第二十一話
「ご飯とお風呂と稽古、それから宿題。三時間で終わるかな。」
ポンチョを買って、ベンチの近くへ戻って、ログアウト。
やっぱり一足先に起き上がってた音也が台所でお茶を淹れてるから、お菓子を用意しながら声をかける。
最中でいいかな。
脳みそ使ったら甘いもの食べたくなるって言うし。
というか本当、なんで照れてたんだろう。
正面から聞いてもきっと答えてくれないから、聞こうとは思わないけどさ。
「宿題は別に今日中に終わらせなくてもいいだろ。お前今日の稽古どれくらいかかる?」
「うーん、短縮したら三十分くらいかな。」
「まじめにやると?」
「一時間。」
「じゃあ、飯、俺が作る。丼物とかになってもよければ。」
「え、それは悪いよ。」
「お前にはみたらしとシュークリームを作る使命も残ってるぞ?」
「それこそ今日じゃなくてもいいし……。」
とはいうけど、久しぶりに音也の料理も食べたいな。
せっかくだから、お言葉に甘えさせてもらおう。
「じゃあ、お願いしていい?」
「おう、任せろ。」
「冷蔵庫の中、好きに使ってくれていいからね。」
「わかった。」
「エプロンいる?」
「いらん。」
俺も音也もエプロンしないんだよね。
服を汚すような料理もめったに作らないし、洗濯もの減るから楽でいいけど。
丼物だったら早いかな。
ご飯も朝……お昼のが残ってるし。
お風呂の準備して、俺の得意分野の宿題やっつけておこう。
俺が稽古してる間に理系分野は音也がやっつけてくれる……はず。
世界史と英語はお互い得意じゃないから二人がそろってるときに二人でやろう。
さて、お風呂洗ってこようかな。
「いただきます。」
「味薄かったら適当に調整してくれ。」
「音也の味付けは俺すごく好きだから大丈夫。」
作ってくれたのは親子丼とお味噌汁、お漬物。
ちょっとお出汁が多めであつあつで、おいしい。
「……お前が作った飯の方が旨いと思うんだけど……なんでそんな幸せそうに食うんだ……。」
「俺は音也が作ってくれたご飯の方が好きー。」
「そうかい。」
小さくため息をついてご飯を掻き込む。
そんなに急いだら喉詰まっちゃうよ。
お茶あるからいいけど。
「ごちそうさま。」
「作ったの音也だけどね。お風呂そろそろ沸くと思う。」
「じゃあ先もらうな。」
「俺は稽古してから入るから。宿題机の上だから、持って行って。」
「サンキュ。食器おいといて、あとで洗っとく。」
「ありがとう。」
音也に数分遅れて空になった器を流しにおいて、着替えに戻る。
間を取って四十五分くらいで終わらせようかな。
やらなきゃいけないことはちゃんとできるんだし。
「お待たせしましたっす! すみません、宿題してたら時間過ぎててっ!」
「いいよ、十分くらいだし、そもそも何時にってちゃんと約束してたわけじゃないし。」
「おう、宿題終わったか?」
「家庭科は終わったっす。」
「まさかの副教科。」
「料理を一品か布の作品を一つ作って、作り方とか感想とかまとめて提出しないといけないんす。」
「うわぁ、大変。」
「夏休みの宿題じゃなくてか……。」
「夏休みだと、去年は料理なら五品以上で構成される一食分、布なら服を作るって内容だったっす。」
「本格的だな……。」
「今年何が出されるか怖いっすぅ……!」
ぶるぶると震えて頭を抱えるアマレットさん。
俺たちの通ってる学校、そんな宿題出ない。
すごいとこに通ってるのかな。
「うー、宿題なんて忘れるっす! 今日は何するっすか!?」
「忘れちゃダメだろ……。」
「気持ちはよくわかるけど。何しようか、したいことある?」
「お二人のポンチョかっこいいっすね!クエスト報酬っすか?」
「ううん、お店で買った。」
「ナオ師匠はもともと持ってたっすよね? クオン兄さんは何で今? 装備しないと戦闘まずそうっすか?」
「ううん、そういうわけじゃなくてね。」
ナオをちらりと見降ろす。
頷いたあと、小さく辺りを見回して、建物の隙間の細い路地を指す。
地図によると袋小路だ。
アマレットさんを促して人気の少ないその道へ入ると、ナオが人目を遮るように入り口側に立った。
やっていいぞ、って意味を込めて、もう一度頷く。
「なになに、何っすか?」
「えっと、あ、アマレットさん、動物って苦手?」
「好きっす。」
「じゃあ……大きな声は出さないでね。」
「はいっす……?」
首をかしげるアマレットさんを横目に、口を開く。
召喚魔法でモンスターを呼び出すときは、詠唱に続けてモンスターの名前を呼ぶ。
詠唱って言っても長いものじゃなくて、デフォルトではサモンって言うだけ。
詠唱は自分の好きに変えられるらしいから、あとでなんかいいのを考えようって思ってるけど、今のところはそのまま。
「サモン、狐白。」
詠唱を口にしたら、MPがごそっと減った。
足元に淡い金色の魔法陣が出て、白い影が浮かび上がる。
ぱっと白い光が散ると、ハクが俺を見上げてこんっと鳴いた。
「か、かわいい……!」
「でしょー。」
「クオン兄さん、召喚魔法持ってたんすね!」
「うん。契約したのはハクが最初だけど。」
「ハクさんって言うんすね! よろしくね、ハクさん。私はアマレットっす!」
「ハクはもふもふなんだよー。」
「触ってもいいっすか!」
「もちろん!」
「おいお前ら、ずっとここにいるつもりか。」
ハクを挟んで二人でしゃがみ込んでいると、上から冷めたナオの声。
そうだった。
ポンチョを何で買ったかを説明するためにハクを呼んだんだった。
ハクにそっと手招きすると、琥珀色の目をパチパチさせて、ぴょんっと飛び上がる。
ログアウトする前と同じように首をくるりと覆う白い毛。
その上から黒いフードをかぶる。
「なるほど、見えなくなるんすね。」
「白い首元の装備って思ってもらえるかなって、ナオが。」
「へぇぇー。」
小柄なアマレットさんが手を伸ばして、ハクのしっぽをもふもふする。
いいよねぇ、しっぽ。
耳もくりくり動いてかわいいし。
「アマレット。」
「はい!」
「このゲームの中に、俺たち以外に知り合いいるか?」
「NPCの人くらいっす!」
「そうか。」
俺もだ。
でもなんでわざわざそんなこと?
というか、知り合いがいたらこんな風にずっと俺たちと一緒にはいないと思うんだけど……。
あ、そうか。
「ハクか。」
「あぁ。」
「何がっすか?」
「実はこのハク、ちょっとレアっぽいんだよ。何かの条件を満たさないと手に入れられないやつ。」
「へぇ! すごいっす!」
「ただ問題は、その条件が何かまだ分かんねぇってことと、条件が分かっても満たすの難しいかもしれねぇってこと。」
「なるほど、他のプレイヤーに目をつけられるとまずいんすね。大丈夫っす、言いふらす相手いないっすから!」
「理解が速くて助かるよ。ありがとな。」
「にしてもほんっとふわふわっすねぇー!」
にこにこと笑ってしっぽをもふもふし続けるアマレットさん。
虜になるよね。
ふわふわでもふもふだし。
あったかいし。
「そういや、アマレットは召喚魔法は取ってねぇの?」
「え?」
「あ、悪い、ステータスを詮索するつもりじゃねぇ。もし召喚魔法持ってるなら、欲しいって思ったりすんのかなって。」
「それなら検証も急ぐって?」
「まぁ、簡単に言えば。」
ログアウトした後、今のところ情報が未確定過ぎて伏せるけど、ある程度まとまったら公開していいか、なんて話をしてたんだ。
俺とナオがよくわからないままあの神社に行けたってことは、今後そう遅くないうちにあのクエストに出会う人もいるだろう。
でもその報酬がすべて同じとは限らない……どころか、報酬が出ない可能性もある。
そうなった後に、レアっぽい卵もらったやついるぞって噂になって付きまとわれたりしたら困るから、先手を打ちたいって。
俺は全然そういうのわからないから、全面的におまかせしますって言ってあるんだけど。
検証をどうやってやるつもりなのかはわからないけど、自分でやるつもりなのかな。
と言っても検証も公開も義務じゃないから、知り合いが望むなら急ぐしそうじゃないならのんびりやるっていうのはごもっともだ。
「別に詮索されて困ることもないっすよ!スキル取ってるのは短剣と索敵、あとウォーキングっす。」
「え、あの空中歩けるやつ?」
「はいっす。私、空を飛ぶのが夢で、できれば速く! それで、ウォーキングがあったらより空中にいられるかなぁって。」
「なるほどな。そこに自分より速く飛ぶクオンが現れたと。」
「そうなんす! そしたらクオン兄さんに飛び方教えてくれた人がいるって言うじゃないっすか! これは弟子入りするしかないって思ったっす!」
「お前のその猪突猛進な感じ、結構好きだ。」
「ありがとうございます!」
ナオのあれは誉めてるようで貶してる、ように聞こえるけど、誉めてるんだよね。
アマレットさんは、貶されてるって思っても皮肉でありがとうって返すような人じゃないと思うから、ちゃんと伝わってるんだと思う。
それはさておき、アマレットさんは早く飛ぶっていうのが結構第一目的なんだ。
俺はもふもふしたい! が目的だし。
……ナオは何が目的なんだろ。
「じゃあジェットコースター体験させてやろうか。」
「へっ!?」
「NPCのジェットコースター娘はやったんだろ? あれより速くてちょっと危ないやつだ。」
「絶対ぶつからないから危険じゃあないけど、怖いかもしれない。俺がナオにやってもらったやつだよ。」
「アマレットはもう普通には飛べるから、五分くらいで十分だろ。その後はレベル上げにでも行くか?」
ぽかんと口を開けて俺たちの話を聞いていたアマレットさんは、キラキラ光る目になって、頭を下げた。
「よろしくお願いします!!」




