28.人の大陸の皇帝夫妻と、十傑筆頭との関係
ストックが出来てきたので早めに投下します。明日も連投予定。昨日も投下してるのでまだ読まれてない方はご注意を。
人の大陸。ガルバード帝国皇都マルメニキア。
百万以上とも言われる世界有数の大都市の中央部に築かれた帝城の中央部最上階。外窓からは都全体と周囲とを見渡せる一室で、皇帝オージマーが側近達と語り合っていた。
「それで、軍はいつ発てる?」
「間の大陸のファララ家の使者が、我らの使者を伴って発ったのが三週間前。出来れば彼からの便りを待ってからにしたかったのですがね」
「手紙の往還など時間の無駄だ。その為に強力な魔道具を持たせたのだろう?」
「しかし身柄を拘束されたりしていれば使おうとしても使えません。万一殺されていたりすれば」
「暗部の者もついていってるのだろうが。連中からの報告は?」
複数いる大臣や文官の中でひときわ立派な装束を身につけた宰相、デゲロが答えた。
「つい先ほど入った情報によると、使者に立てた者は、メイケン家とゴブリンの女帝達との会談の場に、ファララ家当主達と乗り込んで我が帝国の要求を伝えましたが、はねのけられました」
オージマーは、ぴくりと眉尻を動かし、にやりと笑った。
「はねのけられたとは、また微妙な物言いだな。誰が、何を、どんな風にはねのけたというのだ?」
「ゴブリンの女帝の腹心であり最優の魔闘士、ユリ・コグレについては前回もご報告したと思いますが」
「ああ、そいつがどうした?」
「オーク・オーバーロードとリビング・スライムアーマーをまとめて単身で打ち破り、オーバーロードの異能も消失させたようです」
「まことか、それは?!」
がたっ、と椅子を蹴って立ち上がったオージマーだったが、皇帝の左隣に座る皇妃キャルロに腕を引かれ再び席についた。
「真に残念ながら、確かなようです」
「そうか・・・」
オージマーは、腕にかけられたままのキャルロの手に自分の手を重ねて、しばらく言葉を無くしたが、家臣達もまた口を挟まなかった。
しばらく間を置いてから、デゲロは尋ねた。
「陛下・・・」
「ああ、それで、そのユリとやらは、どうしたのだ?」
「使者であるロドムド書記官ですが、まぁ、言われた通りの態度を取りましたので、当然、ゴブリン達の女帝にも、ユリ・コグレなる者にも、激怒されたようでして」
「殺されたか?」
「拘束はされましたが、まだ殺されてはいないようです。それとこれは斥候からの未確認情報なのですが」
「良い、申せ」
「はっ。ゴブリンの女帝の手によって、使者の口が塞がれたように見えた、と」
「縫いつけられたとかいうわけではなくか?」
「なにぶん遠目でしたのではっきりとは見えなかったようですが、使者の唇をつまみ、一撫でしただけで、口が開かなくなったように見えたと」
「異能の持ち主らしいという推測は当たっていたようだな」
「そのようですね。オーク・オーバーロードの近衛兵複数による襲撃も自らの手で退けたとの報告も入っております」
「そいつがただ者で無いのは、ゴブリンの身でオークやオーガーを差し置いて魔物達と人間の共同体の盟主として君臨した事からもわかってはいたが」
「言っておくが、そこらの姫君などと同列に扱おうとしない事だ」
今まで聞き役に回っていた、皇帝の右隣に座る長身の男が口を差し挟んでも、オージマーは不快なそぶりを見せなかった。
「わかっているさ、ネラ。だが、可能であればやはり身柄ごと抑えたいのが正直なところだ」
「帝国がゴブリンの女帝の望むところを支援するというだけで、大半の願いは聞き届けてもらえるだろうに」
「いきおいで魔物達の群と、人の大陸を制したガルバード帝国の皇帝が組みするわけにはいくまいよ」
「これは俺の勘だがな。体裁を気にすれば失う物の方が多くて、しかも取り戻しがつかなくなるぞ」
「忠告、覚えておこう」
ネラという、文官ではなく武官の装束を身に纏った者が皇帝の右隣の席に座り、対等な口を利いている事に不服の表情を隠しきれない者も中にはいたが、もう慣れてしまっているせいかあえて注意する者もいなかった。
「私も、ネラの判断に一票、かな」
こちらは窓際に立ち、ぼーっと外を眺めていた、魔法使いのローブを身に纏った三十前後の女性が、皇帝に語りかけた。
「占ったのか?」
「ううん、まだ占ってないよ。なんとなく、占うまでもなく、そう感じてるだけ」
「発つまでには一度でいいから占って、結果を報告しろ、ヨホー。これは命令だ」
「はいはい、陛下の仰せのままに」
オージマーが何かを付け加えようとして口をつぐんだのを見て、デゲロが尋ねた。
「それで、陛下の要求を拒絶し、使者を拘束したという無礼者にはどう報いるのですか?」
「一万、いや、二万だな。それでまず間の大陸の人間達を屈服させる。その上で、魔物達を掃討する」
「ゴブリンの女帝の配下もか?」
「こちらに直接挑みかかって来なければ、若干の猶予は与えてやろうではないか。人間の勢力範囲を掌中に治め次第、降伏勧告だ」
「降伏勧告じゃなく、死刑宣告だろうに」
「実力があれば、二万の兵などはねのけてみせるだろうよ。その程度の覚悟と実力なくば、最初から違う選択肢を選んでおろう」
「やれやれ。王国か共和国のどちらかを痛めつけておく方が長期的には効率が良いだろうに」
「両国が内輪もめしている間だからこそ、まとまった兵力と十傑の一部を海外へと遠征に回せるのだ。帝国内部が収まっている間に、片付けねばならん」
「また魔の大陸から別の勢力が間の大陸に進出してくる可能性もあるだろうに」
「ヨホーの占いでは、そう出ていたな。当たるかも知れん。その時はネラ、お前に判断を任せる。退くのか、現地の魔物の勢力と一時的にでも共闘するのか、その対価をどう支払うのかも含め、皇帝代理として、十傑の筆頭として、見定め、かの地に帝国の足場を築いてこい」
「仰せのままに。陛下」
そこからは遠征に関する詳細が文官武官達の間で取り決められ、日がとっぷりと落ちた頃に会議は解散となり、ネラとヨホーも退出しようとしたが、ネラだけは呼び止められた。
やがて皇帝警護の兵まで外に出されると、ネラと皇帝、そして皇妃だけが部屋の中に残った。
「まだ何か?」
「帝都から離れる前に、息子に声はかけていけよ」
「・・・仰せのままに」
ネラは一礼し、部屋から退出した。
部屋へと戻りながら、自身に伴侶や子供がいない事になっている事実を改めて思い返していた。帝国の本当の中枢を担う極々少数のみが、皇妃の他にも百名に達する美姫を擁する皇帝が、嫡子を持たない事を知っていた。
十五で皇妃と結ばれ、婚姻の三年後から焦りだし、五年後には皇妃の勧めで後宮に側妻達を囲い始めたが、やはり皇帝に子は出来なかった。それが十年に達しようかという九年目。乳母兄弟の兄としても育ってきたネラは、皇帝と皇妃の願いを、一度だけ聞き入れた。そしてそれは実ってしまった。
これが、厄介払いって事で、死んでこいと言われたなら、まだわかりやすかったんだがなぁ。
迂闊に小声でもつぶやけないネラは心の中でぼやいた。
本来は、他人の能力を奪える異能を持つ皇帝の為に、誰でも孕ます事が出来るというオーク・オーバーロードを何とかして捕縛してくる事が間の大陸への派兵の本当の理由だった。
魔の大陸にいる間は手が出せず、かといって無敵の状態では皇帝その人が対峙してさえ無事ではすまないとあって、親征は部下や臣下全員から却下されたものの、間の大陸の人間勢力の争いで不利な立場に置かれたファララ家からの援助の依頼を口実に、派兵が決定されたのだった。
だが、その本当の目的が失われたのに派兵そのものが撤回されなかったのは、帝国のメンツを守る為もあったが、ゴブリンの女帝の持つ異能に一縷の希望がかけられている為だと、ネラは受け止めていた。
だけど全部滅ぼすなんて言ってる相手に協力する筈も無いだろうによ。やれやれだぜ。
だからこその皇帝代理。現地での全権を与えられた事の意味も理解していたが、もしそれで皇帝と皇妃の願いが叶えられる事になってしまえば、実現してしまえば、皇帝の唯一の子として皇太子に立てられている息子は、いや、考えるのは止そうと、部屋に戻ってから平民の服に着替えてフード付きの粗末な上着を被り、城の外に出て場末の居酒屋へと足を向けた。
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