26.ガルバード帝国からの使者と、旧王都和平派の代表と、メプネンの軍師と
少しストックが潤沢になったので、早めに投稿しておきます。
乱入者が現れる前まで会談の中心にいたクェイナとアストランザさんがちらりと目線を交わすと、クェイナが先を譲った。まぁ、いきなり滅ぼすぞとか言ってくる相手にゴブリンの代表が返答しても聞く耳持たないかも知れないしね。
「ガルバード帝国のご使者殿。私は、旧プスルム王国配下で最大のプスルム派閥が盟主、アストランザ・メイケンと申します」
「うむ、我が皇帝は、この間の大陸への足がかりとしてこの近辺に拠点を置かれるかも知れぬと仰せです。今から心証を良くしておけば、それだけ後々の処遇が違ってくるでしょうな」
アストランザさんだけでなく、会談に居合わせた全員がなんだこいつはと、むっとした空気が流れたが、さすがそこは派閥の盟主としてアストランザさんはスルーした。
「心に留めておきましょう。しかし人の大陸において教会勢力を追放した十年前から、残った帝国と王国と共和国とでしのぎを削り、確かに近年の大戦で帝国の優勢は確定したようですが、大軍を海を越えて投入すれば」
「足下が揺るぐかも知れぬと?王国も共和国もちょうど内紛の真っ最中でしてね。魔大陸の軍勢が間の大陸を支配してしまえば、帝国が王国と共和国とを打倒し人の大陸を統一しても、くつがえせぬ差が生じるかも知れません。そこまで先を見据えたオージマ皇帝に敬服しなさい。あなた方はその深慮故に助けられるのですから」
アストランザさんは視線と手でクェイナを指し示してから使者さんに紹介した。
「我らは魔大陸からの侵攻を、そこなゴブリンの女帝、クェイナ殿と、オーガーとオークの連合軍に窮地を救われ撃退したところでございます」
「あなた方は魔物と結託したと申すのですか?」
「そうとも言えますな」
「共に滅ぼされますぞ?」
「もしそうされようとするなら、我らはまた我らと共に在ろうとしてくれる人々を助けようとするでしょう」
クェイナがなるべく柔らかく言葉を差し挟んだのだけど、使者さんの反応は、論外だった。
「誰に話しかけているつもりか?人の言葉を語るな、この魔物が!」
ひゅっ、と頭の芯が冷めて、気がついたら私は使者さんの首をつかみあげて宙づりにしていた。
「ぐ、ぐぅ、は、離せぇっ!私はガルバード帝国皇帝の使者!代理人であるぐべぇぇっ!?」
私は使者さんとやらの顔面を思い切り地面に叩きつけて、もう一度、先ほどよりは首を絞める力を強くした。
「お前が誰かなんて知らないよ。クェイナになめた口きく奴は、私が相手になってやる」
「き、聞いておるぞっ!ゴブリンの女帝にっ、組みして、粗暴の限りを尽くしておる男女がおるぐぼおおおっ!?」
もう一度顔面を地面に叩きつけてから聞き直した。
「なんだって?」
「ファララの騎士達よ、使者殿を救え!」
メプネン派閥の盟主っていう若い女性も、あまりな出来事に硬直してたけど、このままではまずいと気を取り直して、背後の騎士達に指示を出したけど、遅い。
私は剣を抜こうとしてたファララの盟主の肩をむんずと掴むと、ザンネール閣下へと投げ飛ばした。閣下は意図を汲んできちんと後ろ手に拘束してくれた。
私を取り囲もうとした騎士達は数メートル後方まで殴り飛ばされていた。彼らを殴り飛ばしたオーガーのガンダとアズアが私の両脇を固めると、大長がずいと前へ進み出て、咆哮を放った。それだけで騎士達の馬は残らず恐慌状態に陥って騎士を振り落としたり遮二無二に逃げだそうとした。
そんなメプネンの騎士達の逃げ道をふさぐように、いつのまにかゴブリン達が展開して、スリングを投げて馬の足に絡めて転倒させ、地面に叩きつけられた騎士達に群がって拘束していった。
それでも騎士達の先頭集団は包囲の隙間に向けて突進していき、突破するかに見えたけど、その先にいたのがニウエルさんだったみたい。というのも、突如として高さ2メートルはある逆U字型の土壁が幅30メートル近くにわたって出現して、かわいそうなお馬さんと騎士さん達が次々に衝突していったから。
行く手をふさがれた騎士達が方向転換しようとしても、背後からゴブリンやオークやオーガーの皆さんにお仲間が次々に拘束されていってる姿を見て投降してくれた。抵抗しなければただ拘束されるだけで、抵抗すれば殴り飛ばされたりして気絶させられてから拘束されるなら、みんなどちらを選ぶかは自明だった。
「んで、どうする?さっきあんた何て言ったんだっけ?」
つかみあげてた使者さんに尋ねると、さすがに三百の騎兵が十分もかからずに無力化されたのを見て青ざめていた。
「ここここんな事をすれば、なななにが起こるかわかっているのかぁっ!?」
私が再び使者さんの顔面を地面に打ち付けようとするのを、クェイナが側に来て留めた。
「使者様。改めまして。ゴブリン達の女帝、そしてオークやオーガーだけでなく、私たちと共存できる人々とが住む国、ユリエールを統べる者となったクェイナです」
「魔物が国など笑止!魔物も魔物に従う人も等しく皇帝に滅せられるであろう!」
「そうですか。であれば恭順を示せばどうなるのでしょう?」
「魔物は魔物よ。奴隷術式で戦奴として使える奴らは取り立てられようが、ゴブリンなど役立たず!一匹残らず殺し尽く」
「もう充分です」
クェイナが使者さんの唇の端を摘んで逆の端まで一撫ですると、使者はもう口を開けなくなっていた。エグイ。
騒動が起きてから鎮まるまで、全部ひっくるめても二十分もかかっていなかったけど、特に人間側のアストランザさんやザンネール閣下が苦笑いして、跡継ぎらしい人は眉間に深い皺を刻んでうつむきながらかぶりを振っていた。
「さて、邪魔も入ってしまった事ですし、いったん仕切り直しませんか?」
そんな風にクェイナが提案して、その場にいた人たちはこれからどうしようかという流れになったのだが、一人、声を張り上げた人物がいた。
「異議はございませんが、私も会談に加えて頂けませんか?」
「あなたは?」
それは、メプネンの騎士達の先頭にいた三人のうちの一人。商人風の男だった。帝国の使者が私に折檻されていても、ファララ家当主がメイケン家に拘束されてもまったく手を出さず、私からつかず離れずの位置にいて、全てを間近で観察しながら関わろうとしなかった男。
「申し遅れました、ゴブリンの女帝にしてユリエールの国主となられたクェイナ様。私は旧王都に依る商豪達の代表、いわゆる和平派の筆頭ともいえますが、マリネと申します。以後、お見知りおきを」
すぐ近くに息子さんや娘さんといったごつくて怖いオーガーさん達がたむろしててもまったく怯んだ様子を見せないマリネさんは、ものすごく肝が座っていそうだった。
「ご丁寧な挨拶、ありがとうございます。これから我らもいろいろと人の商人達とのやりとりも発生するでしょう。その際、お手伝い頂ければ助かります」
「これはかたじけないお申し出、この上無く嬉しく思います。帝国からの侵攻などを跳ね返せるかどうか次第ではありますが、出来る限りの協力はさせて頂きましょう」
「殺し尽くすと言われて、はいそうですかと従う訳にもいきませんでしたからね」
「はは、それは間違いありません」
「それで、あなたは?」
クェイナは、マリネさんとの会話の場に、騎士達が逃げようとしていた方角から歩いてきた一人の男性に声をかけた。
「いやあー、やっぱりこうなりましたか。我らが当主にも、使者殿にも、重ね重ね注意はしたんですが、我が力及ばず申し訳ありません」
その背丈は170センチ足らずくらい。どちらかといえば筋肉質ではなくひょろっとした身柄で、長い前髪が垂れて目や表情が伺いにくい人物だった。
「僕は、ファララ家お抱えの、メプネン派閥の軍師。宰相みたいな事もやってたりもしますが、名をアラランと申します。以後よしなに」
胸に手を当ててクェイナや私にお辞儀をして、またすっと身を起こしたアラランと名乗った男性は、細目な面に不敵な笑みを浮かべていた。
ブクマやポイントなど、励みになっていますので、これからもよろしくお願いします。
2019/11/17 大長の娘の名前がぶれてたのを、アズアに修正しました。




