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35.たまたま入った教会での出来事

あけましておめでとうございます。相変わらず着地点不明ですが、これからもよろしくお願いします。

 クェイナの居城を飛び出し、ガズランの大迷宮を駆け抜けて、セピアスに連絡を取ってイグニオ爺さんがたぶんまだメイケン家に居留してるって話を聞いてまっすぐに向かい、合流していろいろ打ち合わせてからさっそく元の世界に戻してもらった。


 戻った直後をユウちゃんに待ちかまえられてるのだけが怖かったけれど、幸いな事にいなかった。母さんがいなかったのは残念だったけど、現状を簡単に伝えるショートメッセージだけいくつか入れてから身支度を手早く済ませ、ゴンド君に連絡を取って落ち合い、相談に乗ってもらって、少しだけこれからたどるべき筋道が見えてきた。


 うん。友達って、大事だよね。


 別れ際に質問された、そもそもの経緯を思い出せない事を気にかけながら、クリスマスシーズンの町中をぶらついた。

 定番のメロディーが漂い、どこもかしこもイルミネーションや緑と赤の飾り物に満ちあふれた、幸せな筈の季節。特にお相手がいる誰かには。

 今までの自分には高望みが過ぎるとやり過ごすしかなかった時期だけど、誰かが自分を想っていてくれたとしても、それはそれとして大変なんだなと実感できた。いや、自分のは他の人と少しどころかだいぶ違うとしても。


 神社かお寺か教会が目に付いたら適当に立ち寄ってみようかとあてもなくさまよっていると、ちょうど礼拝の時間が終わったのか、大きなドアが開いて中からそれなりにたくさんの人が出てきた教会があった。

 建物前で談笑を続ける人々の脇をするりと抜けて、教会の中に入ったけど、誰にも咎められなくてほっとした。

 教会ってこんな風になってるんだと、初めての景色に少し感動した。

 正面の奥には教壇があって、さらにその背後にはステンドグラスに掲げられた十字架と磔にされたけど復活したとか言われる教祖様の姿があった。

 結婚式にはバージンロードにもなる中央の通路の両脇には素朴な木の長椅子が並んでいて、長椅子の背もたれの裏側のスリットには聖書や讃美歌集が入れられていた。


 何となく教壇の方へ、十字架の近くへと歩いていくと、壇上の脇にあった扉が開いて声をかけられた。


「あら。見学の方かしら?」


 振り向いてみると、壮年くらいに見える銀髪の女性だった。黒がメインのシスター服というのだろうか。きっちり着こなしていて、笑顔も柔らかい人だったので、何も気負わずに答えた。

「ええ、そんな感じです」

「教会は初めて?」

「はい。お恥ずかしながら」

「恥ずかしいなんて思わなくて大丈夫ですよ。こんな季節ですし、教会に初めて訪れる方も大勢いらっしゃいますから」

 そう言ってもらえて助かります、と心の中で思っていると、にこにこと微笑を浮かべたシスターさんに尋ねられた。

「それで、今夜はどうしてこちらにいらしたのかしら?」

「ええと、ちょっと説明しにくい用件というか用事があって、たまたま目について入り口が開いた教会に入ってみたというわけなんですが・・・」

「あらそう。神様のお導きという訳ですね」


 神様、という言葉に微妙な心持ちの自分がいて、その感情は表情にも現れていたらしかったけれど、シスターさんは優しく受け流してくれた。


「別に、信じていなければ入ってはいけない、というものでもありませんしね」

「そうなんですか?」

「そうですよ。そうでなければ信者さんの数なんて増えようが無いでしょう?」


 くすりとおかしそうに笑うシスターさんが、最前列の長椅子を勧めてくれたので、並んで座った。


「それで、その用件を説明してみていただけますか?」

「・・・とても信じられるような内容じゃないと思いますよ?」

「話してもらえなければ、信じられるも信じられないも決められないではありませんか」

「それはそうですけど・・・」


 そんな風に渋りながら、異世界転移とか女神様とか多生の縁みたいな事には可能な限り触れないよう注意しつつ、悪霊退散の御札とか、神社仏閣のお守りとか、教会でいうなら聖水みたいなものを探してるような事を伝えた。


 シスターさんは私の話を茶化しも呆れもせずに正面から受け止めてくれた。

「つまり、あなたは、そういった存在から、あなたやあなたの大切な人たちを守れる何かを探してこちらにいらしたという事かしら?」

「はい。その理解で間違いないです」

「そうねぇ。十字架なんて何でだって作れてしまうし、それで効き目があるかなんてわからないし、聖水と言われても適当な瓶に詰めただけの水を司祭に祝福してもらっても、それに対価を頂くのもどうかと思うし」

「効くかどうかなんて誰にもわからないから、ほんと、気持ちだけでいいんですけど。いろいろ試してみるつもりですし」

「ふむふむ。即物的な何かでももしかしたら効き目があるかも知れませんが、それならあなたの心の持ちようの方がまだ望みがあるかも知れませんね」

「心のもちようですか?いるかどうかわからない神様に祈りを捧げるとか?あ、すみません」

 

 私の失言にも、シスターさんはころころと笑って気にした様子を見せなかった。


「人は御利益とかを求めて神様を信じたり信じなかったりします。求めた何かが与えられるかどうかは、それこそ神様次第。神のみぞ知るというところでしょうけど、人でも神に至る事もあります」

 この宗教にそんな教義あったのかなと祭壇の十字架と教祖様の姿に視線をちらりと送ると、シスターさんは言葉を付け加えた。というより意味不明な質問だった。

「あなたは神に至る事を望みますか?」

「は?いえ、何の事ですか?」

「そう。相変わらず気持ちは変わりませんか」

「相変わらずって、えっ?」


 もしかして顔見知り?でも教会なんて来た事無いし、この人の事も、と思った瞬間、鋭い頭痛を感じた。


「やはり制限をかけられているのですね。彼女にも困ったものです。この世界は彼女が好きにして良いものではないし、あなたに関してもそうなのに」

「えーと、あの、もしかして、関係者なんですか?」


 肯定もされなかったけど、否定もされなかった。

 シスターさんは私の両手を握ると、目を閉じて祈りを口ずさんだ。


「あなたがその愛を貫き、幸せであれますように」


 シスターの両手から暖かい何かが私の両手を通じて流れ込んできた。だけでなくそれはほのかな光を放っていて驚いたけど、光は私の中に溶け込むように消えていった。 


「い、今のは?って、えぇえっ?!」

 気が付くと、教会の外にいて、扉が開かれて内側からそれなりな数の人が出てきた場面に再会した。


 じ、時間が巻き戻った?!


 談笑する神父さんだか司祭さんだかと信者らしき人々の脇をすり抜けて教会の中に入ると、さっきと全く同じ光景が広がっていた。

 再び祭壇の十字架の前に立ってみたけど、さっきのようにシスターさんが声をかけてくる事は無かった。思い切って、彼女が現れた扉をノックしてみたけど反応は無く、そっと扉を開けてみたけどそこは物置のような控え室で誰もいなかった。


 私は扉を閉めると入り口の扉へと引き返し、人いきれのタイミングをはかって神父さんだか司祭さんに話しかけてみた。

「あのう、つかぬ事をお伺いしたいのですが」

「はい、何でしょうか?次のミサの予定についてですか?」

「いえ、あの、五十代くらいのシスターさんて、こちらの教会にはいらっしゃいませんか?」

「いいえ。この教会に詰めているのは基本的に私だけですが、そのような誰かが入り込んでいたのでしょうか?」

「ち、違います!たぶん人違いです!失礼しました!」


 私は慌ててお辞儀をするとその場を逃げ出した。家に直接帰るのも怖かったので母さんにメッセージを入れ、勤務先と自宅の中間にあるファミレスで落ち合う事にした。

 自宅でユウちゃんに遭遇する前に、状況は説明しておきたかったしね。


 一人先にファミレスで席を確保し、母さんを待つ間、あのシスターさんにもらった暖かみは、まだ両手の拳と体の内側に宿ったまま消えていなかった。


年末年始休暇はずっとreadonlyだったので、このクリスマス頃に書いたのでストック無くなりましたが、また書け次第アップします。

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