第十九話「獣王誕生」
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ボロキアの森林を流れる大河の途中にある大瀑布で、滝の音に負けないほどの太鼓と銅鑼の音が鳴り響いていた。円形のまっさらな岩の大陸には、屈強な百名の獣人と一名の人間が対峙していた。彼らの体は、水飛沫で濡れている。それでも、スコール程の水飛沫がないのがこの空間で一番の不思議かもしれない。
「それではこれより、古の地獣王の滝壺にて獣王への挑戦を開始する!!祖先の英霊なる獣魂達よ。ご照覧あれ!!そしてここにいる全部族が証人である。それでは挑戦者に問う。代理決闘を望むか。」
「望む。」
「それでは、ここに代理のものを呼び準備せよ。挑戦者の準備が整い次第決闘を始める。」
フレイムは、ガッシュに合図する。あらかじめしていた打ち合わせ通りに、ガッシュは大衆の期待を裏切り後方へと待機した。対戦者及び観衆達からざわめきが起こる。
「あのご立派な鎧を着た雄ではないのか?!」
「どうやらあの青い猿が、代理決闘を望んだみたいだぞ?」
「我らが族長達を相手取ろうというんだ、余程厳ついオスが出てくるぞ」
「虎族の誰かかな?」
「バァカ、挑戦者は人間だぞ?獣人より弱い人間に、虎族が従うとおもうか?」
「それもそうだな。なら一体何奴が・・」
フレイムは、周囲の熱気が太鼓や銅鑼、滝の音、満月の月明かりなどによってボルテージが上がっていく事に快感を覚えていた。この世界に彼らのような存在がいてくれた事に感謝しているのだ。獣人とは、伝説や御伽噺で出てくる為人間も獣人という言葉は知っている。しかし、直接的な関わり合いを持った人間はいなかった。それはなぜか?ボロキアの森である、人間が何度立ち入ろうとしても魔獣によって追い返されて来たこの土地に、彼らは文化を築いてきた。人間が持たない鋭い爪と牙、獣の力と人の知恵を持ち合わせた彼らは、人族最強の人種と言える。
そんな彼らは、千金を積むより、腕力で持って力を証明すればフレイムを王にしてくれるというのだ。この戦力は非常にありがたい幸運だ。フレイムが描いていた計画を、数年単位で早送りできる。獣人達は、なんだかんだ言って数千はいるのだ。彼らを全て、フレイムが作る魔法武器で武装させ、ホーネット侯爵、そしてその先に居るピトーの喉元へと進軍し、親友アージハルトを皇帝へと押し上げる。
“皇帝アージハルトの元、僕は宰相として帝国を強くする”
それが、命の恩人であるジアへの恩返しであり、彼を捨てた父への復讐だ。
しばらく考え事に耽っていたフレイムを見て、アイラは痺れを切らして彼の元に駆け寄ろうとする。だがそれを、太く逞しい腕を持ったガッシュによって止められる。
「黙って、見ていろ。我らの主君が、獣達の王となられる瞬間だ。」
ダンクは、ここに来て背筋に寒い物を覚えていた。この状況、もし逆の立場だったとしたら、あれほど落ち着いていられるだろうか?自分であれば、戦化粧を妻達にしてもらい、ヤイバを研ぎ、精神を研ぎ澄まし、雄叫びを上げて自らを鼓舞せずにはいられないだろう。
“なのに何だ、あの静けさは。この静けさは、森の湖・・いや洞穴で滴る水滴の音に近い”
「勇者ダンクよ。礼を言う。」
「・・?ベンガル様。」
「貴様は、私の知らない強さを持った雄と引き合わせてくれたようだ。これで私は、更なる高みへ行けるやもしれぬ。」
ダンクは、不思議に思いベンガルの瞳を覗き見た。いつも澄んだような瞳の奥に揺らめく炎が、フレイムへの期待で僅かながらに荒ぶっていた。流石は、ベンガル様だと言わんばかりに納得していた。自分では、不気味としか言えないフレイムの存在を、彼は確信を持って見据えていたのだ。
しかし、気配だけでフレイムの何かを嗅ぎ取っただけダンクも相当な物であると言える。そして、その不気味さはフレイムが懐から取り出した角笛を咥えた時、確信へと変わった。
“プッォォォォォォオオオオオオォォォンン”
その小さな角笛の音色は、何故か滝の轟音に負けず、天高く鳴り響いた。
その不思議な音色に惑わされ、獣王の滝壺には静寂で包まれ、滝の音だけがしている。
太鼓も銅鑼も、獣人達は枝葉も揺らさない。
何が今から起こるのかと、期待と不思議で心がいっぱいになる。
しばらくは、何も起こらない。
短気なものは、拍子抜けだと言い出して。
誇り高いものは、こけおどしかと軽蔑して。
耳目の敏いものは、一目散に逃げ出して。
猛き心を持つものは、獰猛な笑みを浮かべて喜んだ。
“グルルルルルルルルルルルルッ”
世界の王は誰かと聞けば
童は、父と答え
庶民は、領主と答え
貴族は、王だと答え
商人は、金だと答える。
なら、動物達はどう答えるだろうか。
龍だ・・龍が来る・・・龍が来るゾォォォオオオ!!!
彼らは獣人、その身に獣を宿す者なり。
彼らに抗えるだろうか、その恐怖に、絶望に。
心弱き者から、腰が抜け、走り方を忘れたように無様に逃げ出した。
目と鼻からは涙を流し、口からは涎が溢れ出る。
「龍がきます、ベンガル様。我々も一時退きましょう。」
「何故だ。」
「我らといえど龍には敵いませぬ。一度隠れましょう!」
「何故・・あの人間は、逃げぬのだ。」
「え?」
ベンガルの視線は、先ほどからフレイムに釘付けだった。明らかに自分より弱い生物。
だが、阿呆ではない、自分では我々に勝てないと理解している。
だから、代理決闘を望んだ。
ベンガルは、彼我の戦力差を理解できる人間が、何故逃げないのか不思議だった。
“自分の足では、逃げきれないと諦めたのか?いや違う。死を受け入れた者はもっと、吸い込まれそうな瞳をするはずだ。そう、青空で見る雪化粧をした霊峰エーナのように。だが、この人間の瞳は期待している目だ。これから起こる事に、希望を持ち勝利を確信している!・・・まさか、いや、そんなことは・・起こり得るはずがないっ”
ベンガルは、その戦いへの嗅覚でありえない一つの予想にたどり着いた。彼の顔が苦虫を噛み潰したかのように歪む。
感づいた時にはもう既に、後悔先に立たずである。
闇より暗い漆黒の龍が、月光に照らし出される。滝の淵には、大きく飛び出た岩が突き出しており、そこに龍は一度降り立ち、見下ろすように雄叫びを上げた。
獣人達は、下からその絶望を見上げ、彼らの足を伝い地面や岩にシミが出来ていく。月光に照らされた龍の鱗は、月光よりも熱い、熱を帯びた炎の輝きによって赤黒く、呼吸に合わせて波打つのである。
「さぁ、おいでフリードリッヒ。」
「「「「「 !!!!!?? 」」」」」
その言葉を聞いた族長達の中で、恐怖に支配されていないものだけが辛うじて、龍から目を離し、今しがた信じられない言葉を口にした人間へと視線が注がれる。
龍は、一瞬怪訝な表情を浮かべたが素直に岩から飛び降りてくる。
その爪は、岩の大陸を削る。
ほとんどの族長達がその場で腰を抜かし、辛うじて岩にシミだけはつけなかった。
龍は、人間の側に近寄ると、従順に、そう、まるで主人を敬い、背に乗せるため跪いたように見えた。
彼らは、人生の中でこれほど驚愕したことも、絶望したこともない顔を浮かべた。
毛穴という毛穴からは脂汗が滲み出て、毛が感情とは裏腹に逆立ち震えた。
人間は手慣れたように、龍の凹凸した鱗を頼りによじ登り騎乗した。その様子を見て、ベンガルだけは、狂喜に震えていた。
「戦化粧箱を持てい!!最高の礼を持って、決闘に挑む。」
この状況下で、ここを死地と定めた族長の言葉に虎族皆が奮い立ち、メス達が己の血を持ってベンガルの体に最高の戦化粧を施し始めた。ベンガルにとって、取るに足らない挑戦者は見事に、彼の求める死力を尽くしてもまだ足りない、運命の敵へと変わったのだ。
「我が名はベンガル!!人間族族長よ、これまでの非礼を平に、ご容赦願いたい。これより態度を改め、この挑戦喜んでお受け致す!!!さぁ、参られい!!!」
ベンガル以外は、豹族、狼族、鷲族、熊族などの主だった族長だけが後に続く姿勢を見せた。
ベンガルは武器を持たず、己の牙と爪を剥き出しにして戦闘モードに入っている。
「勘違いしないでいただきましょう。既に挑戦者は私ではないのです。来なさい。可愛がって差し上げます。」
「・・いざ尋常に勝負!!」
獣人達が一斉に襲いかかってくる。
「どうする?」
「殺すな。大事な大駒達だ。」
「また面倒な事を。」
熊が壁役となり突っ込んでくる。それを龍は、長く太い尻尾で吹き飛ばす。その攻撃の隙を伺い豹が、龍の体を駆け上がりフレイムにとどめを刺そうとしてくる。
龍はすかさず体を傾ける、バランスを崩した豹が一矢報いんと、片足を頼りに飛び込んでくるがフレイムの肩を斬り付けるまでに止まる。地面に叩きつけられ、龍の足によって踏みつけられる。体の全身から鈍い音が響いた。
背後から狼が駆け寄り、龍の後肢に噛み付いた。しかし自慢の牙も、粉々に砕けてしまい足蹴にされてしまう。
「フリード、上だ。」
「わかっておる。火力を調整してただけじゃ。」
満月の光に隠れて、鷲が滑空してくる。自分の存在がバレてないと確信して、接近したその時。龍は直角に上を向き、口を広げて火炎を放つ。その黒煙に巻き込まれて、進路を逸れて墜落した。
龍が自分から視線を外したこの一瞬に、全てをかける者がいた。
自分の全てを賭けてゴム毬のように、ジグザクに突進してくる英雄ベンガル。
龍が彼の動きを捉えたときにはもう、その爪が龍の額を捕らえていた。
虎の爪は、砕ける事なく龍の額に爪痕を残した。
その事実に、激昂する龍は右拳を繰り出した。
「褒美じゃ、受け取れ!」
龍の右拳は、容赦無く彼を捕らえて吹き飛んでいき、滝の壁に飲み込まれていった。
「もう誰も、私に挑む者はいないか?!」
「「「「・・・・。」」」」
「居ないのであれば、今日よりこのフレイムが貴様らの王である!!」
その勝鬨に合わせて、フリードリッヒが天空高く火炎を吐く。
「「「「「おぉぉぉおおおおおおぉぉぉおおお!!!!!」」」」」
森中から、獣王の誕生を称える雄叫びが湧き上がった。その日から数えて三日三晩獣王の家で、宴が開催され料理に酒に、踊りが提供された。
幸い死者も出ず、ベンガルに至っては馬で1日行った川下で引き上げられ、まだ息をしていたのだから驚きである。そして、宴最終日には酒宴に参加し、フレイムに挨拶する出来るまで回復した。玉座の後ろには、フリードリッヒがトグロを巻いて羊に舌鼓を打っていた。
「獣王フレイム様、愚臣ベンガルご挨拶いたします。遅参、誠に恥ずかしい限りでございます。」
「ベンガル、もう怪我はいいんですか?」
「はっ、ご高配痛み入ります。怪我の方は、まだ痛みますがその程度です。」
「すごい、流石ですね。これからベンガルさんには、獣人の戦士を束ねてもらいます。期待していますよ。」
「この身に余る光栄でございます!!獣王様の命とあれば、このベンガル!!相手が神であろうが、悪魔であろうがこの命惜しまず戦います。」
「ありがとう。傷もまだいえておらぬのだ、もう下がっていいですよ。」
「はっ。では、失礼いたします。」
これで一通りの挨拶が終えた。最後にフレイムは片付けなければいけない用事を思い出した。
「皆聞いてくれ。」
その言葉に従い側に控えていた吠え猿が、号令をかける。
「獣王様のお言葉である!!!!!!」
皆飲み食いをやめて、フレイムへ注意を傾けた。
「今日でこの宴も最後となった。皆楽しんだか?」
「「「おおおおおおお」」」
「それはよかった。私が貴様らの王になったからには、これまでに無い景色の広がりを見せてやろう。世界はこの森だけではない、南に降れば人の世界が広がっている。そこでは、鉄の鎧を着て、鉄の剣で戦う戦士達がいる。貴様らの牙と爪は、鉄に負けない!そうであろう!!」
「「「おおおおおおおおおおおお」」」
足踏みや、ものを叩く音が大きくなる。
「私に付き従い、世界に見せつけよ!!貴様らの誇り高き獣魂と、その牙を!!私はこの世界を征服する、我に力を貸せ!山界の戦士達よ!それが我が最初の命令である!!!」
「「「「「おっおっおっおっおっおっおっおっぉぉぉおおおおお」」」」」
獣人達のボルテージは、最高潮を迎えた。獣王の家が雄叫びと足踏みで地鳴りのように揺れたのだ。
フレイムは、十分に指揮が上がったのを確認すると、右手を上げてそれを制する。静寂が一瞬にして戻ってきた。それだけフレイムの支配力が強まっている証である。
「最後の余興を余が取り行おうと思う。我が戦士ダンク、騎士ガッシュよ。前へ。」
名を呼ばれた屈強な男が、酒宴の中央に出た。
「お呼びでしょうか、陛下」
「お呼びでしょうか、閣下」
「我が正妃アイラよ近う、よれ。」
「・・?!は、はい!!」
フレイムは、あいらを側に来させ、大仰に彼女の体を自分に抱き寄せ、膝に乗せた。フレイムはここぞとばかりに、アイラのもふもふを堪能した。アイラも満更ではない様子のようだ。
「貴様ら二人には、決闘を行ってもらう。この我妻をかけてな。」
「「 !!? 」」
周りの野次馬は大はしゃぎだ。王が最初の褒美を給えるつもりだ!!と各々が、お祭り騒ぎだ。
ガッシュは、初めてフレイムに殺意が湧いていた。
“悪ノリがすぎるぜ、大将”
「決闘は、素手のみとする。勝者には一軍の将軍の位と妻を授ける。」
「ちょ、ちょっとたんま!!」
ガッシュが慌てて、玉座に駆け寄る。皆に聞こえないように、フレイムに話しかけ、それに彼も応じるのだった。
これは一体何の冗談ですか?
冗談?お前はロックウェル家の騎士だ。
つまりこれから獣人達も率いて戦場に出る事になる。
そうなれば彼らの尊敬が必要だ。
それには、獣人の妻を娶り、彼らの尊敬しているダンクを、この場で倒してもらう必要がある。
失敗は許さないぞ。
・・・・・御意。
諦めて引き下がるガッシュに、フレイムは最後に声をかける。
「アイラは、美しいぞ。頑張れ。」
その一言に野次馬も、火がつき、あちこちから声援が飛び交い始めた。決闘の決着は、それなりの熱い戦いとなってガッシュの勝利で幕が閉じた。ダンクは、フリードから受けた傷もあって最後は体力負けのようだった。
これでめでたくアイラはガッシュの妻となった。後日、盛大な結婚式が教会で開かれる事となり、三日三晩続いた獣王誕生祭は幕を閉じた。




