第十六話「先住民族」
ここまで読んでくださった皆さん!是非感想をお待ちしています!
一言で良いので、お待ちしております!!
「リル、客人を困らせるんじゃないよ。全く、僕も抱きつきたいっていうのに。少女の役得ですかね。」
「お前は、誰なんだ!?それとこの小娘を早く、私から引き離せ!」
豹の獣人の胸で顔をすりすりするのに夢中なリルを、ナミと協力して引き剥がした。
「あぁ〜私のモフモフがぁ〜〜」
「い、一体///全体///な、何なんだ!人間とはこうも獣しかおらんのか!!///」
豹の獣人は、今あたかも貞操の危機に晒された生娘の如く体を、隠していた。確かに猫好きならば、その体を抱きしめたくなること請け合いである。
「私の婚約者が大変失礼いたしました。」
「こ、婚約者?人間はこのような幼気なメスを、この歳でオスの慰み者にするというのか!!?」
「・・あぁ、え〜っと。もしかして人間と会話をするのは、初めてだったりするのでしょうか?」
「あ、当たり前だ!!我ら獣人は、人間などと関わりを持ったことはない!!」
マジか、と言った表情を皆が浮かべていた。
「では、何故ここに来たのですか?」
「そこの人間のメスにも話した。これ以上、下級の存在に同じ事を話す気はない。貴様らの群れのボスを呼んでくれ!そこのメスにもそう言ったはずだ!!」
「でしたら、話してください。私がここの人間達のボスですので。」
「ふざけるな!!貴様のような、見るからに弱くて若いオスが群れを率いれるわけないだろう!!」
「・・・。」
豹の獣人は、その間を感じて右を見て、ナミに確認を求める視線を送り、彼女が頷くのを確認する。今度は左を見て、リルに確認を取ると同じ反応が返ってきたことに驚愕した。
「に、人間は、このような弱そうな若いオスをボスとして認めているのか。まだそこの下級の方が強そうだぞ。これでは、助けは見込めそうもないではないか。」
豹の獣人は、勝手に凹みその場で膝をつき絶望した。その様子を見かねて、フレイムはナミに説明を求めた。彼女の話を聞くところによると、獣人の里に一年ほど前から魔獣が多く現れるようになった。それは日に日に、魔獣の数が増えていき、今では縄張りをめぐって、戦争になるほどの規模に膨れ上がったという。彼女の里は魔獣との戦いに敗れ、チリジリとなってしまった。他の仲間を探すべく、やむなくこの人里に助けを求めにきた。そんな感じだ。
「話は聞かせてもらいました。要は、あなたのお仲間探しを手伝えば良いのですね?」
「いや、この話は聞かなかったことにしてくれ。どうせ貴様のような弱いオスが、魔獣と戦っても無駄死にするだけだ。食い物を分けてくれたことは礼をいう。明日には、ここを立ち我らだけで、同胞を救いに行くとする。」
「そう急いでも、良いことはありませんよ。それに、人間の強さは何も腕力だけではありません。そんなに心配されるなら、私の部下の中で一番強いオスをご紹介しますよ?」
「何を言っているんだ?!貴様が群れのボスなら、貴様より強いオスが弱いオスの下につく訳がないだろう!!馬鹿にしているのか!!」
獣人達は、本能に従って生きている。彼らは、強いオスを頂点としたカーストのもとで社会を作っている。最も強いオスが、群れの長としてルールを作り、森の中に縄張りを張って生活している。そこにさらに強いオスが現れれば、負けたオスは群れから追い出されるか、一生奴隷のようにその里に奉仕することになる。その為基本的には、一つの里の中で群れのボスより強いオスは存在しない。
その為彼女は、全く理解できないでいた。人間の強さの基準はいろいろあるということを。
「どうやら論より証拠のようですね。ナミ、ガッシュを呼んできてくれ。」
「はっ。」
「・・・?」
少しすると、ガッシュがやってきた。ガッシュを見た豹の獣人は、全身の毛を逆立て威嚇してきた。それだけ、ガッシュのことを脅威だと感じたのだろう。連れてこられたガッシュは、この状況を飲み込めないでいる。
「フレイム様、これは一体何事ですか。」
「ガッシュ、あなたの主君として初めての命令です。そこの猫と遊んであげなさい。決して、負けることは許しません。」
「・・はぁ、御意。」
ガッシュはまず、素手で相手をしようとしたが、思いの外豹の獣人は、子供の獣人から槍を手渡された。それを見て、ガッシュもフレイムから授けられた魔法剣を引き抜いた。
「俺はロックウェル家の騎士・ガッシュだ。お前の名はなんて言うんだ?」
「豹族、族長の妻アイラ。」
先に動いたのは、アイラだ。足を折り曲げ、バネのように槍を構えて突っ込んでくる。それをガッシュは、横に避け素早く上段から斬りつけるが、アイラは地面に槍を突き刺し、棒高跳びのようにそれを避ける。この切り返しは、人間の身体能力では当然できない動きであり、目の当たりにしたガッシュは驚いた。
「おいおい、冗談だろ。ブヘッ!」
ガッシュは、突き刺した槍を軸にした、アイラの回し蹴りを食らってしまう。鞭のような足蹴りに、ガッシュは口の中を切ってしまった。手で、口から溢れる血を拭い、想定を上方修正する。ガッシュは、剣術に関しては未だセバスの元で修行中の身であった。一度剣を鞘に納め、右手を差し出した。
「ベック、俺の戦斧を寄越せ。」
ベックとは、見習いの衛兵でシェリーとヤコフの同級生でもある。彼は、自分よりも大きな戦斧を必死に持っていて、それを懸命にガッシュの元まで駆けて行き手渡した。
「悪いな待たせて、こっちが俺の本業なんだ。」
ガッシュが、上段に斧を構えるとアイラの全身の毛が逆立った。それは鳥肌である。
“プレッシャーが跳ね上がった。ただでさえ、強いオスだとは思っていたが・・これは夫に匹敵する。まずい。”
先ほどまでとは段違いのスピードで、ガッシュの斧が眼前に迫ってきた。先程のように交わすことはできないと判断して、鋼鉄製の槍の柄でそれを防ごうとするが、魔鋼で鍛えられたガッシュの戦斧には無駄な抵抗である。
柄はバターのように切れた。
「ッ!!!」
アイラは、自らの敗北を受け止め目を瞑った。彼女は死を受けいれたのだ。しかし、もちろん、その瞬間はいつまで経っても訪れはしなかった。変に思い、彼女は恐る恐る目を開けると既に、ガッシュは斧を下ろし、肩に担ぎあっけらかんとしていた。
「女にマジになったのは、初めてだったよ。」
「なぜ・・・。なぜ、トドメを刺さないんだ?私は、戦いを挑み負けたのだぞ。」
「なぜかって?そりゃあうちの大将が、お前と遊んでやれって言ったからだ。遊びで死人が出たら笑えねぇだろ。」
「お前のように強いオスが、なぜ自分より弱いオスに従うんだ!?」
「大将が俺より弱い?・・ワハハハハッ、笑わせるぜ。大将が本気になったら、俺が百人いても勝てねぇよ!」
「嘘を言うな!!!どこまで私を馬鹿にする気だ!!」
「嘘なんか言うかよ。俺が俺より弱い男の下につくような、小さい男だと戦った今でも思うのかよ。テメェこそ、俺を馬鹿にしてんのか・・・?」
アイラは、あまりのガッシュの真剣ぶりと戦いぶりを踏まえて、先程の会話を思い出していた。
“人間の強さは、腕力だけではないとは本当なのか。もしやあいつは、魔術使いなのか?!”
「おい青い髪の人間。貴様、名前は?」
「フレイムです。」
「フレイムは、魔術使いなのか?」
「・・?えぇ、魔術は使えますよ。」
「そうか、納得いった。」
アイラはそう言うと、地面に寝転がり腹を見せ始めた。
「どうか、我ら豹族を救ってほしい。その暁には、我が身をあなたに捧げよう。」
「・・え?!その格好は?」
「腹は、動物にとって最大の弱点だ。それを相手に晒すのは、最大の信頼の証だ。なんだ、人間はしないのか?」
「しません。」
「そうか、ならば貴様ら人間のポーズを教えろ。」
フレイムは戸惑いながらもお辞儀を教えた。すると、アイラはお辞儀をして頼み込んだ。それをフレイムは、二つ返事で承諾し、彼女とその仲間を屋敷へと招いたー
ーのだが、街に近づくにつれて豹族の獣人達がどんどん青ざめ始めた。中には、気絶するものまで出てきたのだ。
「ど、どうしたんですか?どこか具合でも悪いのですか?」
「い、いや、ここから先はとてもじゃないが恐ろしくて、踏み入れそうもない。」
「・・・もしかして、縄張りを感じていますか?」
「よくわかったな。人間のくせにこの匂いを感じ取れるとは、流石ガッシュ殿のボスなだけある。」
「わかりました。先程のキャンプまで戻りましょう。」
「フレイム様これは一体・・。」
「フリードリッヒの尿の匂いだ。彼らはそれに怯えているんだよ。」
ロックウェル領が、なぜ安全に魔獣狩りを行うことができ、かつ魔獣やモンスターの侵攻を許さないのか。それは、フリードリッヒがこの周辺にマーキングしている為である。生物最強の龍がマーキングをすれば、その場所を脅かそうとする動物はまず居ない。なぜなら、生存本能から真っ赤な危険信号が出るからだ。獣人である彼らも、自分たちの里の周辺にはマーキングをする習慣があるため、フリードリッヒの尿の匂いはさぞ強烈だろう。
となると、フレイムは一抹の嫌な予感が頭によぎる事になった。キャンプ場に戻ってきて、アイラは地面に簡単な地図を書き始めて、ことの詳細を話してくれた。
そして、その予想は当たる。
「もしかしてですが、魔獣達は東からやってきましたか?」
「あぁ、その通りだ。襲ってくる魔獣は、常に東からやってきた。」
嫌な予感は一層その影を濃くする。
「魔獣達は、いくら追い返しても諦めずに、縄張りを奪おうとしてきましたか?例えば、自分たちより圧倒的な何かに怯えて、縄張り追われた獣のように。」
「その通りだ。いくら、深傷を負わせても決して奴らは諦めなかった。まるで、退けば必ず死が待っているかのような覚悟を感じたな。」
ここまでくれば、フレイムはもちろんアイラですら勘づき始めていた。
「やっぱり」
「もしかして」
「魔獣どもは、龍の存在に怯えて西まで逃げてきたのか。そう考えれば全て納得がいく。縄張りを追われてしまったんだな。」
「・・・。」
フレイムは完全に自分のせいであることを自覚した。しかし、ボロキアの森に知的生物が住んでいることを知らなかったという言い訳はあった。しかし、知らなかったとは言え彼らに間接的に迷惑をかけてしまったのも事実。そして何より彼らは、代官であるフレイムの領地に住むいわば、先住民族なのだ。ここで真実を教えて怒りを買い、戦争になることだけは避けたかった。
そしてできれば彼らを領民として、受け入れたいのが本音だ。しかし、これまでの感じからすると、文化も価値観も違う彼らをどうやって説得するか。それはまだ、熟慮の余地が残っていた。そうとなれば、まず友好的な関係を築くのが正解である。
「アイラさん、我々は全力であなたの力になります。必ず、アイラさんの仲間を救いましょう!」
「本当か!!それは本当に助かる。ガッシュ殿のような強いオスを率いる魔術使いが、味方になってくれるのは本当に心強い!一族が救われた暁には、この身は貴殿のものだ!」
「いや、アイラさんを貰うのはちょっと・・」
こうして、フレイムはボロキアの先住民族とファーストコンタクトをとったのである。




