38.土のダブランカという人物
最近ブクマやポイント増えてて嬉しい限りです。
ストックも増えてるので、随時投稿していきます。
「何から聞きたい?」
ダブランカは、大通りから一、二本横道に入った裏通りを縫うように迷い無く進んだ。
城門前に待ちかまえててくれたのは、たぶんラシェルさん経由でイグニオ爺さんが持たせてくれたもののおかげだったから、最初に訊かなくちゃいけないことは決まっていた。
「聖女様の行方は把握してる?」
ダブランカは、ちらりと私を見やってから答えた。
「お前がここに来たということは、お前もすでに知っている答えをなぜ尋ねる?」
「最後に聞いてからまた何か変わってるかも知れないじゃないか」
「こちらが持っている最新の情報でもまだ変わっていない」
「聖女マーレがその街に向かったのって、やっぱり、一番狙われやすいと思ったからだよね?」
ダブランカは、呆れたような視線を一瞬だけこちらに向け、歩むペースは決して緩めずに言った。
「それが事実だとしても、それだけな筈も無いだろうに」
私は少し考えてみた。
マーレは、アンデッドの皇帝は彼女のストーカーだと言った。どこに居ても追ってくるようなことも言ってたと思う。
だとしたら、マーレの狙いは明らかだった。
「アンデッドの皇帝をおびき寄せるつもりなのかな」
「・・・安心したぞ。ユリエールなんて物騒な存在の首領のゴブリン・ハーフの女帝の最優の戦士のおつむが筋肉だけで埋まってなくてな」
「外見からはそう見えないかもだけどね」
一応はほめ言葉だったらしいので、皮肉は受け流した。
「少人数しか連れていかなかったのは、おそらく対峙し慣れてる連中だけを選別したんだろう。それで、お前はどうするつもりだ?」
「どうするって、マーレのところに行くつもりだけど」
「アンデッドの皇帝を相手にするのは、聖女と聖騎士だけでは不十分だと?」
「それはわからないんだけどね」
「少なくとも負ける心配が無いなら、ガーランド帝国の軍へ備えておいた方が良かったんじゃないのか?」
「そっちは、普通に戦える相手だろうから、みんなに任せるよ。もちろん、こっちの用事がすぐに済むようなら最速で戻るつもりだし」
「アンデッド相手に戦う手段は得たのか?」
「たぶんね。何とかなると思う」
試してないのか?、とまた呆れたような視線で私を一瞥すると、ダブランカはわずかに肩をすくめて問いかけてきた。
「爺からは、出来るだけ協力しろと言われてる。王都に詰めてる北風兵団の兵を出すことも可能だ」
「役に立つの?」
率直な質問にも、ダブランカの声は気分を害したような様子は無かった。
「相手が人口の多いところを狙ってくるなら、聖女達との対峙の結果次第では、王都が次に狙われる候補になる。王都の人間を逃がすようになるたけ早く情報を伝え、誘導するにも、人手はいた方がいいだろう」
「どのみち、ついてこれない人は置いてくしか無いんだけれど?」
「・・・知らないのだから仕方無いとはいえ、心配してくれなくていい。最悪、俺だけは絶対についていく。聖女や聖騎士やお前がアンデッドの皇帝にやられた場合、誰かは生き残ってその情報を他の連中に伝わなきゃならんからな」
「へぇ、使命感ていうか、責任感が強いんだね」
「当たり前だろう。傭兵にしろ暗殺にしろ、信用が第一だ。その信用を得るには、情報が不可欠だ」
まっとうなことを言ってる筈なのに言葉が不穏過ぎて不安になっているうちに、かなりの距離を移動していたらしく、くねくね進んでいる裏道のあちこちに水路が見え隠れし始めた。
このままどこかの大きな水路沿いに出て北風兵団の詰め所とやらに入るかと思ったら、どことも誰の物とも知れない民家の扉を開けて中に入っていくつかのドアを経てから裏口らしき場所から出て、そんなことを二度三度と繰り返してから、とある民家に入って階段を登り、誰もいない寝室のベッドをどかすと、そこにはうっすらと魔法陣が描かれていた。
「えーと、ここにあの預かった何かをかざすと転移するの?」
「いいや。これは侵入者向けのトラップだ。ベッドを動かした痕跡が床に残っているなら、ベッドをどかした場所に何かがあると思うのが普通だろ?」
「性格悪いね・・・」
「用心深いと言ってくれ。それで、そこの男は信頼出来るのか?」
私は一瞬素で考え込んでから、本人に尋ねた。
「ヴォルネル、裏切る予定あるの?」
「あるわけ無ぇし、あるとか答える阿呆がこの大陸にいるかよ。五星のイグニオの身内の隠し通路だぞ?俺はそこまでの命知らずじゃないし死にたがりでもない」
「ユリ、お前がこの男を信頼してるかどうかだけ言い切れ。言い切れないならここに置いていけ」
「信頼、ねぇ」
ヴォルネルの瞳をのぞき込むと、置いていくな、と全身全霊で訴えかけてきてるのがわかった。
まぁ、七度目の生での縁もあるし、信頼できるかなと判断した。
「うん。置いていかないくらいには、信頼してるよ」
「わかった。そいつが何か面倒を起こした時は、お前自身が責任を持って始末しろよ?」
「なるたけ、当人を生かす方向で対処するよ」
甘いな、とたぶん心の中でつぶやきながら、ダブランカは彼の首紐にかけてたらしい、私が渡されたのと同じオブジェを天井に向けてかざすと、天井にうっすらと魔法陣が浮かび上がった。
「そいつはお前が手をつないで連れてこい」
そう言い残してダブランカはふっと姿を消した。
二人きりになって、ちょっと気恥ずかしかったが、
「ほら、手」
と誤魔化すように言って、ヴォルネルに握られてから、私もオブジェを天井にかざした。
ふわりと体が浮かび上がり、ここではないどこかに転移する直前、ヴォルネルが私の手を強く握り込んで言った。
「なぁ、お前と俺、ここじゃないどこかで、会ってたりしたのか?」
答える前に転移魔法は発動し、どこかの薄暗い一室に着いた時にはダブランカも他の誰かもいたので、
「その話はまた後でね」
と小声で言って、ヴォルネルは私の手を放した。
ダブランカはそんな私達を見ても、
「ついてこい」
としか言わずに、またいくつもの扉と部屋と通路を経てから、談話室みたいな場所に出て、向かい合わせのソファの片方に腰を下ろした。
私もヴォルネルも遠慮することなく向かいのソファに腰を下ろすと、ダブランカはヴォルネルを蔑むように言った。
「お前、従者じゃなかったのか?少なくとも、ユリと同等の存在ではないけれども、彼女を守り手助けしようとついてきたのだろうに、護衛するつもりがあるなら隣に腰を下ろしてどうする?」
「いや、別にヴォルネルに護ってもらおうとか思ってないし」
と正直な意見を述べると、ダブランカのよりも私の言葉に傷ついたようなような表情を浮かべ、ヴォルネルは私の背後に立ったけど、ダブランカは容赦なく追い討ちをかけた。
「たわけ。護衛もしたことが無いのか?お前の利き腕で、最速で腰に下げた剣を抜こうとした時、ユリの頭が邪魔になる。お前は立ち位置を変えなければ剣を抜くことすら出来ない」
背後にいたヴォルネルの表情は見えなかったけれど、どうやら心情的にはクリティカルヒットだったみたいで、私の対面に座っているダブランカの眉の間の皺の溝が薄まるまで何度も立ち位置を調整し続けた。
「もうそこでいい。時間が惜しい」
「そうだね。私も、あなたが情報通だって聞いたから、いくつか質問しておきたかったんだ」
「奇遇だな。俺も同じだ。爺に訊いたが、当人に訊いて教えてくれそうなら教えてもらえと言われてた。それで、何が訊きたい?情報は基本的に等価交換だぞ?」
「物々交換みたいなもの?」
「互いが望む情報をやり取りするのが常道だ。最重要な情報は金銭ではやり取りされない。何故かはわかるだろう?」
「なんとなくだけどね。それで、そっちが欲しい情報は何?」
「お前はゴブリン達の女帝の恋人だと聞いている。しかしあの聖女が横槍を入れて、お前を奪ったという噂も聞こえてきている。出来る範囲で構わない。教えてくれ」
「それはかなーりプライバシーを含むから、出来るなら教えたくないよ。それに、そんな情報を知ってどうするの?」
「お前がゴブリンの女帝の元を去るのかどうか、この間の大陸の情勢を左右しないとでも思うのか?」
そう言われてみれば、確かにそんな気もした。
「まぁ、どこまで話せるかはわからないけど、そこら辺の話も絡んでて私は聖女マーレのとこに行こうとしてるのさ」
「それで、そちらの聞きたい情報は?」
「マーレ達って、元は人の大陸にいたんだよね?それがどうして魔の大陸に追放されて、オーク・オーバーロードなんて存在と結託して、この間の大陸にやってくることになったのか。おおまかな経緯とかでもいいけど、出来るだけ詳細に教えてもらえるとうれしいかな」
「それは周知の事実が大半だから、俺がお前に求めている情報には釣り合わないかもな。他に知りたいことは無いか?」
「う~ん。そしたら、ガルバード帝国がなんで遠征してきたのか、とか、十傑って呼ばれてる人達について何か有益な情報があれば、かなぁ」
ダブランカは、しばし沈黙して頭の中で何かを整理してから確認してきた。
「聖女に関する情報は、ほぼ間違いない確度だが、特に前半部分は人の大陸なら覚えてる連中のが多いような周知の事実だ。だからサービスしてやる。
だが、帝国の動向と十傑については、情報の精度については不確かな物が含まれる。だが、かなり、高価な情報だ。この間の大陸でも、知ってる奴はほとんどいない筈だ」
「メイケン家の当主とか?」
「一部は伝えたが全部は伝えていない。だが、お前が知る限りを話してくれるなら、俺も知る限りを話そう」
「・・・・私の方の話も、かなりとんでもないというか、普通なら信じられない内容になるけど」
「お前がこちらをたばかるつもりなら、うまくやるのだな。だが、爺や他の弟子連中から話を聞いてる限り、お前は駆け引きには長じていない。ただ無防備に力任せに突貫するだけだ」
「ま、あ、間違ってはない、のかな」
はあ、とダブランカは呆れたようなため息を吐いてから、腰の革袋から液体を飲んで言った。
「じゃあ、俺から周知の事実を話していこう。それを元に、お前が話せる範囲を決めてくれていい。お前に話してもらう内容は、お前だけが知っている情報だからな。非常に、価値がある」
「うーん、他に、クェイナとかマーレも知っていると言えば知ってるけどね」
「俺はその両方と接点が無いし、これから接点を作ったとしてもおそらく開示はされないだろう。お前達も喉が乾いたなら自分の携帯しているのを飲め。こういう場所で出された何かをうかつに口にするなよ」
「それは、相手が毒見してくれたとしても?」
「毒見をかわす方法なぞいくらでもある。遅効性の毒だったり、相手が解毒薬を服用していたり、その場では何もわからないことは多い。用心はしておけ」
「でも、イグニオ爺さんは、信用できる人だと思うんだけどな」
「爺を信用してくれるのは正直嬉しくないでもない。ただ、俺らの身内になるなら、もう少しは無意識でも用心してもらわないとこちらが心配でならない。爺のお気に入りなんて滅多に現れないんだからな」
ああ、心配してるのはそっちなのね、と得心できた。
そして私が喉を少し潤してるのに釣られたヴォルネルが腰の革袋に手を伸ばそうとしていたのをダブランカは視線だけで咎めて止まらせると、時間がもったいないという風体で語り始めたのだった。
このあと2章ほどは情報展開回になる予定です。




