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29.魔の大陸から出航した聖騎士と聖女と、止めようとしたアンデッド皇帝と獣人の王と

よーやく主要登場人物達が顔を出し終えてきた感じです。

魔の大陸(クブジュ)。オーク・オーバーロードの勢力範囲の中でももっとも栄えている町の一つ、港町ザカリア。


 今、その沖合いには大小数百の船が浮かび、最後の一団が最後の一隻へと橋桁を上っていた。その甲板には、オークと別種の魔物がかけあわされた混合種(キマイラ)達が長さが十メートルはありそうな櫂に手をかけ、合図があり次第一斉に漕ぎ出す姿勢で待機していた。


「まだか、マゼンダ殿は?」

 白銀の甲冑に身を包んだ女性がいらついたように踵を踏みならしている傍らでは、まだ少女とも言える別の女性が、桟橋に腰を下ろし、はふぅとあくびをしながら足をぶらつかせていた。

「来るなら来るし、来ないなら来ないよ。落ち着きなよ、ミケラ?」

 ミケラと呼ばれた二十代後半くらいに見える女性は、リラックスしている十代半ばを過ぎたくらいに見える少女に言い返した。

「そうは言っても、主たるママシュ様が倒れられたのです。一刻も早く駆けつけないと・・・!」

「あなたの主は私じゃなかったっけ?」

「そ、それは、そうですがっ!」

「私は聖女様。あなたはその聖女様を守る聖騎士。今ここにいるのは?」

「留守を任されたオークの副官マゼンダ殿が戻るまで、船団の殿(しんがり)をつとめる女神の名を冠したこの船と船員と聖女マーレ様をお守りする為です」

 しぶしぶと言ったミケラを尻目に、マーレが立ち上がってお尻をぱんぱんと叩いて埃を払った。

「待ち人、来たというか来れなかったというか」

 ミケラが腰の剣を抜き、盾を構えると、その視線の先からは、一人のオークの老人が駆け寄って来ていた。

「乗船するわよ、ミケラ」

 ミケラは艫綱(ともづな)を剣で断ち切り、マーレの後を追って橋桁を登り始めた。

「オオーイ、待ってくれー!」

 二人が橋桁の半ばに達した頃には、オークの老人は桟橋から離れつつある橋桁のたもとにたどり着き、橋桁に飛びつこうとジャンプした。

 だが、その指先が橋桁の端に触れようとした瞬間、オークの老人の体は白く目映(まばゆ)く輝く光の檻に囚われていた。

「懲りないストーカーね」

 心底うんざりした表情でマーレがつぶやくと、ミケラは刀身に聖気をまとわせ、オークの老人を縦に二分するように暫撃を放った。

 細い光の筋がオークの老人の体表に刻まれると、血の代わりに半透明な何かが体内からわき出し、光の檻にとりすがってわめいた。


「おお、愛しの我が娘よ!父を置き去りにして去ってしまうなどひどすぎるではないか?」

「あんたは私の親じゃないし。私の親は人の大陸の政変に巻き込まれてこの魔の大陸に渡ってくる前に死んでたし。私があんたに何か指図されなきゃいけない理由なんてこれっぽっちも存在しないわ」

「おお、かわいそうな我が娘よ。記憶を改竄されてしまったのだね?この檻から出してくれればすぐに記憶の歪みを正してあげよう!」

「歪んでるのは私じゃなくてあんたの認識。死んで出直してきなさいよ。アンデッドなんて半端な存在に留まるなんて真似してないでさ」

 今ではもうマーレもミケラも橋桁を登り終えていたので橋桁は船上へと引き上げられ、近衛兵達が宙にかかげていた櫂の先は規則正しく叩かれる太鼓の音に従って海中へと突き込まれ、また空中へと反復運動を繰り返され、船は沖合へと進み始めていた。


「ん~ふふふふ、父の愛から逃れられると思っているのなら、その増長を砕いてあげるのもまた親のつとめとも言えるのでしょう!」

「いやだからお前は私の親じゃないって言ってるだろうが。言葉の通じない奴はこれだから嫌いだ」


「愛!それこそは女神がこの世界を創りたもうた理由!私とあなたとが出会えた理由!だからこそ私はあなたを独りにはしておけないのです!」


 本来、ゴーストなどのアンデッドが触れるだけでも浄化されかねない光の檻に直接触れながら妄言を繰り返すアンデッドの皇帝、ダンダニルは叫んだ。

「愛!それこそは生命の証!我が愛を受け止めよ、我が娘マルレよ!」

 沖合で待機する数百隻の船団に向かって、海上や海中からわき出した亡霊(ゴースト)達が群がった。

 だが、マーレは予め仕掛けてあった防御策を起動して告げた。

「無駄よ。学習能力の無いアンデッド。おつむが腐ってるんじゃないの?ああ、腐る脳味噌も無いんだったね」

 船団の船一隻ずつが大きな光の玉に包まれ、群がろうとした亡霊達は光に触れた途端に残らず浄化され消えていった。

「さようなら。もう二度と会う事はないわ」

「くっくっく。さよならなんて言わせません!父の愛をなめてはいけませんよ?」


 ドスンッ、とマーレ達が乗っていた船に衝撃が走り、沖合へと向かっていた船が桟橋へと引き戻され始めた。

 ミケラが船尾部分に駆けつけて見下ろしてみれば、極太の銛が突き刺さり、銛につながれた長い鎖の先には、屈強な獣人達が何十人も取り付いて船を引き戻そうとしていた。

 その先頭には獅子と虎があいまったような毛並の大柄な獣人が、ピンと張った鎖の上を駆けて船の目前まで迫ってきていた。


「ストーカーがもう一人来た。ほんとここにはろくな相手がいない」

 そんなマーレのぼやきを耳にした獣人は、とうっ、と空中から甲板へと飛び上がりながら叫んだ。

「逃がしやしねぇって言ったよなぁ、マーレ?」

「ダンダニルとラーニャだけでここから去るには充分な理由。自分の都合しか押しつけてこないあんた達の言う事なんて聞いてあげない」

 マーレは腰に下げた小袋の口を開いてラーニャに投げつけた。

「いつまでも同じ香辛料玉にやられるかよ。お前だけはさらっていくぜ!」

 ラーニャは息を止めて、投げつけられた小袋とそこから飛び出していた様々な香辛料のブレンドを弾き飛ばし、着地と同時に反転し、すぐさま離脱できるよう体をひねった。

「させるか!」

 ミケラがマーレを背後にかばい、盾を頭上に掲げた。馬の太股を三つ四つ寄り合わせたくらいはあるラーニャの足撃を、盾を斜めにしてそらす。

 二人をそのまま押しつぶすつもりは無かったラーニャはそらされた位置から最速で二人とも抱えて船から跳びだそうとさらに体をひねりながら着地位置を調整。

 あまりにも二人に集中していた為、その背後から迫っていた長大な櫂の連撃は全く目に入っていなかった。

 留守番役の近衛兵の中でも最も体躯の大きなジャイアントとの混合種の二人が左右から息を合わせてラーニャの背中を巨大な櫂でジャストミートすると、ラーニャは船と桟橋までの間にあった海を軽々と飛び越え、鎖を引いていた獣人の集団に頭から突っ込んでいった。

「ありがとう、助かったよ、二人とも」

 ミケラはぎりぎりのタイミングでマーレを甲板へと押し倒して難を逃れていた。

「コレクライ、ナンデモナイ」

「ソウ。コノタメニ、オレタチ、フネニドウジョウシテイタ」

 ミケラに手を借りて立ち上がったマーレは、ぱんぱんと体を払いながら二人にお願いした。

「ヤンゴ、マーゴ。獣人達が刺してくれた銛を抜いてきて。穴は後で誰かに塞いでもらえばいいわ」

「イワレナクトモ」

「コレカラヤロウトシテタ」

 ヤンゴと呼ばれた方が船尾に体を倒して長い手を伸ばし、マーゴと呼ばれた方がヤンゴのベルトを掴んで落ちないように支えた。ヤンゴは返しのついた巨大な銛をぐぼっと勢いに任せて抜いたが、それで空いてしまった大きな穴には肩をすくめ、船尾で起きあがると桟橋の向こう側で鎖を引いていた獣人の集団へ投げ返した。

 部下を怒鳴り散らしながら起き上がったラーニャは、豪速で迫っていた銛を片手の甲で払いのけ、さすがにもう再度投げても届かない距離になっていたので、海の縁にまで行って吼えた。

「覚えてろよー!きっとまた捕まえに行ってやるからなー!!」


 マーレはただ一言、大きく息を吸い込んでから答えた。

「い・や・よー!ダンダニルと仲良く潰しあってなさーい!」


 そしてダンダニルを囚えている檻をぐるぐると高速で回転させると、海上の船団の周囲だけではなく獣人達のいる町中の方にも死霊達があふれ出た。

「ちぃ、この場は引き上げだ!」

 ラーニャに率いられた獣人達が海とは逆方向に逃げ去っていく間に、マーレ達の乗った船が船団の殿に到着。散発的にまだわき出す亡霊の類はマーレの放つ聖なる光の矢(ホーリー・アロー)でしとめ、数百隻の船団は魔の大陸を後にした。


 陸地が完全に見えなくなるまで警戒していたミケラだったが、マーレが、

「もう大丈夫よ、お疲れさま」

 と声をかけると剣を鞘に収め、まだ見ぬ間の大陸(ヴォイユ)の方へと視線を飛ばした。

「これでやっと、私は操をママシュ様に捧げ、身も心もママシュ様の物になれます!」

「気が早いわよ、ミケラ」

「そうは言っても十年!人の大陸(フュリオ)を追放された我ら女神教団の者達が流刑された地で、偶然出会ったママシュ様に保護されていなければどうなっていた事やら」

「当時の教皇とか、オークを見下してた連中は残らずぶち殺されたけどね」

「それも仕方ない犠牲でしたでしょう。幼児でしかなかったマーレ様を女神様の御印(みしるし)として掲げるのはまだしも、勢力を急拡大させる為にいろいろやりすぎて各国からまとめて追放の憂き目に逢い、聖女マーレ様を危険に晒しただけでは飽きたらず、ママシュ様の寛大な措置が無ければ皆奴隷になっていてもおかしくはなかったというか私はそれでもかまわなかったというかいやむしろ」

「はいはい、そこらで止めておきなさい、ミケラ。ママシュが必要としてたのは、アンデッドの皇帝に対抗する力だった。だから私や私が大切だと認めた者達には手を出させなかった。それだけの話よ」

「ママシュ様にあの異能を授けられたのも」

「あれは私じゃなくて女神様の思し召しよ。どんな考えがあって与えられたものなのか、私達の考えでは及ばないものなのでしょうね」

「まぁとにかくです!あの誓約は、魔大陸におけるもの!かつ、私があなたの聖騎士でなくなれば、晴れて私とママシュ様の間にあった障害は何も無くなる訳で!いらっしゃるのでしょう?マーレ様の運命の人が、これから向かう先に」

「ええ。女神様がお示し下さっています。私と彼女とは、これから必ず出会い、そして固く結ばれるでしょう」

「そしてお役御免となった私はママシュ様と!ああ、十年越しの恋がついに実り、この身をママシュ様のあのたくましすぎる大槍で・・・」

 はぁはぁと息を荒げて妄想たくましく自分の世界にいってしまったミケラは放置して、マーレは舳先の方へと移動し、眼前に広がる大海原とその先に待ち受けているだろう運命の人へと、マーレはつぶやいた。

「待っていてね、xxx。私達は今度こそ本当の意味で結ばれるんだから・・・!」




ここからはまた少しペースダウンするかも知れませんが、筆が乗ってる内に投下していきますので、ブクマや評価等よろしくお願いします。

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