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第二十三話「冒険者シラ」

お久しぶりです。甲子園から目を離せません。

一人の女冒険者が、ボロキア行きの乗り合い馬車のなかで揺られていた。

馬車の乗客は総勢6名と荷物だ。その乗客達には、ある共通点があった。

全員が、武装しているという点だ。


「遥々、こんな辺境までくる必要あったのかよ〜?」


「その話は散々、皆で話し合ったはずだが?」


「そうよ、ぐじぐじ文句垂れないでくれない?うざい。」


「・・・同意。」


男二人と女二人総勢四名の団体もいれば。寡黙な剣士風の男が一人。そして、とんがり帽子を被り、黒く長い髪を三つ編みに結い、杖を携えた魔女風の女性が一人。

軽口を叩き、暇を持て余した男が話しかけるなら、どちらか。


「ねぇ、三つ編みの魔女さん?」


「・・・むっ?あっ・・えっ私のことですか?」


「・・あははっ。他に三つ編みの魔女は見当たらないよ?」


「そ、そうですね。」


三つ編みの魔女は、あたかも、普段の自分と今の自分が違うかのように、少しだけ慌てた。

それもそのはずである。

彼女の正体は魔導士に変装をした、名門メルボー家長女シーラ・メルボーだからだ。


「やっぱり魔女さんも、噂の新領地で荒稼ぎなの?」


「えぇ、前の拠点では、高レベルクエストが枯渇気味だったので、思い切って噂に乗ってみよう!!・・かなと。」


「そうなんだ〜それじゃ俺達と一緒だ!俺ら、”腐肉漁”(スカベンジャー)っていうパーティーよろしくっ!魔女さんは、ソロ?それともそっちのお兄さんとバディ?」


金髪のチャラ男が、シーラの隣に座る剣士風の男を指刺した。


「・・・。」


「いえっ!こちらの方と、私は・・。」


「そうなの?なら、ソロなんだ!ソロで高位冒険者とは、恐れ入るねぇ〜?」


「そんなことないですっ!私は、その・・・。」


訳ありな沈黙が、その場に流れた。

すると、助け舟が入り、軽口を叩くこの男を仲間の冒険者が小突き、詮索をするなと一喝した。

しばらくすると、馬車が目的地に到着した。


「マジで、出来たばっかの村なんだな!検問も何もねぇの。」


「アホか。出来たばかりにしては整地が早すぎるし、すでに自作農が機能している。」


「それもあるけど道中、森でモンスター共を見なかったわよね。どういうカラクリ?マジ意味不明よね。」


「・・激しく同意。この村秘密ある。」


全員が、馬車から降りて各自の荷物を背負った。


「それじゃぁ、私はこれで。」


シーラがその場を離れようとしたが、例によってチャラ男が話しかけてきた。

その結果、狭い村なこともあり宿は一つしかないため、少しの間行動を共にすることになった。

その際、腐肉漁の事を彼女は知った。

彼らは、四人とも野伏で構成された超隠密パーティー。

常に漁夫の利しか狙わず、モンスターや冒険者の死骸を漁ることからそのあだ名が付き、結成時にそのままパーティー名にしたそうだ。

そうこうしているうちに、一行は宿屋にたどり着き一時解散した。


ロックウェル領の宿屋は三階建てで、それなりに大味だが壮観な店構えをしていた。

一階は例に洩れず、酒場で二階から上が客室になっていた。

基本二人部屋か、四人部屋で、金を払えば一人部屋も用意している。

路銀は十分持ってきていることもあり、シーラは一人部屋を借りた。


彼女は、ようやく一人になり気を抜いた。とんがり帽子を脇に置き、背中からベッドに倒れ込む。

一番料金の高い部屋なことだけあって、ベッドは羊毛がふんだんに敷き詰められていて、枕は羽毛だった。流石にシーツはシルクではなく、綿だったが。

倒れ込むと、彼女の豊かな乳房だけが大胆に揺れた。

彼女の体で唯一つ贅肉と言える部分があるとすれば、それは乳房だけである。

どれほど毎日辛い鍛錬を、己に課そうとも、その豊かな乳房だけは痩せることがなかった。


「ハァ、潜入偵察とはいえなれない格好に、喋り方、魔導士のふり。・・疲れる。何故、薔薇騎士団団長であるこの私が、このようにこそこそと・・。いかんいかん!こんなこと、部下にさせるわけにはいかんからな。次期当主として、この苦難も乗り越えねばならんのだ。全ては我が騎士道の為!皇帝陛下の為だ。」


シーラは、魔導士らしく紺色のとんがり帽子に、紫色のローブを着ている。

彼女は神から、「魔剣士」の“祝福”を授かっていた。

これは非常に貴重な才能で、帝国では重宝されるギフトである。

魔剣士は、例外なく一流の剣技を努力すれば、その会得を約束され、魔法の才能も生来から備わっている。

マクニス教では、神はただ一人と説かれている。

しかし、マクニスの子供達は彼の眷属として崇められ、神に近い扱いを受けていた。

全ての祝福は、その神々から好かれて初めて特有のギフトが授けられるとされている。


 つまり彼女は、剣神ボロスと神の毒サマエルに愛されたダブルである。騎士道において、毒で相手を殺すことは大変卑怯で不名誉とされている。騎士としての名家に生を受けたにも関わらず、神が彼女に授けた魔法の才能は、何かの悪い冗談なのだろうか。


“コンコン”と部屋のドアがノックされた。シーラは返事をして、扉を開けるとそこには骨拾いの身長が低い方の女性が立っていた。


「あんた暇?」


「えっと・・」


「あたいら、これから冒険者ギルドとか村の探索行くけど行く?」


「・・・はいっ!ご一緒させてください。」


シーラは、偵察には団体で行動した方が、何かと都合がいいと考えた。

骨拾いの男達は、すでに一階で酒盛りを初めており、置いていく事になった。

同行しているのは、シーラと腐肉漁の二人の女性だ。


「そういえば、あんたの名前聞いてなかったね。あたいはゾーヤんで、こっちのでかいのがソフィー。」


「・・・異議あり。でかいはひどい。せめて、背の高い凛々しいお姉さんとかを、提案する。」


「背が高いくせに、胸は小さい事を凛々しいとか言って、逃げるのやめれば?」


「ゾーヤこそ、背が低いからって部不相応な胸を見せびらかして、承認欲求満たすのやめたら良いと思う。」


「ふん!胸がない奴は、ほんとに卑屈よね〜負け惜しみありがとさん。それであんた、名前は?」


「・・私は、し、シラ、シラです!」


「しら?変な名前だね。」


「・・同意。でもシラ可愛い。」


「あははは、ありがとうございます。ソフィーさんも素敵な、三つ編みですね。」


「ん、毎日ゾーヤが結んでくれる。ゾーヤ唯一の特技。」


「おいっ!」


ゾーヤのチョップがソフィーを襲うが、それを体の大きさを感じさせない身のこなしで軽やかに交わした。ソフィーは、灰色の長髪を一本にまとめて三つ編んでいる。


「あっ!武器屋ですよ!少し見ていきませんか?」


シーラが、ここぞとばかりに、村唯一つの鍛冶屋を偵察しようとする。鍛冶屋を見れば、その領の軍備が手にとるように分かるのだ。冒険者としても、命を預ける武具を預けるいわば生命線。シーラの提案はなんなく受け入れられる。


鍛冶場が曝け出されている店を覗くと、店番を任されているシェリーが応対した。


「いらっしゃいませ、ロイ爺の鍛冶場へ。見ない顔ですね、最近いらした方ですか?」


「何これちょー可愛いんだけど!!ねぇソフィ、あんたもそう思うっしょ〜!!」


「えっ?!ちょ、ちょお客ぅう!!?」


シェリーを見るや否や、年上のお姉さん方が彼女をおもちゃにし始めた。ゾーヤは、彼女を後ろから抱きしめると、ほっぺを両手でくしゃっとしたり、手を握って糸人形のように踊らせた。


「・・激しく同意。この子は私の妹にする。」


「ちょっとソフィー?あたいが先に目をつけたんだ。この子はあたいんのだよ!」


「可愛いものは早い者勝ちじゃない。その子が決める。」


二人がシェリーに、夢中になっているのをよそにシーラはしれっと、店内を見て回った。敵地の軍備を丸裸にするためだ。


最初に彼女の目に入ったのは、整然と並べられた鎧だった。

帝国で一般的に配備されている鉄の板金鎧、これは上下合わせて20kg〜30kgもする。

そして騎馬できるまでに軽量化に成功した鋼の板金鎧、これは10kg〜20kgだ。

しかし、鋼は貴重でその分値が張ってしまう。貴族しか手が出せない領域だ。

両者とも価格は、平均より少し高いくらいだった。


“まぁ辺境で、これほどの板金鎧がこの値段で手に入るのだから、むしろ破格の値段と言えるな。となれば、子爵位相当の装備は覚悟せねばならないという事か。魔のボロキアを開拓し、既にこれほどの軍備を生産可能としているこの手腕。フレイム・ロックウェル・・噂の蛮勇というのは眉唾物か?”


そして彼女は、最後に並べられている鎧に目をやった。それは、革鎧だった。

最初の一領は、ごく普通のモンスターなどの革を利用したものだ。

革鎧は、金の無い者には大変重宝される。

扱うモンスターによっても価格は変動するし、製作者によってその性能は大きく変動することでも有名だ。

革のなめし方から、一つの工程で革の状態は大きく上下する為である。


シーラが、次の一領に目をやると違和感を覚えた。


“なんだ・・この存在感は?この革からは凄まじい圧力を感じる。まるで、未だに心の臓が脈を打ち、皮に張り巡らされた血管が躍動しているかのような、気迫が漏れ出ている。一体これは・・・。”


彼女は、惹き寄せられるように革鎧に手を添えて、撫で回すように値札を手に取った。


「金貨150枚っ!!!?だと・・?」


シーラは、その価格を見て心底驚いた。それも無理はないことである。何故なら、この世界で最も高価な鎧は鋼が用いられた物で、その相場は金貨30枚前後だからだ。その価格の五倍もする革鎧など、いくら名家のメルボーでもお目にかかるどころか聞いたこともないだろう。


ちなみに、金貨150枚もあればそこそこの屋敷が一軒建ってしまう金額だ。


彼女はただ、開いた口が塞がらず少しの間、革を撫でたり、値札を見返す事を繰り返した。そこへ、一人の青年が声をかけてきた。


「どうかされましたか?」


シーラは咄嗟に、手を引っ込めて隠した。

おそらくこの店で一番高価な品物を、勝手にベタベタと触っている事を怪しく思われたと考えたからだ。

必死に取り繕うように、言い訳をしながら後ろを振り返ると、言葉が途中で止まった。


目の前にいる人間に、虚を突かれたからである。


「・・私の顔に何かついていますか?」


「へっ?あ、いや。そんなことはない。大変凛々しいお顔だ。」



「・・有難うございます。それで、見たところ冒険者の方とお見受けしますが・・?」


「あ?あぁそうだ。魔導士のシラだよろしく、お願いします。実は、今日この村に着いたばかりでして、早速鍛冶屋を知り合いと見にきたところなんですよ。」


シーラは、落ち着きを取り戻し、冒険者シラとして振る舞った。シラの話を聞いた青年は、この村の説明から、おすすめの武器や防具なんかを目の前で丁寧に説明し始めた。

彼女は、相槌を打つもその内容は馬耳東風だった。


“な、なぜここに、貴様がいる!!?第一皇子アージハルト殿下が領地、魔のボロキアを代官として開拓を命じられた。貴族の落ちこぼれにして、蛮勇として名高い・・フレイム・ロックウェル士爵。貴族である貴様が、なぜ陽も高いこの時間から鍛冶屋などに・・。まさかっ?私がメルボー家の人間だと気づいて!!?・・そんなはずはない。メルボー家特有の紫に近い蒼色の髪も、わざわざ特別な染料で染めてきた。変装は完璧なはずだ。だとしたら・・”


「これなんか、魔導士の方でもいざというときに扱える短剣ですよ。」


「へっ?」


そう言って、フレイムはシーラに見事に磨かれた厚手の短剣を手渡した。シーラは、手渡された短剣を手に取ると、なれた手つきで振り回し、鋭い目つきで刃先を舐めまわした。


「これは・・とても良い剣だ。剣の重心を感じさせない見事な肉付き、これならばどんな人間が扱っても真っ直ぐ刃を触れる上に、突き刺すことも容易だろうな。そして、この刃の鋭さ、美しさえある。・・・ハッ?!」


“しまった!いつもの癖で、品評をしてしまった。”


「シラさんは、大変博識でいらっしゃるのですね。流石、高位の冒険者様ともなると、魔導士であろうがあらゆる武器に精通されるのですね。」


「も、も、も、もちろんだ、ですとも。私は、魔法一つで赤狼級になった魔導士ですから!」


「それはそれは、私は実戦では魔法を使えない身でして、シラさんには尊敬の念を抱かざる負えません。」


「そうですか、この剣はお返ししますわ!製作者様には、大変良い剣だったとお伝えください。」


「有難うございます。実はこの剣は、私が鍛えた物でして。」


「えっ?お前が?」


「はい、これは申し遅れました。私は、このボロキアの地を第一皇子殿下から任されているフレイム・ロックウェルと申します。そして、一介の鍛治師でございます。」


“鍛治師・・ならば祝福は「槌」。そうか、それで名門ボードウェルを追い出されたのか。不憫なことだ。”


シーラは、小さい頃から剣しかふるってこなかった為に、貴族としての腹芸を苦手としていた。

名門貴族ならば、ボードウェル家の一人息子が神から、鍛治師としての祝福を授かった為に、追放されたことは周知の事実のはずである。


“これで合点がいた。領地経営の合間を縫って、普段から鍛冶屋に顔を出しているならば、ロックウェル卿が今ここに居ても、おかしくはない。私の存在を気取られていたわけではないならば、恐るに足らず。”


「そうでしたか。これは丁寧なご挨拶恐れ入ります。一つ士爵様にお尋ねしたいのですが。」


「はい、なんなりと。それと硬い言葉は好きではありませんので、どうぞ気を楽に。」


「気遣い有難うございます。それではお聞きしますが、この革鎧は一体。」


すっかり落ち着いたシーラは、ここぞとばかりにフレイムから情報を引き出そうとしていた。


「あぁ、魔獣の革鎧ですね。」


「魔獣・・。」


「はい、魔獣です。シラさんほどの冒険者でしたら、魔獣討伐クエストなんかも受けたことがおありでは?」


「あぁ、もちろんある。我が領地でも、度々魔獣が出る。その討伐には、・・」


「領地・・ですか?」


「いや、ほら!あれだ、前の拠点のことだ。あそこは私の縄張りのような場所だからな?!!!」


“私の大バカ!!すぐ気を緩めると、素が出てしまう!!昔から二つのことを同時にできないのが、私の欠点だ!!!”


「なるほど。前の拠点を愛してらっしゃったんですね。」


「そうなんです!ご飯は美味しいし、風景もとても綺麗でした!!」


「ふふっ、とても良い場所なんでしょうね。そこまで力説されると、今度お伺いしたくらいですよ。」


“ふぅ、なんとか誤魔化せたか。ロックウェル卿は噂に違わず、頭が弱いようだ。しかし、私も人のことは言えないほどに、演技が下手だな。今後の課題としよう。”


「おっと、申し訳ありませんシラさん。私はそろそろ行かなくては。」


「これは引き止めてしまい申し訳ありませんでした。閣下自ら、ご説明いただき光栄でありました。」


フレイムは、にこりと笑ってその場を後にした。


フレイムが店をでた後に、改めて店内を物色するシラを尻目にフレイムは獰猛な笑みを浮かべていた。

彼の貴族としての腹黒さは、怪物級である。




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