62. ユリとユウの対話@異世界
お待たせしました。
一番悩ましい部分でもあったので時間がかかってた感じです。
「お久しぶり、というべきなのかな?ユウちゃん、女神エリュタレア、それとも小谷裕花と呼ぶべき?」
マーレから普段感じるのとは比較にならない力というか存在感が在ったけど、逆に、この程度なんだと思わないでもなかった。
「・・・あなたの呼びたいように呼べばいいわ」
威厳を保つべきか、それとも親しみを持たせるべきか、迷うような間があったけど、ユウちゃんとしての話し方に落ち着けたようだった。
「それで、どうしたの?」
自分が戻れなくなってしばらく経っている事と、マーレから祈りが女神に通じなくなっていると聞いた事とで、その内にこんな機会が訪れる事を予想してはいた。
「どうしたもこうしたも、あなたに会いたくて来たとは考えないの?」
「確か、素敵な罰を与えてくれるんじゃなかったっけ?」
ユウちゃんははっきりと苦りきった表情を浮かべた。
「もう、そういう筋書きじゃなくなってしまったし、あなたも私が好き勝手に出来る存在ではなくなってしまってる」
「かもね」
記憶を共有する再会者達がいくら何でも多すぎたから、彼女がこの世界の制御権を失っている事さえ疑っていたけど、今も世界全体の時は止まっているようだった。
私がやろうとしたら、さすがに歯車が全開で回転しそうだというのも分かった。それが取り返しのつかない何かを引き起こしそうだという事も。
「それで、どうして?」
「言ったでしょ。あなたに会いに来たと。会いたかったって」
「これまで98回、会っても私の求愛には答えてくれなかったのに?」
これは外せない確認事項だった。
「その理由ももう分かってるんじゃないの?」
「推測と知ってるのとは違うよ」
「そう出来ない理由があった。今でもある」
「なら、その制約はまだ外れてないんじゃないの?だとしたら、今会いに来た理由は?」
「会いたかったからって言ってるでしょう!?」
「それだけじゃないよね?」
「・・・・・あなたに愛してもらえなかったら、私は終わる。でも、どうしたらあなたから自発的に私を愛してもらえるかわからなかったから」
「聞きに来たの?」
コクリと、ユウちゃんは頷いた。
「愛してもらえなかったら死ぬって、それ脅迫だよね」
「自覚してるけど、事実だもの・・・」
「でも、私がもうユウちゃんを自発的に愛する事は無いってのも自覚してるんだよね?」
「忌々しいけど、そうよ。自覚してなかったら、こうやって助けを求めになんか来なかった」
「でもさ、ユウちゃん。今のこの私を、ユウちゃんは愛せるの?」
「・・・・せるわ」
「無理してない?」
「写し身が愛せたのよ?その大本たる私が愛せない筈が・・・」
「無理だと思う」
「どうして?!」
「マーレが私とくっつけたのは、女神というかユウちゃんからそうするよういろいろ操作され吹き込まれてただけだから」
そう思うのは私としては悲しく感じるところがあったけど、ここは厳格にいかないといけない。
「そんな事、無い!」
「ある」
「どうして言い切れるの?」
「これまでの98回、全部ユウちゃんの身代わりだったでしょ?最初の一回目とこの最後の百回目。つまりユウちゃんは最初から自分でこういう外見になる私には用が無かったの。こっちではやっぱり最後も自分で相手をするつもりは最初から無かった。使い捨ての身代わりにだけ相手をさせて、元の私しか求めていなかった。ユウちゃんへの、いいや小谷裕花への愛を育もうとしてきた私の結末に至る姿に価値を見いだして無かった。そんな相手から、どうして愛して欲しいだなんて思うのかな?」
「だって、いや、私は、違」
「違わないよ。違ってなかったら、ユウちゃんは、あんな風に私をフってなかった筈だよ?」
初恋以前というか、告白すらさせてもらえずに終わらせられたあの場面を、ユウちゃんも忘れてはいなかったらしいが、首を激しく左右に振った。
「ち、違うの!聞いて、お姉様!」
「何かしら制約がユウちゃんにもかけられていたとは想像できるよ?でもね、そもそもが洗脳に近い無理強いで植え付けられた恋愛感情だったろう?その洗脳が解けたのに、どうして私がその恋愛感情を保たないといけないんだろうね、裕花?」
大野紗由理としての人格が、ユウちゃんというか女神=小谷裕花と話してると前面に出てくるみたいだ。
ユウちゃんがどう言い返そうか迷っている間、私はぽっかりと抜けている記憶を探ってみた。それは、これまで98回の転生でユウちゃんの写し身に出会い愛を告げた後の事だった。
序盤は、ユウちゃんの分身達の方が自制するのが大変だったようだ。ほとんど大野紗由理のまま、つまりはユウちゃんの憧れ恋焦がれた存在の姿をしてたし。
ユウちゃんというか女神エリュタレアの写し身達と出会ってからの記憶がぼやけてたりどう終わったのか不確かなのは、そこで強制的に途切れさせられて、次の転生回が始められたからじゃないか。
回数を重ねる毎に、出会うまでも出会ってからも大変な事が増えていったのは、ユウちゃんの分身達の理想の姿からかけ離れていったから、という要因は小さからず効いていたと思う。序盤のユウちゃんの体たらくから、力を貸してた神様のテコ入れのせいもあっただろうけど。
そして大事なのは、ユウちゃんが元々の経緯や関係性をいつしか忘れ去っていた事。そこさえ忘れていなかったら何の難しい事も無かっただろうけど、だからこそユウちゃんというか小谷裕花に対する試練足り得てたのだろう。ユウちゃんに肩入れした神様と、私からの。
ユウちゃんの弁解にならない弁解を聞き流しながらこれまでの98回の転生回のおそらく完全な記憶を取り戻した私は、告げた。
「裕花。いつまで経っても勘違いしてるようだからはっきり言っておくけど、大野紗由理は誰かを愛せるような存在では無かった」
「・・・・・それは、そうだったかも知れない。けれど、今のあなたは、大野紗由理じゃなくて、小暮百合という、似て非なる、誰かを愛せる存在になっている」
「そうだね。だけど君は、そんな私を欲しがりはしなかった。クェイナは欲しがった」
「でも!クェイナだって、もしもユリが普通の無力な女の子だったら」
「もしそうだったら、この99回目の世界に転送された時に、死んだりいろんな酷い目にあって、クェイナとも今みたいな関係にはなっていなかったかも知れない」
「だったら・・・!」
「それでもね、ユウちゃん。ユウちゃんは見向きもしなかったこの姿でも、私なんかを気に入って想ってくれる人達はいた。これまでも、今でもね」
「それでも、彼女たちがあなたを愛したのは、何も出来ないあなたでは無かった筈よ!」
「かもね。でも、そういうの全部ひっくるめて、私は私なんじゃないかな?そもそも元の世界だったら、私もこっちの世界で出来る事の大半は出来ない、ほぼごついだけの大女だし?」
「あなたが私を想ってくれてたのだって、私があの姿をしていたからじゃないの?だったら、最初の私が最初のあなたを、姿も含めてそのままのあなたの全てを」
「それは嘘だよ、裕花。君は、私が誰も愛せない事に気付いていた。だから、死んでしまった私を蘇らせる時に、君を愛せる私として復活させようとした。私に肩入れしてくれた神様と、君に肩入れした神様のお陰で、それは今回辿った筋書きに書き換えられたけど」
「愛した誰かに愛してもらおうとするのは罪なの?」
「相手に強制するような何かでなければ罪にはならないんじゃないかな。私も、誰かを愛する事に、そうなれる事に興味が無かった訳じゃないし」
ぎし、とこの世界そのものが軋んだ。
ユウちゃんというか女神エリュタレアの瞳が空虚な絶望に縁取られていた。
私にふられるような自分なら、要らない。そんな事が起こる世界なら、必要無い。自分も相手も存在しなくなってしまえば、苦しまなくて済む。
まんま、神様による世界規模の無理心中行為。
あれこれ話してきたけど、私の中に、ユウちゃんへの想いが一欠片も残っていないかと言えば、それはそれで嘘になる。
このままこの異世界が崩壊して消失してしまえば、私は元の世界に戻れるかも知れないけれど、この世界で接してきたみんなは、終焉を共にするしか無いだろう。
それでも、人質を取るような形でしか愛を迫れないのは間違ってるとしか思えないし、そんな要求には応えられる筈も無いのが自分でもあった。
世界の軋みは続いていて、悠長にいつまでも悩んでいられそうにはなかった。だから、これは、自分がこれからどうしたいのか、という想いに従うしかなかった。
自分は、かつての自分が願っていた、誰かを愛せる自分にはなれた、と思う。だけど今の小暮百合としての自分は、間違っても神様になりたいとは思えなかった。たぶんそれは、人間が自分の人体としての機能を意識してコントロールできないのとは違って、神様は自分自身でもある世界そのものを意識してコントロールしないといけない存在だから。そうする事を強制され、その義務からはおそらく逃れられない存在だと想像できたから。
だから、意識を、自分の望みごとに分けた。神様になりたい自分と、なりたくない自分とを。
自分の目の前に、かつての大野紗由理のままの姿の誰かがいた。
「面倒臭いだろうけど、頼むよ」
「自分も、まだ神様になりたいかどうかは不明だったし、この後の楽しみもまだ味わい足りないから、一時的な代行で勘弁させてもらうよ」
「細かいとこは、神様同士の話し合いに任せるよ」
ふっ、と大野紗由理な自分は苦笑して、一瞬瞳を閉じて、時が止まっていた筈の世界の時がさらに一段階止まってまた動いた感触があって、瞳を再び開いた。
「女神エリュタレアから、この世界の管理権を一時的に代行する事を、彼女に神としての権能を譲渡していた神に認めさせた。これでとりあえず、この世界が人質に取られる事は無くなった」
「そんで、マーレとユウちゃんは同時に存在する事になるの?」
「二人が同時に存在してもややこしいだけだろう。彼女はマーレと共存させる事にした。私が私の中に宿るようにね」
「お手柔らかに頼むよ」
「神代行としての機能で負荷をかける事はしない。せいぜい楽しい人間模様を描いてくれ。元の私より今の自分の方がよほど人間味もあるようだし」
世界の軋みが止んだと思ったら、時も再び動き出していた。女神エリュタレアというかユウちゃんの存在感はマーレの中に埋没してほぼ感じ取れないくらいになったし、大野紗由理という人格というか神格?も私の中に感じ取れはしたけどバックグラウンドでいろいろ処理してくれてるにしろ頭がそれでパンクするような感じはしなかった。
気を失って床に倒れ込んだマーレを抱き抱えた私に、ニウエルさんは尋ねた。
「何かあったの?」
「何かはあった。けど、今はまだあまり詳しくは話したくないかな」
私はメイケンの領都へと二人を転移で連れて戻り、ニウエルさんにぼかした感じでこれまでのあらましを伝えた。
結局、時間稼ぎにしかなってないにしろ、私は今の私としてこの生を生きて終わりたいと願っていた。転生は、もういいかな、と思えていたのも偽りの無い実感だったし。
「で、女神様からも含めてその他大勢から愛されちゃってるのは、どうするつもりなの?」
「さあね。これから都度判断して応えたり応えなかったりしていくしかないんじゃないかな」
「じゃあ、私にもチャンスはあるのね?」
「たぶんね。約束しちゃってたしね」
そんな風に、その夜は過ぎていった。
これからどうなるかなんてわからないし、わからなくていい。それが人間として当たり前の事なんだから。そうとしか思えなかったし、思いたくなかった。
今後も不定期更新になるかとは思いますが、引き続きお楽しみ頂ければ何よりです。




