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57. クェイナと皇太子メレレンド

短章です。続く二つの章が、ついに物語の核心に触れます。

 クェイナは落ち着かない何かを感じながらも席につき、侍従の淹れた紅茶を口にしてから、尋ねた。

「それで、内密なお話とはいったい?」

「あまり時間も無いので単刀直入にお話ししていきますね。私の父の事は聞かれてますよね?」

「ええ」

 クェイナは主語を曖昧にしたまま肯定した。

「ぼくは、読心のスキル持ちです。この事を知っているのは、帝国の中でもごくわずかです」

 クェイナは居心地の悪さの正体を確かめた気がした。

「ご両親はご存知なのですか?」

「ええ。実の父も今宵、母から知らされました」

「一番、後回しにされたのは、なぜ?」

「一番、堅物だったからですよ」

 クェイナがきょとんという表情をしたので、メレレンドはオージマーとキャルロがネラに語って聞かせた内容をかいつまんで伝えた。

「三人は幼馴染で、立場の問題もあってオージマーが母を娶りました。でも子供は出来ないまま、オージマーの勧めで父と母は一度だけ通じ、私が生まれました。その時、母は父への愛を再確認して、もうその後は揺るぎませんでした」

「皇帝夫妻の間に、実の子供をと私は連れられてきたものと聞かされていましたが、だいぶ実情は違ったのですね」

「父が母を選び直さなかった場合、その可能性はまだ残っていました。そうなっていたら、ぼくに残された選択肢はいささか減っていたでしょうね」

「それで、どのようなご要望が?」

「あなたも、ぼくを見て父に似ていると思ったでしょう?」

 読心のスキル持ちに否定は無意味とクェイナはうなずいた。

「皇帝陛下は、いきなりぼくを廃嫡にすると内乱や外乱まで呼び込みかねないので、相当なぽかをしない限り廃嫡するつもりは無かったんですが、このままいくと、ぼくは父に似すぎていくんです」

「つまり、容姿を皇帝寄りに似せたいと?」

「可能かどうかは伺っていいですか?ああ、やはり可能なんですね。ふむ・・・」

 答えが思い浮かんだ時点で伝わってしまう相手は、非常にやりずらかった。

「とはいえ、これからまだ育って容姿も変わっていくでしょうから、一時的な変化だけだと心もとないというか、誤魔化しきるのは無理でしょうね。ぼくの為だけにあなたをこの国に拘束し続けるわけにもいかない。あなたが子育てをこちらで行いたいと思っていたとしても、ずっとではないですよね?」

「はい」

「自分も、ずっと皇帝になるつもりでいました。読心のスキルが使えたのは5歳くらいからで、本当の父が誰なのか知ったのは、それなりなショックでしたけど、魑魅魍魎が跋扈する皇宮で読心スキルを持つぼくは、適材適所ではあるかも知れませんが、病んでしまうかも知れませんしね。ははは」

 年の割に大人びた話し方をするメレレンドは、すでにそういった苦労を散々味わってきたのだろうなとクェイナにも想像できた。

「ええ、立場上の父(オージマー)はああいう人ですから敵も多いです。やられない為に表向き従っている人も大勢います。自分が告げ口する事で減らせる敵もいるかも知れませんが、むしろ増えていく敵の方が多そうなんで困ってもいるんですよ」

 クェイナには、下手に何も言えなかった。

「このまま皇太子として残り、この帝国を統べていきたいという気持ちも、半分くらいあります。特に、容姿を少しずつ数年かけてオージマーに似せていければ、誰がどう騒いでも封じられるでしょう」

「残り半分は?」

「怖気付いてます。父と母がこの国から離れ、容姿の問題がどうにかなったとしても、策謀がうずまく宮中を生き延びていけるかどうか。王国や共和国もいつまでも大人しくしててくれないでしょうしね」

「オージマー皇帝は他人のスキルを奪えると聞きました。ならば」

「父ならば使いこなせるかも知れません。ただ、自分ももうこのスキルにも馴染んでしまいましたからね。失ってなおこの国の皇帝として在れるのか、自信がありません。皇帝陛下にも提案されたことはありますが、断りました」

「私は、招かれた身です。オージマー皇帝が遮らないのであれば、あなたの外見を少しずつ変えていく事にも協力しましょう」

「お申し出、ありがとうございます。それと、これはもしかしたらのお願いなんですが」

「なんでございましょう?」

「母と父とが、あなたの身代わり的にユリエールに送られたとして、ぼくもそちらに滞在するようになるかも知れないんです。帝国から逃げ出すなり追放されるなり、状況次第でしょうけど、こちらにはいられなくなる可能性と、いたくなくなる可能性の両方があるので」


 クェイナは、流石に即答しかねた。考えを巡らした後、こう提案してみた。

「読心というスキルは、ただ相手の考えている事を読み取るだけでなく、相手の記憶まで辿れるのでしょう?見たもの(映像)聞いたもの(音声)も含めて?」

「はい、その通りです」

「では、もう垣間見ているかも知れませんが、私の拠って立つユリエールがどんな存在なのか、ゴブリンやオーク、オーガーがどのような者達なのか、つぶさにご覧になられては?」

「もうちらちらとは見させて頂いてたんですが、それでは失礼しますね。しばらくの間無言になりますが、お許し下さい」

「・・・許します、が、出来れば、私と恋人との睦言や閨の場面は覗かないで頂けると・・・」

 メレレンドは無言だったが、かすかにうなずいたように見えた。

 じっと見つめられたまま、二十分か三十分くらい経ち、そろそろ外がほのかに明るくなってきた頃だった。

「ぷはーっ!すごいですね!いろんな意味で、ぼくも向こうを見てきたくなりました!ユリさんて方もいろいろすごいし、オーク・オーバーロードの親衛隊との戦いとか、あなたも凄い活躍をされたんですね!物語の英雄のようです!」

「いえ、私など、まだまだです」

 メレレンドは、窓の外の明るさに気付くと、席を立っていとまを告げた。

「名残惜しいですが、またお話しさせて下さい!」

「はい。私でよろしければ」

 一方的に心と記憶を覗き見られるのを普通の対話とは言わないだろうが、相手がまだ十歳の子供という事もあって、クェイナは流した。帝国に数年滞在する可能性を考えれば、皇太子を味方につけておく意味合いは、個人としてもユリエールにとっても決して小さくなかった。

 しかし、木内恵那としての記憶までもしも盗み見られていたとしたらと思うと、気が気でならないのも確かだったが、メレレンドはすでに退室していた。


「このまま起きられますか?それとも休まれますか?」

 侍従に問われたクェイナは自身の体調だけなら起き続けても良かったが、子供の為にはいったん休んだ方が良かろうと判断した。

「軽く何かつまめるものと、眠りを促すような温かいお茶を」

「承知しました。お待ち下さい」

 侍従は手際良く温かいミルクティーを準備し少量のはちみつを入れ、後はクッキーの様な茶菓子を何種類か添えてクェイナに給仕した。

 侍従は申し訳程度に茶菓子から一欠けら食べ、ミルクティーを一匙飲んで毒見を終えると、もう一人がクェイナの寝ていたベッドをさっとメイクし直して、クェイナ一人を部屋に残して退出した。


 クェイナとしては、皇太子と縁を紡いでおく事は決して無駄にならないと判断していた。帝国兵が間の大陸(ヴォイユ)に駐留し続けることになれば尚更だ。メレレンドと話したように数年はいても、ずっとはこちらにいるつもりはない。ユリと離れ続けるのも辛かった。

 短くて、2-3年?ゴブリン・ハーフなら、いや、ユリと自分の間の子なら、人間の4-5歳以上に匹敵するくらいには逞しく成長してくれていると期待できた。

 ただ、それ以上長居する可能性がある事も否定できなかった。メレレンドの様に両親から受け継いだ因子、ユリいわく遺伝子だったか、を操作して体全体の性質を変えてしまう事にクェイナは躊躇した。それは外見的には微調整にしか見えなくても、中身的には全くの別人に変えてしまう事に等しいと、クェイナも木内恵那も判断していた。

 しかし理由は違えどメレレンドと同様に、自分の子供も本当の自分とは異なる姿を必要とするなり、望むなりする可能性があった。その意味では、メレレンドは都合の良い実験台にも・・・。

 クェイナは慌てて思考を中断して振り払った。そんな考えを持ったという記憶すら、読心スキルの相手には致命傷になり得るのだから。


「あたし、最低だな・・・」

 木内恵那は、茶菓子の残りをミルクティーで喉の奥に流し込むと、ベッドに横になって瞳を閉じ雑念を消した。

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