第二十話「久しぶりの人里」
フレイムは、久しぶりに屋敷に戻ってきたような感覚に陥っていた。人里から離れ、密林の中で獣人達の前で王のふりをしなければいけなかったのだ。それくらいの疲労感があったのは無理もない。フレイムが屋敷に帰り、まずやった事といえば
「ふぁっ///ど、どうしたのフレイム?!フレイムが私のことを抱き締めるなんて。・・・何かあったの?」
フレイムは、帰ってくるなり出迎えてくれた、セバスとリルの元に駆け寄り、彼女を抱きしめたのである。顔をリルの可憐な黄緑色の髪に埋める。リルの絹糸のような髪から、僅かながら水浴びで使う、青リンゴの葉の匂いをさせていた。
「ただいま、リル。」
「お帰りなさい、フレイム。あ!!アイラだぁあああ!!」
リルは、アイラを見つけるとフレイムを押しのけて、彼女に抱きついた。リルにとっても久しぶりのモフモフのふわふわである。
「僕より、アイラの方が懐かれてしまっているよ。セバス」
「よし、よし。お帰りなさいませ、フレイム様」
フレイムの頭をセバスが優しく撫でる。
「やっぱり、私にはセバスしかいないようですね。私がいない間何か変わったことは、ありましたか?」
「はい、それを今から報告したいと思っておりました。が、まずは湯浴みをなさってはいかがでしょうか?少々匂いますので。」
フレイムは、ショックを受けながらも湯浴みをして肌着で執務室に向かった。そこでは、セバスが紅茶とお菓子を用意して待っていてくれた。メイド長のアリシアも、側に控えていた。
「アリシア。」
「へ?だ、駄目です!!」
フレイムは、アリシアにも抱きついてみたがものすごい力で弾き飛ばされた。
「いつつ、アリシアにはまだ早かったか。」
「・・!!?す、すみません!フレイム様のことがお嫌いとかそういうことではないのです!ただちょっと驚いただけで・・うぅ//」
「気にしないで、悪いのは僕だから。ただいま、アリシア。」
「おかえりなさいませ!フレイム様!」
フレイムは一息つくと、セバスから報告と同時に手紙を見せられた。一通は、中央のジアからだ。先日こちらが伝えた金について、可能な限り送って欲しいとのことだった。それと、皇帝が病に伏したという情報も一緒に付け加えられていた。
「全く、書く情報が逆だよジア。これだから僕がいないと駄目なんだ。」
「それでは、金塊をいかほど中央に送りましょうか。」
「そうだね、ジアのことだからお金での戦いは後手後手の筈だ。皇帝陛下が健在だったならまだしも、今からたくさんのお金があったところであまり効果は望めない。ならば、最低限後手に回らずに済む程度でいいと思います。ジアに沢山のお金を渡すと、何をしでかすか不安ですからね。」
ジアは、昔からお金の使い方だけは要領を得なかった。恋人にプレゼント送ると言って、皇子の自由に使えるお金全て使って1万本のバラを送ったりしていた。ジアの周りには、脳筋ばかり集まるのが偶に傷だった。
「問題は誰に送らせるか、ですが。」
「そうですね・・・ここは侯爵に一肌脱いでいただきましょう。」
「ホーネット閣下にございますか。」
「えぇ、あのお方は表面上はジアの後援者ですから、嫌とは言えません。」
「畏まりました。」
フレイムは、二通目の手紙に目を向けた。手紙の封印には、メルボー家の家紋である薔薇が見て取れる。彼らの標語は「美しきものには棘がある」だ。
「何と書かれてありましたか?」
「流暢な言い回しで、僕たちが莫大な金銀を独り占めにしていると非難してきたよ。」
「それはどこから嗅ぎつけてきたのでしょうか?」
「そこなんだよねぇ、採掘作業は全てパーム村出身の者達だし、採掘した資源は全て使わずしまってある。となれば、中央の人間から尻を叩かれて出まかせ言って、戦争しようってところかな。奇しくも名分が当たっている所が嫌らしいね。」
メルボー家は男爵家で、薔薇を中央に収めている一族だ。この帝国では、メルボー家以外に薔薇の栽培は認められていない。皇家の家紋にも薔薇が入っているためだ。庶民で、薔薇を買えるものはいない。恋人にすら贈ってはならず、婚姻の儀式の時だけ一輪の薔薇を買うことが許されている。
メルボー家の戦力自体は、おそらく正規兵だけでも80前後といった所だ。何でも昔の皇帝に、騎士団に薔薇の文字を頂き、薔薇騎士団を称する事を許されたらしい。騎士団長は、メルボー家のご息女で2年に一度開催される武術大会でも好成績を残していたはずだ。
「それでは、宣戦布告という事でしょうか。」
「そうだね、よほど中央から怖いお達しが来たんでしょう。恐らく、ボロキア開拓の件がピトーの耳に入り、あの性格ですから早めに潰して、ジアの絶望した顔を見たい、そんな所ですね。」
「いかがいたしますか?」
「メルボー家との戦争に勝つのは容易い。しかし、ここで時を稼ぐのは重要です。一計講じましょう。決闘を申し込みます。」
「決闘ですか。」
「そうです、決闘であれば一月稼げます。こちらが負けるわけはないので、先延ばしにして準備を整えましょう。それが終われば、下級貴族連合が襲ってきますから。」
「畏まりました。」
次にフレイムが訪れたのは、ロイ爺の工房である。先日の会議で呼ばれていたのを思い出して、仕事を抜け出してきた。
ロイ爺の工房は今日も冒険者達で賑わっていた。シェリーが今日は店番のようで接客にてんてこ舞いといった感じだ。フレイムの存在に気付いて、彼女が駆け寄ってくる。
「フレイム様!!よくぞお越しくださいました!」
「シェリー、言葉遣いが綺麗になったね。」
「えへへ、沢山クソジジイにゲンコツをもらったんです!だからです!」
“ゴツん”と、鈍い音がなり、シェリはーまた殴りやがったな!と悪態をついていた。
「フレイムようやく来たか。」
「お待たせしました師匠。」
「まぁ良い、見せたいものは店の奥じゃ。」
そう言って、案内された所には木組に飾られた革の鎧だった。
「お主に頼まれておった正規兵に着させる鎧じゃ。」
「・・・革鎧ですか。」
「いいから触ってみろ。」
「これはっ、魔獣の革じゃないですか!!しかも幾重にも重ねられている。」
「そうじゃ、この革鎧ならば魔剣ですら切り裂けない上に、軽量で機動性にも優れておる。服の下にも着込める優れものじゃ。」
「これはいいですね。仕事も丁寧だ。さすが、師匠です。」
「ガハハハハ、まだまだお主には負けられんわい。」




