第98話 聖属性の魔石
俺たちは賓客としてではなく、テッドの所属するパタール商会の護衛という形で皇宮に招かれた。それでもきちんと正装していった。サクリードの皇族と会うことがわかっていたからだ。
だがテッドから全員フード付きのマントを渡された。
「そのような美々しい姿では目立ってしまいます。ちゃんと言っておけばよかったですね」
「正式な売買なのだろう? 君は正装をしているではないか」
「私は御用商人ですから当然です。ですがその護衛まで着飾っているとなると怪しまれます。納品直前まで気が抜けません」
「俺だけでも着替えようか?」
着替えならストレージの中に入っている。俺の服は貴族特有の着替えにくいものではなく、もう少し簡略されたものだ。これは俺が金属アレルギーだと暴れたせいで金属のボタンや飾りが使えなかったこともある。ほとんど紐か、木のボタンなのだ。
「いえ、お一人だけ違うのもおかしいですから、これを着てください」
そんなすったもんだがありつつも、俺たちは商人が出入りする通用門を通されて、ひと気の少ない使用人の通路を使わせてもらう。これは納品までに襲われないようにするためだそうだ。
「この時間ですと使用人たちのほとんどが宮殿の清掃や飾りつけ、昼食の準備などでこの通路を使わないそうなのです」
「そんなこと俺たちに教えていいのか?」
「皇宮をお出になるときに、魔法契約を結ぶことになります。我々商人もむすんでいるものです。ご理解ください」
それは嫌だと言えないな。エリザとゲオルグも頷いている。
「そちらは内容がおかしくなければ問題ない」
「ではこちらへついて来てください。途中襲われたときは対処もお願いします」
そうは言われたものの、特に怪しい気配も攻撃的な人物も現れなかった。
「前回は襲われたのですが、何か事情が変わったのかもしれませんね。詳しいことはこれからお目通りするお方様が教えてくださるでしょう」
入り組んだ使用人通路を通り過ぎた先には、華やかな壁紙に繊細な作りの家具類が置かれた女性のための瀟洒な部屋だった。だが個人的な居間ではない。贅は凝らしてあるものの、一段高い所に置かれた椅子は身分の高い者のためのもの、広い机は品物を並べるためのもの。要は商人や役人が女性皇族と会うための部屋なのだろう。
俺たちはテッドの指導の下、彼を先頭に後ろに並ばされた。エリザベートは王女、ゲオルグは伯爵令息とはいえ、ここでは身分の名乗りを上げていないので平民扱いされても文句は言えない。
しばらくして先に2人、あとに3人の侍女に囲まれた女性が現れた。扇子で顔を隠している。こちらの世界にも扇子があったのだな。
「皇弟妃エスメラルダ様の御前です。面をあげなさい」
パタール商会代表として、テッドが口上を述べている。ちなみにテッドの本名はセオドアだそうだ。テディベアの名前の由来であるアメリカ大統領だったセオドア=ルーズベルトの愛称テディと一緒である。
テッドは俺たちのことを納品に対し、優れた護衛能力を示したと伝え、あとで紹介したいと言ってくれた。
「あいわかった。先に品物を見せよ」
「かしこまりました」
テーブルの上には銀鈴茸を並べ、まずは侍女が次に皇弟妃が自ら見分した。彼女が侍女に耳打ちする。
「良いものであると仰せです」
「ありがとう存じます」
「つぎに調合のための魔石を見せなさい」
するとテッドは後ろを向いて服を脱ぎだした。腹のあたりの皮をひっかくと一部がはがれて、中から小さな白い石が1粒だけ現れた。
特に皇弟妃も侍女たちも慌てていないので、これは取り決められたもののようだ。
「これはどこから手に入れた?」
「はい、遠くフェローデニア国に古来より伝わる、宝剣の柄から外れたものと聞いております。私めの真贋鑑定で真実を話していたため購入いたしました」
青い絹の裂の上に一粒だけ置かれた魔石を侍女が受け取り、恭しく皇弟妃捧げると、彼女はそっとつまんでしげしげとそれを眺め、初めて声を出した。
「そう、よくやりました」
なんだか茸より大層な物のようだったので、俺は『真実の目』を使ってみてみた。
『聖属性の魔石』と出た。確かに見たことがなかったが、他の属性の魔石は見たことがあったのであってもおかしくない。むしろそんなに大げさな運び方で驚くほどだ。聖属性の魔獣を見かけることはなかったので、手に入りにくいに違いない。
褒美の金が用意され、俺たちが思っていたよりもずっと大金が渡された。銀鈴茸よりこの魔石の方が高価なのだろう。
「ご質問させていただいてもよろしいですか?」
テッドの言葉に皇弟妃が侍女に耳打ちをする。
「よい、どのようなことです?」
「はい、昨晩は賊に押し入られそうになったのですが、今回はこちらで襲われることはございませんでした。なにかございましたのでしょうか?」
「それならば簡単です。今朝皇太子殿下の御子に神聖力が発現されたのです。今、あちらではいろいろと大騒ぎです」
するとその補足を皇弟妃自らが答えた。
「前回は銀鈴茸しかなかったから、今回がまさか『当たり』だとは思わなかったのだろうよ」
つまり本当に買いたかったのもは聖属性の魔石だったわけだ。それはこの国にとっても貴重で殺してでも奪い取りたいものだったのだろう。
お読みいただきありがとうございます。




