安藤優
視界がまた暗転する。
賢は頭のヘルメットを脱ぐと明るい照明に目をやられないようにしばらく手で目を覆う。
「いい勝負だった。
佐藤剛だ」
すると目の前に先程まで戦っていた剛がやって来ていた。
「剛元源です、ありがとうございました
賢は差し出された手を両手で握り返して礼を伝える。
剛の大きな体とヤクザのような顔を見ても怖気付く事は無く誠意を持って対応する。
「最後、あのユニークモンスターでも俺を倒せただろうに、お前自身が出て来た事に俺は嬉しく思う」
剛は大きな手を賢の頭の上に置く。
「最後まで頑張れ」
剛は不器用な笑顔を見せながら案内人に連れられて観客席へと行った。
賢は久しぶりの頭の温もりに呆気に取られるが、案内人に声をかけられハッとなり後ろを着いて行き待合室へと辿り着く。
するとすぐにジリリリと固定電話から音が鳴り始める。
賢はゆっくりと近づき受話器を手に取る。
「もしもし?」
「賢?
僕だよ、優だ!」
電話の相手は優しい声色の青年であった。
「優!?
久しぶりだな、元気してるか!?」
賢は相手が優だと知ると見るからにテンションを上げて声をかける。
「うん、賢のお陰で元気に暮らせてる。
賢の活躍見たよ、本当に昔から賢はカッコいいよ!」
「ありがとよ」
優の言葉に照れながら賢は礼を伝える。
「・・・ところでお父さんとの仲は、、?」
少しの沈黙の後、優は言い出しづらそうに切り出した。
「優が気にする事じゃないって何回も言ってるだろ?」
賢は悲しそうな表情で優の問いに答える。
「そうはいかないよ!
賢が高校を中退になってお父さんからも絶縁された原因は僕なんだから!」
優は涙混じりに必死に賢に訴える。
「優のせいなんかじゃねぇよ。
あれは俺が招いた不幸だ」
賢は心の奥底にしまっていた筈の記憶を思い出す。
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賢が高校生の頃、今同様にその厳つい見た目で悪目立ちしていた。
さらに学校中に賢が中学生の頃、絡んできた高校生のヤンキーを返り討ちにしたという噂が広まっていたため誰も話しかけようとしなかった。
そんな中、席が斜め前だった安藤優が初めて賢に話しかけてきた。
背が小さく優しい目つきをした賢と間反対な優であったが、賢に怖気付く事も無かった。
「僕、安藤優!
僕と友達になって欲しい!」
優はその内気な性格から中学生の頃は一人でいる事が多く、友人を作る事ができなかった。
そんな優は高校生では変わろうと一人でいる同じような賢に声をかけたのである。
「友達?
そりぁ一緒につるんだりする内に勝手になるもんだろ?まだ相手の事を何も知らない状態で友達になんかなれるかよ」
賢は優に睨みを効かせながら突っぱねる。
自分と一緒に居てもロクな目に合わないと知っているからだ。
「好きな食べ物はカレーで、
嫌いな食べ物はピーマン。
趣味は読書で、誕生日は11月5日だよ!」
優は突然自己紹介を始める。
「いきなり何だよ?」
賢が動揺しながら問いかけると優は依然として笑顔で答える。
「僕の事理解してくれた?
後は賢の事を教えてくれれば友達になれるんでしょ!」
優のその無邪気さに賢は初めて笑顔を見せた。
「はぁ、馬鹿みたいに単純な奴だな。
だけど嫌いじゃねぇ。
好きな食べ物はカレーだ」
賢は笑顔で優に手を差し出した。
「うん、これからよろしくね!」
優は満面の笑みで賢と握手したのだった。
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それからの二人は一緒にいる事が多くなった。
放課後に二人でキャッチボールをしたり、勉強やゲームなど多くの時間を共に過ごした。
そして二人は親友と呼べる程の仲まで関係が深まったのだが、そんな平和な時間は長くは続かなかった。
ある日二人がいつものように公園でキャッチボールをしている光景をたまたま一人の男が見かけていた。
それは賢が中学生の頃に目つきが悪いと絡んできた高校生ヤンキーであり、賢の顔を見てその時にボコされた記憶が蘇っていた。
そのヤンキーは冷や汗をかいてひっそりとこの場を離れようとするが、急にその足を止めて携帯電話をポケットから取り出した。
//生意気なガキがいた。
若葉公園に直ぐに集合//
グループチャットにそれだけ打ち込むとヤンキーは物陰に隠れて二人が何処かへ行かないか見張るのだった。
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「そろそろ帰るか」
日が暮れ始めた頃、賢がタオルで汗を拭いながら優に話す。
「ふぅ、、そうだね!」
優は疲れを見せながらトボトボと賢と共に公園を出ていく。
「じゃぁまた明日!」
「おう」
二人は別々の方向に手を振りながら歩き始める。
「ちょっと俺とも遊んでくれよ?」
賢は目の前のヤンキーに突然絡まれて黙って睨む。
「な、なんですか!
離してください!!」
しかし、後ろで優の声が聞こえて振り返ると背中を強い衝撃が走り吹き飛ばされる。
ヤンキーに背中を思い切り蹴られたのだ。
優は二人の男に両腕を掴まれて拘束されており、必死に振り解こうと抵抗しているが力の弱い優にはどうすることも出来なかった。
「お前が何も抵抗しなかったらあいつには何もしねぇよ」
ヤンキーは倒れた賢の腹部をニヤつきながら踏みつける。
賢は苦しそうな表情で優へと目をやる。
「僕に構わないで!」
「黙ってろ」
優は大声で賢に伝えるが男に腹部を殴られて悶絶してしまう。
「優!!」
賢はヤンキーの足を突き飛ばして優の元へ走り出す。
「もういっちょいるか?」
しかし、優を拘束する男が握り拳を賢に見せる事で賢はその場で立ち止まってしまう。
「俺を無視してんじゃねぇ!!」
賢は背後のヤンキーに押し倒されると髪を掴まれて地面に叩きつけられる。
地面がアスファルトでは無く土であった事が幸いして致命傷は避けられたが、脳は揺れて軽い脳震盪をおこしていた。
「ぼ、、僕の事は良い、、
友達でしょ?」
優は苦しそうに地面に倒れながら言葉を振り絞る。
しかし、その言葉は賢の闘志に火をつけた。
もう一発頭を地面に叩きつけようとヤンキーが賢の髪の毛を掴んだ時、賢は後へのけぞって後頭部をヤンキーの鼻にぶち当てる。
「あがっ、!」
ヤンキーは情け無い声を出しながら怯むと賢はすぐに立ち上がって顔面に拳を叩き込む。
「ぶふぉ!」
ヤンキーは鼻血を大量に流しながら吹き飛ばされる。
「こいつ余計な事を!」
優を拘束していた男の一人が思い切り優の事を蹴り付ける。
咄嗟に優は腕で守るが、鈍い音とともに激痛が走った。
「あぁぁ!!」
優は痛みに絶叫してしまうが、既に賢は駆け寄って来ていた。
「舐めんじゃねぇぞ!」
男の一人は賢を正面にボクシングのような構えを取る。
だが賢はお構い無しに跳び膝蹴りを男の顔面へ放つと、男は避ける事も出来ずに倒れてしまう。
「おい、これ以上こいつを痛めつけて欲しいのか?」
最後に残った男が優の背中に足を置きながら賢に脅しをかけてきた。
しかし、賢は何も言わずに男へと走り出す。
「クソ!!」
男はもう一度優を蹴りつけようと足を振り下ろす。
いくら運動神経の良い賢であっても、優の元へいくよりもはやく足が振り下ろされる方が早い。
だが、男の顔面に何かが勢いよく当たるとその動作は中断してしまう。
当たったのは賢の脱ぎ捨てた靴。
賢が走りながら靴を蹴り飛ばしたのだ。
その隙に賢が男に接近すると顔面を掴んで地面に投げつける。
「あがぁ!」
男が痛みに悶絶している間に地面に倒れる優を抱え上げる。
「大丈夫か?」
賢は心配そうな表情で優の顔を覗き込むと、優はぎこちない笑顔を返す。
「うん、、
ありがと、、」
優は痛む腕を庇いながら賢の手を借りてゆっくりと立ち上がる。
「お巡りさん!
あそこよ!!」
そんな所に警官の手を引いて一人のお婆さんが現れる。
「君達。
事情を説明してくれるね?」
警官が険しい表情を浮かべながら話しかけてきた。
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賢と優は事情を説明すると正当防衛が認められその日のうちに交番から解放される事となる。
しかし、この事件が高校側へ伝えられると正当防衛が認められていても暴行を起こした賢に対して退学を求めた。
暴力を振るっていない優に対しては退学は求められなかったが、優の両親はこの件で田舎に引っ越しする事を決意したため優は転校する事となった。
賢も両親も高校側の要望を聞き入れて自主退学として高校の退学を受け入れる。
「もう俺はお前とは縁を切る。
分かったな?」
退学届を高校に提出した日の夜、母親が電話している間に父親から賢にそう告げられた。
「あぁ」
賢は無表情でそれを受け入れる。
「家が決まり次第出ていけ。
当分の生活費は送ってやる」
父親は賢にお金の入った封筒を渡すと寝室へと歩いていった。
それから賢はフリーターとして1年暮らし、偶然にも迷宮戦闘への参加権を得たのだった。




