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【暴戯訳】古典文学が読み辛いので、暴虐の限りを尽くして書き直してみた。  作者: 千夜遠望
暴戯訳『十三夜』 月欠けの逃婦と寡黙な関白
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第4話 古いもの、変わるもの

只今ただいま戻りました。んっ、何ですかこれは?」


 私は夜間学校から家に帰ると、古めかしいものを見つけた。


「お帰りなさい。何って今宵は旧暦の十三夜、お団子こしらえて、お月様にお供えしたんだよ」


 小さな山を築く団子と、私が裏の土手から取ってきたすすき

 形だけならと親孝行だと思って取ってきたが、団子まで供えるとは。


の樣な物はおしなされ」


 胸の内で縁起でもないとつぶやくと、母は負けじと言い返す。


「十五夜にあげなんだから片月見かたみつきに成っても悪いでしょう」


 昔の人々は十五夜と十三夜を合わせて二夜ふたよの月と呼んで大事にしていた。

 どちらか片方しか見ないことを片月見と言って、災いが来るからと忌み嫌う。

 私からすればそれこそ良くないことを呼ぶだろう。


「おう、帰ったか。むっ、何うした?」


 かわやに行っていたのだろう、父に出迎えられる。


「おっさん、おっさんに十三夜など信じるのは止めるように言うてくだされ」

「ほう、何故十三夜をみ嫌う」

「勇さんが古いものを嫌うからです」


 私は勇さんの口添くちぞえで役人になった。とはいえ、働きに見合わなければぐにお払い箱。

 私は勇さんの顔に泥を塗らぬよう、昼は働き夜は学校へ通う。

 おかげで近頃は課長の覚えもいい。

 その勇さんは、たまに会うとこう言ってくれる。「これから時代は日に日に変わって行くだろう。何に重きを置くかをよく見つめて、古い考えにとらわれてはいかん」と。

 私が取り立てられたのも、庶民だからと言って問答無用で首にされないのもの勇さんのおかげ

 先を見据えた勇さんの言葉なら、聞かぬ手はなし。


「そうか! そうであったか! ようやく合点がいったわ」


 私の話を聞くと父は大層たいそう喜んで、母に問う。


「お袋、お関と勇の馴れ初めを覚えているか?」

「ええ、先方さきは忘れたかも知らぬが此方こちらは忘れる訳もない。年も日までも覚えている。あれはお関が十七のお正月、まだ門松を取りもせぬ七日の朝の事であった」


 引っ越す前の猿楽町の家の前、お隣の小さい娘のと羽根突きして、その娘が突いた白い羽根が通り掛かった原田さんの車の中へ落ちたという。

 れを姉さんがもらいに行って、その時勇さんは姉さんを見初みそめた。

 それからは次々と仲人なこうどをよこして、姉さんを嫁に貰いたがる。

 身分も釣り合わず、此方こちらはまだ子どもで稽古事けいこごとも仕込んではいないと最初は断った。それはそうだろう。

 けれども稽古は嫁入りしてからつけると、強引に押し切られてしまったとか。


「おっさん? 何故なぜ姉さんの話を?」


 母は感情的になって顔を赤くしたかと思うと、しまいには泣き出してしまった。

 母の反応も不思議で、姉の話をいきなり切り出した父の心もわからない。


先刻さっきお関が帰ってきたのだ」

「えっ、姉さんが? こんな夜遅く?」

「そうだ。もし羽根突きの羽が勇さんほどの人の車に入ったら、お前がどうする」

「謝りはしますが、取り返そうとは思えませぬ。」


 今なら少しばかり勇さんの気心が知れているから、話しかけられても挨拶は出来る。だからと言って、知り合ってもないのにこちらから話かけるなど、とてもではないが恐れ多くて……


「だろう。世の中はこれから大きく変わっていく。身分の差なんて古いものを乗り越えられる人間が必要なのだろう」

「それが姉さんということですか?」

「ふむ、それはわからん」


 わからないのか……、そんなきっぱり。

 私は父の答えに落胆したが、あながち間違ってもいなさそうな気もする。

 それを知るのは勇さんだろう。

 そして問題は――


「それにお関が気付けるか」


 勇さんが、姉さんの中に光るものを見つけて結婚したとしても、姉さんが昔ながらの奥様を気取っていては冷たくあしらわれてしまう。

 姉さんは元気にやっているだろうか。

 

 満ちては欠ける月と、風になびく薄。

 人はどこに向かうのだろうか。


原作: 『十三夜』


原作者:樋口一葉


発表年:1895年


青空文庫『十三夜』

https://www.aozora.gr.jp/cards/000064/files/386_15291.html


2024年から五千円札の肖像画が津田梅子先達に代わりますね。

2004年から樋口先達には女性の顔を務めてもらいましたが、お疲れさまです。

なお、『十三夜』にはお関が幼馴染と再会する下がありますが、悲劇を強調するのも如何なものかと思って、バッサリ切っていしまいました。読みたい方は青空文庫、現代語訳もネット上にあるのでそちらをどうぞ。

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