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第13話 「私の隣なんだから」

「……あ、怜」

「あ、蓮ちゃん! お疲れ様ー!」


事務所の小さなレッスン室。扉を開けた瞬間、俺の視界に飛び込んできたのは、気合の入りまくった私服姿の一条蓮ちゃんだった。


上品なフリルのついたブラウスに、落ち着いたチェックのスカート。髪もしっかりセットされていて、まるで雑誌の表紙から飛び出してきたかのような完成度だ。


(う、美少女すぎる……! 私服の破壊力がエグい……!!)


中身オタクの俺は、心の中で五体投地しそうになるのを必死で耐えた。


「な、なに? 人の顔をまじまじと見て……変かしら」

「ううん、全然! すごく可愛いなって思って!」

「〜〜っ!? べ、別に可愛いとか聞いてないわよ!……あなただって、その服、似合ってるんじゃない」


蓮ちゃんはぷいっと顔を背けたものの、耳の先端が分かりやすく真っ赤になっている。

前回のLINEで『他の誰にも譲っちゃダメだからね』なんてキラーフレーズを送ってきた張本人なだけに、お互い妙に意識してしまって、空気感が甘酸っぱい。

(あんなメッセージ送っといて、この澄ました顔は反則だろ……! 思い出すだけで顔から火が出そうだ……!)


(いかんいかん、このままだと萌え死んでしまう……! 今日は仕事のセリフ合わせだぞ、俺!)


パンッと自分の頬を両手で叩き、気を引き締める。


「じゃあ蓮ちゃん、さっそくCMの台本、合わせてみよっか!」

「……ええ。本番で私の足を引っ張らないか、しっかり見極めてあげるわ」


床にふたりで並んで座り、台本を広げる。

数秒前までの甘酸っぱい空気は、台本を開いた瞬間に一変した。


「――『ねえ、知ってる? この夏は、一度きりなんだよ』」


言葉が発せられた瞬間、蓮ちゃんの雰囲気が一変した。

勝気でツンツンしていた女の子は消え、画面の向こうの視聴者を一瞬で惹きつける「女優・一条蓮」がそこにいた。声のトーン、視線の置き方、息遣い。どれをとっても完璧なプロの仕事だ。


だけど、今の俺はただのオタクじゃない。前世の知識と、この十歳としての感性を掛け合わせた役者だ。


「――『だからさ、いっしょにはじけちゃおうよ!』」


蓮ちゃんの放った熱量に負けないように、けれど彼女の演技を包み込むように言葉を返す。


「ッ……!」


蓮ちゃんの瞳が、驚きでわずかに見開かれた。

セリフが重なるたびに、お互いの演技がギアを上げていく。俺が返せば、蓮ちゃんはさらに鋭い演技で返してくる。まるでパズルのピースが完璧に組み合わさっていくような、ゾクゾクするような高揚感。


「――『渇いた心に、とびきりの青を』」

「――『一口飲めば、もっと好きになる!』」


ラストの掛け合いを終え、レッスン室に静寂が訪れる。


ふぅ、と息を吐き出して見つめ合うと、蓮ちゃんの瞳にはうっすらと熱い光が宿っていた。


「……すご……。あなた、オーディションの時よりまた上手くなってる……」

「蓮ちゃんこそ! 合わせやすくて、すごく楽しかったよ!」


俺が満面の笑みでそう言うと、蓮ちゃんは照れくさそうに膝を抱え込み、小さな声で呟いた。


「……当然よ。私の隣なんだから……これくらいやってくれないと、困るわ」


そう言って、膝に顔をうずめてしまう蓮ちゃん。


(あかん、尊すぎて心臓がもたん!! 本番前に俺のライフがゼロになる!!)



――そして、迎えたCM撮影本番当日。

 スタジオの控え室にて。


「はい、怜ちゃんじっとしてねー。可愛くするからね」

「はーい、よろしくお願いします!」


メイクさんに髪を整えてもらいながら鏡を覗くと、隣の席には同じようにメイクを施されている蓮ちゃんの姿があった。


「……なによ。人の顔、ジロジロ見ないでくれる?」

「あはは、ごめんごめん。いつにも増して大人っぽくて、綺麗だなと思って」

「〜〜っ!? な、何言ってるのよバカ! メイクの力に決まってるでしょ!」


鏡越しに目が合うと、蓮ちゃんは露骨にそっぽを向いた。

だけど、担当のメイクさんがクスクスと楽しそうに笑う。


「ふふ、本当に二人とも仲良しね。さっきから蓮ちゃん、怜ちゃんが来るのずっとソワソワしながら待ってたのよ?」

「ちょっと、余計なこと言わないでください!!」


顔を真っ赤にして抗議する蓮ちゃん。

メイクさんに「はいはい、動かないでねー」となだめられている姿が可愛すぎて、俺の心臓は朝から大ダメージを受けることになった。


眩しい照明と、何十人もの大人スタッフたちに囲まれたスタジオ。

巨大なセットが組まれ、クレーンカメラや無数のモニターが並ぶ光景は、まさにプロの現場そのものだ。普通の10歳なら足がすくむような雰囲気だが、胸が高鳴るのを感じる。

爽やかな衣装を着た俺と蓮ちゃんは、カメラの前に並んで立っていた。


「準備はいい? 怜」

「うん、バッチリだよ!」


隣を見ると、緊張を隠すようにフンと鼻を鳴らす蓮ちゃん。だけど、その瞳はオーディションの時以上の真剣な熱を帯びていた。


『撮影、本番いきまーす! 3、2、1……』


カチンコが鳴り、カメラレンズが俺たちを捉える。


息を吸い込み、世界が静まり返る――。

一瞬で「役」へと入り込み、互いの視線が交差したその瞬間。


(――ここだ。一番最高の演技を、ブチかます!!)


俺と蓮ちゃんの圧倒的な「表情」と「声」が重なる、まさにその瞬間。


「――っ!?」


蓮ちゃんの表情が、一瞬だけ固まった――。


【作者より】

今回はついにCM撮影本番!

レッスン室での甘酸っぱい掛け合いから、カメラが回った瞬間の「プロの演技バトル」へのギャップを楽しんでいただけたら嬉しいです!


撮影本番、まさかのタイミングで蓮ちゃんを襲う突発的なハプニング……!

果たして蓮ちゃんと怜ちゃんは、この危機をどう乗り越えるのか!? 次回の展開にもぜひ注目してください!


もし「今回も尊かった!」「ハプニングが気になる!」と思っていただけたら、ぜひページ下部からの【★評価】や【ブックマーク】で応援していただけると執筆の大きなモチベーションになります!


次回もどうぞお楽しみに

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