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47.戻りつつある職能の力と、集まりつつある手がかり

 地表が近づいてくると、誰が戦っているのか見えてきた。中心にいるのは、オーガーの大長、グルガン。彼を中心に、ゴブリンの王たちが立ち向かっているというか、打ちかかっても簡単にあしらわれていた。輪の中心の外側には地面に腰を下ろして傷ついた身体を休めてるオークやオーガーたちもいたので、何となくやっている事の想像がついた。


 私が空からやってきたのに気がついたのは、グルガンが一番早かった。喧噪の輪の中心に着地する時には、ヘリが着地する時のような強い風を周囲にまき散らして、喧噪も同時に鎮めてくれた。

 グルガンに最後まで立ち向かっていたゴブリン王、ザギアが満身創痍ながら伝えてきた。

「ユリ、オソカッタナ。クェイナサマガ」

「知ってる。これでも最速で駆けつけたんだ」

「アトハ マカセタゾ。クェイナノ センシ」

「任されたよ」

 ふらついてたザギアが気を失ってもたれかかってきたので、胸ぐらを掴み、身体強化も少し使って輪の外側へ向けて放り投げた。部下らしいゴブリンたちが彼をどこかへ運び去るのを見届けてから、グルガンに向き直った。

「それで、クェイナの後を追うでもなく、何をしていたのか聞いておいてもいい?」

「クェイナ、ジブンガ イナクナッタトキノ ダイリ、キメテイカナカッタ。ミナハ、ユリ カ、ツギニハ ワレガ フサワシイ イッタ。ダガ、ワレハ クェイナ マモレナカッタ フサワシイト オモエナカッタ」

「だから自分より強い誰かがいれば、そいつに指揮を任せようとしたの?」

「ソウダ。ユリ、オマエガキタノナラ、ハナシハ オワリダ。アンデッドノコウテイ、ダンダニル モ タオシテキタノダロウ?」

「ああ。神様の加護とかのお陰でね。それで、ここからどうするかだけど・・・」

「ナラ、ワレヲ タオセ」

「んん?その話はもう終わったんでなかった?」

「ハナス ヒツヨウハ ナイ。タダ、チカラヲ シメスノミ」


 私の目の前に、身長約3.5メートル、全身筋肉の塊なグルガンが進み出た。立ち塞がったという形容がぴったり来る、威圧感の巨塊。弱体化し始める前でさえ、自分よか強いだろうなと認識できてた相手。五割ほど弱体化してる今では、身体強化してさえも及ばないだろう。その上にマーレの祝福を浴びてようやくといったところかと想像は出来たけど、この場にマーレはいない。今夜は話し合いまでという約束も思い出したけど、退ける雰囲気は無かった。


「んー、ガチの拳だけだと無理だろうから、全部使っていい?」

「モチロンダ。オマエカラ、カツテナイ チカラ カンジテイル」


 グルガンは、背中に負っていた、長剣と呼ぶには無骨すぎる両手剣を身体の前に構えた。刃の厚みは私の腕くらいはある。まともに直撃すれば、どこに当たったとしても無事ではいられまい。

 それでも、退く気はなかった。


「いいよ。やろうか」

「ヨシ。オマエラ、サガレ」


 集団の輪を今までの二倍以上に広げた中心で私とグルガンは向かい合った。

「どっちかが降参するか、戦えなくなったらおしまいでいい?」

「カマワン。イクゾ」


 ドンッ、と何かが爆発したような音が響き、グルガンが一瞬で間合いを詰め、大剣を振り下ろしてきた。

 真上から頭上への一撃。まともに受ければ真っ二つにされてしまうだろうなと思いつつ、空を飛んできた時と同じ要領で体を風で包み、後退して間合いを取った。

 グルガンは地中深くまで突き刺さった大剣を引き抜き、また一瞬で間合いを詰めながら下段から上段へと切り裂くように大剣を振るった。


 一つずつ試そう。

 そう決めた私は、輪の外周に沿うように後退しながら、大剣の先に風を纏わせた魔力球を当てて刃が辿る軌跡をずらした。

 私の体を下から斜めに分断していてもおかしくなかった一撃が、体の手前をかすめて空振りした。グルガンは何が起きたのか驚きつつも把握し、戦闘狂の魂に火がついてしまったのか、雄叫びを上げつつ剣撃の回転を上げていった。

 剣の狙いをそらすのに慣れた頃、グルガンは空振りした剣から片手を外し、私との距離を潰しながら掴みかかってきた。


 数十通り以上の対応手の中から、私はふと思い出した。今夜は話だけで済ませる約束になっていた事を。

 そして転生を繰り返す中で身につけた職業(ジョブ)というか職能(スキル)の中には、それらしき物があったのを思い出した。

「さわらないで!」

 私の体に爪先で触れかけていたグルガンの動きが止まり、当人の意志に背くようにその指先も腕も引き戻された。

「ナニヲ シタ?」

「お話し、かな?」


 話術を駆使したわけでは無いから話術師ではない。99回の転生の間には、詐欺師というかペテン師まがいの事をやってた事もあった。これは、対象を騙すという能力に、呪術師や魔法使いの力も掛け合わせて得た力、いわば、導師ともいうべき職能の力だった。

「ちょっと空に浮かんでみたらどうかな?」

 私の体を包み込んでいたのと同じような風の大玉がグルガンの全身を包んで、地表から5メートルくらいの上空へと運び上げた。その途中で私を掴もうとしてきたので、

「ぐるぐる回っちゃえ」

 私が陥りかけたような360度縦横無尽の回転にグルガンは翻弄された。


 そう、導師は、自分の言葉で、対象に、自分の望んだ効果を付与できる、ある意味究極のバッファーでありデバッファーでもあった。

 もちろん、自分自身をその対象に選ぶ事も出来る。万能ではないけれども、自分をも欺き、本来実現し得ないような効果さえもたらし得る。

 自分が転生を繰り返す中で、なぜそんな職能を得るに至ったのか。いや、そもそも、転生を繰り返すようにしたのは、女神エリュタリアというかユウちゃんとの取り決めのせいでは無かったのではないのか?、という漠然とした疑惑さえ、うっすらと脳裏に浮かんだ。


 まだ、女神様にとんでもない愛の告白をするに至った経緯も明らかになってないし。


 ユウちゃんの「お姉様!」という悲痛な叫び声も、彼女が私をそう呼んだ理由からも、私がまだまだ失ってるというか隠されているのだろう記憶がいくつもある事が伺えた。


 そんな物思いにふけっている間に、頭上で回転し続けていたグルガンが周囲の空間全てを振るわすような大声を放って風の檻を霧散させて、大剣を振り下ろしながら落下してきた。


 常人ならとっくに平衡感覚を失ってまともに動けない筈なのに、さすがだな、とか、もしかしたらグルガンも、とか思いながら、私は言葉を紡いでいく。


「私は、拳に光を宿す者」

 両拳にまばゆい光が宿った。

 導師は、言霊師でもあった。先ずしっかりと言葉でイメージを固める事が大切なのですよ、と誰かから教わった気もするけど、あれは誰だったのだろう?

「光は敵を退け」

 左拳で眼前に迫っていた大剣を打ち払う。グルガンは、ならばと頭突きを打ち込んできた。

「光は敵を打ち抜く」

 もちろん殺すとか傷つけるつもりはなかったので、掌底をグルガンの額に当て、光で打ち抜いた。額には傷一つつかなかったけど、光はグルガンの頭部を満たして空へと駆け上がって消え去ると共に、グルガンの意識も刈り取っていった。


 体重数百キロの巨漢に押しつぶされそうになって少し焦ったけど、

「我が膂力は全てを支える」

 と口早に囁いて、何とかなった。足下が少し地面でめり込むくらいで済んだ。


 周囲は歓声に包まれて、ゴブリンもオークもオーガーもそして人間からも手荒な賛辞を惜しまなかったけれど、私は今の感覚が失われる前に済ませておくべき事があった。

 グルガンの巨体を地面に横たえて、

「この後、メイケンの領都の包囲を解きに行きますけど、出発は翌朝。それまでは休んでおいて。」

 反論がある人もいたみたいだけど、言霊の力のせいか皆従ってくれた。


 私はその隙に囁く。

「私は私が愛する誰かがどこにいるのかを知りたい」

 そしておおよその方角と距離とが脳裏に浮かんでくる。その相手が誰なのかも。

 一番近くに強く感じられたのはマーレだった。恐ろしいのは、マーレ以外にも再会候補ともいうべき存在が複数感じられた事で、これらにはヴォルネルやダブランカなんかは含まれていない。

 クェイナは北西というよりはずっとずっと西の方に存在が感じられた。高速で移動している事以外にもおかしな事があって、なぜか、マーレやクェイナよりも強い絆を感じる存在がクェイナのすぐ側にいた。


「十傑が一人か二人とか言ってたから、そのどっちかかな」

 と想像してみたが、連絡が取れないのならこちらの状況を落ち着かせ次第、迎えに行くしかない。マーレの言ってた事も気になるけど、それは追々考えていく事にして、セピアスに連絡を取ろうとしてみた。

 本来なら、クェイナが不在時の統率役の筈なのに、グルガンが他の者たちと手合わせしてる場の近くにもいなかった。


 宝珠から呼びかけても返事は無かった。

 私は、さっき所在を探った相手の中にセピアスが紛れてないか改めて確認していき、見つけてしまった。愛する者っていうよりは、大切な誰かという感じだったけれども。

 周囲には、朝には戻るからここでおとなしくしていてと伝え、声が届いた範囲の者は全員首を縦に振ったので、指示は的確に守られるだろうと信じた。

 私はセピアスを感じた方へと空を飛び、初めてセピアスと出会った砦跡に行き着いた。崩れた壁に囲まれた中庭にセピアスはいた。

 腰を地面に下ろし、両手両足を地面に伸ばしてくつろいでいる姿は、ゴブリンらしくなかった。上空から降りていっても、セピアスは何の驚きも態度の変化も示さずに私を迎えた。

「ヒサシブリダナ、ユリ」

「そうだね、セピアス。これで、会うのは何回目だっけ?」

「サア。ユリ ノ ホウガ オボエテイルノデハ?」

「少なくとも、三回か、四回くらい?」

「ソンナカンジダ。サテ、タイセツナ ハナシヲシヨウカ」


 私はセピアスの真向かいに腰を下ろしながら考えた。99回目だからいろんな人たちと再会しているのかと思ったけど、長丁場なせいか、これまでにも再会していた人はいたらしい。そしてそれは、セピアスに限った話では無いだろうとも推測できた。


 セピアスは、私が腰を落ち着けたのを見計らって、想像してたのよりもずっと問題な一言を放った。


「クェイナサマヲ ツレテイッタ アイテノ カタワレ。オレガ ミタノハ ジッコウハン ノ オトコハ テイコクノ ジュッケツノヒットウ トカイウ ヤツダロウ。ダガ、テビキシタノハ ソノオトコ デハナイホウノ ダレカ」

「直接見てないなら、何で分かるの?」

「ホカノモノニハ ツタワラナイ メッセージヲ ウケトッタカラナ。ソレデ オモイダシタノダ」

「転生を繰り返してる私と、以前から接触があった事を?」

「アア。ダガ、ソレダケデハナイ。ソノ メッセージヲ ワタシテキタモノト、ジブンヤオマエトノ カンケイ。ソノ ダレカハ、テンセイヲ クリカエシハジメル マエノ オマエヲシリ、オマエガ メガミトノ ヤクソクヲスルニイタッタ ケイイモ シッテルラシイ」


物語としての佳境にさしかかりつつあります。

今後もポイントブクマ等の応援よろしくお願いします。


ちなみにグルガンのイメージは、喋れる(理性のある)バーサーカーです。(f○te初作の)

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