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第3章・2話 佐助の被虐趣味と献身


「ああ、佐助どん? 頬がれてますが?」


 ある日、私は奉公仲間に声を掛けられました。

 数日前から虫歯をわずらった私の右頬がれていたのです。

 見た目で気付いた奉公仲間にそのむねを伝えると、安堵あんどの息を吐きました。


「またお師匠様にたれたのかと思いました」


 私たちは乾いた笑いをあげました。


「でも佐助どん。見えぬからお師匠様は分らぬが、臭い息を掛けたらことでございましょう。お気をつけて、そしてお大事に」


 はっとした私はその一日、時折ときおり合嗽うがいをし息を掛けぬように注意しました。


 その晩、隣のふすまからお師匠様の声がします。


「佐助どん」

「はいぃっ⁉」

「何を頓狂とんきょうな声をあげておる。腰が痛い、按摩あんましておくれ」


 私は胸をでおろしながら部屋を移ります。

 寝床に這入はいったお師匠様の腰をさすっていると、今度は肩を揉めと言います。それが終わると足を温めろと言われます。

 私は布団に潜って冷えた足を胸板に当てますが、布団のいきれが頬にあたって虫歯が痛みます。

 たまりかねた私は、お師匠様の足裏に頬を当てました。

 これがひんやり気持ちいい。すべすべした肌と湿り気を帯びて張り付くのが、何とも言えぬ心地です。思わずため息をきました。


「はぁ~、痛い!」


 お師匠様が私の頬を強く強く蹴ったので、私は手毬けまりのように飛び上がりました。


「胸で温めろと言ったが、顔で温めろとは言ってない!

 両の頬で熱が違うことなど足裏で判る。昼間の様子で歯を病んでいることもお見通しだ。」


 私が顔に掛かった布団をぎ取ると、お師匠様が仁王立におうだちで私をにらみむけました。


「歯が痛いならそう言えばいいだろう。

 わら召使めしつかいをいたわらぬ鬼ではない。

 いかにも忠義らしく装いながら、主人の体をって歯を冷やすとは大それた横着者だな!」


 私はあまりの剣幕におののき、畳にひざまつきました。

 それからお師匠様が寝るまで按摩を続けました。勿論もちろん説教付きで。

 翌日、どんな雑務を押し付けられるかとびくびくしていると、なんと休暇を頂きました。

 私は寝不足と疲れでふらふら頼りない足に鞭打って、ほうぼうのていで医者を訪ねたのです。


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