46.増え続ける記憶と再会者たち
鳥人のガーグラさんは、たぶん、ものすごくがんばってくれた。2、3時間くらいでワッハウの辺りにまで戻れた。
ただし、とうに限界は迎えてたみたいで、気がついたら上空から滑落していた。私は地表まであと10メートルくらいの距離から風とか炎の魔法の玉を何発も地表に打ち込んでから、
「マーレ、後は頼む!」
と任せた。
「お任せを!」
マーレは地表に対して津波に対して張ったような防御壁を張ってくれた。それは私達が本来受けなくていけなかった衝撃の大半を肩代わりしてくれたみたいで、ふわりとはいかなかったけど、鳥人のおじさんは片足を掴んで地表に対して水平に投げ飛ばして、マーレとミケラを両肩にに担ぐように着地した。
ぐぎぎっ!
と不吉な体内音が響いて、人体のどこかに受けてはいけないダメージが入った音がした。具体的には、膝とか腰とかの辺り。
着地の後、肩からミケラとマーレに降りてもらってからも、いけない汗をだらだらと流しながらその場から動けないでいると、マーレが癒しをかけてくれて動けるようにはなった。
鳥人のおじさんはミケラが拾ってきてくれた。マーレがさくっと癒しをかけてたけど、目立った怪我とかはしてなかった。気は失ったままだったけど。
マーレが私に尋ねてきた。
「さて、ここからどうしますか?」
「ワッハウとかからそう遠くない辺りには来てると思うんだ。クェイナの腹心のゴブリンに連絡取れるから、今どうなってるか聞いてみよう」
宝珠を握り、セピアスに念話を発してみたけど、空を飛んでる間と同じように、応答が無かった。
「とりこんでるのかな。返事が無いや」
「困りましたね。そうすると、西岸の方に進むのか、メイケンの領都の方に向かえばいいのかも判りません」
「中間位置にいたのが、メイケンの領都へ向かってたのなら、西岸じゃなくメイケンの領都の方に向かった方が合流できそうかな」
「でも、すでに浚われたというのなら、北西なり西岸の方に戻るのでは?」
「確かに」
「闇雲に探し回っても見当違いの方向に進んで行き違うのは、怖いかな」
行き先に加えて、鳥人のおじさんをどう運ぶかという課題があった。気を取り戻したとしても飛べない状態だとすると、どこか信頼できる場所とか誰かに預けてこないといけない。
「空からワッハウの街が見えてたと思うから、いったんそこに立ち寄って預けてこよう。それまでにセピアスとかと連絡取れるかも知れないし」
「では、ガーグラさんは私にお任せ下さい。正直、さっきの着地の時も私が肩代わりした方が良かったでしょうね」
ミケラがマーレから祝福を受け、ミケラの3倍近くは大きそうな鳥人のおじさんを背負って、私とマーレとに併走した。傍目にはミケラの姿はガーグラさんの羽に埋もれて見えず、気を失ったどでかい鳥人がヘッドシェイクしながら高速移動していく摩訶不思議な光景が展開されていたと思う。
一時間もかからずにワッハウの街壁が見えてきた。ガーグラさんだけでも預けられれば、もっと身軽に移動できると思っての事で、たぶんそれは間違いでは無かった筈なんだけど、考えが足りなかったって思い知るまで10分もかからなかった。
最初にこの世界に転移してきて初めに会って助けた人の一人、ワッハウの街の領主の娘さん、ラシャと久しぶりに再会して、やはり、思い出してしまったから。
47回目くらいのだったろうか。あの当時もどこぞの領主の娘さんで、お家事情に相当嫌気がさしてたのか、たまたまそこに噛む機会を持ってしまった私がお家事情をさらに引っかき回したというかいつ爆発してもおかしくなかったものを爆発させてとても風通りが良くナってしてしまったというか。
それは当時のラシャ、サシャとかって名前だったかな。彼女にはとても痛快な出来事だったようで、私は逃げるようにその街を後にしたのだけど、押し掛け女房的にしばらくずっと、年単位で私についてきてしまって、そのせいでその回のユウちゃんに出会った時余計にいろいろ大変だったような思い出まであった。
ひさしぶりー!、と駆け寄ってきてくれて抱きつかれて、じっと目を見つめられて、そんなこんなを私が思い出してる間に、ラシャも思い出してしまったらしい。
「アマランダ。確か、あの時のあなたは、そんな名前で、外見も今の五割減くらいでごつくなかったような」
「・・・ラシャは、サシャだったかな」
「あの時は、あなたが運命の人と再会するまでを見届けてから側から離れたけど、次会うような機会があれば逃さないって誓ったような・・・」
「思い出さなくていいから!それにその誓いはサシャのであってラシャのじゃないし!置かれてる立場も違うんだから」
「それはそうだけどさ」
「とりあえずいろいろ事情を細かく説明してる時間が無いんだけど、この鳥人を預かっててほしいんだ」
「預かるのはいいけど、またどっか行ったままいなくなるんでしょ?」
「ものすごく端折って話すと、間の大陸の南西岸でアンデッドの皇帝と戦って消滅させてる間にクェイナがガーランド帝国の十傑にさらわれちゃったみたいで、急いで戻ってきたの。だから、すぐに出ないといけない」
「とりあえず、鳥人のお世話に関しては引き受けたわ」
ラシャに声をかけられた家人が、ミケラから鳥人を受け取り客室に寝かしつけておくようにと申しつけられて嫌そうな顔をされてたりした間、ラシャから少し遅れて私の足に抱きついてたイーナと目が逢って以下略!
「タガンダ?あの時も鍛えてくれるって約束して、でも放っておかれてたような・・・」
「もう女の名前じゃないよねそれ。イーナはラクチュエルだったかな」
イーナは、この世界に初めて転移した時に、ラシャのすぐ後くらいに助けた女の子で、何度か会う度に鍛えてあげる約束をしていたが全然果たせていなかった。
たぶん72回目頃。親も知らない孤児として育ってた私は孤児たちをまとめて都市内の庶民の雑用とか、外のそう強くない魔物たちと戦ったりして日銭を稼いだり鍛錬してる内に、孤児を食い物にしてた裏社会のそういう方々と対立するに至って、まぁご想像通り私一人で突貫して敵対組織を虱潰しにしていった時に捕らえられてた女の子の一人がイーナ、その時のラクチュエルだった。
その時もたしか平民の両親が殺されてしまってて、仇を取ってしまった私に心酔してついていくと言って聞かず、最終的にはある程度鍛えてから離れて旅に出た筈・・・だった。
「あの時は、鍛えてあげたよーな記憶あるけど?」
「ちょっとかじった程度で、普通の大人とならまだしも、裏家業の連中と渡り合うには不安な程度だったし、ユリ、あの時のタガンダに孤児たちの世話まで押しつけられたせいで、あの後ほんっとーーに大変だったんだからね!」
「いやいや、確かイーナというかラクチュエルより年上の男の子とか女の子とかも何人もいたし、単純な強さで言えばそっちのが強かったでしょ?」
「だけどみんなユリについていきたがって、私が泣く泣く引き留めてたんだからね!ユリが絶対に独りで旅に出ないといけないからって!」
むぅっ、と頬を膨らませたイーナに、私は頭を下げつつ内心苦笑いした。ラシャというかサシャのようなケースはあまり珍しくなくて、それが故に様々なトラブルを背負い込む事が重なるに連れ、運命の人たるユウちゃんの写し身を探す旅には、独りで出るようにしていた。独り身で出てもいろんな事が起きて道連れが出来たり押し掛けられたりとかはダブランカやラシャのようなケースでもうお察し。
「あのね、さっきもラシャに言った通り、私は帝国にさらわれたクェイナを助けだしに行かないといけないの。だから、約束は、また戻ってきたら」
「いつ戻って来れるの?助け出せたとしても、また取り戻しに帝国が兵隊を送り込んでくるんじゃないの?今だって、西岸とは別の部隊にメイケンの領都が包囲されたんじゃなかったっけ?そっちは助けなくていいの?」
「う・・・」
正論に反論出来ずにいると、ラシャも被せてきた。
「メイケンの領都が落とされるような事になると、西岸の方に兵を送ってくれてる人間の勢力も帝国の軍隊に恭順を示す為に、魔物たちの、ユリ、あなたの大切なクェイナが率いるユリエールの国民が皆殺しにされていくんじゃないの?」
「・・・・・」
有り得ないとは言えなかった。
そんな私を見かねたのか、マーレが助け船を出してくれた。もちろん、無償とは言い難いものだったけど。
「ユリ、あなた、この分だとあと数人どころか数十人規模で似たような集団に取り囲まれるわよ?」
「・・・なんとなく察してた」
「なんとなくじゃなくて絶対そうなりそうだけどね。それはさておき、クェイナがいなくなったユリエールを誰が統率できるの?ゴブリンの王の誰か?オーガーの大長?負けて吸収されたママシュとその手勢は離脱はしても統率は無理でしょ。良くて内紛で、それこそ帝国の兵士とかに全滅させられるだろうし。やっぱり、あなたが何とかするしか無いんじゃないの?」
「でも、クェイナがどうにかされちゃったら」
「連れ去ったという事は暗殺が目的じゃないんでしょ。普通の船旅なら一ヶ月はかかる距離なんだから、少しは時間的な猶予はある筈。だいたい、クェイナを取り戻して無事帰って来れたとして、彼女が大事にしてたゴブリンやオーガーやオークや人間たちが皆殺しにされてたら彼女はどう思うのかしら?」
クェイナを脅迫してた当人でもあるマーレの言葉とは思えなかったけど、否定できる要素は一つも含まれていなかった。
「・・・それに、彼女がいなくなった理由に心当たりが無いわけでもないから」
ぽそりと小声で付け加えられて、
「どういう事?」
「あなたね、それくらい自分で気付きなさいよ。当事者でしょうに」
問いつめようとして呆れられて、それ以上は迫れなかった。
疑問に答える代わりに、マーレは私の手を握ってくれた。それどんな意味なのか、ラシャもイーナも察してくれたようだけど、今は問いつめないでくれた。後回しにされただけだけど。
「それで、これからどうするの?」とラシャ。
「近さでいうならメイケンの領都の方に行った方がいいかもなんだけど、まずはクェイナがいたユリエールの部隊に合流しておきたい。内輪もめとか起こしてたら仲裁とかしないといけないしね」
「折衷案としては妥当でしょう。さらわれた時の状況も確かめないとだし」とマーレ。
「よし、じゃあ早速!」
と私はすぐに発とうとしたのだけど、
「あなた、まだ万全な状態では無いでしょうに。荒事になったとして体保つの?」
「だけど、何か起こってからじゃ遅いんだって」
「今朝は朝早くから起きて長距離を移動してきて、アンデッドの皇帝を倒す為にものすごい祝福を身に帯びて相手を消滅出来たのはいいけど反動で動けなくなって、それからまたここまで鳥人に運んできてもらって、疲労で倒れた鳥人をワッハウまで連れて走ってきて、もう日が落ちるところ。あなた、真っ暗な中を移動するゴブリンたちを見つけられるの?」
「ゴブリンだけなら夜目効くらしいからたいまつの明かりなんて目印は無いだろうけど、人間とか他の種族も混じっててそれなりの数がまとまって動いてたり留まってたりするなら、たぶん」
「そういうのも、だいぶ近づいていかないと見つけられないでしょうに。鳥人も鳥の特徴と似てるなら夜目は見えないのが普通でしょうし」
「じゃあ、見つけられれば、いいんだな?」
「・・・あなたの事だから何かしらの力業でどうにかしてしまうかも知れないけど、今日はもうしたとしても合流と情報の共有までよ。それ以上はダメ」
「止められても」
「結界に閉じこめられてみる?ダンダニルも自力では抜け出せなかった檻よ?」
試してみる価値はあるかも知れないにせよ、今でなくても良い筈だと判断するだけの分別は残っていた。
「わかった。でも、探して、出来れば合流するとこまではやるからな」
「はいはい、わかったわ。それで、どうやるつもりなの?」
「まだ言わないでおく。実際やってみないと確証にならんから」
いぶかしげに私を見つめる面々の表情に責められながらも、私はワッハウの領主さんに館の屋上にまで連れていってもらった。
「確かに地面よりは高い位置だけど。また祝福を受けて飛び上がろうっていうつもり?」
「いいや。ちょっと試しておきたい事があってね」
思い出した事は、人間関係の事だけでは無いような気がしていた。一回の生の内に、たいていは、何か一芸と呼べるような物を身につけていた。
それは剣術であったり、格闘術であったり、料理や釣りのような戦闘とは無関係な物事だったりする事もあったりしたけど、99回もやり直しというか生まれ変わり蓄積し続けていたのなら、少なくとも一回以上は、極めていないとおかしい対象があった。
私は、イグニオのお弟子さんの一人、風のフィーナさんがしていた事を思い出し、風に包まれ、宙に浮かび上がる自分をイメージしてみた。
自分が意識してなかった何かのスイッチがはまったのか、ごうっと強い風に体がくるまれ、私のでかい図体が屋上から浮かび上がった。
ただし、姿勢の制御なんかはやはり身体で思い出さないといけなかったようだ。一人遊園地アトラクション状態で空中を360度ランダムに回転し続け、無様に酔いそうにもなったけれど、とりあえず一方向に進むだけなら問題無く出来るようになった。
自分を包み込む大風に自分を遙か上空まで運び去らせるイメージを固定し、上空およそ百メートルくらいまで飛び上がった。
風の珠を維持したまま、目に身体強化のスキルを使って、さらにあるといいなと思った夜目の魔法もあったので使ってみると、昼間同様とは言えないけれど、明るい月夜程度以上の視野は得られた。
私は少しずつ高度を上げながら、より遠い範囲を視野に収め、そして、ワッハウから北東の方向に、探していた集団を見つけた。
普通なら野営と夕食の準備を終えてないといけない頃で、敵襲をもちろん警戒しながらもくつろいだ雰囲気にあってもおかしくなかったのに、野営地の中心とおぼしきスペースには広場のように集団がぽっかり空けられ集団に取り囲まれ、その中心部では誰かと誰かが激しく戦っていた。
私は自分を包む風の珠に方向性を与え、喧噪の輪の中心部へと文字通り飛び込んでいった。
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