63. クェイナのお産
ずっと詰まっていたのですが、何となく書けた続きを掲載します。
ほぼクェイナ視点の章です。
皇太子メレレンドと対話した数日後には皇帝オージマーと3人の寵姫との間に、彼彼女らが望む子を寵姫達の胎内に宿した。
もちろん半信半疑な表情を浮かべてはいたが、すでに同様の手順で妊娠してわずかながらでも膨れてきた下腹を見せれば疑いは消えた。その直後から、互いが互いを絶対に蹴落とすべき相手と見定めた瞬間が訪れはしたものの、
「何かした奴は、絶対に許さないから。絶対にばれるから、やらかすなよ。二度は言わん」
オージマーの本気の脅しで、とりあえず三人は無事我が子を出産する事に専念する事にしたように見えた。
そして、日が経つほどに噂は広まるもので。オージマーから判断は委ねられたものの、同様の依頼をしてくる貴族は日に日に増えていった。
ユリエールと我が子の今後を思えば、味方はいくらいてもかまわない。政争が起きてオージマーが死んだりその親族が失脚しても、ほぼ中立で誰にでも恩を売っておけば、どう事態が転んでも保険はかけられる。
クェイナとしても木内恵那としても、ユリとの間の子を無事出産し、一人立ち出来るほどまでに育て上げる事が最優先事項だった。
ユリエールの内情も、ユリの身辺も、女神の写し身たるマーレとの間の事がどうなったのかも、もちろん気になっていた。
「心配しなくてもいいわ」
クェイナにそう言って、時折ユリエールの最新情報を教えてくれたのは、ヨホーだった。ネロと連れだって訪れてくれる時もあれば一人でふらりと立ち寄って何気ないお茶の時間を共にしてくれる事もあった。
「ユリは、大過なく過ごしていますか?」
「大過なく、というべきなのかな」
「何か、問題が?」
「いや、遠征軍は順次本国に戻って、あちらに残るのはユリエール親善軍として五千ほどになるみたいだし、間の大陸に目立った敵勢力もいなくなったから、ユリエールが覇権を取ったと言えなくもない状況で、ユリ・コグレは、あなたの代役をつつがなく、というか最高の結果で勤めていると言えるんじゃないかしら?」
「・・・という事は、公的な部分ではなく、私的な部分で何か?」
ヨホーは、書いてすぐ消せる蝋板に、日本語で文章を書いた。
「聖女マーレは、まだユリの特別な存在としての地位を失っていないけど、側室と言うのかな。そんな存在が増えた。何人も」
ヨホーの文章を読んでから、クェイナは表面の蝋を削り、ペン代わりの針金の様な鉄棒で返事を書く。盗聴や監視の目をかわし、会話の記録も残さない為だ。
「ユリは、開き直ったのです?いえ、とがめるつもりはありませんが」
以下同様に、互いに読んでから消して返事を上書きしていく。
「過去の関係者にイヤってほど囲まれて、逃げ場を無くされたんじゃないかな」
「なるほど。それは、非常に、ありそうですね」
ヨホーも過去の関係者だと木内恵那は打ち明けられていたし、自分の正体(?)もどうやってだか知られていたので、隠し事は基本的にしない方針にしていた。
クェイナとしてはユリが他の誰かの相手をする事に寛大だったけれど、恵那としてはあまりいい気はしていなかった。
そんな彼女の心情を読んだのか、
「だいじょうぶ。ユリの子供を宿してるのはあなただけだし、あなたが関与しない限り他に子供は出来ないだろうし」
恵那を安心させてくれるような事をヨホーこと芦高新穂は書いてくれるのだった。
クェイナとしての知識から、ゴブリンの妊娠期間が三、四ヶ月と知っていたが、人間とのハーフ・ゴブリンなら四、五ヶ月かかる場合もある事を知っていたし、ユリとの間の特別な子供なら半年以上かかる事も覚悟していた。何なら、人間と同じ十ヶ月かかる可能性もあるのだし。
クェイナが帝都アルガンナを訪れてから三ヶ月ほどが経っていた。つまり、半年かかるとしたら、残り半分。だいぶ大きく膨れたお腹を見下ろして、恵那はさらに踏み出す事を決心した。
これまで後回しにしてきた疑問を解消するのだ。
「どうしても新穂さんは、私に良くして下さるのですか?」
ヨホーは、じっと蝋板とクェイナの表情とを交互に見つめてから、がりがりと蝋の表面を削り、返事を書いてクェイナに渡した。
「あなたが、ユリにとって大切な誰かだから」
だから、恵那はこう返事を書いた。
「あなたにとっても、彼女は、大切な誰かなのでは?」
「そう、ですけど、あなたにとっての彼女と、私にとっての彼女は、違う存在ですから」
「違う、というのは、ユリの元々の存在にしか用が無いという事ですか?」
新穂から、大野紗由理という存在がどんな人物だったのか、恵那も聞いていた。
「違います。女神というか半神となった小谷裕花はそうでしょうけど、私は彼女を、手助けしたいだけです」
何度か書いては消した文章を見せてきた新穂に、恵那は、不正直さを感じた。
だから、地雷を踏み抜く覚悟で、聞いてみた。
「あなたは、彼女が、ユリが、欲しくはないのですか?」
「欲しくないと言えば嘘になるかも知れません。けど、私は彼女とずっと共に在りたいのです」
「それは、死んだ後もずっと、と言う意味で?確かに99度の転生回の中でも何度も彼女を助けてきたそうですが、それも今回で終わりなのでは?」
「女神エリュタレアによって仕組まれた何かは、今回で終わるでしょう」
「では、今回を逃せば後は無いのでは?」
「いいえ。小谷裕花ではありませんけど、紗由理は、終わらないでしょうから」
「それは、人以上の何かになるということ?」
「まだ確定した未来ではないし、どのような経緯を辿り、どのような形に落ち着くのか、私にも見切れていませんけどね」
「あなたも、人ならぬ者となって、永遠の時を添い遂げようと?」
「それが叶うのならば」
クェイナが見たところ、ヨホーは真剣だった。
「私は彼女との間に子をなせただけでも十分です。その子供が生まれ、無事に育っていく姿を見守れるだけで、私という存在が生まれてきたことは報われるでしょう」
「私も、ユリとあなたの間の子供の姿を見て、その成長を見届けるのは楽しみにしていますよ」
「もし、あなたが望むのであれば・・・」
「いえ、その申し出は不要です。私の望みは、この生の先にありますから」
「わかりました」
そんなやりとりがあってから、さらに三ヶ月ほどが経ち、クェイナは出産の時を迎えていた。
オージマーは、約束通り、経験豊富な産婆や医師、回復魔法の使い手達を取りそろえてくれていた。心づもりはありがたいものの、無用な存在とも言えた。
なにせ、クェイナは自分の体をほぼ思い通りに操れるのだから、普通の女性にとって命を懸けた出産という行為も、胎内の子供を最も適切なタイミングで胎外へと産出する行為だった。
それでも。前世では七歳で死んだ自分が、到底叶う筈も無い願いを叶え、想い人の子を腕に抱いているのだと思うと、とめどなく涙が零れ落ちた。
叶うのなら、ここにユリがいてくれればと思ったが、それは望みすぎだとあきらめた。
あきらめたつもりだったのに、望みは叶っていた。
「クェイナ。お久しぶり」
「・・・ユリ!お久しぶりです。あなたの、いえ、私たちの子供ですよ」
子供の性別は、迷いに迷ったのだが、だったら二人同時、男の子と女の子を産めば良いのだと受胎時に決めていた。
ユリにも誰にも話していなかったので、いきなり二人の親になったユリは、喜びと驚きが入り交じった表情を浮かべてていた。人の間でも大柄と言えるユリは、二人の頬に軽くキスをするとクェイナの腕の中に子供達を返し、クェイナを抱擁し、その耳元で囁いた。
「待たせちゃったね、恵那」
「ううん、約束、果たしてくれて、ありがとう、紗由理」
それからしばらくずっとクェイナは涙が止まらなかったが、子供達の大きな泣き声に気付き乳を与えている間に涙は止まっていた。
間の大陸を制したと言えるユリエールの中心人物であるユリ・コグレがどうやって忽然と現れたのか。部屋の外ではそれなりの騒ぎがまき起こっていたが、その喧噪とは関係なく、穏やかな笑みをクェイナとかわすユリの姿を、ヨホーはじっと見つめ続けていた。
えいやと一気にまとめて終わりにしてしまうか、何となく続けていく感じにするか、まだ迷ってる感じなので、エンディングがどうなるかは不明です。




