第3章・5話 顔を大きな火傷を負う春琴
美濃屋九兵衛に呼ばれた梅見から、一と月半ば経った弥生の晦日(3月31日)。
八つ半時頃(午前3時)、私は目を覚ましました。
「うぅ、うううううう」
私が寝ている隣の間、即ちお師匠様の部屋から呻き声が漏れてきます。
悪い夢を見てうなされているのでしょうか。
私はを灯し、音を立てないようにゆっくりと襖を引きました。
「んっ? 寒い……」
お師匠様の部屋に入ると、ひんやりと澄んだ風が寝巻の懐に当たりのです。
見ると雨戸の隙間から月明かりが射していました。
お師匠様の呻き声はこれが原因でしょうか。
何せ冬の名残が身を凍らす弥生です。夕方には必ず閉めるですが、誰が開いたのでしょう。
後で何と言われるか、とりあえずお師匠様の様子を確かめるために足を踏み出しますがー。
「熱い!」
重い物を蹴ってしまい、素足がヒリヒリする。
僅かに触れただけで飛び上がるほど、人肌の湯たんぽにしては温め過ぎです。
燈火を近づけると鉄瓶でした。しかも傾いて中身が飛び散り、畳がテカテカと光っています。
「佐助? 佐助どんかえ?」
お師匠様の震える声が聞こえます。
私は恐る恐る燈火を向けると―。
「見るなー!」
光を感じたお師匠様が叫びました。
私は余りの姿に腰を抜かします。
お師匠様の顔は真っ赤に腫れていたのです。
畳に零れていた鉄瓶の中身――肉を茹だつ熱湯は、お師匠様の顔に掛かったものでした。
私が腰を畳に打ち付けると大きな音が起こり、お師匠様は糸が切れたように布団に倒れます。
私は何とか声を絞り出して女中を呼びました。
そして這って台所に辿り着き、溜めておいた水を桶に移し替え、手当てをする女中に渡します。
その後、裸足のまま医者を呼びに行きました。




