言ってた。
けど、仲間を倒したことで嫌われてしまうって可能性はあるかもしれない。
といっても倒さないと契約できないから、倒すことには変わりないけど。
せめて苦しませないで倒せるように、俺より攻撃力の高いハクに戦闘をお願いしている。
こんな主人でごめんね、神様の使いなのに働かせてごめんね……!
しかもとどめを刺すのは俺だ。
最後の攻撃はプレイヤーじゃないとだめなんだって。
強さを見せつけるモンスター相手の場合、ダメージを与えた割合って言うのも関係してくるらしいけど、今回はそうじゃないし。
俺一人でも倒せるのかもしれないけど、うーん、どっちのほうがいいんだろう。
とりあえずいまは、と。
「スラッシュアップ。」
ズバン、と音がして、黒猫さんの体が揺らいで消えていく。
うーん、また駄目だった。
スキルレベルも低いし、そううまくは行かないのかな。
数匹固まって飛んでくるコウモリを剣で切り払いながら奥へ進んでいく。
まだ誰からも合流しようって言われてないし、とりあえず倒し続けるしかないね。
「やっ、たー!」
思わずそんな声が出た。
一体何匹倒したことか。
ハクも大きくしっぽを揺らして喜んでくれてるみたい。
俺の前には、ちょこんと黒猫さんが座っていた。
黒い体に、こっちを見上げる夜空みたいな色の目。
しっぽは今はくるくるしてないから、普通の猫と変わりない。
視界には、スプリングテールキャットとの契約が可能ですの文字。
それに続く、名前を決めてください……。
「うー……どうしよう……名前……。」
戦ってるときに考えておけばよかった。
ハクは、目が琥珀色をしてたのと、白い狐だから狐白にしたんだよね。
うぅ、こうして悩んでる間に誰かからメッセージが飛んでくるかもしれない……。
よし、この子も第一印象だ。
「小夜で。」
そう言った途端、ログが流れた。
スプリングテールキャット・小夜の契約に成功しました。
目の前にいた小夜も消えている。
契約できたモンスターが一度消えることは、ハクの時に経験済みだ。
どうしようか、MP余ってるし、呼んじゃう?
二体までは同時に召喚できるんだし。
パーティの人に経験値が行かなくなるってこともないしね。
「サモン、小夜。」
足元に魔法陣。
ぱっと光って、契約したばかりの小夜が現れる。
ハクもゲームのモンスターとしては小さい方だけど、小夜も似たような大きさだ。
両手を広げると、ハクと小夜が飛び上がってきた。
うふふふふー、もふもふーふわふわー。
腕の中の白と黒のもふもふに顔をうずめる。
すごい、幸せ……。
「契約おめでとう。」
「うわっ!?」
突然耳元で声がした。
慌てて顔を上げたら、あきれた目のナオが俺を見ている。
そ、そんな顔しなくてもいいじゃんか……。
「まぁ別に、そのままトランスさせといてもよかったんだけどな。」
「ナオは……どうしてここに?」
「ログで契約したって流れてたから。精神的に旅立ってるんじゃねぇかなぁって思って、見に来た。」
「旅立ってないよ。」
「契約が成立してからお前のとこに向かったんだぞ。俺がたどり着くまで埋もれてたじゃねぇか。」
「……あれ?」
「きょとんとしてんじゃねぇよ。」
笑いながら肩を叩かれる。
全然気づかなかった。
そういえば足音も翅の音も聞こえなかったもんなぁ。
ふわふわってすごい。
「名前は何にしたんだ?」
「小夜にしたよ。それはログには流れないの?」
「あぁ。流れたのは、クオンがスプリングテールキャットの契約に成功しました、ってだけだ。」
「そうなんだ。目の色がね、夜空みたいだから。小夜にした。」
「可愛い名前だな。」
「頑張って決めた。」
丸い狐白の目と、アーモンドみたいな形をした小夜の目。
どっちもきれいだ。
もふもふだし!
「スキルは何を持ってる?」
「えっと……跳躍と、爪だね。」
「二つか。」
「うん。」
神様の使いは違うってことなのかな。
決して小夜が劣ってるわけじゃないし。
それにもし戦力的にはハクの方が強いとしても、俺は戦闘力でモンスターと契約してるんじゃない。
もふもふだから……!
そしてかわいいから契約してるんだ……!
「MPは大丈夫か?」
「あー、えっと、うん。ハクを呼んだ分はもう回復してたし、魔法は使ってないから。」
「そうか。」
「うん。ナオは調子どう?」
「コウモリと競争して勝ってたけど、ゴールで猫につまずいてこけた。」
「楽しそうだね。」
「おう。そのあとコウモリに群がられたからちょっとピンチだったけどな。」
「お疲れ様。」
言葉の割に楽しそうだけど。
こけた後にコウモリに群がられたら大変だ……。
俺は傍にハクと小夜がいてくれるけど、ナオは一人だ。
鉤爪ってリーチがないから、近づかないと倒せないし。
「一緒にやる?」
「んー、お前一人で戦えてるだろ?」
「うん、まぁ。一人じゃないけど、戦えてる。」
「じゃあいいかな。オレがいても邪魔になるだろ。オレも移動しながらだし、お前より速いからな。」
「どっちかっていうと俺が邪魔になるね。」
「まぁオレはお前のトランス状態を解除しに来ただけだから。また後でな。」
「はぁい、ありがとう。」
別にトランスなんてしてないけど。
口に出したらまた呆れた目を向けられるのはわかってたから、そのまま手を振って見送る。
相変わらずの飛行速度。
高いけど不快ではない鈴の音が軽やかに遠ざかっていく。
……音にひかれてかコウモリがたくさん後をつけてるけど……ううん、見なかったことにしよう。
今から俺が追いかけても追いつかないだろうし、俺の翅の音で余計に敵を引き寄せちゃう可能性だってあるし。
俺は俺で戦うことにしよう、俺一人じゃないけど。
「行こうか、ハク、小夜。」
腕の中を見下ろして言えば、ハクはコンっと、小夜はニャアと鳴いて応えてくれた。
言ってることが分かればいいのにな。
まぁしょうがないか。
ないものをねだってても仕方ない。
二人を抱えたままてくてく歩いていると、ハクの耳がぴんと立ち上がった。
近くに敵がいるらしい。
ぱっと地面に降り立つハクを制して、小夜を降ろす。
一回小夜に戦ってみてもらおう。
とはいえ小夜はこの森のモンスターで契約したばかりだから、基本的な能力は周りのモンスターと同じ。
仲間だったモンスターを倒すのは嫌がるかもしれないし、そうじゃなくても適わないかもしれない。
危なくなったらすぐに助けに入れるように剣だけはちゃんと抜いてあるのを確認して、正面の敵モンスターを見つめた。
小夜と同じ、黒猫さん。
自分と全く同じ姿の小夜に、それでも何か違和感を感じるのかじっとこちらを見ている。
やがて敵とみなしたのか、細い足が地面を蹴って小夜にとびかかる……と、思った、ところで。
跳んだのは、小夜だった。
足に収納されていたらしい小さな爪が黒猫さんの顔をひっかく。
黒猫さんは自分から突っ込んでいってた勢いもあって、結構深く入ったみたい。
でも爪が小さい分威力も低いのか、案外猫同士で喧嘩もよくするのか、黒猫さんは全くひるまずに爪を振るってきた。
展開はさっきの逆。
自分から飛んだ分さっくりとわき腹あたりをひっかかれながら、黒猫さんを飛び越えて着地する。
血は出ないけど、小さな緑色のバーの端が少しばかり黒くなっているのがわかる。
……心配しなきゃならないのはわかってるんだけど、不謹慎なのも重々承知の上なんだけど、猫さん同士の戦いって、かわいいね。
ころんころんと転がりながら戦っている小夜を見ながらそんなことを考えている間に、無事戦闘は終了していたみたい。
三分の一ほど体力が減っている……ということは、同じくらいの強さのはずのモンスターより、三倍ほど強く戦えたってことなのかな。
とにかく回復しないと。
緑のポーションを取り出して小夜に飲ませようとすると、首を振られた。
回復する必要はないってことなのかな。
それとも、初心者用のやつだから、モンスターには効き目がない?
……緑で美味しくなさそうだから、っていうのはさすがにないよね。
首をひねっている俺をよそに、ハクがまたてくてくと歩き出す。
後を追いかける小夜。
の後ろを歩く俺。
しっぽかわいい。
それから数回の戦闘はハクがやって、体力が回復したころに小夜が戦う。
それで減った体力が回復するまでの間、またハクが前に出る。
俺が指示したわけでもないのに、二匹は打ち合わせたような動きでモンスターを倒していく。
おかげさまで経験値も素材もたくさんだ。
にしても、たまにハクが打ち漏らしたコウモリを切り捨てるくらいしかしてないけど、これでいいのかなぁ……。
ご主人楽しすぎ、とか思われてないかな。




