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「姉ちゃん、姉ちゃん。ご飯用意できたよ。姉ちゃんってば」

 あまりにもしつこく揺さぶられるので、しぶしぶ起きてみると、テーブルに湯気の出たカレーとサラダが並んでいる。

「あっ」

 昼ご飯の支度忘れてた。

「『あっ』じゃねーよ。一人気持ちよさそうに寝やがって。お客さん来てるってのに」

 お客さん? 寝起きでぼんやりしたまま部屋を見回すと、オシャレなメガネ男子が向かいのソファに座っている。

 えっ、誰? 恭平の友達?

「こここここここここっ」

 緊張してうまく喋れない。

 恭平の奴信じられない。友達連れてきてもいいけど、私の前に絶対姿を見せないようにしてって、あれほど約束したのに!

 ほら、私が気持ち悪いから、恭平の友達も変な目で見てるじゃない。

 最悪! 

「恭平のバーカバーカ! 」

 私は捨てゼリフを吐き、部屋から出た。

 恭平には自然に喋れるんだけどねぇ。思わず溜め息が出る。

「姉ちゃん、ごめん! 」

 恭平が追ってきた。

 いや、今更謝っても遅いから。私、今めっちゃ不機嫌だから。

「待って! 姉ちゃん試してごめん! 違うから。あれ大原さんだから! 逃げなくて全然大丈夫だから! ホントごめん! 」

 恭平が必至に私に謝る。

 え? え? 大原?


 嘘でしょ。凝視してもこれが本当に大原かどうかわかんないんですけど。

 だって今まで前髪で顔の半分が隠れていたわけだし、元々素顔知らないし。

 顎のラインに見覚えがあるような、ないような。いや、ぶっちゃけわからん。

「……ちょっ、宮野さん顔近いっ」

 か細い声を出し、真っ赤になるメガネ男子。おお、まさしく大原だ。


 今のリアクションからこれが大原だというのは認めざるをえないが、この完成度の高い変身っぷりはなんだ。

 あんなシャレたメガネだったっけ? 服もこざっぱりとしてイイ感じだし。

 大原は美男子というわけではないけど、髪型とか服でこれほどまでに印象が変わるとは……。恐るべし大原。

「すごいだろ~。姉ちゃんが寝てる間に、メガネと服買いに行ったんだぜ」

 得意満面の恭平。何故か無性に腹が立つ。

 人が寝てる間にそんなことしてたんかい。

 

「先にご飯食べててっ」

 私はいても立ってもいられず、二階の自分の部屋に駆け込んだ。

 確か、使い捨てのコンタクトあったよね。

 あと、メイク道具……母さんの使っちゃおう。

 親戚の結婚式ぐらいしか化粧したことないけど、実は結構うまいんだ。

 目が地味だから、アイメイクだけでも全然変わるし。

 よし、目はパッチリ。あとはナチュラルに見えるようにして……うん、完成!

 あはは、大原の変身振りを見て、ついムキになってしまった。


「おおっ! 美少女だ、美少女がいるぞ」

 リビングに戻ると、恭平は大袈裟なぐらい褒めてくれた。

 まあ、褒められて悪い気はしないよね。

「月曜日、学校が楽しみだね」

 え?

「せっかくだからそれで行きなよ」

「えっ、このメイクで? 」

 冗談じゃない。私は首を振る。

「大原さんは新しいメガネで行くってよ。私服じゃなくて制服になっても、たぶん大原さんはなかなかのもんだよね。それに比べて姉ちゃん、あのダサメガネで行くの? 」

 うっ。

 恭平の言葉に心が揺れる。

 せっかくだから、自分が一番いいと思う状態で学校に行きたいような……。新しいメガネ買うお金ないけど、使い捨てコンタクトならまだあるし。


 でもさ、ちょっと待って。

 私、最初は大原と間違えられるのが嫌で髪を切ったんだよね。

 大原まで髪を切るとは思ってなかったから切ったんだよ。もし大原が髪を切るって知ってたら、私、切らなかったんだけど!

 だってさ、二人同時にイメチェンしてるって、超恥ずかしいんですけど!!


「今更遅いよ姉ちゃん。もう切っちゃったんだからさ。まあ、ダサメガネで行きたきゃ行けば? 大原さんの変身は称賛され、姉ちゃんの方は髪型はイイ感じだけど、あとはちょっと残念ねって思われればいいじゃん」

 くっ。それって、なんか悔しいかも。

 とことん残念な格好の時はどう思われても仕方ないって開き直れたんだけど。

 今は髪型に合わせていろいろオシャレしたくなってきた。私、変なとこ完璧主義者だから。


「大原ぁ! 」

 私は気合いを入れて言った。

「絶対、月曜日その格好で来てね! ちゃんとワックスでセットするのも怠らずに! 」

「……わかった」

 若干引き気味に頷く大原。

 よし、私だってやってやろうじゃないの。大原には負けないんだから。

「後は中身だね」

 恭平が呟いた。

 ん? 今何て?


 恭平はニヤッと笑って両手を掲げた。

 何をやる気なんだか。あまりいい予感はしない。

 大原の背後に回り、大原の脇腹に手を添える。

 そしてくすぐる。ひたすらくすぐる。


「あはっ、あははっ! きょっ、恭平君やめて! うはははっ! 」

 大原、無理やり大爆笑させられる。

「ちょっと恭平! 大原笑いすぎて泣いてんじゃん! 何考えてるの! 」

 私が止めに入るが恭平は悪びれた様子もない。

「姉ちゃん、気付いてないの? 大原さん大声で笑ったんだよ」

 え、あ!

「もしかしたら病気かなんかで大きな声出ないのかなって遠慮してたんだけど。これからは遠慮はいらないね」


 何故か明日カラオケに行こうということになった。

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