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第9話 赤くなった頬の乾杯、そして隣を走るパートナー

「怜ちゃん。……あなた、本当は、誰なの?」




静まり返った空間に、蓮ちゃんの問いかけが響く。




(ひ、ひゃあああああああ!!!)




俺の心臓は、喉から飛び出しそうなほど激しく警鐘を鳴らした。


バレた!?


実は前世がアニメオタクの男子学生だってバレたのか!?




あまりのパニックに、思わず「あわわわ」と情けない声を上げそうになる。


だけど、ここで「実は前世が――」なんて言えるはずがない。俺は全速力で頭を回転させ、それっぽい「憑依型役者風の言い訳」を絞り出した。




「……私は、白妙怜だよ。でもね、さっきカメラの前に立っていた時は……自分でも、自分じゃないみたいだったの。あの役の女の子の悲しみや怒りが、私の体を借りて動いてた、みたいな……そんな不思議な感じだったんだ」




前世の男子学生だった頃に読み漁った、役者漫画の知識をフル動員して、声を絞り出す。


これなら、前世のオタク知識で狂気シーンを完全再現したなんてバレないはずだ。




「……役に、憑依していた?」




蓮ちゃんは目をぱちくりと丸くした。


怪訝そうな顔から、やがて「納得した」という表情に変わっていく。


そりゃそうだ。ただの小学生が、あんな凄絶な演技をシラフでできるわけがない。神がかった「何か」が降りていたのだと解釈してくれたのだろう。




「フン……。本当に化け物ね」




蓮ちゃんはふいっと顔を背け、腕を組んだ。




「でも、次は絶対に負けない。あなたのその『中身』ごと、私の演技でねじ伏せてあげるから。覚悟しておきなさい、白妙怜」




「うん! 私もまた蓮ちゃんと一緒にお芝居したい!」




俺が満面の笑みでおねだりするように言うと、蓮ちゃんは「っ……! そのお人好しな顔、本当にムカつく!」と顔を真っ赤にして、ぷいっとそっぽを向いてしまった。




その後、スタジオのロビーで、スタッフやキャストが集まって簡単な打ち上げが開かれた。


テーブルに次々とピザやポテト、チキンにジュースが並べられていく。




「わあぁ! ピザだ! ポテトだ!」




さっきまでの狂気キャラが嘘のように、俺は目をキラキラ輝かせてお皿に料理を盛り付けた。


前世の男子学生としての胃袋が『ピザ最高!』と歓喜の声を上げている。はぐはぐと美味しそうにピザを頬張る俺を見て、周囲のスタッフさんたちが和やかに目を細めていた。




「さっきまで神演技してた子が、今はただの食いしん坊な美少女だなぁ……」


「あのギャップ、本当に将来が恐ろしいよ」




そんな喋り声が聞こえる中、ジュースを持って座っている俺の隣に、すっと蓮ちゃんが並んで腰掛けた。




「……ちょっと、あなた本当にさっきと同じ人なわけ?」




やっぱりまだ少し疑わしそうに、でも興味津々にこちらを見ている。


俺は喉を痛そうにしている蓮ちゃんを気遣って、自分が持っていたコップを差し出した。




「あ、蓮ちゃん! これ美味しいよ! はい、あーん!」




「なっ……何すんのよバカ!!」




顔を真っ赤にしてツンツン拒否する蓮ちゃん。


でも、最終的には観念したように自分のコップを持って、




「……まあ、今日のところは、お疲れ様」




「うん、お疲れ様! かんぱーい!」




俺と蓮ちゃんはカチャリとジュースのコップを合わせた。


少しツンとしながらも、どこか嬉しそうな蓮ちゃん。良きライバルとしての第一歩が、この打ち上げで確かに踏み出された気がした。




数日後。


俺は事務所の応接室に呼び出されていた。




マネージャーの瀬戸さんが、興奮した様子で一枚の企画書をテーブルに叩きつける。




「怜ちゃん、大変よ! 先日の撮影データを見た、あの【国内屈指の大手飲料メーカー】の監督がね……」




「え……?」




「今度、新しくリニューアルされる国民的スポーツ飲料、『ポカリクス・スエット』の全国地上波テレビCMの主演に、怜ちゃんを直接指名してきたの!」




企画書に書かれたあの爽やかな青いロゴを見た瞬間、俺の全身に電撃が走った。




(これって……前世で俺が、部活帰りに毎日ガブ飲みして、テレビでCMを見るたびに『この爽やかさ、眩しすぎるだろ……』って羨んでた、あの伝説の青い飲料水のCM……!?)




頭が真っ白になる。


あの青空、あの全力の疾走感。


前世の俺にとっては画面の向こう側の存在でしかなかったあの超大作CMに、今度は俺が、この体であの爽やかなヒロインとして立つことが決まったのだ。オーディションもなしで、直接指名で。




さらに、マネージャーはニヤリと不敵に笑って続けた。




「ちなみにこのCM、今回は単独主演じゃないの。怜ちゃんの対になる『最高の相棒役』を一人選んで、ダブル主演のコンビとして売り出す予定なんだけど……その相棒枠のオーディションに呼ばれているのがね」




「……まさか」




「ええ。あの、蓮ちゃんよ。――彼女、あなたのあの演技を見て、ライバル心が完全に爆発しちゃったみたい。『白妙怜にだけは絶対に負けない。隣に立つなら私しかいないわ』って、マネージャーに食い下がってオーディション枠をもぎ取ったらしいわよ」




それを聞いた瞬間俺の背中に、鳥肌が立つようなゾクゾクとした歓喜が駆け抜けた。




(蓮ちゃん……そこまで俺のことを……!)




かつて一介の男子学生として画面の向こう側に焦がれていた、あの眩しすぎるCM。


そこに今、俺をライバルと認めてくれた蓮ちゃんと、二人で立つチャンスが巡ってきたんだ。




ぞくぞくと、全身に心地いい緊張感が走る。





「……私の隣、ちゃんとついてきてね、蓮ちゃん」




二人の少女が青空の下で織りなす、新たな戦い。


その幕が今、静かに上がろうとしていた――。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【作者より】




第九話をご覧いただきありがとうございました!




蓮ちゃんからの鋭すぎる核心を突いた問いかけでしたが、怜の(前世のオタク知識による)必死の「憑依型役者アピール」によって、なんとか大ピンチを切り抜けることができました……!打ち上げでの二人のツンデレな距離感も、少しずつ縮まってきた気がします。




そして、前世で憧れていたあの国民的スポーツ飲料『ポカリクス・スエット』のCM指名という、とんでもないビッグチャンスが到来!


しかも、オーディション枠を執念でもぎ取った蓮ちゃんとの「ダブル主演」の可能性まで――!?




青空の下で始まる二人の新たな天才子役バトルの予感に、「ポカリCM展開熱すぎる!」「二人のライバル関係最高!」と思ってくださった方は、ぜひ【星(★評価)】や【ブックマーク】で応援していただけるとめちゃくちゃ嬉しいです!


pt50を目指しています



次回の第十話も、どうぞお楽しみに!


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