第二十話
狐白は体長30センチくらいの、ちょっと小柄なキツネだった。
その代わり少し長いしっぽは、先っぽが金色っぽくなっててわずかに割れている。
大きくなったらしっぽが増えるのかな。
神使だとしたら、狐白は仙狐。
妖狐としてのランクは九尾の狐なんかがいるような地狐よりも上だから、これからしっぽが増える筈はないけど……。
ただの良い狐の象徴として白いだけなら地狐の一部になるし。
そもそも妖狐じゃなくてただ普通の狐かもしれないしね。
なにであれもふもふであることに変わりはないし、そうじゃなくても絶対手放す気はないけど……っ!
「とろけそうな顔してんな……。」
「もふもふ……あったかい……。」
「別に寒くはないだろ。」
神社のマップを出て、ナオと並んで歩く俺の首もとに、襟巻みたいに巻き付いてくれているハク。
俺の胸のあたりに垂れ下がる前足と顔、ぐるっと首を回って反対側からもふもふのしっぽ。
「ずっと出してられるってすごい……!」
「おう、さっきも聞いたぜ。」
じつはこの狐白、名前を決めて契約が確定した後、一度消えちゃったんだ。
うろたえる俺に、冷静なナオが召喚魔法使えと告げて、おかげで無事に再会できた。
あなたの名前は狐白だけど、ハクって呼んでいい? なんて話をする傍ら、隣でナオが説明をしてくれる。
召喚魔法は、モンスターを召喚するときにMPを消費するけど、それ以降出している時間によってMPが消費されるってことはない。
召喚してるモンスターを一度戻して、もう一回召喚するときにはまたMPを使う。
ただ、モンスターが倒されてしまったら、その後呼び出せるまでに長い時間がかかるけど、自分で戻した場合は違う。
クールタイムはあるものの、普通に呼び出すことは出来るんだって。
ただ、モンスターが戻っている間はHPもMPも自然回復しないうえに、次に呼び出すときも減った分はそのまま。
モンスターを戻しても確実にその場の敵を倒せるってわかってるなら、体力が危ういモンスターに下がってもらって、あとでゆっくり回復させるのもいいかもしれない。
まぁ、それはそれとして。
「ふふふーふわふわー。」
「クオン、お前やばい奴みたいだぞ。」
「だってふわふわだよー。ほらー、ナオもさわってみてよー。」
「さっきからさんざん触らせてもらってるよ、悪いなハク。クオンはただでさえ目立つんだからこれ以上……って言っても無駄か。」
はぁ、とため息をつく。
あのスキルスロットの数で最初の内から召喚魔法を持ってるやつは少ないだろう中、どう見てもモンスターである狐を連れてるのは目立つ、ってナオは言ってた。
それに俺はこんな髪だから。
でも一応、呼び出せることの確認をした後に戻すべきか聞いたんだけど別にいいっていうから出しっぱなしにしてるんだし。
こうして目立つのもちゃんとわかってたはずだ。
その上でいいって言ったんだからいいんだろう。
ちなみにだけど、神社にいる時に召喚魔法のスキルそのものについても教えてもらった。
召喚魔法のスキルの熟練度によって、契約できるモンスターの数も召喚できるモンスターの数も変わっていくんだって。
契約できるモンスターと召喚できるモンスターの数。
これが問題なんだよね。
正確に言うと、同時に召喚できるモンスターの数。
今の俺の召喚魔法の熟練度は、ハクと契約したことと一度召喚したことで少しばかり上がってはいるけど、節目になる所まではまだまだ。
だから初期のまま、契約できるモンスターの数は三体で、同時に召喚できる数は二体まで。
今の俺はハクと契約してるから、あと契約できるのは二体で、ハクを出してたら一緒に召喚できるのは一体。
誰かが絶対に仲間外れになるんだよなぁ。
熟練度が上がったら数はどんどん増えていくそうだけど。
もふもふー増えるーふふふ。
「ほんっとお前は幸せそうだよなぁ。」
「へへー、幸せー。」
「恋する乙女かよ……ったく。」
苦笑するナオ。
ちらりと視界の端を確認して、眉を顰める。
「クオン。」
「なにー?」
「防具買いに行かねぇか。」
「防具?」
今のところHPが大きく減るような場面もほとんどなかったし、防具が必要だとは思わないけど……。
でも俺まだ初期装備のままだし、そろそろまずいのかな。
それとも、アマレットさんと合流した後に強い敵の出るところに行く?
「俺みたいなポンチョとか……ハクを隠せるやつ。」
「あぁ……なるほど。」
目立つもんね。
ポンチョの中だったら首元にいてもばれないし、ポンチョ自体もありふれてる。
現にナオが着てるくらいだし。
「ハクのスキルってなんだっけ?」
「えっと、索敵と隠蔽、火魔法、雷魔法、噛みつき、爪。」
「多彩だよなー……。」
「スキルスロット俺たちの倍だよ。」
「さすが神様の使い。」
索敵と隠蔽だから斥候の役割かと思ったら、魔法が二種類も使える。
加えて噛みつきと爪は物理攻撃だろうし。
魔法の種類は多分、狐火から火魔法なのと、管狐が雷を帯びてるからってので雷魔法がつけられたんだろうけど。
一緒に戦えるのは次にログインしたときかな。
ナオが視界の端を確認してから防具を買いに行こうって言ったってことは、あんまり時間は残ってないんだろう。
買い物に行くのに必要な時間が残るギリギリまで、俺にハクをもふもふさせてくれたんだと思う。
「まぁでもNPCショップじゃあまだないか。」
「なにが?」
「モンスター用の装備。簡単なアクセサリくらいならモンスターも装備できるはずなんだけど、まだ一層じゃ売ってないからな。」
「そんなのあるんだ。」
「おいおい探そう。お前、何かあげたいステータスはあるか?」
「うーん、今のところはないよ。」
攻撃力にも防御力にも心配はないし。
強いて言うなら、MPの量?
ハクを戻したり呼んだりを繰り返すようならMPが足りなくなっちゃうかもしれないし。
熟練度が低いうちは一体を召喚するのに使うMPも大きいらしい。
うん? 熟練度が上がると消費MPが減る、って言うのが正しいかな。
「実際フィールドに出てみないと分かんねぇけど、たぶん大丈夫だと思うぜ、そこは。」
とりあえず行くぞ、と肩を叩かれて歩き出す。
大丈夫って何で? なんか強そうじゃん、まぁそれは確かに、とか言いながらスタスタ歩いていく。
「あれ、NPCのお店ってこっちじゃないの?」
「あっちはアイテムショップ。」
「あいてむしょっぷ。」
「回復薬とか食料買ったりするとこ。素材売ったり。」
「うん。」
「今から行くのはいわゆる武器屋。武器とか防具とかアクセサリとかが売ってる。」
「別々なんだ……。」
「混むからじゃね? 一層だから大したもんは売ってねぇけど、金額も安い。特にこのポンチョは一番効果も薄いし値段も安い。」
「何でそんなの買ったの。」
「なんかかっこよかったから。」
「そっか。」
「ついたぞ。」
「はーい。」
ナオはたまにこういうところがあるよね。
いや別に全然いいんだけど。
俺だって合理的な選択より感情的な選択をすることの方が多いし。
お店に立っている体の大きなお兄さんに話しかけていくつかやり取りをすると、防具のページを開いてくれた。
えーっと、この一番上の布のポンチョっていうのが、ナオが着てるやつ。
他には冒険者の服と冒険者のズボン、冒険者のスカート、冒険者の靴、冒険者の帽子、冒険者の手袋っていう冒険者シリーズ。
布のコートと、おしゃれハットっていうのも売ってる。
あと靴下。
なんで靴下。
「ナオ、お揃いにしていい?」
「……むしろ俺はそのつもりだったわ……疑いもなく。」
語尾がちょっとこもったから目を向ければ、袖で口元を抑えて、ちょっと頬を染めている。
なんだろ……?
照れてるのはわかるけど、何で照れてるのかは全然わからない。
お揃い恥ずかしくなったのかな。
「俺、別に買わなくてもいいよ?」
「いや、そういうことじゃねぇ……効果ほとんどなくてもいいなら買っとけ……。」
「うん……? わかった。」
何をそんなに照れてるんだろう……。
わかんないけど、とりあえずゴーサインが出たからリストを指してお兄さんに向き直る。
「この布のポンチョください。」
「あいよ、毎度あり! 色はどうする!?」
お兄さん声大きい。
で、色? 選べるってこと?
首をかしげていると、ぴろんっと音がして新しいリストが開いた。
上から黒、灰、白、赤、青、緑、黄、茶、桃、水、橙、黄緑、紫。
結構たくさんあるんだ。
ナオは灰色だよね。
真っ黒だと悪役みたいかな、白だとかわいらしくなっちゃいそう。
サラマンダーだし赤、ってなったら赤ずきんちゃんになっちゃうし、他の色は派手だ。
ハクを隠す、って目的のために人目を集めちゃったら本末転倒だもんね。
でも、ナオのこの感じだと灰色でお揃いにするのはやめておいた方がいいのかな……。
「これ、この後違う色は出ますか?」
「うん? 俺の店で取り扱ってるのはこれだけだなぁ。」
「良い、クオン、灰色買え。」
「え、お揃い嫌なんじゃないの。」
「そうとは言ってねぇ。灰色が一番いいって思うんだろ。」
「一番無難かなって。赤でも統一感出ていいけど。」
「欲しいもん買え。しいて言うなら長さでも変えておいてくれ。」
「それも変えられるの。」
「変えるっていうか、三種類くらいある。俺は一番短い。」
「じゃあ一番長いのにする。」
ずっともごもごと話し続けるナオに首をかしげながら、お兄さんとの話に戻る。
「長いポンチョください。」
「おう、毎度あり! 色はどうする?」
お兄さんさっきと台詞変わってないよ。
これがNPCである所以ってやつかな。
ちらりとナオを見る。
まだ頬っぺたが赤い。
なんだかよくわかんないけど、ずっと照れてるくらいにはなにか不都合があるんなら。
「黒色ください。」




