第12話 予期せぬ電話
「ふぁ……」
お風呂上がりにドライヤーで髪を乾かし、パジャマに着替えた俺は、ベッドの上でゴロンと横になった。
時計の針は、夜の九時を回ったところ。
10歳の子供の体としてはそろそろ眠たくなる時間だし、前世の夜更かしライフに比べれば信じられないほど健全な夜だ。
枕元に置いたスマホが、コトコト、と小さく震えた。
画面を覗き込むと、そこには昨日、ライン友だちになった【一条蓮】の名前。
蓮:『もう遅いけど……ちょっとだけ、声が聞きたくなったから。電話、してもいい?』
「――えっ!?」
この前のカルピスに続き、今度は自分のよだれを喉に詰まらせそうになって激しくむせる。
夜の! 女子からの! 通話のお誘い!?
前世の男子学生時代には、地球がひっくり返っても発生し得なかった超弩級の神イベントが、今まさに手のひらの上で起きようとしていた。
(一回落ち着け、蓮ちゃんは俺の大切なパートナーでありライバルでもある。ここで変なリアクションを取ると嫌われるかもしれない)
深く息を吸い込み、心拍数を下げる
スマホを持つ手が汗ばむのを感じながら、俺はなるべく「友達からの不意の連絡に喜ぶ、普通の10歳の女の子」を意識して、メッセージを打ち込んだ。
怜:『えっ、本当!? 嬉しい! 今ちょうどベッドに入ったところだったの。いつでもかけてOKだよ!』
送信ボタンを押した、その瞬間、画面が通話の表示に切り替わり、スマホが手のひらで激しく震え出した。
「えっ、もう!?」
画面をタップして耳に当てると、スピーカー越しに聞こえてきたのは、昼間の現場での大人びた雰囲気とは少し違う、どこか緊張を含んだ一条蓮の声だった。
「もしもし、蓮ちゃん? どうしたの?」
『べ、別にどうもしてないわよ!』
開口一番、少し裏返った声が返ってくる。
『だ、だいたい「声が聞きたかった」なんてメッセージは、文字入力の予測変換が誤作動しただけだから! 勘違いしないでよね!』
(テンプレすぎるツンデレ言い訳が飛んできたーーーっ!?)
前世のオタク知識が「これぞ王道!」と大歓喜の悲鳴をあげる。しかし、ここでニヤニヤした声を出すわけにはいかない。私は必死に声を整えて「えっ、そうなの?」と返した。
『そうよ!……本当はね、昨日のCMオーディションの反省会を、今日のうちにしておきたかっただけなんだから』
「反省会?」
『そう。今日の怜ちゃんの演技……監督にすごく褒められてたじゃない。……正直、隣で見ていてすっごく悔しかったの』
電話の向こうで、蓮が小さな吐息を漏らすのが聞こえた。ツンとした態度の中に、プロの子役としての本気と熱量が混ざり込んでいく。
『私、子役として誰にも負けないつもりでやってきたのに……怜ちゃんと並ぶと、自分の引き出しの少なさを突きつけられたみたいで。悔しくて、悔しくて……今日、絶対にそのまま寝られなかったのよ』
「蓮ちゃん……」
『でもね……悔しいのと同時に、ぞくぞくしたわ。怜ちゃんと演技を掛け合わせている時、自分でも思ってもみなかった表現ができたの。……だから、絶対に次は負けないわよ。覚悟しておきなさいよね!』
まっすぐなライバル心。前世の自分が画面越しに憧れていた「本物の役者」の熱量が、ダイレクトに耳に伝わってくる。胸が熱く熱く熱せられるのを感じた。
「うん! 私も、蓮ちゃんと一緒に演技できてすごく勉強になったよ。絶対に負けないからね!」
『フン、生意気ね。……まあ、ライバルとしては合格よ』
ふっと蓮の肩の力が抜けた気配がした。そして――数秒の沈黙の後、消え入るような小さな声が聞こえてきた。
『……でも』
「ん?」
『……悔しかったけど。……怜ちゃんと一緒にお芝居するの、ちょっとだけ……本当にちょっとだけ、楽しかった……』
「え?」
『~~~っ! あーもうっ! いまの無し! 全部忘れなさい!! おやすみなさいっ!!』
ブツッ!! ガチャリ!!
威勢のいい声とともに、容赦なく通話が切られた。
無音に戻った自室。
手には、通話終了画面が表示されたままのスマホ。
「………………」
静寂が、部屋を包み込む。
そして数秒後――。
「んんんんんんーーーーーーーーっっっっっ!!!!!」
俺は枕に顔を全力で押し付け、声にならない叫びをあげながら、ベッドの上をのたうち回った!
ゴロゴロ! バタバタ!
(破壊力が神レベルすぎるだろ何なんだあの生き物は!! ライバルとしての熱い宣戦布告からの、照れ隠しの急降下爆撃とか前世の男子学生の心臓を物理的に破壊しに来てるのか!?)
破壊力抜群の「おやすみなさい」の余韻が脳内にリフレインする。
ライバルとしての燃えるような闘志と、前世オタクとしての語彙力を失うほどのキュン死寸前の感情。
ぐちゃぐちゃに乱れたベッドの上で、俺は天井を見上げながら大きく息を吐き出した。
(……ダメだ。心臓のバクバクが止まらない……)
CMの撮影日を待つ前に、前世男子のメンタルを木っ端微塵に砕かれた俺は、胸のときめきと熱狂で、一眠りどころではない夜を明かすハメになるのだった――。
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━━【作者より】
読んでいただきありがとうございます!
深夜の電話、ツンデレ全開の蓮ちゃんに振り回される怜ちゃんでした。
ポイント50を目指しているので
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次回はいよいよCM撮影編!これからもよろしくお願いします!
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