第十五話「新たな出会い」
フレイムは、いつも着ている貴族服よりも、上品な礼服を着ていた。つい先日建立した教会で、これからガッシュは神々が見守る中、騎士の誓いを立てるところだ。
フレイムは自らの帯剣を腰から抜くと、その平を目の前で跪く大男の右肩に添えた。
「ガッシュ・モルト汝は、神々の前でこれより騎士の誓約を、祈誓するか。」
「祈誓いたします。」
ならば、私は貴様の主君として問う。汝はいかなる神のもとで、誓いを立てるのだ。
彼は迷う事なく
「破壊神ビードルの名のもとに」
という答えがあった。
良いでしょう。
破壊と嵐の神、万物の理りを破壊し、一なるものの護り手にして、宇宙の支配者たるビードルよ。
ご照覧ください。
我が牙であるもののふが、あなたの御名のもと騎士たる誓約をいたします。
ガッシュ・モルトよ
汝は、誰人に忠誠を捧げて騎士となる
彼は、少しの間自分自身に問いかけた。根無草だった自分が、今や貴族の元で騎士となろうとしている。騎士とは、貴族家の看板であり最も信頼される家臣だ。ガッシュは思う。目の前の、自分と歳が一回り以上も若い青年のどこに惹かれたのか。彼は、少し顔を上げてフレイムの青い瞳を覗き込んだ。
あぁ、そうだこの瞳だ。初めて会った時、見たこともない炎をこの瞳の中に見た。俺が思い付かないような事を、我が主君は成そうとしている。その戦場を先頭で走り抜きたい。先頭でその景色を、主君が鍛えた剣で切り開きたい。
ガッシュの瞳から迷いは消えた。
「俺の忠誠は、主君の野望に捧げる。」
と、答えた。
良いでしょう。
「帝国貴族フレイム・ロックウェルは、いかなる時もあなたと寝食を共にし、あなたの名誉を傷つける行いを求めない事を、神々に誓約する。」
宣誓してから、フレイムは剣の平で、右肩を一度、左肩を一度叩いた。それから、剣を鞘に納めて水平に持ちガッシュにしか聞こえない声で言った。
「約束の魔法剣です。あなたの破壊神よりお借りした魔法が込められています。これを貴方に、授けます。」
「ありがたく」
教会中から、拍手が巻き起こり祝福の言葉が飛び交った。
「騎士様〜〜」
「ガッシュさんかっこいい〜!」
「フレイム様〜〜!」
「俺もいつか騎士になるんだ〜!」
フレイムは、ガッシュと共に屋敷に戻った。執務室では、ガッシュ他暁の旅団メンバーが勢揃いだ。
「それにしても、ガッシュが騎士様だなんて笑っちゃううわね。アハハハハッ、ありがたく・・ですって!ぷ〜くすくす。」
「わ、わしも、笑いを堪えるのに必死じゃったよ!!ガハハハハッ。」
「同感です。あのおバカさんが、立派になられて。」
ガッシュは、顔を真っ赤にしていた。
「お、おめぇらぁ〜〜〜////」
「はいはい、揶揄うのはそこまで。ガッシュには、これから騎士としての振る舞いを覚えてもらはなければならない。」
騎士は、準貴族として扱われる。皇帝への謁見までもが許され、その証言は、皇帝ですら無視することはできない。その為、騎士としての振る舞い、言動に至る一挙手一頭足がロックウェル家の評判につながる。粗野なガッシュにとっては、苦しくて堪らないだろうが堪えて勉強してもらう他ない。
「はっ。」
「プゥ〜、笑死にそう。」
「・・・///」“後で殺す”
「セバス、ガッシュに毎日講義をしてあげて。セバスから学べば、どこに行っても恥ずかしい目には遭わないだろう。」
「かしこまりました。」
「よろしくお願いする、セバス殿」
「前から思ってたけど、セバスさんって何者?万能すぎるでしょ!」
「まぁ、ここにいる皆は我が家の従士だ。セバス、改めて自己紹介をしなさい。」
「御意。皆様初めまして、私はセバス。ただのセバスです。元々は、帝国軍人でした。退役後は、フレイム様のご実家ボードウェル家の執事としてお仕えし、その後フレイム様に忠誠を誓い今にあたります。ロックウェル家の暗部も司っております。以後お見知り置きを。」
セバスは、フレイムの抱える暗部そのものである。フレイムが今まで後ろ暗いことがなかったかといえば、それは否である。しかし、それが表沙汰になったことはなく、これからも無いだろう。セバスは元帝国軍人と言ったが、本当は皇帝お抱えの暗部だった。現皇帝は一度だけ国を憂い、ジアの命を狙ったことがある。それをフレイムは食い止めた。その時の刺客が、セバスであり、暗殺を失敗した彼は暗部を追われ、フレイムが匿った。それ以来、セバスはフレイムに絶対の忠誠を傾けている。
「立居振る舞いから只者ではないと思っておったが、まさか元帝国軍人だったとはのぅ。」
「あ、暗部って何?まさか、密かに人殺したり、真実を闇に葬り去っちゃう人達のこと?」
「・・・。」
「これは言うに及ばずなことだが、セバスについて今聞いたことの一切を口外する事を禁じます。彼は私の切り札の一つですので。」
「「「「御意」」」」
「それじゃぁ、今日の会議を始めよう。騎士ガッシュ、街の治安から報告を。」
「はっ。冒険者が度々酒を飲み、喧嘩するなどの事が起きてはいます。だが、重大な刑事事件は未だ起きておりません。」
実際、冒険者はびっくりするくらい行儀がいい。冒険者に粗暴な物が多く、何かと問題を起こしがちなのだが、ここは魔の大森林ボロキア。そのせいもあってか、実力のある冒険者しかここを拠点にしようとする者がいないのも、一つの要因だった。たまに、実力を勘違いした阿呆が来て魔獣の餌になっている。
「そうですか、冒険者が我が領民に危害を加えた場合は、その場で切り捨てることも許可します。騎士とは、それほどの信用があるという事を胸に刻みなさい。」
「しかと、胸に刻みます。」
「治安が悪くなるのは、この先多くの流民が入ってきてから起きるでしょう。冒険者の中に、雇われたい者がいる場合はセバスの面談後、ガッシュの裁量で衛兵隊に組み込むこと。また、現在私に忠誠厚く、見込みのある者がいれば騎士見習いとして取り立てなさい。」
「御意。」
「偵察部隊から、難民に関して報告がございます。」
「なんでしょうか。」
「はい、実は本日未明、西から亜人の難民が現れ、保護を求めています。今日は、騎士の叙任式があった為報告を控えておりました。現在は、牧場付近でキャンプを張らせております。」
「亜人ですか。わかりました。後ほど、足を運びましょう。」
「さて、次はわしじゃ。鉱山の方は、ゴーレムのおかげで、急ピッチで採掘が進んでおる。採掘量については、資料にある通りじゃ。後ほど、珍しい鉱物を届けさせよう。」
「領地経営で必要な資金は有り余るほどですね。これならしばらく、商会は必要もなさそうです。全て私が対応しましょう。」
「了解じゃ、それと後でフレイムに見せたい物がある。悪いが、わしの工房まで来てくれるかの?きっと、ロックウェル領にとって良い話じゃ。」
「それは期待できますね、師匠のお手並み拝見させていただきます。」
「研究所の方からも、朗報がございます。フレイム様がお造りになった魔剣と冒険者のおかげで、魔獣の魔石を十分に仕入れることが可能となりました。それに伴って、研究も進み、ゴーレムの小型化にも成功しました。この小型化ゴーレムであれば、坑道に人間の代わりに入り危険な仕事を任せることができます。」
冒険者を招き、魔獣討伐のクエストを発注した結果、安定した魔獣の素材を確保できるようになった。月に4〜5頭ほどの魔獣が冒険者によって、駆除されている。魔獣とは、普通のモンスターが一定のレベルに達した個体の事を示している。見た目だけでは分別しにくいが、体質や、体の頑強さなどに大きな変化が見られる。例えば、ガッシュたちが倒した黄虎は、体毛に電気を纏い皮膚は鋼鉄すらも弾いた。
その為、普通は毒などで十分に弱体化させてから、手練の戦士十人がかりで、対処しなければいけない存在だ。現在、冒険者ギルド、ロックウェル支部には白竜級が3パーティー、赤狼級が10パーティーほど在籍している。上位パーティーのほとんどは、ダンジョン:ヘルズゲートに潜っているが、他のパーティーは魔獣狩りに興じてくれていた。
冒険者の間では、フレイムの発注している魔獣討伐クエストは割りの良い仕事だと評判がいい。フレイムの鍛えた魔剣は、冒険者全員が買うほどの逸品として知られており、魔獣の皮も切り裂く為。魔獣討伐のリスクは以前から比べれば、ずっと低くなった。
フレイムは、討伐した魔獣の素材全てを買い取る事を条件にクエストを出していた為。魔石については全て、クリスの元に運ばせていた。
「クリス、君は本当に我が領の宝だ。領民を危険に晒さなくて済むなら、それが一番ですから。」
「お褒めいただき光栄です。そのため、現在稼働できるゴーレムが大幅に増えることになりますが、どの事業で稼働させましょう?」
「そうだね、街道を石畳にして、城郭都市を形成しようか。この件に関しては、すぐにそちらへ相談に向かうよ。少し、考えがあるんだ。」
「御意。」
「よし、今日も皆よろしく頼む。解散!」
「「「「はっ」」」」
皆が続々と退出して、入れ替わりでリルがメイド服で紅茶を運んでくる。
「会議お疲れ様。どうだった?」
「うん。みんな働き者で、僕はヘトヘトだよ。」
「フレイムは、遊び人だからね。私で良かったら、遊んであげるわよ?」
「そうかい?なら、視察と称してリルに付き合ってもらおうかな?」
「一体どこに連れて行ってくれるの?」
「モフモフで、ムフフな所だよ。」
「モフモフで、ムフフ?・・フレイムなんか、いやらしいよ?」
フレイムはリルを連れて、亜人が保護されているという難民キャンプへと赴いた。町外れの、牧場の側にテントが数個張ってあり、湯気が上がっている。どうやら難民に、ナミが炊き出しを出しているようだ。
だんだん、はっきりと亜人達の姿が見えてくるとリルは、若干つんとした耳を動かして、ソワソワし始めた。
「わぁ〜、獣人さんだ!!」
リルは駆け足で駆け寄り、獣人の子供達と握手を始めたりした。それはもうすごい興奮していた。するとそこへ、立派な大人の獣人が現れた。
「貴様は、何者だ!!子供達に何をする気だ、人間!!」
背が高く、全身が豹柄で赤みががかった茶髪の獣人で、頭には豹と同じ耳が生え、尻尾が揺れている。どうやら豹の獣人のようだ。
「・・ふわふわのモフモフだ〜!!」
怒鳴っている彼女を前にしても、臆する事なくリルはその豊かな胸に飛び込んだ。
「な、なんだこのクソガキは!!は、離れろ!?キャァ、そこをぐりぐりしちゃダメェ〜〜」
「あははは、羨ましい限りだ。僕が遊びに来たはずなんですけどね。」




