206# 戦況
炎は、より強い炎に焼かれ、呑み込まれるもの。
獄炎は蒼炎に呑まれ、無力化された。
《邪竜》も青白く燃える高温の炎の中で、完全に動きを止めていた。
獄炎と蒼炎は、格式的には同格。
蒼炎は温度に特化し、獄炎は消えない事や対象を燃やす速度といった特異性に特化している。
それぞれ得意分野が違うだけで、威力に大きな差がある訳ではない。
しかし《邪竜》の獄炎は、アベルの蒼炎に瞬く間に呑み込まれた。
刹那の拮抗すらせず、勝負にならなかった。
その理由は、担い手の技量。
獣のように力押ししかしない《邪竜》に対し、アベルは人として技術を持って蒼炎を操った。
柔は剛を制すというように、アベルは技によって力ばかりの獄炎を鎮めてみせた。
しかし単純な力だけなら《邪竜》の獄炎の方が強かった。
もし《邪竜》に技があったなら、負けていたのは自分だったろうとアベルは肝を冷やす。
そんなアベルに、火の玉が話し掛ける。
『…? え、この音なに?』
「ん? 音? どうした相棒?」
『いや、気の所為かな? なんか鈴の音が聞こえた気がしたんだけど』
「鈴?」
『ごめん、気にしないで。てか凄いじゃん、《邪竜》を瞬殺とか。あの修行でどれだけ強くなってんのアベル』
「いや…」
勝負はついた。
アベルの蒼炎の中で、《邪竜》はぴくりとも動かない。
しかし、死んではいない。
それがアベルには、蒼炎越しに感覚的に分かった。
《邪竜》の生命の源——心臓の脈動は止まっていない。
今は蒼炎で呼吸を遮り、気絶させているだけ。
前回、魔人化したオーガスは、蒼炎で包む事で呼吸困難により息絶えた。
しかしどうやら、それで止めが刺せる程|《邪竜》は甘くはないらしい。
「眠っているだけだ、殺せてはいない。多分、蒼炎を解けば目を醒ます」
『うげ…マジか。寝てる間にトドメとか刺せない?』
「そもそも死なないだろ。前回も殺す事はできなかったし…」
『あー…』
前回——原作では《邪竜》は、《時の鎧》と《原点回帰》の力をタチアナにより引き剥がされ、アベル達の総攻撃により生命活動を停止した。
しかし、《邪竜》に関して言えば生命活動の停止=死ではなかった。
生命を維持できない程に損傷し、碌に動く事ができない状態で、それでも《邪竜》は生きていた。
まるでなんらかの力により死ぬ事が許されないかのような、哀れみすら覚える程に痛々しい状態。
それは正しく生命への冒涜。
そんな《邪竜》の肉体を用いて受肉を果たしたのが最終章のラスボスであり、全ての黒幕であった《闇の神》であった。
「…兎に角、動きは封じた。蒼炎はこのまま燃やし続ける」
『蒼炎の拘束か…じゃあ他の援護は無理そ?』
「いや…いける。ただ僕が離れると魔力不足で蒼炎が消える。燃料に魔石を置いて行けば…」
ポーチ——内部が亜空間に繋がっている《風神の小袋》に手を突っ込み、魔石を探すアベル。
魔石なら、入学前にダンジョンやら遺跡やらを回って大量に保有している。
いや——正確には、保有していた。
「あれ…確かこの辺に入れてた筈…」
『あ…』
ここでカナデは気付く。
魔石は現在、すっからかんである。
『やっべ…魔石は帝国で全部割ったじゃん…アベルが崩壊しかかってた時に』
「あ」
それは帝国でのスイレン戦での事。
重症と魔人化の変異のし過ぎ、そして獄炎の多用という限界を超えて無理をした結果、アベルの肉体が崩壊し始めるという事態に陥った。
その折、六神たる火神と風神が顕現できる土台として魔素濃度を上げる為に手持ちの魔石を全て壊してしまっていた。
『ヤバいじゃん…魔石が無いとこの蒼炎どうなるの?』
「魔力供給が無ければ当然消える」
『…一応聞くけど、もし消えたら?』
「《邪竜》が目覚める」
『駄目じゃん。動けないじゃん』
「マズイな…アステリア達、大丈夫かな…」
『いや、アステリアよりもファラティアナの方がヤバくない? 《邪竜》一体を落としてたでかい水玉、あれ多分ファラティアナだよね。リルカとは合流できてアステリアやメイリンと一緒だけど、ファラティアナは一人だけ別行動してたし…多分だけど今、一人で《邪竜》の相手してるよね』
「…マズイな」
『うん、マズい』
いや待て、とアベルは思い立ったようにポーチを漁り、高価な装飾が施された桐箱を取り出した。
それは、《第二の魔王》による王都襲撃の折に鎮圧に貢献したとして式典で賜った褒美品。
『お! 確かそれ、前に国王から貰ってたご褒美だっけ』
「そう! 確か魔石が入ってる筈! 開けずに持ってて良かった!」
アベルは意気揚々と桐箱を開ける。
中に入っていたのは、小ぶりの魔石一つ。
質は悪くないが、精々中級止まり。
魔獣の群れのボスや、飛竜などの下級竜種から取れるもの。
値段にして、下級ポーション五本入りパック(特売価格)が買える程度だろうか。
『…えっと、このちっこい魔石で蒼炎はどれくらい持ちそう?』
「そうだな…大体、三十秒くらい?」
『ちょっとさ、全部終わったら王様殴りに行こうぜ。褒美ケチってんじゃねーよって』
「いや…アステリアのお父さんだし…というか王都襲撃の時は僕達、そんなに役に立ってなかったし…寧ろ相棒がローファスを転移させて場を掻き乱していたまであるというか…」
『…アレは本当に悪かったと思ってます』
肩身を狭くするように火力が弱まり、小さくなる火の玉。
しかし蒼炎を維持し続けるのもアベルとしては負担であり、こうしている今もじりじりと魔力は削られている。
この調子だと、三十分も維持し続ければアベルの魔力は底をつく。
このまま《邪竜》を押さえ続けるとするなら、いずれにせよ魔石か、或いはマナポーションが必要になってくる。
マナポーションに関しては普段は常備するようにしているが、その殆どをアステリア達に渡してしまっている。
そして女体化(まだ解除できていない)という不測の事態により準備に手間取り、ストックの補充をしないまま来てしまった。
《風神の小袋》の中には様々な魔法具や消耗品が入っているが、流石に《邪竜》をどうにかできる程のものは無い。
このままではジリ貧——そんな時だった。
明後日の方向より凄まじい衝撃と轟音が響き渡ったのは。
そして間も無く——木々の隙間からフォルが現れた。
フォルと、その後ろに続くルーナマールが焦った様子で走る——気絶したボレアスを引き摺りながら。
*
山の中を全力疾走で駆け抜けるフォル。
ルーナマールがその後を高速で飛行する。
後ろに伸びるルーナマールの尾には、気絶したボレアスが括り付けられており、木々にぶつかりながら引き摺られていた。
「おい! もっと丁重に運んでやれよ! 気絶してんじゃねーか!」
『煩い! 良いんだよ、こいつは多少雑に扱っても死にやしない! 大体私達に配慮できる余裕なんてある訳ないだろう!』
精霊語をかなぐり捨てて人語で怒鳴り返すルーナマール。
その後方には、四つん這いになり、凄まじい速度で追い掛けて来る《邪竜》の姿があった。
両翼はへし折れ、全身の鱗はひび割れており、全身から血を流しておりボロボロ、どう見ても満身創痍の状態。
しかし獣の如き咆哮を上げ、《邪竜》は狂ったようにフォルを追い掛ける。
フォルとルーナマールの切り札である古代魔法——《月の欠片》。
これを《邪竜》はモロに受けながら、それでも死ぬ事はなかった。
明確な手傷は負わせているが、致命傷には至っていない。
莫大な魔力を消費する大魔法|《月の欠片》の行使により、フォルとルーナマールの魔力は底をつき、もう殆ど残っていない。
そしてボレアスは、魔人化の限界が来たのか気絶してしまった。
どうしようもなくなった末の、この逃走劇である。
顎も砕けているようで、《邪竜》が口から放つ獄炎ブレスにもキレが無く、狙いも定まらない様子。
フォルは軽やかに闇色のブレスを躱し、そしてルーナマールはボレアスを盾にして獄炎を防ぐ。
「おい! やめろルナ! お前なら避けれるだろうが!」
『先の決勝に続いての魔人化、それも配分も分からず全力行使。もうコイツはこの戦いでは使いものにならない。活用法できるとするなら精々盾くらいなものだ』
「避けれるなら避けろつってんだよ!」
『こいつ、今回は何がどう転んだのか知らんがライトレスの小僧に傾倒しているらしい。なら婚約者のお前を助けるのは至高の喜びだ…多分』
「んな訳ねーだろ、それっぽい理屈で正当化してんじゃねーよ! 大体避けれたのに態々盾にした理由になってねーだろ!」
『喚くな、お前は前回のこいつを知らないから——』
そんな言い合いをしながらの逃亡も、間も無く終わりを迎える。
生い茂った木々を走り抜けた先に——アベルが居た。
アベルは目を丸くして驚く。
「——!? ファラティアナ!?」
「アベル!? やっば、走り過ぎたか! トレインしちまった!?」
トレイン——汽車のように魔物を引き連れ、逃亡した先で被害を出してしまう迷惑行為を指した探索者用語である。
そしてどうやら、《邪竜》の一体と交戦していたアベルと鉢合わせてしまったらしい。
「ごめん! 殺しきれなかった! 魔力ももう全然無くて!」
言いながら近づいたフォルは、ふと違和感に気づく。
そこに居たのは確かにアベル・カロット。
あまり直接的な関わりはないが、リルカの友達(?)であり、帝国での戦いにも参戦していた。
ローファスとは決して険悪ではないが、別に友達という距離感でもない微妙な関係の男の子——というのがフォルの認識だった。
だったのだが——フォルは足を止め、目を擦りながらアベルを上から下までまじまじと見る。
「あれ…お前、女だっけ?」
『立ち止まってる場合か阿呆!』
スパーンとフォルの後頭部を引っ叩くルーナマール。
何気にルーナマールが人語を喋っているのを初めて聞いたアベルは若干驚きつつも、狂ったように木々を薙ぎ倒しながら追い縋ってくる《邪竜》を鋭く睨み、手を翳す。
「蒼炎——焔籠」
アベルの掌から網目状の蒼炎が放たれ、四つん這いで迫り来る《邪竜》を捕えた。
そして蒼炎に包まれ、《邪竜》は苦しみながらも獄炎を放つが、それすらもアベルの蒼炎で防がれ、なす術もなく活動を停止した。
「スッゲー…あれを一発かよ」
目を丸くして驚くフォル。
ルーナマールも、こいつ腕上げたなー、と感心したような目で見ていた。
「なあ! 今の投網だろ! お前も船乗りの家系なのか!?」
「え…いや、実家は農業を…」
「そっか! 確かに構えが全然違ったもんなー。でもすげえよ! あの化け物を一撃なんて!」
キラキラした目を向けてくるフォルに、アベルは眩しそうに、それでいて複雑そうに目を逸らす。
「いや…抵抗力も弱かったし、一人でここまで追い込んでたファラティアナの方が凄いよ、本当に。僕は相性が良かったのも大きいし」
「相性つっても同じ火属性だろー。つか属性相性なら、火に強いのは水だし」
「上位属性の同士の戦いになると、属性相性は絶対じゃない。僕の場合は同じ属性だからこそ御し易かったというか…」
火も火力が強ければ水を蒸発させる事もあり、暗黒も濃度が濃ければ光を呑み込む。
属性も極めれば、相性すらも覆す。
ともあれ、絶賛魔法を勉強中で、最近ようやく属性相性に関して学んだフォルからすれば理解の外である。
「へー? やっぱ魔法ってのはよく分かんねーなー…」
本当によく分かっていない様子のフォルに、日々魔法を叩き込んでいるルーナマールはピキッと青筋を立て、再び尻尾で頭を引っ叩く。
「ってーな! 何すんだこの青瓢箪!」
“——!? ——!!”
怒るフォルに、精霊語で何かを言い返しているルーナマール。
アベルは精霊語を解さないが、ルーナマールの雰囲気からしてかなりブチ切れているのが伺えた。
この二人の喧嘩は今に始まった事ではなく、それこそ前回にもよく見た光景。
懐かしさに目を細めつつ、アベルは申し訳なさそうに手を上げた。
「喧嘩してる所悪いんだけど、ちょっと良い?」
ボレアスを放り投げ、取っ組み合いに発展していたフォルとルーナマールは、アベルの声にピタリと手を止めた。
「あの…マナポーションとか持ってない? そろそろ魔力が厳しくて…」
アベルの手から伸びる蒼炎は二つ——二体の《邪竜》を縛るように包み込んでいる。
一体分なら兎も角、二体分を拘束するとなると単純計算で魔力消費は倍になり、アベルの魔力もゴリゴリ削られる。
このままでは、蒼炎の拘束はそう長くは続かない。
心なしか、蒼炎が弱まっているようにも見えた。
「ま、マナポーション…」
さっき飲んだので最後だ、と顔を青くするフォル。
「いや、無いなら魔石でも…ってある訳ないか…」
上位の魔法使いは、魔力不足や儀式、或いは魔法の補助に用いる為に魔石を常備していたりする。
しかし今のフォルは、言ってしまえば魔法使い見習い。
魔法の大半をルーナマールと共同で発動する、俗に《精霊魔法》と呼ばれる特殊な手法を用いている。
余程の事情がない限り、魔石なんて嵩張る物を態々持ち歩いたりはしないだろう。
このままでは蒼炎の拘束が解け、二体の《邪竜》が目覚めてしまう。
アベルの頰に冷や汗が流れた所で、フォルは思い出したように顔を上げた。
「あ! そういえば、魔石なら一個あった! 前に王様からご褒美で貰ったやつ」
そうだそうだと手を叩き、「どこしまったっけなー」とサイドポーチやら懐やらを探し始めるフォル。
しかし、アベルの顔は晴れない。
フォルも確かに、王都襲撃の折に活躍したとして国王から直々に褒美を賜っていた。
そう、アベルが貰ったものと同じ桐箱を。
しかし中級魔石程度では幾つあっても大した時間稼ぎにはならない。
「ファラティアナ…言い難いけど…」
「あ、あったあった」
「ごめん…例の褒美じゃちょっと…ん?」
フォルの手にあったのは、小ぶりながらも超高密度に魔力が圧縮された魔石。
内包する魔力は、どう見積もっても最上級。
ダンジョンのフロアボスや《守護者》から取れるレベルのもの。
価値的には、この魔石一つで豪邸が立つレベルである。
「…これ、国王から?」
「ん、ああ。確かお前も貰ってたろ」
「……うん」
この差はなんだろうかと顔を顰めそうになるのを堪えつつ、アベルは魔石を受け取った。
『帰ったらやっぱあの王様ぶん殴ろう』
「駄目だからな」
メラメラと怒りを燃やすカナデを諌めつつ、アベルは魔石を動力として蒼炎の拘束を確立させた。
因みにフォルの褒美品が高価なのは、王都襲撃の折に国王の愛娘である王女アステリアをピンチから救った為である。
「ごめんファラティアナ…これ、かなり高い魔石だったと思う。必ず弁償するから」
「いや良いよ。これで《邪竜》が閉じ込めれるなら安いもんだし——ていうか、それよりさ…お前女だったの? それ、女装…じゃねえよな。服装変わってないし」
「…」
それは当然、避けては通れない問いであろう事は、アベルも理解していた。
しかしアベル自身、まだこの身体の変化については整理できていないし、何より受け入れていない。
「ごめん。この件については触れないで欲しい」
「いや触れないのは無理だろ」
「言いたい事は分かるよ? アステリアにも凄い詰められたし。でも、突然こんな状態になって僕自身混乱してるんだよ…」
「そっか…なんか事情があるんだな」
フォルはそれとなく理解を示しつつ、しかしカナデの件もあってか、妙に疑わしげにアベルの身体を見る。
「…で、ローファスの新しい嫁になるのか?」
『なるー!』
「ならないっ!」
火の玉が肯定するように飛び跳ね、そしてアベルは全力で否定した。
*
場面は変わり、旧アベルパーティチーム。
リルカ、アステリア、メイリン——三名による《邪竜》戦。
戦場となった山脈の一角は、戦地を中心に更地と化していた。
その中心に、《邪竜》は居た。
《邪竜》は翼を広げたまま、まるで時が止まったように静止しており、ぴくりとも動かない。
《邪竜》は——絶対零度の氷の中に閉じ込められていた。
凍結した《邪竜》を見上げ、リルカは呟く。
「…これ、死んでるの?」
「いや、完全に死んだとはいえない。まあ生きているとも言い難い状態ではあるが。仮死状態といった所か」
紺の三角帽子を被り直しながら、メイリンが答えた。
リルカは感心する。
「ほえー…さっすが魔法師団筆頭…」
「当方は言われた通り魔法の準備をし、余裕をもって発動しただけだ。流石というなら、王女とリルカ殿の方だ」
メイリンは、氷属性の大魔法を発動させた。
そしてその時間を《邪竜》相手に稼いでいたのは他でもない——リルカとアステリアである。
「まあ事前情報はあったし、何より——こいつ、明らかに前回より弱かったよ。ねえアーちゃん?」
「そうね…無敵のバリアも再生も無かったし。でもリルカ、貴女本当に腕を上げたわね…ついていくだけでやっとよ」
まだ疲労が抜けきっていないのか、やや息を切らせながら溜息混じりに言うアステリア。
「ついて来れてるだけ凄いよ。記憶が完全に戻ってそんな経ってないんでしょ? 今回は六神から加護も貰ってないし」
「鍛錬は欠かさなかったから。最近だとファラティアナにも手合わせをお願いしてたし。でも、全然身体が追いつかない…」
「ファーちゃんかー。かなり強くなってたでしょ」
「強いなんてもんじゃないわよ。あんなの別人レベルじゃない…あの娘記憶ないのよね? 二周目の話とかしても雰囲気で頷いてるけどよく分かってない感じだった」
「あー、その辺は変わってないよね」
「…そうね。確かにあの娘、元々そういう所あったわ」
あ、そういえば、とリルカは満面の笑みでメイリンを見た。
「所でメイちゃんさ、ロー君と王国南部の方に旅行行ったんだよね? どうだった?」
「いや…どうだったと言われても。当方は前回の記憶とやらがないし、そもそも南部遠征は旅行ではなく行軍だ。ローファス殿に関しても、当方は終始振り回されてばかりだったな…」
あまり良い思い出ではないのか、乾いた笑みを浮かべるメイリン。
リルカは笑顔のまま詰め寄る。
「振り回されてたって、具体的には?」
「具体的…? 先行したローファス殿を必死で追い掛けたり、突然行方をくらませたローファス殿を必死で探したり…」
「そういう事聞いてるんじゃなくてさ」
「いや聞かれたから答えたのだが」
「ロー君に口説かれたかを聞いてるの」
メイリンは眉を顰めた。
「…口説かれていないが」
「本当? 嘘吐いてるんじゃないの?」
「なぜ嘘を吐く必要が?」
「密かに新ヒロインの座を狙っているのかと——」
リルカの頭をアステリアがスパーンと叩いた。
「また暴走。いい加減にしなさい」
「…はい」
アステリアに怒られ、リルカはしゅんと涙目になった。
旧アベルパーティ——《邪竜》相手に一切苦戦する事なく勝利。
*
同時刻。
場面は変わり、伝説の死霊術師チーム(戦っているのは一人)。
激戦の末、《邪竜》の首には夥しい数の斬痕が刻まれていた。
赤髪の剣士——フィリップは黒鱗に深々と入った切れ込みに重なるよう、渾身の一撃を振う。
そして遂に——《邪竜》の首は飛んだ。
「うおおおおおおおおお!! 斬った! 斬ってやったぞおおおお!!!」
明確に死亡し、神力と化して霧散する《邪竜》の上に立ち、剣を掲げて雄叫びを上げるフィリップ。
勝ち誇った顔で相棒の方へ目を向ける。
レーテーは巨大な骨の腕の上で、魔導書を片手にうつらうつらと船を漕いでいた。
鼻ちょうちんが膨らみ、パチンと割れた。
「…ん? あ、おお…倒せたんだ。おめでと」
よだれをごしごしと拭きながらいそいそと本を隠すレーテー。
フィリップは剣を下し、真顔で問う。
「え、寝てた?」
「…寝てないよ」
「よだれ垂れてたろ」
「垂れてないし、寝てないって」
「戦いに飽きて本読んでたろ。で、寝たんだろ」
「寝てないって…ちょっとうとうとしてただけで」
「寝てんじゃねーか!」
剣を振り上げるフィリップ。
わーと骨の腕から飛び降りて逃げるレーテー。
アンデッド同士の鬼ごっこは、死と血の上で行われていた。
伝説級のアンデッド、《墓王》フィリップ——《邪竜》殺しを成す。




