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第十八話「獣人会議」

 フレイムが帰ったその日の夜、豹族族長のダンクは自分のメス達との夜の営みに精を出していた。この所、魔獣との戦いに明け暮れていた為夜の方はすっかりご無沙汰で、溜まりに溜まったものが、爆発したのだった。

 ダンクは昔から強い雄で、族長の父を持ち物心ついた時から、部族内の年上の雄達との喧嘩で渡り合っていた。しかし、彼の父は外から来た流れ者に殺された。族長だった父が殺されれば、当然その家族も皆殺しにされる。生き残れるのはメスだけだ。ダンクは必死に逃げて、流れ者となった。その日の恐怖と恨みを、彼は決して忘れることはなかった。

 彼が大人になった時、部族へ舞い戻り父を殺した雄を八つ裂きにした。それ以来彼は、次々と他部族を糾合し豹族全ての長となった。一つの部族に二百名規模の部族は珍しい大所帯である。その為他種族の獣人も、ダンクには一目置かざるを負えなかった。彼は卑怯者ではなく、義理堅い性格で他種族とも仲良くやっている。そんなダンクは、フレイムから受けた恩義はきっちり返すつもりだった。


 そして今ここに、ダンクの呼びかけに応じてボロキアの森全ての部族長が集結していた。集まっているのは、ボロキアの森に縄張りを持つ獣人達の全族長である。場所は、獣王の家と呼ばれる場所で、三つの大木の中心からぶら下がった蔦で、包まれた球体の中である。


「一体いつぶりだ、この獣王の家で会議をするのは。」

 と熊の獣人が、胡座をかき肘をついて疑問を投げかける。


「初代獣王“バルザーク”様は、今から400年程前の英雄ですから、それ以来となりますと実に400年ぶりにこの場に我々が集まった事になります。」

とフクロウの獣人が答える。


「ここが獣王のみが、住む事を許される。王宮ですか?なんだか、窮屈ですね。」

と、鷲の獣人が答える。


「そんなことはどうでも良い。ここに我らが集まったと言うことは、不遜にも獣王への挑戦を宣言した愚か者がいると言うことだ。」

と、狼の獣人が答える。


「しかも、聞いた話では挑戦者は人間だとか?シュルル」

と、トカゲの獣人が答える。


 そう聞いた瞬間、百名の部族長が我を忘れ、獣の声で騒ぎ立てた。その様子は、さながらジャングルの喧騒である。そこに、虎の獣人が床を大きく拳で叩いた。その音と振動で皆落ち着きを取り戻す。


「騒ぐな。挑戦者が人間だろうと宣言は宣言だ。それにこの話は、若き勇者ダンクが持ってきたものだ。」


「その通りだ。ベンガル様、ご紹介ありがとうございます。私は、ある人間から獣王への挑戦宣言を受け、それを受理した。」


「なんと勝手な!!」


「我々への、相談もなく決めるとは。何様のつもりだ!」


「思い上がるなよ、若造め。貴様のような子猫など、我が爪と牙で一捻りである。」


「納得のいく説明をしてほしいでごじゃるな。説明していただけぬのなら、ここでその思い上がった首、もらうまでじゃ。」


 獣王への挑戦、これは獣人全てを巻き込む一大イベントだ。何せ、挑戦者に負ければ殺されるのは間違いないからである。ここに集まったそれぞれの獣人達は、死ぬ思いをしてその座を勝ち取ったものがほとんどである。にもかかわらず、強制的に命のやり取りをしなければいけない事に、突然巻き込まれては寝耳に水もいい所である。


「おや、おや、私は皆さんから感謝される覚えはあれど、非難される謂れは無いですな。」


「どう言うことだ?」


「感謝だと?気でも触れたか。」


「こうして皆さんが集まることができたのも、魔獣に悩まされなくなったからではありませんか?」


「確かに、我々はつい最近まで魔獣との縄張り争いに明け暮れていた。それがある日、森から魔獣が居なくなった。何かあるとは思っていたが、そのカラクリを貴殿が知っているとでも?」


「その通りです。誇り高き我ら獣人ですら、手を焼きに焼いた魔獣の大群を一人の人間が討ち滅ぼした・・と言ったらどうしますか。」


「馬鹿な!それこそ信じられへん!人間が獣王への挑戦宣言したぁ言うだけで、馬鹿馬鹿しいのに、これ以上アホな話があってたまるかいな!!」


「猿のやつの言う通りだ。獣王の家で、虚言は大罪であることは知っているな?」


「もちろんでございます、ベンガル様。それでは証拠を示しましょう。我が戦士長ミュート、証言してくれるかな?」


「はっ!」

 そう言うと、ダンクの後ろで控えていた精悍な豹族の戦士が一歩前に出て、堂々と証言をした。


「私は、豹族戦士長ミュートであります。我ら祖先の獣魂に誓って、証言いたします。ダンク様の先程の話は嘘偽りではございません。その証拠に、件の人間にダンク様の正妃アイラ様を譲渡致しております。以上です。」


 ミュートの証言を聞いた族長達は、一斉にざわめき出した。ここで言う戦士長は、人間の世界でいう騎士に近い存在である。その証言には、大きな影響力を持っていた。

豹族族長ダンクの正妃アイラは、他の部族にまでも名が知れているほどの戦士であり、美女なのだ。それをメス好きの獣人が手放すなど、あり得ぬ話だ。だが、この獣人会議では必ず族長は、戦士長一名と正妃を連れて来なければいけない決まりなのだ。もし破れば、他部族からの侵攻を無条件で、許さなければいけないほどの無礼行為だ。そして本日ダンクが連れてきている正妃は、別のメスだ。それは即ち、アイラは正妃では無くなったことを意味している。

 自らの正妃を他者に捧げる行為は、獣人達の間では最大の礼を意味する行為だ。


「良いだろう。貴様の話を真のことだとして話を進めるが良い。これ以上の邪推は、虎族族長ベンガルが許さん。邪魔だてするものあらば、我が虎族が全力でお相手しよう。」


「「「「・・・・。」」」」


 虎族は、実質この森の支配者である。彼らの強さはこの森に住むものなら、幼児の時から知っている。本来であれば獣王の座に最も近いのが、このベンガルである。そんな彼らの機嫌を、進んで損ねようなどという物好きは居なかった。


「よし、話を続けよ。」


「かしこまりました。その人間は、魔術師だそうです。どんな魔術を使ったか知りませんが、魔獣の大群を一箇所に集め、龍の手を借り、灼熱の業火で奴らを焼き滅ぼしました。」


「なんだと・・一体どんな魔術を使って、龍を呼び寄せたのだ。」


「魔術ではありません。羊です。」


「羊?」


「そうです、みなさんも幼き頃から聞かされる童話や伝説では、龍の主食や好物は羊とされてきました。そして最近、霊峰エーナを根倉にしている龍が居ることは皆様もご存知のはず。その龍を大量の羊で呼び寄せたのです。そもそも、この地上で龍を操れるものなどおりません。」


「それはもっともな意見だな。なるほど、話が見えてきた。ここにいる殆どのものが、魔獣に煩わされていたが、その人間のおかげで大した損害を受ける前に、我らは事無きを得た。そしていわば、恩人とも言える人間が獣王への挑戦宣言をした。我らは、答えるほか無いと言う事だな。」



「ベンガル様のおっしゃる通りでございます。よもやここまで来て、誇り高き獣魂(けだま)をお持ちの方々が逃げようとは思いますまい。」



 これはもう逃げられない。ここに出席している全員が、そう思った。かくして、フレイムの宣言はここに受理されたのである。

 獣人会議は終わり、続々と族長達が自分の縄張りへと空を飛んだり、走ったり、車に乗って帰る中、ベンガルとダンクは少しだけ会話をした。


「その人間、強いのか?」


「流石、英雄ベンガル様。あなたの興味は、いつもそこなのですね。」


「当たり前だ。弱者に興味などない。我が望みは、死力を尽くしてもなお、敵わぬ強敵に出会うことだ。・・それで、我が問いに答えよ。」


「残念ながら、貴方様の出る幕は無いと存じます。」


「そうか、まぁ良い。勇者ダンクよ、貴様と戦う日を楽しみにしている。」


 ベンガルはそう言い捨てて去っていった。


「怖いお人だ。・・我らも、帰るぞ。」



 そして遂に、フレイムが獣王への挑戦をする時がやって来た。フレイムは、従者に騎士ガッシュだけを伴い出立するようだ。そして彼らを“獣王の滝壺”まで案内するのは、獣人アイラである。しかし、アイラは全く乗り気ではなかった。と言うのも・・


「全然、夜這いできなかった・・」


「ははっ、アイラは僕に夜這いをするどころか毎日のように、リルに夜這いされてたもんね。」


「アイラに抱きついて寝るとね、あったかくてフワフワでもふもふなんだよ!!すっごい幸せだった!」


 アイラはどちらかというとリルのものに成ってしまった。アイラがオス相手以上に身の危険を感じるのは、初めてだったようで、リルと昼間に出くわさないように必死だった。見つかって仕舞えば最後、胸に飛びつかれてあらぬところから全てを、モフモフの刑に処されてしまうからだ。


「それにしても、本当になんの対策もせずこの日を迎えてしまうとは、フレイム殿は肝が太いな。」


「なんの対策もしていなかった訳じゃないさ。私は私で、羊を集めるのが大変でしたから。」


「羊?今回は、羊がいてもどうしようもないと思うのだが。先に言っておくが、羊を使って龍を呼び寄せた所で、それは貴様の力ではない。仮に族長達を皆殺しにできても獣人達は、貴様を王とは認めないぞ?」


「わかっています。安心してください。今回は、龍を誘き寄せたりしませんから。」


「そうか、だがどうするのだ!?これから貴様らは、死にに行くようなものなんだぞ?!」


 アイラは道中終始、呆れたようだった。フレイムとガッシュは、まるでピクニックでもしているかのように鼻歌を歌ったり、木の実を食べて実に楽観的だった。そして、屋敷を出たのが早朝だったのに対して、すっかり日が暮れるころに目的地に辿り着いた。


「ほら着いたぞ、ここが獣王の滝壺だ。」


「結構前から聞こえていましたが、ここは滝壺ではなく大瀑布の間違いではありませんか?」


 そこは、大河が滝となって落ち込み、水飛沫が轟々(ごうごう)と飛散し、円状に崖が湾曲している場所だった。そして、滝の落ち込む水上に水で削られて出来たような、まるで浮いてるように錯覚しそうな円形の陸があった。その陸の周りは滝の壁に囲まれている。

そして既に、獣人達はお祭り騒ぎであたり一帯に居座っていた。その間を通るフレイムらのことを、まるで珍獣サーカスを見るかの如く囃し立てた。


「あれが人間か、毛も生えておらんぞ。それに変な布を体に巻いておる。」


「キヒヒッ、まるで毛の生えていない猿じゃな。」


「それにしても、あの青い猿弱そうじゃぞ?あれで挑戦するのか?」


「馬鹿を言うな、あれは従者じゃろ。あっちの鎧を着た方が挑戦者に決まっとる。」


「それもそうじゃ。今から奴らの肉が楽しみじゃな」


「わしらまで回ってくるといいの〜」



 その様子をフレイムは、横目で見て満足げに笑っていた。


「どうやら我々は、歓迎されているようですね。」


「はっ、その様です。」


「ハァ〜?!どこがだ、皆お前達を今夜の晩飯くらいにしか考えていないぞ!!?今からでも遅くない、私がダンクに頼み込んでやる。」


「いえ、その必要はありません。安心して、見ていてください。」


 そして滝を壁にした円形の陸の孤島にたどり着く。そこには百の異なる獣人達が勢揃いで出迎えた。先頭には、虎模様が猛々しいベンガルと、豹族のダンクが待っていた。


「よく逃げずにきたな、フレイム殿。」


 フレイムは、貴族のお辞儀をして応えた。


「ダンク様もお出迎え感謝いたします。」


「まさか貴様が、挑戦者だと言うのか?その後ろの雄ではなく。」


「はい、私が挑戦者です。」


「ふざけるなぁ!!!!!」


 ベンガルの一喝は、滝に吸い込まれることなく響き渡った。ものすごい声量が、二人を襲ったがフレイムは眉一つ動かさなかった。


「ほう、肝は座っているようだ。あながちクズというわけでもないのか。だが、貴様からは一切武の匂いがしないぞ?そうか、貴様は魔術師だったな。ならば、魔術で我々と戦うのか?」


「いえ、皆さんと同じく、我が爪と牙で持ってお相手させていただきます。」


「「「・・・・。」」」


 一瞬の静寂ののちに、大笑いの大合唱がそこら中から聞こえてくる。ただ、族長達の中には笑わないものもいた。侮辱されたと感じているからだ。


「おい人間。これが、我ら獣人にとって神聖な決闘であることはわかっているのか?」


「勿論です。」


 その瞬間、ベンガルの鋭い爪がフレイムの喉元に触れ、一筋の血が流れた。咄嗟に、ガッシュが剣の柄を握るが、それをフレイムは手で制す。


「であれば、本当に冗談を言っているのではないのだな?」


「えぇ、冗談は言っていません。私の爪と牙であなた方を、ねじ伏せた方が私を王として認めやすいでしょうから。」


「ならば見せて貰おう。貴様の爪と牙を、太鼓を打ち鳴らせぇええ!!」


 ベンガルがそう叫ぶと、獣人達は太鼓を打ち鳴らし、銅鑼を叩いた。これから、400年ぶりの獣王への挑戦が始まろうとしていた。


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