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第十一話「雪解け 次代を担う者たち」

・短めです!


次の話で、フレイムの野望の全容が見えてきます。


ご評価、ブックマーク登録よろしくお願いいたします。

−−帝国暦311年4月1日

ロックウェル領は、雪解けが始まり春の芽吹きが顔を覗かせ始めていた。それに加え順調に開拓も進み、領民の家屋はしっかりとした木造で、井戸も十分な数を掘り、街道も整えた。フレイムの屋敷は、周りを領民の家々で囲うように中心にあった。冬の間、常時フレイムらは鍛治仕事に励んでいた。雪のせいで農業ができない領民達も、リルとロイ爺の指導の元、鉱山事業に精力を注ぎ込んだ。

 霊峰エーナの麓を掘り進めて見つかった資源は、鉄鉱石、石炭、銀、銅、金、岩塩である。まだ、深く広く掘っていないのもあるが、鉱脈を読めるロイ爺の見立てによると、奥にはもっといろんな鉱石が眠っているようだ。“ここにドワーフ王国を作れるほどの、資源が埋まっているぞぃ!”と大はしゃぎだ。

 

 フレイムは執務室で、手紙を書いていた。そこへリルが紅茶を運んで来る。


「少しは休んだらどうなの?昨日も夜遅くまで、鍛錬していたみたいだけど。」


「ん、あぁ。ありがとう、ん?」


「どうかしたの?」


「いや、久しぶりに君のメイド姿を見たと思ってね。」


 最近は作業服だったリルのメイド姿は、黒を基調にしたメイド服で黄緑色の髪の明るさがよく似合っていた。今日はツインテールでのご奉仕のようだ。


「な!なんなの急に、そんなマジマジ見ちゃってさ///・・恥ずかしいんだけど。」


「君は仮にも僕の婚約者なんだ。そろそろ、正規のメイドを雇うと思っていたんだけど」


「・・けどなんなの?」


「君のメイド姿を見れなくなるのは、もったいないと思ってね。」


「ば、バッカじゃないの!!変態!!心配した私が、大馬鹿よ!!」


リルは、みるみるうちに顔を赤くして忙しそうに、恥ずかしがったり、怒ったりして出て行った。


「婚約者としての自覚が足りないね。まぁ、彼女を女性として見ているわけでもないんだけど。」


 フレイムは、再び手紙を書き始めた。宛先は、アージハルトへのものだ。内容は、近況と金が採掘できたが、如何様にするかと言ったものだ。ここは、アージハルトの封地であるため、全ての資源が彼のものであることになる。ここに赴任する前に、ある程度話し合ってはきていたが、彼を皇太子に押し戻すためには力と金がいる。特にジアには、金が必要なはずだ。政治に金の力は絶大な効果を発揮する。

 つまりここでは、いかほど送れば良いか聞いていると言う事になる。手紙を書き終えて、蜜蝋で封をした。するとそこへ、セバスがやってきた。


「フレイム様、準備のほうが整いました。」


「わかりました、今行きます。」



 セバスからの報告が入ると、フレイムは襟を正し応接室へと向かった。中に入ると、二組の家族が待っていた。領民は慌てて、立ち上がり“フレイム様”と呟きながら跪くとフレイムが立つようにセバスに指示する。


「どうぞ皆様、お立ちになってください。」


「やぁ、シェリーにヤコフよく来たね。」


「はい、フレイム様!」


「フレイム様、ご、ご機嫌麗しゅうございますだ。」


「ヤコフお前、フレイム様の前で変な喋り方すんなよ!」


「シェ、シェリーこそ、貴族であるフレイム様に向かって馴れ馴れしすぎるよ!」


「なんだとー!」


「な、なんですか!」


 お互いの頭に大きなゲンコツが落ちた。シェリーの父親と、ヤコフの母親だ。二人は、彼らの頭を押さえつけながら、謝ってきた。


「あははは、元気なことはいいことだ。気にしないでください。さて、二人とも家族を一緒に連れてきたと言うことは、決心がついたんだね。」


「はい!俺、必ずフレイム様のためにすごい剣を作れる鍛治師になります!!」


「ぼ、僕もです!フレイム様に救っていただいたこの命に賭けて、がんばります!!」


「君たちの想いはわかった。それで親御さん達も、それでいいのかな?」


「フレイム様。うちの子は、男で一つで育てたせいか女の癖にこんな風に育っちまって、こんなのがフレイム様の元で役に立てるかどうか分かりませんが、あなたにうちの娘を託すことに少しも迷いはありません。煮るなり焼くなりして下せぇ。」


「うちの奴は、全く誰に似たんだが気が弱くってねぇ。フレイム様にご迷惑かけるんじゃないかと思うと、眠れないよ!だけど、これは頭がいいんだよ!だから、うちの子をよろしくお願いするよ。あたしも、フレイム様に預けることは、これっぽちも迷いなんかないよ!」


「君たちの想いには、感謝しかないよ。ありがとう。」


「やめてください、頭を下げてでもフレイム様に託したいのはこっちなんですから!」

「そうだよ!フレイム様に頭下げられたら、気持ち悪いったらありゃしないよ!」


「お、お母さん!」


「ふっ、それじゃあ二人ともついてきてくれるかな。最後の試験だ。」


「はい!」


「は、はい!」


 フレイムは、彼らを連れて鍛錬場のある中庭にやって来た。そこには黒布で覆い被せられた人の背丈ほどの高さの箱があった。二人をそこまで連れてくると、空からフリードリッヒが舞い降りてくる。彼専用の、装飾が施された鋼鉄製の止まり木に止まる。


「二人とも、フリードリッヒだ。会ったことあるよね。」


「・・・う、ん。」


「ヒィ、ヒィイイ。」


「またこれに付き合わされるのか?儂は、人の子を怖がらせて楽しむ低俗なゴーストじゃないんだぞ?」


「わかってるよ。いいかい、二人ともよく聞いてくれ。これから君ら二人には、このロックウェル領最大の要である剣の鍛錬を習得してもらう。」


「は、はい!」


「・・・。」(恐怖のあまり声が出ず頷いている)


「この鍛錬場には、決して領外へと出てはいけない秘密が溢れている。フリードもその一つだ。すなわち、君ら二人次第ではロックウェル領を滅ぼしてしまう可能性すらあるんだ。」


「絶対に!絶対に誰にも、俺は秘密を漏らしたりしません!!」


「・・ぼ、僕も絶対に秘密を守ります。」


「親にもだ!!」


「「・・・ゴクリ」」

突然、フレイムの顔が険しいものと変わる。二人は、背筋に寒いものを感じていた。


「家族にも、今日何を覚えただとか、こんなことがあっただとか決して漏らしてはならない!!それほど辛い役目をこれから君たちには、負ってもらう!!セバス!!」


 フレイムがそういうと、セバスが大きな箱にかかった黒い布を取り外す。するとそこには、数匹のゴブリンがいた。二人は、戸惑いながら目の前のゴブリン達を観察する。大きくて筋肉質なのが一匹、乳房の出た少し背の低いのが一匹、子供のゴブリンが三匹怯えてしがみついている。


「か、家族なの?」


「ぼ、僕もそう思います。」


「そうだ、こいつらはガッシュに頼んで生捕にしたゴブリンの家族だ。これを自分たちの家族だと思って欲しい。」


「「え・・?」」


「いいから、自分たちの家族だと思え。本気でそう思うんだ。」


「父ちゃん・・シータ・・タミカ・・」


「お父さん、お母さん、ショータ・・」


「これから起こることをよく目に焼き付けておくんだ。もし、二人が家族を含む他人に仕事場で起きるあらゆる秘密を、一つでも漏らしたら君たち家族を含めて僕は見せしめに、殺すだろう。」


「フリード」

「「や、やめてーーー!!」」

 怯えたゴブリンの家族が、自分たちの家族と重なったのか。それとも、同情したのか。これから起こることが悪いことだと直感して二人は叫ぶ。


 フレイムの合図とともに、容赦無く炎龍の咆哮がゴブリンを襲った。ゴブリンらは、悲鳴をあげる事も許されず、消し炭となった。この火力は、フレイムからのせめてもの慈悲だった。二人は、涙と嗚咽が少しの間止まらなかった。しかし、それをフレイムは咎めなかった。むしろ、自分が恐ろしいことをしていることを自覚し、拳が震えていた。


 シェリーとヤコフはそれに気付き、泣くのをやめた。二人は、フレイムがいいたいことがわかったような気がしていた。


“これは、遊びじゃない。フレイム様は、こうなる前に教えてくださったのだ。家族を、守るためには決して、秘密を漏らしてはいけないんだ!”

 二人の表情が、先程までのあどけなさを残した少女と少年のものではなくなった。己のやるべきことを自覚している者の顔だった。


「フレイム様、俺は決してあなたの信頼を裏切りません!!」


「ぼ、僕もです。必ずフレイム様の、お役に立って見せます!!」


 フレイムは、先程までの張り詰めた表情を緩め、膝をつき二人を抱きしめた。フレイムの顔は見えなかったが、二人には声の震え方でわかっていた。


「ありがっとう二人とも、期待しているっ」



 夕方になる前に、領内の子供達がいつも集まる公園に集まっていた。シェリーとヤコフで最後の面談だった事もあり、雰囲気が落ち着いていた。


「よう。」


「おう。」


「ハァイ。」


「うっす。」


「その様子じゃ、シェリーとヤコフも洗礼が終わったみたいだな。」


「・・洗礼ってなんだよベック。俺はただ、フレイム様と家族であっただけだぜ。」


「そ、そうだよ!」


「・・へっ、さすがだ。それでいい。それでこそおれらの仲間だ!!フレイム様は、ガキの俺らに期待してくれてるんだ!今度は俺たちが、フレイム様を助ける番だぜ!オメェら、気張ってくぞ!!」


「「「「っしゃーーー!!」」」」


 フレイムはシェリーとヤコフら以外にも、有志を募り、才能及び“祝福”を見極めた上で弟子入り先を用意したのだった。彼らに、将来のロックウェル領を任せるために。そして大人たちが、子供の将来を心配せずに、現在の仕事に全力を出してもらうためだ。ただでさえ人手が足りないため、現状いる人間にフル稼働で働いてもらう必要があった。



 執務室で、仕事をしているフレイムにセバスが口を開く。


「お疲れのようですね。フレイム様。」


「ふぅ、流石に疲れますね。子供達にあのような仕打ちをしてしまった。」


「ご安心ください。子供ゆえの甘さを削ぐためだと、いつか必ずわかってくれます。皆フレイム様を尊敬していますから。」


「あぁ、わかっているよ。明日の会議は、滞りなく準備が終わっているかな。」


「明日の戦略会議の為、領内各部の責任者は今夜、徹夜になりそうです。」


「ははは、なら僕は二徹かな。紅茶を頼む、蜂蜜いっぱいで。」


「かしこまりました。フレイム様。」


 年端も行かぬ子供達が頑張ったのだ。自分たち大人が、彼らに明るい未来を贈るために皆は奮闘するのであった。




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