第37話
全員で昼食をとっている。今日は和食スタイルだ。
「いただきます」と全員で声を揃え、食事を始めた。直斗や蜥蜴丸のおかげで、パーティーメンバーは全員箸が使える。蜥蜴丸が何故綺麗な箸の持ち方をしているのか、完全に謎ではあるが。
「いやあ、美味しいねえ」
「ふむ、ワガハイ、和食もイケる。今のワガハイ、一番食べたいのはかき氷。イチゴ味が食べたいねえ」
「バカめ、かき氷と言えばブルーハワイ味。メロンもいいが、通はブルーハワイ味よ。何故そんな名称のかき氷シロップがあるのか知らんが、ブルーハワイ味よ」
「何を言っておる。通はシンプルにイチゴ味よ。もしくはコーラ味」
直斗と蜥蜴丸がかき氷談義を始めだした。
「ねえ、かき氷って何?」
そこにユーフェミアが加わる。
「俺の故郷にある夏の風物詩の一つだ。今度作ってやろう。問題は新鮮な氷だな」
何故か直斗の異空間にはかき氷製造機が入っていた。それを確認した後、問題点をあげた。この世界には日本と違い、真っ当な冷凍技術はない。
氷屋から氷を買っても、かき氷を作るまでに溶けてしまうだろう。
「エクリアに作ってもらえばいいじゃない」
「……魔法で作った氷って食べられるのかな?」
全員がエクリアを見た。
「それは、食べられるとは思うけど……。氷屋で買った氷に魔法をかけてしばらく凍らせたままにしておけばいいんじゃないかな?」
それもいいが、何故か異空間に入っている冷蔵庫の中で製氷をすればいいか、などと考える直斗。何故冷蔵庫があるのか、しかもしっかりと稼働しているのか、考えるだけ無駄というものだ。
食事を終え、ユーフェミアが皆を連れて行きたい場所があるという。
「この島の中心部にある洞窟にドラゴンがいるんだよねえ」
「ドラゴンだと!?」
何故か食いつく直斗。
「そうだけど、どうしたの、ナオト君。なんだか嬉しそうだね」
「ドラゴンと言えば、男のロマンの一つ。ドラゴンに乗って空を飛びたいと思う、これ当然よ」
意味不明なドヤ顔をしだす直斗。そのロマンを理解する者はその場にはいなかった。
「クカカカ、爬虫類枠はワガハイとゲーサンだけで十分だよねえ。どうしても、そのドラゴンが出張ってくるというのなら、ワガハイとゲーサン、ついでに直斗がドラゴンバスターと化しちゃうよ? 新顔にデカい顔されるのはエルフ耳だけで十分だよねえ。ワガハイにもっと愛を、もっと活躍の場を!!」
蜥蜴丸に関して、愛を与える必要はないと全員が考えたが、これ以上活躍の場を与えるのは危険な香りがすると全員が考えたかどうか。
「まあ、蜥蜴丸に愛を注ぐのはナオト君に任せるとして、馬を借りて洞窟まで行こうよ。ドラゴンに挨拶をしないとね」
「おい、俺を蜥蜴丸担当にするなよ。蜥蜴丸担当はユーフェだろう?」
「違うよ、私はナオト君担当……じゃなかった、ナオト君担当はエクリア、うん、そうだよね。蜥蜴丸担当はシルヴィアにお願いしよう」
「蜥蜴丸担当もナオトさん担当も謹んで辞退させていただきます」
いきなり話題を振ってこられたシルヴィアだが、先手を打っておいた。ユーフェミアはエクリアを見てガタガタ震えていた。直斗からはエクリアがどのような表情をしているのか、見てとることは出来なかった。
馬屋で馬を借り、島中心部にある洞窟を目指す一行。
「私までドラゴンに会う必要があるのかな?」
シンシアは疑問に感じていた。冒険者でもない自分がドラゴンにあってどうこう、なんてことはない筈だ。見てみたい気はするが。
「シンシアには次期ギルドマスターとして、会ってもらわないとね」
ユーフェミアがいきなり、恐ろしい事を言った。
「え? 何で私が次期ギルドマスターなの?」
誰からもそんな事を言われたことのないシンシアは驚いた。当然だろう。
「いやあ、私もそろそろギルドマスターなんて重責から解放されたいんだよねえ。一冒険者としてみんなと一緒に冒険だけしておきたい、なんて考えてさ。後任にいい人いないかなあって考えていた時にシンシアが来たんだよねえ」
「それと、私がギルドマスターになるのに何の関係があるの?」
「いやあ、副ギルドマスター以下大半の職員が声をそろえて『後任がシンシアさんならいいです、ハアハア』なんて言いだしてさ」
アークティカ王都は冒険者だけでなく、冒険者ギルド職員も変態だらけのようだ。
「うわあ、今すぐ冒険者ギルド退職したい。ナオトに面倒をみてもらおう」
「なんで、俺がみないといけないんですか? まるで俺までドMみたいに考えないでもらえます? 俺はエクリア担当なんです。蜥蜴丸に面倒をみてもらえばいいじゃないですか」
言葉のうちにエクリアだけを見ているよ、と匂わせる直斗。厨二病思想の直斗にとってはハーレムこそ至高なのだが、それにはまずエクリアという壁を越えなければならない。エクリアを敵にまわしてはならない。
「おいおい、ワガハイが面倒をみてもいいが、ワガハイを満足させられるのかな? ワガハイのドM心を満足させることの出来る人間以外の面倒はみたくないんだよねえ」
変な事を蜥蜴丸が言いだし、全員が気まずい沈黙に包まれた。
「まあ、冗談半分だけど、シンシア、ギルドマスターについてはちょっと考えてみてよね。シンシア以外、今のところ適任がいないんだよね。副ギルドマスターもちょっと変わっていて、『私は美女、美少女に仕えることが出来るのが至高の悦び』なんていう人だからさ」
全員がちょっと変わっているどころじゃないだろう、と考えたが何も言わなかった。
ようやく洞窟に着いた。
「熱いな」
直斗がそう感想を漏らしたのも、あながち間違いではあるまい。熱気が充満しているのだ。
「そうだね、ちょっと熱いね。氷魔法が得意な私にとっては苦手な場所だね。ちょっと冒険の旅には来たくない場所だね」
「大丈夫、こういうところに冒険の旅に来る場合、俺がエクリアを守るからさ」
こういう時だけ自然とセリフが出てくる直斗。女の子を誑かそうとか、いっさい考えていないのである。考えていたら、こんなにスンナリ言葉が出てくることはないだろう。
「そう、じゃあ、よろしくお願いします」
「任せておいてよ」
何故そんなに嬉しそうな顔をしているんだろう? 直斗は自分が言ったセリフの効果を理解していなかった。
「むー、エクリアばっかり。私にもあんなセリフを言ってほしいな」
二人を少し離れた場所から見守っていたユーフェミアが二人に聞こえない大きさで呟いた。
「ユーフェ、貴女本当にナオトの事を?」
「へ? 違うよ、女の子としては、ああいうセリフを言われるのに憧れるじゃない。そう、一般論だよ、一般論」
シンシアの質問に慌てて答えるユーフェミア。熱気がある洞窟だとは言っても、ユーフェミアの顔は真っ赤であった。
「そうか、では、ワガハイが言ってやろう。ワガハイのドM心を満足させることが出来ればワガハイがお前を守ってやろうではないか」
変な条件が付いていた。
「そんな事言われても、全然ドキドキしないよ?」
「おかしい、ワガハイ、直斗よりイケメンなはずなのに……」
噛み合わない会話が続いていた。
「バカばっかりですね。私はせめて一般人でいたいものです」
自分は一般人であるという事に変な誇りを持つシルヴィア。
「二足歩行をして人語を喋る蜥蜴を受け入れている時点で貴女も一般人の枠にはおさまりきっていないと思うわよ」
「嘘だと言ってくださいよ、シンシアさん……」
洞窟の最深部まで来て、広い空間に出た。
そして、一行の目に、いや、直斗の目に映ってきたのは、奥のほうで温泉につかる美女。そしてドラゴン。
「入浴シーン、キタァガッ」
湯煙に包まれ、顔以外はまったく見えなかった。もっと見ようとしたところ、エクリアに顔をつかまれ、ほぼ90度回転させられた。なんだか、ゴリゴリとか、ビキビキなんて音が聞こえた気がする。
「おい、ワガハイの視界が何一つないのだが、何故かね? 何コレ? ズダ袋なんかかぶせちゃってさ。ワガハイを奴隷商にでも売るつもりか? 全力で反抗するよ。宇宙的スケールのでかさで暴れちゃうよ?」
「蜥蜴丸はそこでじっとしてなさい」
「はい」
何故か急に丁寧語で喋りだした蜥蜴丸。
「ゲーサン、貴方も後ろを向いてなさい」
「げげ、げっげ」
首を横に振り、自分はガン見したい、と意思表示をしたが、シンシアの蜥蜴如きいつでも殺してやるぞみたいな視線を受け、恐怖と共に後ろを向いた。きっと、彼もまだ死にたくはないのだろう。
直斗はエクリアによって地面に引き倒され、顔面を地面に押し付けられている。最強防御力を誇る彼でなければ、今生きていないかもしれない。
「な、なんでお前たちがここにいるんだ……!!」
「それよりも温泉から出て服を着なさい。話が出来ないじゃない」
初対面だというのに、ディアナ相手にも上から目線で話を始めるシンシア。
「初対面の人間相手にも上から目線で話が出来るからこそ、副ギルドマスターも認めているんだよねえ」
「おい、我に挨拶はなしか、ユーフェミアよ」
「後回し」
ドラゴン相手であろうと、皆通常運転であった。
衣擦れの音が響く。
まったく見えないからこそ、ドキドキしてしまう。
直斗は己の視界が地面で埋め尽くされている現実に血の涙を流した。
いや、この衣擦れの音こそ、想像力を刺激されていいのではないか?
「ナオトは女の子の裸なら、誰でもいいの?」
「入浴シーンを見るのは、男の子の永遠の憧れ。しかし、それは美女か美少女に限るのです。エクリアの入浴シーンを見られなかったのが、私の心残りでございます」
己の欲望を垂れ流し始めた直斗。途中でようやく気付き、口を閉ざそうと思ったが、口は彼の意思に反して、最後まで喋りとおしたのであった。
蜥蜴丸はズダ袋の中で考えていた。
ワガハイ、いつまでこの袋の中で待てばいいのかな?
あの、じっとしてなさい、と言ったシンシアのセリフにドM心を刺激され、放置プレイを味わっていた。
おいおい、ワガハイ、また新世界の扉を開きつつあるよ。タマラン。
ゲーサンは特に考えるでもなく、後ろを向いた。
今の彼はただひたすらシンシアに怯えていた。彼の生存本能が後ろを向け、と彼の脳に訴えていたのであった。
ただ、衣擦れの音と、こちらも放置されているドラゴンの溜息だけがその場に響いた。
私個人としては、かき氷はメロン味。
ブルーハワイ味も捨てがたいですがね。




