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第十三話「魔法剣」

遂に、魔法剣が登場します。



−−帝国暦311年5月1日

 ロックウェル領は雪解けと共に農繁期を迎えていた。街から東には、二区画分の耕された小麦畑が広がり、西に行けば家畜達が泥遊びをしている。小麦の種は、侯爵から買取り、家畜は他領の庶民たちから言い値で買い取った。畑の耕し作業には、ゴーレムが使われ二日間で土壌が完成した。

 他にも、街の街道を南に敷いて森を切り進むのも、鉱山の掘られた土砂などの搬出もゴーレムが大活躍を見せた。そのおかげで数の少ない領民は、家事や仕事に専念する事ができたのである。これだけの大規模な事業が、たったの1ヶ月で進んでいき、ゴーレムの有用性は群を抜いていた。

 

 フレイムの鍛冶場事情にも大きな進展が見られた。鉱山から、木炭よりも燃焼温度が高い石炭が見つかったのだ。これによって、魔鉱石の製鉄及び魔鋼の鍛錬にフリードの炎が必要なくなったことを意味している。つまり、これまでフレイムが魔剣として売り捌いていたものを鍛える際に、誰かにフリードリッヒを隠す必要は無くなった。

 フレイム邸の鍛錬場以外に、ロイ爺さんの鍛錬場を設けた。ここでロイ爺に、一般客の相手をしてもらうことになった。


「儂は、魔鋼を扱えれば文句はない。別に良いぞ。」


 ロイ爺は快く快諾しそこに、シェリーとヤコフも放り込んだ。フレイムなりの配慮と修行である。最近では、冒険者ギルドも会館を建て、宿屋も立ち冒険者でロックウェル領は賑わっていた。その分、侯爵は割りを食い、小麦を買うときにはまぁまぁな金額をふっかけられてしまった。が、迷惑料として何も言わずフレイムは払った。


秘密の鍛錬場ではリルとフレイムそして、フリードリッヒだけとなった。フレイムは、出来上がった魔剣をまじまじ見たり、振り回したりしている。


「出よ!発現せよ!・・駄目だっ!!これはただの魔剣だ。畜生。」


「今日も、荒れてますね。」


「クワァ〜毎度同じ見せ物ではつまらん。リルなんとかして来い。」


 “なんとかって、言われてもなぁ。”


「どうしたの、フレイム?声なんか荒げちゃって。」


「なんて白々しい問いかけでしょうか。・・はぁ、この魔剣に魔術を付与できれば少ない兵力で大軍を討ち、万の兵に持たせれば国をとれます。・・・なのに、なのになのになのに!!何故、魔法が定着しないんだぁああああ!!!」

 

付与魔術のエキスパート、クリスに相談はして見たものの、剣自体が魔術を保持し、常時発動できるなんてことはあり得ないと一蹴されてしまった。戦闘時に、短時間付与できるだけでは駄目なのかとまで言われていた。そう、これがこの世界の常識である。


「お、おやびん。これは私の手には負えません。お助けください。」


「お、おやびん?なんじゃそれは・・まぁ良い。フレイム、知恵の足らんお主に、ちぃとだけこの高貴な儂が、知恵を貸してやらんことも無いぞ。」


 黒猫姿のフリードが、猫特有の背伸びをしながら尻尾を揺らめかせ近づいてくる。


「・・・聞きましょう。」


「それが高貴な龍たる儂に、ものを聞く態度かぁ〜〜?やはり、教えるのやめよっかなぁ〜〜。」


黒猫リッヒは、可愛げのある猫の顔でメンチを切ってくる。


「ムギギギギ、羊を一頭で手を打ちましょう。」


「5頭じゃ。」


「2頭」


「5頭じゃ。」


「・・3頭」


「鐚一文負けぬ、5頭じゃ。」


「くぬぬぬぬぬ、セバス・・領内の羊を5頭言い値で買い取ってきてください、出費は私付で。」


「かしこまりました。」


“人の足元をみやがって、覚えてろよぉ”


「それで、一体何なのですか?その叡智とやらは・・」


「遥か昔、愚かなエルフがいてな。儂に剣で挑んできたのよ。儂は貴様が汗水垂らし鍛えているその棒切れ、のようなもので血を流したことは一度も無い。しかしな、其奴の剣からは魔の香りがした。」


「魔の香り?まさか、魔力を感じさせるこの魔剣だとか言うんじゃ無いだろうな?」


「鈍いのぉ。独立した魔術式が、その剣から感じられたんじゃ。」


「過去に、魔法剣を鍛えた奴がいるってことか!?」

 

 剣に魔法を付与する事は、古代から試されてきたが完成した試しはない。教養がある者ならば誰もが知っている事だった。 


「そう急くな、・・其奴を焼き殺した後、興味本位で拾ってみたらな。その剣には文字が刻まれておった。儂ら龍の語る言葉で“斬”の一文字がな。」


「龍の言葉だと・・?」


「お主ら人間はルーンなどと、言っているようだがな。」


「古代魔法語の事か!!古代魔法で扱われていた術式には、複雑な魔術式を高密度に圧縮して、一文字にまとめられた。それらが幾重にも並び、組み合わさる事によって、絶大な魔法を発動できたと聞くけど。今や、ルーン文字は失われ、遺物も知識も残っていない・・。」


「でも、フリードリッヒ様なら知っているんですよね?ルーン文字のこと。」


「さすが儂の愛玩動物じゃ、その通り知っている。」


「「!!」」


「ルーン文字とは儂ら龍が、魔術を発動するときに放つ音を勝手に、人間が翻訳して簡易化したものじゃ。儂が知っとる本来の音は、そんな低俗な文字とは比較にならん力がある。」


「でも、タダで教える気は無いでしょ?」


「グラララララッ、儂のことがようやく分かってきたようじゃな。」


「見返りは如何程ですか?」


「そうじゃなぁ、貴様ら人間に倣い一音・・羊千頭じゃ。」


「一文字、羊千頭!!!?・・ふ、ふざけてるんですか?」


「ふざけてる、だと?お主こそ、ふざけているのか?龍の力の価値が、そのようなチンケな棒切れと一緒なはずがなかろう。むしろ、たかが羊で済むのだ。安かろう?」



 フリードリッヒは、“羊が揃ったら起こせ”とだけ言い残して、丸まり昼寝を始めてしまった。それをリルは、“よし、よし”と撫でていた。



「羊を千頭など集めたら、北方領土から羊が居なくなります。・・参りました。」


 フレイムは、頭を抱えて思考を整理する。

 “理論上、魔術を物体へ移すには条件が3つ揃わなければならない。一つは、魔法術式の刻印。二つ目は、魔力の伝導率。そして最後が魔力の供給。現代では、魔法を発動させるには二つの方法が存在している。一つ目は、詠唱である。詠唱は、それぞれの魔法を司る神々へ捧げる文言を唱えて発動させる。二つ目は、文言を術式としてあらかじめ書き起こして魔力を注ぎ発動させる。現代の主流は、後者である。だからと言って、金属に長々と術式を刻印する訳にはいかない。要は、最初の一歩で躓いてしまっているわけだ・・


 二つ目の魔力伝導率は、クソッタレな暴食羊達磨によって、魔化した鉄鉱石を使っている為問題はない。十二分に伝導体としては破格の性能だ。そして最後の供給源も、自力で術式を組むほどの魔力は必要ないため。魔法の才能を持たないものでも、魔力は持っている為問題ない。となるとやはり、術式の刻印をクリアしなければいけないか・・・”


 フレイムは、制作に行き詰まると素材を清廉の槌で、小刻みに一定の間隔で叩く癖がある。“キンッ、キンッ、キンッ、キンッ、キンッ”リル曰く、素材と会話しているそうに見えるそうだ。“こうしたいんだけど、だめ?”と問いかけ続けるのだ。


「フレイムの打鉄はいつ聞いても、いい音だね。私この音は、フレイムと鉄のおしゃべりが、沢山詰まっている気がするんだ〜」


「リルはいつも、僕の打鉄を褒めてくれるよね。でもね、これは僕だけが出している音じゃないんだ。みんなは信じてくれないけど、この一音一音には彼らからの返答が詰まっている。本当はもっといろんなことを、僕に伝えたいのに・・・一音では・・伝えきれない・・?」


「私は、信じてるよ!だってフレイムが、作る剣はみんな美しいもん。美しい剣を鍛えれる人は、素材と話せる奴だけだってお爺ちゃんが言ってた!・・フレイム?」



 フレイムは、ルーン文字について龍との問答を思い出していた。

“フリードは、ルーン文字のことを、音って言い直していた。だとしたら、例えば人っていう字は、人が人を支えている組み合わせで、一文字に意味を持たせている。でも、一文字に組み合わせられる文字には限界がある。でももし、龍の発する一音が、一文字以上の組み合わせと意味を持たせることが可能で、それが術式の複雑さに比例するなら、ルーン文字なんか屁でもない力だ。それを真似すればいい、鍛治師にしかできない、僕にしかできないやり方で”


「そうか、出来るかもしれない。僕が歌うは、鉄の調べってそう言うことだったんだ。リル!!手伝ってくれるかい?!魔法剣ができるかもしれない。」


「本当に!!?よくわからないけど、フレイムの為ならなんでもするよ私!!」


「ありがとう、愛しているよ。」


「へっ/////ちょっと、どうしたのさ急に・・。」


「いつも妹みたいに、僕を支えてくれて君への愛情は本当の家族よりも深いみたいだ。それを伝えたくて。」


「・・・あー、そう言うことね。はいはい。さぁ、魔法剣作りましょう。“打撃一鉄を轟かせなさい 雷鳴の槌”」


「・・(なんで棒読み)?うん、そうだね。」



 フレイムらユニークギフト持ちは、能力発言のために聖書の一節を唱えなければならない。例えば、剣のユニークスキルならば剣神「ヴァーミリアン」の章の何処かの一節を唱えなければ、祝福は発現しないのだ。フレイムもリルも、祝福を授かった後に鍛冶場の女神「ミリアンストス」の章を全て一説ずつ唱えて、自分の祝福を発現させた。

 その一節には、神々が意味と知恵を与える為だと言われている。そしてその意味と知恵を信者の生涯を賭けて紐解く事こそが、敬虔なマクニス教徒とされている。

 その意味について、フレイムは悟りを開いたようだった。


「それで、どうやって魔法剣を作るの?」


「それはね、歌うんだよ、鉄の調べを。僕の槌で奏でるんだ。」


「え?」


「まぁ見てて、リルはいつも通りでいいから僕を助けて欲しい。それじゃ行くよ。“僕が歌うは鉄の調べ 清廉の槌”」


 フレイムは己の槌を握り締め、魔鋼を石炭で熱した火床に入れた。十分に魔鋼に火が入ったら、槌を真っ赤な魔鋼に向かって、打ちつけながら歌い出した。リルも、フレイムの指示に合わせて雷を纏い大槌を振るう。


“フレイムは何を歌って・・じゃない、これは魔法詠唱だわ。土魔法の詠唱しか知らないけど、多分物理魔法の詠唱・・破壊神「ビードル」の文言を・・歌っている”


 その後も、フレイムは同じ詠唱を繰り返し歌い続けた。実際に、魔力を練り上げ、魔法を発動させていた。しかし、不思議な事に魔法は発動せず、詠唱が完了するたびに発動するはずの魔法が、フレイムの槌に光の束となって収束する。魔法の光は、魔鋼に叩きつけられ弾けたように見えた。弾けた光は、段々と繰り返し打ちつけるたびに魔鋼に、浸透していき光が強くなった。


“わかる、わかるよ!君は、この歌が好きなんだね。僕がしっかり、この歌を君に届けるから。”


 フレイムは確信する、魔法剣が出来上がることを。そこから、怒涛の打鉄と歌が鳴り響いた。

その様子を、のぞいていた黒猫がつぶやく。

“奴め、己の力に気づきおったな。術式そのものを剣に細々と刻むのではなく、詠唱することで術式そのものを一打に纏めあげ重ねたか。”


「ふっ・・羊は、お預けか。」



 ここにフレイムは、人類史上初めてとなる魔法剣を完成させる。この魔法剣は、帝国に大きな波紋を呼ぶこととなる。


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