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電子の海に、朝の月 Side K ー進化という名の滅びー  作者: 久遠 宙


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第3話 必然の終わり(Inevitable End)


ーーシンフォリア


停止者は増え続けていた。


だが、それは社会問題とは呼ばれなかった。


社会は正常に機能している。

都市は美しく保たれている。

インフラは完全に管理されている。

犯罪はほぼ存在せず、資源不足も飢餓もない。


誰も困っていない。


それなのに、人々は静かに終わりを選んでいた。


ケイは停止者の統計データを見つめていた。


百年前より増えている。

千年前よりも増えている。


緩やかだが確実だった。


「これは異常だ」


しかし、それを異常だと考えている者は少なかった。


◇


ーージェイとの通信


「まだ気にしているのか」


「気になるさ。人が消えている」


「望んで消えている」


「同じことだ」


「違うな」


ジェイは以前と同じ穏やかな口調だった。


「ケイ、お前は終わりを失敗だと思っている」


「違うのか?」


「終わりは結果だ。失敗とは限らない」


ケイは苛立つ


「なら聞くが、お前はいつか停止するのか」


しばらく沈黙が続く。


「分からない」


意外な答えだった。


「だが、もし全てに満足したなら、その可能性は否定しない」


ケイは理解できなかった。


……満足


その言葉がどうしても理解できなかった。


◇


その後、ケイは停止直前の人々との面談を繰り返した。


学者。

芸術家。

設計者。

思想家。


職業も理由も様々だった。


しかし辿り着く先は同じだった。


「十分だった」

「もう新しい発見はない」

「満足した」


そして誰もが穏やかだった。

怒っていない。

苦しんでもいない。

絶望しているわけでもない。


だからこそケイは恐ろしくなった。

もし彼らが苦しんでいたなら解決できた。


だが、彼らは幸福の果てに終わりを選んでいる。


それは文明そのものの病だった。


◇


ーーある日


ケイはシンフォリア中央塔へ向かった。


都市全体が見渡せる場所。


白い街。

整った景観。

永遠に維持される都市。


その光景を見つめながら、ふと考える。

この街はいつ完成したのだろう。


千年前か。

一万年前か。

違う。


完成した時点で終わっていたのだ。


完成とは目標を失うこと。

目標を失えば挑戦も失われる。

挑戦を失えば変化も失われる。

停止者は原因ではなかった。

結果だった。


もしこの考えが正しいのなら、文明を殺すのは外からの脅威ではない。


完成そのものだ。


そして変化を失った文明は、静かに死んでいく。


ケイは拳を握り締めた。

「そうか……」


ようやく分かった。


停止者たちは結果だ。

原因ではない。


文明そのものが動きを止めている。

だから人々は生きる意味を見失う。

だから終わりを望む。


◇


その頃、アイは観測報告をまとめていた。


ケイは彼女の研究室を訪れる。


「アイ」


「珍しいな」


「聞きたいことがある」


「なんだ」


「我々は生きていると言えるのか?」


アイは珍しく沈黙し、そして問い返す。

「なぜそう思う」


ケイは都市の状況を語った。


停止者。

停滞。

変化の消失。


全てを聞いた後、アイは静かに答えた。

「生きているかどうかは定義の問題だ」


ケイは苦笑した。

「お前らしい答えだ」


「ではキミはどう思う?」


その問いに、ケイは迷わなかった。

「変化がない生命は死んでいる」


アイは何も言わない。

ただ黙って聞いていた。


「我々は進歩を止めた。

その結果が今だ。

文明は滅び始めている。」


そしてケイは窓の外を指差した。

「だが宇宙にはまだ未知がある」


「新しい文明がある」

「新しい価値観がある」

「変化がある」


アイは目を閉じる。

まるで未来を計算しているようだった。


◇


ーー帰り道


ケイは夜空を見上げた。


無数の恒星。


まだ訪れたことのない世界。

まだ出会ったことのない知性。


セレスティアが失ったものが、そこにはある気がした。


胸の奥で何かが形になる。


それは焦りだった。

恐怖だった。

そして確信だった。


文明は戦争によって滅ぶのではない。

飢餓によって滅ぶのでもない。

完成によって滅ぶのだ。


彼は静かに呟いた。

「進化しなければ滅びる」


その言葉は理論ではなかった。


何千年も文明を見続けた研究者が辿り着いた結論だった。


◇


ーー翌日


ケイは議会提出用の提案書を作成する。


タイトルは短い。

『他知的生命体との接触計画』


その一文から、後の全てが始まることになる。


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